突撃じゃ
しかしこのまま指をくわえて眺めていても状況は変わらない。変わらないまま、今年も夏を終えていいのか。
いやだ。
そう思い立った瞬間、僕の前に輪の切れ目ができた(ように見えた)のだ。しかも切れ目にいるのはゆかたではなく普段着を着た人だ。
攻め入るならここではないか。ここで臆したら一生後悔する。そうだ、ここしかない。
半ば投げやりに輪の中に突撃した。
入った!入った入った。
そう、入るは入ったのだ。しかし踊れるわけはない。一人踊れない僕を取り込んで、それでも輪は大きくなり、小さくなり、やぐらをゆっくりと回り続ける。
僕は一人まったく外れた踊りを披露しながら、息も絶え絶えに1曲を終えた。
これではだめだ。輪には入れたが、踊れなければ入ったとは言えないだろう。
女神現る
この義務感が後押しする今年踊れなければたぶん来年も、再来年も、いやきっとこのままずっと輪の外から指をくわえて眺めている一生だろう。へたれだ、おれ、もうだめだ。
そのとき彼女は現れた。
この出会いを僕は一生、とまではいかないかもしれないが、少なくとも夏の間中くらいは忘れないだろう。勢いで輪に入り、やみくもに手足を動かしてははじき出されていく、そんな僕に話しかけてくれる女性がいたのだ。
「暑いわねー」と。
「暑いけどさ、踊んなきゃ、ほら見てるだけじゃつまんないでしょう。」
やはり年相応に経験を重ねてきた証だろうか。完成された彼女の踊りには無駄がなく、参考にさせてもらうにはもってこいの美しさだった。
「踊りを覚えるときはね、あまりうますぎる人を見てはだめよ。うまい人はさ、ほら踊りを自分のものにしてるでしょう、崩しちゃうわけ。そうなると見てても真似できないわけ。」
なるほど。
僕は今まで輪の中で一番うまそうに見えた男性を手本にしようとしていた。しかしその人は腰の入り方が尋常じゃないため、まったくコピーできずにいたのだ。彼女はいう
「うまくなりたいなら外で見てたらだめよ。踊れなくてもとにかく輪に入るの。踊りを覚えられるのは輪の中だけ。絶対その方が早いし、楽しいんだから。」
と。