矢継ぎ早に運転士体験へ
改札業務を終えて先頭車両に戻ると、すぐに次は運転士体験となる。おれの夢はこんなに忙しかったのか。
ブレーキレバーはもっとも大切な部分なので、事故につながらないよう、運転中以外はブレーキがかけられた状態で取り外されているのだ。これを儀式のように受け取った瞬間から、僕は運転士となる。
とはいえ、もちろん座学で学んだだけで運転経験なんて1秒たりともないので、まずはベテラン運転士さんに言われるがまま、作業倉庫から洗車用の線路へと車両を動かす。営業路線ではないにしろ、ブレーキを解除してスロットを回すというのは、乗っている人の命を預かることになるのだ。文字通り震える。
ブレーキを緩やかに解除し、スロットをゆっくりと回すと列車がゆっくりと動き始めた。
実際の営業運転とはくらべものにならないくらい遅いスピードなのだけれど、加速していくにつれ、感動よりも恐怖が勝ってスロットを戻してしまう。
列車が15キロくらいの速度になると、前方に引き込み線への分岐線路が見えた。あれを左に分岐しないといけないのだけれど、列車には車のようにハンドルがないのだ。どうするのこれ。
分岐せずに直進しちゃうと前の列車に衝突である。たのむ、分岐してくれ!たのむ!
「ちゃんと分岐しますので大丈夫ですよ」
後ろにいる本物の運転士さんには僕の緊張が伝わっていた。もちろん線路の分岐は滞りなく制御されており、震える新人運転体験者を乗せて列車は無事分岐、引き込み線へと入っていった。
今回運転させてもらった8100形という電車は、運転席を見てもわかるとおりかなり古いものである。そのため現代の電車と違って、車両ごとに「クセ」があるのだという。
僕に運転を教えてくれた運転士さんは「アブキュー(阿武隈急行のこと)のブレーキはよく効くって評判なんですよね」と言っていた。運転士さんジョークなのかもしれない。