揚子江気団の正体は、クールなアイツ!?
林:早いもので、もう3月ですね。今月の天気はどうなりますか?
増田:平年通りであれば、3月にもシベリア高気圧が時々訪れ、いわゆる「寒の戻り」があります。春先になるとよく聞く「三寒四温」という言葉があるじゃないですか?
林:寒い日が3日続き、次の4日間は暖かいやつですね?
増田:はい。これは、春が近づき気候がだんだんと暖かくなってくることを意味しています。ただ、平年の3月なら三寒四温でいいのすが、今年はどうでしょうね。なんせ「大暖冬」すぎたんですよ。
加藤:シベリア高気圧が全然来なかったですもんね。
増田:そうですね。ですから、おそらく今年は三寒四温ではなく、「一寒六温」くらいになると思いますよ。
西村:ずいぶんと暖かいですね。桜の開花も早まるんじゃないですか?
増田:過去、東京で一番早かった開花記録は2002年、2013年の3月16日です。しかし、今年はさらに早い、3月15日の開花と予想されていますね。記録的です。
林:記録的っていうわりに、1日早いだけなんですね。
増田:3月16日がそもそもかなり早いので、それより前となったら記録的ですよ。今年は記録更新の可能性十分です。
加藤:とにかく、3月も暖かいんですね?
増田:はい。やはり、寒気(シベリア高気圧)がなかなか来ない流れを引きずって、そのまま3月も暖かくなるはずです。車は急に止まれない、天気の流れも急に止まらない!
西村:このままいくと、8月には40度を超えちゃいますか?
増田:そんな先まで聞かれても……(笑)。ただ、春の気温は高いでしょうね。一寒六温の「寒」のタイミングで寒くなる日もあるでしょうが、おそらく数えるくらいだと思います。
林:シベリア高気圧とは、しばらくお別れですね。
増田:ただ、シベリア高気圧が来なくなったら、続いてやってくるのが……
加藤:「揚子江気団」ですね。
増田:さすがは理科の先生。今度は中国からの高気圧が来るのではないかと。
林:揚子江気団の特徴は?
増田:「穏やかで、暖かい空気」を持ってきてくれます。
林:ベトナムあたりの空気を持ってくるんですか?
増田:いえ、中国南部の揚子江周辺です。揚子江(長江)流域に位置するため、別名「長江気団」とも言います。学校で習ったはずですが、覚えていますか?
林:覚えてないですね。
加藤:今、僕が教えている教科書に揚子江気団は載っていないんですよ。除外されたんですかね。
林:冥王星みたいに。
増田:本来は、オホーツク海気団、シベリア気団、小笠原気団、揚子江気団の4つの気団によって、日本の四季の天気は影響を受けるんです。しかし、最近では3つの気団として扱う教科書もあるみたいですね。
加藤;なぜですか?
増田:基本的には、シベリア気団も揚子江気団も同じ大陸の気団です。そのため、揚子江気団は春先になって南の方に下りてきたシベリア気団が温暖化しただけなのではないかと。つまり、同じ気団という解釈みたいです。
加藤:なるほど。暖かい揚子江気団の正体は、冷たかったシベリア気団ってことですね。
林:そういう人いますよね。昔はクールで冷たかったのに、急に優しく温かくなった人。
西村:卒業して人が変わっちゃったみたいな。
増田:シベリア気団も3月の卒業のタイミングで温かくなるから、大学デビューと同じですね。
加藤:話を戻しますが、春の陽気は揚子江気団の仕業だったわけですね。
増田:はい。ちなみに、揚子江気団による高気圧のコースを見れば、3月の天気がわかりますよ。
西村:それは覚えるべきですね。
増田:日本付近を高気圧が通過する場合、高気圧の中心付近は風が弱いんです。そのため、おだやかでのどかな晴天になります。でも、日本からやや離れた南側を通過する場合、高気圧の周辺は時計回りの風が吹くので、南風が日本に吹く形となり、気温が上昇することが多くなります。
増田:今年の3月は、高気圧が南を通ることが多くなるのではないかと。もしかしたら、初夏のような陽気もありえますよ。
加藤:現時点で、一寒六温の「一」がいつになるかわかりますか?
増田:3月4日にいったん気温が下がってからは、しばらく寒気は来ないでしょうね。そこからぐんぐん気温が上がり、15日を過ぎたあたりで「一寒」が来ると思います。その先はそのまま上がり続けるかもしれない……。
林:それで、冬が終わる。
加藤:暖冬のおかげで、今年は冬って感じがしなかったですね。
「霧」と「雲」の違いとは?
加藤:今月も質問です。霧って予報できないんですか?
増田:できますよ。ただ、範囲までピッタリと当てるのは難しいですね。
加藤:そうですよね。テストで「霧の出る条件はどれか?」という問題を作ろうと思い、すごく調べたんですけど、はっきりとした答えがわからなくて。気温に関係なく、突然霧に襲われる日もあるじゃないですか?
増田:基本的には、湿った空気が夜に冷やされ、朝にかけて出ることが多いです。ちなみに天気予報を始めた頃、覚えておけと言われたのが、霧の予報。秋から春にかけて、前日に雨が降り、夜のうちに止んだら、翌日は霧が出ることを考えておけって言われてました。
加藤:でも、前日に雨が降り気温も下がっているのに、翌日に霧がないってこともあるんですよ。
西村:風が強いとダメなんですよね?
増田:はい。風が吹くと、せっかくの湿った空気を吹き飛ばしてしまいますから。
加藤:と思いきや、時に「山沿いの霧が移動してきた」って言われることもあるじゃないですか?
西村:盆地だと、よく現れるイメージです。
増田:盆地は湿った空気がこもりやすいですし、冷たい空気が盆地の底に溜まりやすいからですね。ちなみに、最近のコンピューターでは、それが「低い雲」なのか「霧」なのか、予想の範囲内で出るようになっていますよ。
西村:そうか、霧かと思ったら「低い雲」だった場合もあるんですね。
増田:じつは「霧」と「雲」って同じものなんです。違いは、「地面にくっついてるかどうか」だけなんですよ。
林:山に登ると、モヤ〜となるのは雲の中にいるから?
増田:そうですね。遠くから見ている人には山にかかる雲に見えている一方、山を登っている人にとっては地面にくっついているので霧というわけですね。ちなみに、霧が一番多く現れるのは秋です。だから、霧の季語は秋です。
加藤:結局、霧は前日にならないと予報できないわけですよね?
増田:週間予報でも、おおまかなものなら可能です。繰り返しになりますが、前日に雨が降り、夜までに止みそうな予報が出ていれば翌朝は霧のチャンス。
ですから、たとえば雲海を見に行く時なんかは、気象予報士もカメラマンも雨上がりの翌日を狙っていきます。
加藤:なるほど。
増田:特に、先ほどの揚子江気団がきている時は狙い目です。というのも、揚子江気団=移動性高気圧に覆われて晴れることで、放射冷却が効いて夜間に空気が冷やされ、風も穏やかになりますから。
雲海を見たいなら、低気圧が雨を降らせた翌日がオススメです。
5月のインドが暑い理由
西村:僕からも質問です。日本にもヨーロッパにも四季はあるじゃないですか? その季節が変わる仕組みって、どちらも同じなんですか?違うんですか?
増田:ざっくりいうと、同じです。地球は太陽のまわりを公転していて、場所によって太陽から受ける熱に違いがあります。たとえば、地球の北半球が太陽の光をたくさん受けている時期であれば、北半球の地域は夏になります。
一方、南半球は太陽の光を多く受けないために冬になるわけですね。
半年でそれが入れ替わり、さらに日本やヨーロッパなどの中緯度は、南からの熱と北からの寒気が混ざりあって、ちょうどいい季節=春や秋ができるわけです。
林:脱線しますが「インドは5月が一番暑い」というのが理解できません。
西村:雨季に入る前が一番暑いんですよね?
増田:そうです。3月から5月にかけてインドの気温はどんどん上昇していきます。しかし、そのあとは、南から「湿った雨を降らせる空気」もやってくる。これにより、雨季が始まり、空気がちょっとだけ冷やされるんです。
仮に雨季がなければ、インドはもっと暑くなっているでしょうね。雨季のおかげで気温の上昇を抑えているんです。その代わり、蒸し暑くなっていきますが。
林:雨って、そんなに温度と関係あるんですか?
増田:あります。日本でも記録的な高温が出るのは、しばらく雨が降ってないときですから。もしインドに雨季がなければ、どんどん地面は熱くなっていき、地面付近の空気も熱を蓄積しますよ。
加藤:雨が天然の打ち水のような役割を果たすわけですね?
増田:そうです。ちなみに2013年の東京では、最低気温が30度を下回らない日がありました。夕立のあったエリアは気温が下がりましたが、東京の都心周辺は降らなかったため気温が下がらなかったんです。
林:なるほど。では、東京オリンピックで霧を吹くのは、あながち間違ってはないんですね。
増田:そうですね。ただ、雨で降る水と人がまく水とでは、影響力が全然違いますけどね。
運動会でつむじ風が発生しやすいのはなぜ?
林:次は僕の質問です。雨って、要は「海の水」ですよね?
増田:海から空に上がっているのものが多いですね。
林:勇気を持って聞きますが……なんでしょっぱくないんですか?
増田:雨になる海水は蒸発し、水蒸気となるのでしょっぱくはないんです。ちなみに、波のしぶきによって潮が上がり雨粒のもとになったり、低気圧が波しぶきをそのまま吸い上げることもありますよ。
西村:波を吸い上げるくらいのパワーなら、小魚も上がる可能性ありますよね?もしや、それが「怪雨」の原因?
増田:いや、さすがにそれは分からないですね。
西村:前におたまじゃくしが空から降ったことがありましたけど、竜巻が原因って可能性はないんですか?
増田: 可能性は、あるでしょうね。
林:竜巻の規模によって、これぐらいの魚が上がるって資料はないんですか?
増田:残念ながら、ないですね。竜巻っていつどこで起こるかわからないため、観測しづらいんです。
西村:でも、最近は「竜巻注意情報」ってありますよね?
増田:ありますが、精度はまだまだ低いです。
林:竜巻といえば、運動会。
増田:あれは竜巻ではなく、「つむじ風」になります。
林:え、違うんですか?
増田:「竜巻」は積乱雲の下で起こる、強い上昇気流です。一方の「つむじ風」は、晴れた日の強い日射によって地面が温められることで起こります。
地表で温められて生まれた上昇気流が校舎などの障害物に当たることで回転し発生するんです。
林:雲と地表で、発生元が違うのか。これは春の運動会に向けて、タイムリーな内容ですね。
増田:また、「広い地面があること」も、つむじ風が発生しやすい条件になります。
林:学校は、つむじ風の発生条件にピッタリじゃないですか?
加藤:ビル風から起きることもありますか?
増田:起きたとしても、そんなに大きくはならないと思います。やはり、つむじ風は強い上昇気流を生むために、あるていど広いところで地表が温まっていなくてはなりませんから。
西村:じゃあ、このまま春に暖かい日が続いたら、全国の運動会でつむじ風が多発しちゃう?
増田:それを防ぐには、打ち水です。グラウンドってスプリンクラーがありますよね? 運動会が始まる前や昼休みにまけばいいんです。ですから、みなさん今年の運動会は傘を持ってきてください。
今回もクイズです
増田:先月同様、今月もTEN-DOKUのようなクイズを出したいと思います。
西村:20度は超えますよね?
増田:1867年から東京で3月に25度を超えたのは、4回だけですね。
加藤:暖冬をひきずっているとなると、めちゃくちゃ高い気温が出るんじゃないですか?
林:たしかに。今回のクイズは3月の最高気温にしましょう。
<ヒント1>
過去の3月の最高気温記録(東京)
25.3度(2013年)
25.2度(1941年)
25.1度(1997年)
25.0度(2013年)
<ヒント2>
過去3年の3月の最高気温(東京)
23.9度(2019年)
24.2度(2018年)
18.7度(2017年)
<ヒント3>
林の予想は25.4度(更新してほしい)
加藤の予想は23.8度(そうそう出ない)
西村の予想は24.9度(これぐらいが面白い)
増田:僕が予想すると、答えになってしまうので控えますね。なお、締め切りは3月12日です。ぜひ、ご応募ください。
(締め切り:2020年3月12日)
前回の答え合わせ
Q. 東京都心では、今年の2月4日〜26日の間で雪が何日降るでしょうか?
A.0日
増田:2月は結局、雪が降りませんでしたね。
増田:あ、当てた人が3人いますね。「はいまっと」さん、「メロポン」さん、「なるなる」さん。しっかりと予想までしてくれてますね。三名の方、心の底からおめでとうございます!!