東京でホワイトクリスマスは期待できない
林:
10月は順調に気温が下がりました。
増田:
下がりましたが、最低気温は10度を切っていませんね。
10月初旬は雨が続き、10月10日ぐらいから晴れて「秋雨シーズンが終わったかな」と思いきや、10月の終わりにまた降り出した。秋雨の季節が後ろにずれていますね。
1964年の東京オリンピックは「10月上旬には秋雨シーズンが終わる」と見込んで10月10日に開会式を設定されていました。
林:
当時は10月10日が統計的に晴れる日だったんですね。もし今、東京でオリンピックをやるなら“11月”10日でしょうか。
増田:
11月4日ですね。東京の11月で、一番雨が少ないのは11月4日。大阪が一年で一番晴れるのも11月4日なんです。この30年間で、11月4日の大阪は90%晴れています。だから名付けました。「天気いいよ(114)の日」。
岡田:
……。
増田:
東京で一番晴れが多いのは、12月24日のクリスマスイブなんです。だから、ホワイトクリスマスは期待しちゃダメ。
林:
晴天のクリスマスですね。
10月19日の真夏日は、歴史的だった
林:
10月半ばまで順調に寒くなっていたんですが、19日に急に暑くなりましたね。最高気温が30度を超えて。
増田:
そう! 歴史的なことが起きました。
10月19日は東京で今までで一番遅い真夏日だったんです。150年ぐらいの気象観測の歴史上で最も遅い30度超えでしたから、もっと大騒ぎでもいいと思うんですけど、暑くて当たり前みたいになっていて、そこまで騒がれませんでしたね。
ちなみに、今年の10月19日に更新されるまで、真夏日の最も遅い記録は2013年10月12日でした。ちょうどこの連載を始めた年。
前日に林さんと配信して、「最も遅い真夏日になるぞ。明治時代以来のすごいことだ」と大騒ぎしていて、翌日12日の土曜日に、当時一番遅い真夏日を記録しました。当時、「こんな時代が来るとは」って言ってたら、その11年後に1週間もポンと更新して。すごいですよね。
林:
11年やってるんですね。毎回のように「(気候の変化が)いよいよ大変だぞ」って言っていて、去年ぐらいから「本当にまずいな」って感じになってきましたね。
増田:
そうは言っても、自然は一筋縄で行かないから、例えば大きな火山が噴火して、日照が遮られたってなったら、気温が低い方に振れて、これまでの状況をあっという間に覆す、みたいなことだってあり得ますしね。
林:
そうか、寒くなるのって大体火山の噴火がきっかけですもんね。空の話だと思ってたら、火山で地面から来るのは意外ですね。
ゾクゾクっとする天気図
増田:
さて、真夏日になった10月19日の昼には、暖かい空気を持った南の高気圧が南風を吹かせていましたが、夜のはじめには寒冷前線が通過し、北風がビュービュー吹いた。
林:
翌日には最高気温がカクンって下がって、23度です。
増田:
19日の天気図は、日本のすぐ北では、西に高気圧、東に低気圧がある「西高東低」の冬型の気圧配置でした。この天気図、寒くなりそうでゾクゾクっとしますよね。
寒くなる前に気温が上がることがあって、19日の朝はそのタイミングでした。30度を超えた2日後の21日には、10月の最低気温になった11.5度を記録しました。
岡田:
寒暖差で死ぬ。
増田:
秋や春先は、極端に気温が上がった後の急落が待ち受けています。春一番が吹いて季節外れの暖かさになった次の日に雪が降るなど、結構ありますからね。ある意味、バランスを取ろうとしてる。
岡田:
それは戦いってことですか。
増田:
戦いですね。
西村:
古いホテルのダイヤル式のエアコンで、微妙な調整が難しい時みたいですね。ちょうどよくしたいんだけど、行き過ぎちゃったりして。
お風呂で理解する、冷たい高気圧
増田:
急に寒くなった10月21日、日本列島を覆ったのは西からやってきた元シベリア高気圧です。それが時計回りに風を吹かせ、北東から冷たい風が吹いてきた。
林:
暑かった19日も日本列島は高気圧に覆われていたけれど、高気圧の出身が違うから、持ってる空気が違う?
増田:
19日に関東などを覆っていた高気圧は夏の太平洋高気圧で、暖かい空気を譲り受けています。21日の高気圧はロシアとか冷たい方から来たので、どんどん気温が下がった。
西村:
高気圧の冷たい・暖かいは、どこを見ればわかるんでしょう?
増田:
お風呂で考えてください。まず、気圧は空気が押してる圧力なので、ざっくり言うと空気の重さなわけですよね。
では、暖かい空気と冷たい空気、どちらが重いですか?
岡田:
冷たい空気?
増田:
そうです。冷たい空気は 重いんです。秋になるとロシアの方は日本より先に冷えているので、冷えた重たい空気がたくさんできていて、それが高気圧になるんです。
秋の後半や冬に西の大陸から来る高気圧は冷たくて重い。冷えてるのは、大陸が先に冷えてるから。
岡田:
大陸が先に冷えるのはなぜですか?
増田:
まず、海と陸で冷えやすいのは陸です。
また冬の風呂場を想像してください。洗い場は冷たいけれど、湯船のお湯が冷めるのはゆっくりですね。同じように、冬場の空気はどんどん冷めるけれど、海の方はそんなに冷めない。陸の方が先に冷えるわけです。
林:
お風呂でなんでもわかりますね。
増田:
全部お風呂ですね。
高気圧はロマン
林:
南の暖かい高気圧はどうやってできるんですか?
増田:
それは赤道の……話がでかくなりますけどいいですか?
林:
でかい話、大好き。
増田:
地球の中で、太陽が一番当たるのが赤道付近ですね。赤道付近は暑くなるわけですが、暑い空気は軽くなるので上昇する。上昇した空気は、北半球では北に向かいます。それが下降するのが北緯30度~北回帰線あたりなんですよね。
林:
理科の資料集で見た記憶があります。
増田:
赤道あたりで上がった空気が降りる場所が、北緯23度~30度ぐらいのところだからです。そこに空気が降りて下降気流になり、高気圧になり、雨雲が消えていくわけです。
そこが陸地なら、乾燥して砂漠ができやすくなります。北回帰線あたりには砂漠地帯が多いですよね。
このように、上から降りてくる空気は乾燥してるんですが、日本の場合は降りた先が太平洋なので暑く、海の影響で湿っている。だから、そのへんでできる高気圧は“蒸し暑い”高気圧になるということですね。
林:
降りてくる空気が高気圧になることは、西の大陸でも東の太平洋でも変わらない。でもでき方が違う。その大きな話が繋がって、東京の10月が30度になったり、12度になったりする。
増田:
半球規模の話です。東京の気温が1日半でガラッと変わる背景に、でっかい規模のロマンが集約されている。
林:
すごいですよね。地球規模で高気圧がせめぎあって。面白いですよね。
岡田:
日本の個人が「暑い」とか「寒い」とか言ってもどうにもならんな、という気持ちにはなりますね。地球規模だから。
どこからが「冬型の気圧配置」か、気象予報士によって違う
林:
11月7日から冬型の気圧配置ですね。西高東低の。
増田:
7日は立冬、冬が立ち上がりましたという日なので、ちょうどドンピシャですね。まあまあきれいで滑らかな等圧線だなと思います。自分で天気図書いたことがある人ならわかると思うんですけど、この辺の波をきれいに揃えるのって難しくて。でこぼこちしゃう。
ただ7日の天気図は、気象予報士の中でも「まだ冬型じゃない」「東(ひがし)海上の低気圧がもっと発達しなければいけない。大陸から来る高気圧も、もっとしっかりと気圧が上がって、もっと冷たい空気でないと」という人もいます。
林:
そういう議論はどの世界にもありますね。7日の天気図には台風もあって最高ですね。
増田:
南の海上は完全にまだ夏の空気ですよね。
林:
で、北側は冬。
増田:
晩秋から冬、11月の気圧配置ですね。東海上の前線が、冷たい空気の最前線ということになります。
西村:
フィリピンのルソン島あたりに台風がいますね。海上でも雨が降ってるんですよね。
増田:
そうですね。北から来た冷たい空気が日本付近に重りのように居座り、台風を北に行けないよう通せんぼしているから、台風は西に進んでいて、フィリピンの方々にはこの時季は申し訳ないですね。
(11月13日公開の後編に続く!)