「屋久島で弱まった」は本当か?
西村:
台風10号は屋久島の宮之浦岳にぶつかって勢力が弱まったという説がネットにありましたが、あれはどうなんですか?
増田:
詳細な解析は待たないといけないけれど、それだけではないかなと。
林:
台風が陸地に上がったとたん弱くなったじゃないですか。そんなに影響されちゃうんですね。
増田:
今回のは、けっこう弱まりましたね。九州に上陸して、海から熱とか水蒸気を補給する補給路が断たれたから急に弱まりました。
林:
台風のルート、山とか高いところを避けていませんか? 阿蘇山を避けてるなと思ったんです。
増田:
基本的に、高いところを避けますね。本州のアルプスとかを突っ切ったのはあまり多くなくて、北側か南側かに行ったりします。
林:
「2つに分かれるかも」とか「消滅するかも」という話も見ました。
増田:
細かく見たら、渦が分かれることはありますが、解析するとしたら、どっちか1つで「台風はここですよ」となります。その場合、高い山を避けることは結構あります。
温泉めぐりをしていた?
林:
台風10号は屋久島を超えてから、雲仙から有明海に出て、阿蘇山を避けて低いところを通った。ネットでは「台風が温泉めぐりをしていた」と言われていました。
温泉って活火山の脇にあるじゃないですか。山を避けて脇を通ったら偶然、温泉があったのかなって。
増田:
確かにそうですね。
西村:
そんなに山が苦手なんですね、台風。
増田:
ですね。渦がはっきりしなくなるのもありますし、高い山地は避ける傾向にあります。突っ切っていくときはいきますけどね。
強い台風の時は陸上でも渦が崩れず、多少の山でも突っ切りますね。ただ、1回弱まり始めると、渦がはっきりしなくなってくる。
西村:
台風の雲は、上空何メートルぐらいのところにあるんですか?
増田:
一番底が1000メートルぐらいからで、上は1万何千メートルぐらいのまでです。発達した積乱雲の塊なので(高さがある)。高い山があると、台風の渦が崩れやすくなります。
林:
今回、四国の高い山を超えたら急にヘロヘロになりませんでした?
増田:
四国に来た時点でかなり弱まっていましたから、どこをメインの渦がはっきり通ったのかも分からない状態になっていました。
台風は、迷って迷って生きてる
林:
抵抗のない方、楽な方、楽な方に進むと、山を避ける。台風ってこんなに弱いもんだったんですね。
こんなに共感できる台風はこれまでなかったと思って。偏西風とか、太平高気圧の隙間とか、そういう後ろ盾がなければ、フラフラする。
増田:
はい。もっと変な動き……四国に急にうどんを食べに行ったと見える台風が話題になったのがありましたよね。
林:
台風って、太平洋で発生してドンとまっすぐやってくるみたいなイメージがあったのが、割と環境に応じて……後ろ盾がないとフラフラして、なおかつ山でこすれて削れてなくなったりとか、そういうやつなんですね。
増田:
ネット上で「台風はいいよな、進路が決まってて」みたいな冗談があったりしますけれども、台風だって迷って迷って生きてるから、こうやって迷走しているんです。
台風の進路は、気象庁の担当者が「ここかな?」と線を引いている
増田:
台風10号は線もクネクネしていると思います。台風が通った進路に点を打つのは気象庁の人なんですが、「●日×時の時点で中心はここかな、ここかな」と読み切れない中で、うねうねする。
西村:
プロットしている現在位置も、誤差がある可能性があるんですね。
林:
気象庁の人も、後から見たら「ここ違ったかな」っていうのがあるのかもしれないですよね。高知でペコッとへこんでいるところとか。
増田:
気象庁は「今ここです」という速報値を発表しなきゃいけないけれども、後から気圧とか風を見直して、確定させて記録に残すっていう作業があります。
今回、速報値の段階では難しかったと思いますよ。上陸した後一気に弱まって、中心渦がはっきりしなくなってってたんで。
こういうとき基本的には、気圧の一番低いところを中心に取っていくんですけれども、それでも、気圧を測るところは、各県にいくつかあるぐらいで。その間を取って「この辺かな」って判断していくことになる。どうしても渦がはっきりしなくなると、でこぼこになります。
台風はもっと早くに消滅していた? 長すぎた「最大風速18m」
西村:
台風は今回、名古屋のあたりで熱帯低気圧になりましたが、関東に来る前に途中で消滅するのも珍しい気がします。
増田:
実質、もっと早く台風でなくなっていると思います。西日本を進んでいるとき、台風の中心気圧はかなり上がっていて、中心はどこ? と思うぐらいになっていました。
台風として定義される最大風速は17.2m以上。それを下回ると、熱帯低気圧に変わるんです。熱帯低気圧に変わると、台風の予報円が出なくなります。
今回は、最大風速18mですごく粘ってた。相当弱まっていたけれど、雨はけっこう降っていたので、気象庁は「早めに台風じゃなくすと、みんな油断しちゃうかもな」という意思はあったんじゃないか。それで粘らせていたと思います。
西村:
風速18mがとれるように、意図的に18mになるよう観測をしていたと?
増田:
そうです、そのように解析をしていた可能性はありますね。
台風は、気象庁の人が「周りの環境から見ると、中心付近は風速18mと推定されます」と情報を出すんですが、そんなぴったりなところに観測地点はありませんから、神経すり減らしながら、「中心気圧と最大風速これだ!」と決めているわけです。
純粋な解析は大前提にしつつ、いろんなことを考えながら出しているんだろうな、と気象庁の現場に入れない我々としては思います。
西村:
「台風じゃなくなりました」と言うと、一気に緊張感がなくなってしまいますもんね。
増田:
今見ると、30日の午後3時に最大風速18mになっている。それから9月1日の12時まで、2日間18mで粘った、という表現が合っている気がしますね。粘って粘って2日間、台風として延命……というか解析した。
西村:
東海地方に降っていた大雨が落ち着くぐらいまでは台風としておこう、と。
増田:
たぶん最大風速20mぐらいから、台風と言うか熱帯低気圧になったと言うか、考え始めているんでしょうね。で、あえて台風として残しましょうと。