特集 2020年10月13日

今40歳男性なんですがアイドルになれますか?

アイドルって何が楽しいんだろう? 自分でやってみたらどうだろうか

変わった髪色の人たちがゴロゴロキャリーバックを運んでいる。アイドルかなと思う。なぜそんな風に思ったのか、今はアイドルのありようが変わったのだ。

あれは一体何をどうしているのだろうか。何が楽しいのだろうか。

気持ちを知りたいなら体験してみるのが早いのではないか。何をもってアイドルとするか、その最低条件を聞いてささやかなアイドルになれやしないだろうか。

2006年より参加。興味対象がユーモアにあり動画を作ったり明日のアーという舞台を作ったり。

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> 個人サイト Twitter(@ohkitashigeto) 明日のアー

アイドルの運営に詳しい人に話を訊いた

アイドルになってみるかと言ったものの、アイドルのことを何も知らない。そこでデイリーポータルZでも記事を書いていてアイドルに関する著書がある大坪ケムタさんに話を聞いた。

著書名は『ゼロからでも始められるアイドル運営』『10年続くアイドル運営術』である。こんなにうってつけの人はいないだろう。

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アイドル運営の著書がある大坪ケムタさんに話を聞いた
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今やアイドルは誰でもなれる

──アイドルってどうやったらなれますかね?

大坪:誰でもなれるんですよ、ライターと同じ。基本的には芸能事務所が募集をして女の子が応募してくるっていう流れです。たとえばTwitterなんかで「アイドルグループ 募集」って検索すると、ほら、出てきましたね。大きい会社もあれば小さい会社も上から下まで。

下は"地下アイドル"って言い方をしますがあれはAKBとか坂道とかテレビに出てる人たちを"地上"と呼んで、それに対してライブハウスに出てる人たちを"地下"って言い方をしていて。地下も2階3階4階…いくらでもあるんですよね。

出る場所もライブハウスやイベンターさんが出演者を常に募集してるんですよ。だからアイドルを名乗って新人がよく出るイベントに応募すれば基本的にはアイドルになれます。

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ちょっとアイドルっぽい背景でインタビューしています

編集部安藤:各アイドルにファンはつくんですか?

大坪:これがまたつくんですよ。どんなアイドルでも終わってからチェキ会っていうのがあるんですよね。1分くらい喋ってちっちゃいインスタントカメラで撮ってサインを描いて渡して1枚500~2000円とか。それがアイドルのかなりの収入源なんですけど、これが面白いものでどんな人気ない人でもやっぱり来るんですよね。人気のグループはファンがびっしりいますが、下の方でも青田買い的なおじさんが絶対いるんですよ。だからお客さんゼロっていうことはないんですよ

──おれがやっても来てしまうんですね…でもアイドルというからにはつんく♂や秋元康みたいな人も要るんですよね?

大坪:まだ活動規模が小さいうちは大体プロデューサーとかマネージャーは兼任するんです、いわゆる「大人の人」。ただ最近はセルフプロデュースアイドルという自分で全部やっちゃう女の子もいますね

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歌と衣装は必要だがかんたんでもいい

──自分たちで始める場合、最低限これさえあればというのはありますか?

大坪:基本的に必要なのは歌と衣装。これらはプロデューサーが決めるんだと思いますけど。衣装もほんとピンきりで、女の子だったらロゴ入りのTシャツにショートパンツだけということもあります。たとえばこのアイドル、一見普段着ですよね。これが衣装なんです。

曲もCDにインストゥルメントとして歌の入ってないやつがあるじゃないですか。"地底"と呼ばれるアイドルの下の方にはそれを使う人も多くいます。10組ぐらい出るライブで同じ曲を4回くらい聞いたことありますけど定番のカバー曲があるんですよ。

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ライブで同じ曲を4回聞いたこともあるらしい

 ──最も定番な曲ってなんですか?

大坪:AKB48とか、あとハロプロのBuono!ってグループの『初恋サイダー』って曲があって。これが一番その世界で有名かな。『初恋サイダー』は記号として「アイドルだな」っていうのが一発で分かる。

歌と衣装の他だと振り付け、それが三種の神器かもしれないですね。踊らないで歌うってのはほぼない。お金あるところは振付師に頼んで、お金ないとこは自分でやりますし。

おじさんの視点ですが、振り付けと詞をよく覚えられるなって本当に思いますよ。もし本当に我々の年代が出るとそこが一番大変。3分間の曲とダンスですからね。アイドルは歌が下手ってよく言われるけどそもそも踊りながら歌うってめちゃめちゃしんどいですから

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3分間の曲と歌、覚えられる気がしない
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男性アイドルシーンもある

安藤:大北くんがやるとして一人でもいいんですか?

大坪:人気なのはグループアイドルで3~6人くらいですかね。ピンもいますけどよっぽどキャラクターが強くないとなかなか上にいけないですよね。

あと男のアイドルと女のアイドルの違いもあります。地下メンズアイドルがこの数年めちゃめちゃ増えてるんですよ。K-POPの流れもありますし純烈なんかもそうですよね。

──へえ、男の。基本的にはそれぞれ異性のファンがつくんですか?

大坪:女性アイドルだとお客さんの8~9割は男性ですけども、男性アイドルの客は圧倒的に女性ですね。女の子は可愛い女の子が好きっていう人もけっこういるじゃないですか。あとは自分がアイドルになりたい人とか

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男でも女性アイドル

──ということはぼくらがやってみたいと言ってるのはやっぱり女性のアイドルのことですかね。男性ですけど

大坪:女性アイドルグループで男って実はけっこういるんですよ。DESURABBITSってグループには通称"部長"という仮面でデス声のメンバーがいますね。清竜人もそうですよね。

あと「二丁目の魁カミングアウト」はゲイアイドルなんですよね。これは結構人気です。このグループは女性アイドルのイベントに出るのが多いんですけど、メンズアイドルのライブにも出るんです。ところがメンズ側ではあまりウケが良くない。なんでかっていうとやってることが女性アイドルカルチャーだからなんですね。

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筆者の考えたアイドルっぽい動きを見させられる識者

 ──奇跡的に男性でOK出ましたね。年齢についてはどうですか?

大坪:今は年齢もすごい幅広くて、昔だったら10代とかのイメージだったと思いますけど今は20代30代もいますしね。40デビューはさすがにいないかもしれないけど、40代アイドルもたぶん探せばいますね。

あと顔出さないアイドルもいますよ。ぼくもハマってたドッツトーキョーというグループがいまして。もう今解散しちゃったんですけど。しかもメンバー全員の名前が定期的に変わるんですよ。

──ひどい! でもここまで来たら人である必要ありますかね…? たとえばあやつり人形とかでできるならもうそれがいいんですけど…

大坪:人形と女の子いましたね……「さくちゃんとじぃじ」だ、これです。ただ人形だけの無人はさすがに…

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AKBがライブハウスで始めてアイドルが増えたそうだが…

──人形だめだったか……あとは場所ですかね。アイドルはホールでやるものだったのがAKBあたりからライブハウスになって地下アイドルもたくさん生まれたんですよね。ライブハウスでやらなくちゃだめですか?

大坪:ライブハウスは必須ではないですね。レコード屋さんの前でインストアライブやってるとこもありますし、それこそももクロだって最初の頃はあのNHKの前の公園のとこでやってたって伝説があるぐらいです。

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ということで私達の初ライブは公園でやることにしました。自転車で乗り付けるタイプのアイドル

 ──アイドルのライブ見たことがあるんですが男性たちが飛び跳ねるからすごい質量が運動してるなって思って

大坪:声でかいおじさん達がハイテンションで大暴れっていう。バンドとかに比べると圧倒的にアクティブですね。

アイドル文化特有のコールという「♪超絶可愛い! 大北♪」みたいな掛け声入れるのがあるんですけど、あれは斬新だなって思いましたね。バンドのライブで掛け声出たら「うるせーっ」てなるじゃないですか。でも今は曲を作る方もコールが入るのを見越して作ってます

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アイドルファンのイメージ。ケムタさんによるとあれは「祭り」なんだという

──アイドルコールっていうのは男性アイドルにもある文化なんですか?

大坪:ぼくもあんまり詳しくないですけど、女性アイドル文化でできたものがメンズアイドル側にいってるパターンがけっこう多くてMIXとかもあるらしいです。女性アイドルのお祭り感に比べたら、男性アイドルはじっくり見るほうが多いんじゃないかな。

あれは祭りなのだ

大坪:やっぱりあの騒ぎたい、沸きたい、っていうのは女性アイドル文化。女性アイドルとファンの関係性って祭りに近いってよく言ってて、アイドルが神輿でオタクたちがワッショイワッショイやるんです。お祭りだから静かな祭りはない。

だいたいみんなアイドルTシャツ着てるんですけどアイドルの子が描いた下手くそなイラストだったりするわけですよ。でも非日常になるためにはダサいくらいが丁度いい。それってハッピなんですよね。終わってから飲み会に行って仲良くなる感じも祭りですよね。女性オタクより男の方がその傾向にあると思います。

アイドルを好きな人って「かわいい子が好きなんでしょ?」って思われがちなんですけど、結局ライブが好きなんですよね。

よく言うのが秋葉原の文化としてアニメとメイドとアイドルっていうのがありますけど、これって全部ファンがバラバラなんですよ。メイドもアイドルも同じ生の女の子ですけど、人気のあるメイドの子がアイドルしたとしてもファンがちがうからそこには来ない。やっぱりライブで見るのが好き、しかも一生懸命やってるとこが好き、みたいなところになってくる。

アイドルなんて歌が下手じゃないか、踊りが下手じゃないか、ってみんな言いますよね。でもアイドルファンの気持ちと近いのって高校野球だと思ってるんです。うまさだけで言ったらプロ野球でいいわけじゃないですか。一生懸命やることはやっぱり美しい。そこに近い、アマチュアならではの美しさがあるというか。

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お客さんは必要だろうということになり編集部安藤さんにお願いしました。そしてこれが私たちの初ライブです

 ──じゃあ我々にはお客さんも用意したほうがよさそうですね

大坪:『初恋サイダー』は客の合いの手がすごくしっかりあるんです。アイドルっていうのを見せるためにはオタクはやっぱり要りますよね。合いの手って最初わかんないから難しいんだけど覚えたら楽しいんですよ。

前奏でまずMIXって言われる「タイガー! ファイヤー!」と掛け声するやつが定型としてあります。ぼくがアイドル好きになったのはももクロからですがその頃からその辺のアイドルコールはありましたね。オタクが考えるんですよ、全部。ふざけてやってるうちにそれが定型化していくみたいな。終わってから飲み会とかで「今度はこれ定型化していくか」とか話して決まっていくんだと思いますよ

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木陰が楽屋なので衣装を着ます。緑の軽作業ジャンパーです

 

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「こんにちはドリームステージ(グループ名)の大北栄人と申します」「しげりーん!(※合いの手のサンプルの動画から「りん」という呼称を借りた)」自己紹介と声援からライブは始まる
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そして家で練習してきた『初恋サイダー』を歌う。こちらも練習してきた客のおかげで盛り上がった。覚えるのは面倒だし不安だったが歌詞を覚えてから急に身体的な自由を感じる。そこにお客さんの身体が伴うのが快感だ。なるほど…

──じゃあ出てきて『初恋サイダー』歌って「ありがとうございました」で終わりですかね

大坪:あとコミュニケーションはやっぱり必要ですね。終わったあとのチェキ会はほぼセットです。物販大事ですよ。終わって「今日どうだった?」みたいな感想を言い合う。

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初恋サイダーの終わりに「みんなでジャンプするよ」と声をかけるアイドルもいた。ここまで身体を一致させるとたしかに祭りだ

何者かになりたくてアイドルになる

安藤:アイドルの人たちってみんな何を目標にしているんですか?

大坪:昔だったらみんな武道館とか言うんでしょうけどね。地下アイドルとかは「何者かになりたい」という自己実現的なところは強いですよ。「今の自分の現状を変えたい」とか。

基本的に自信のない子がアイドルになっていて、私は可愛いと思ってる子はあんまりならない。女の子ってクラスでも可愛いグループ、二番手の、ってヒエラルキーあるじゃないですか。高校時代どんな感じだった?って聞くと、上の方のグループにはいなかったってみんな言いますもんね。

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終わってからのチェキ会は必須だというのだが、チェキを持ってないので似顔絵会を開催することになった。ファンに対して申し訳なさを感じる

アイドルは今やバンドっぽくなってきている

大坪:自己実現って意味でもどんどんバンドっぽくなっていってるんですよね。バンドって自分の曲を作って聞いてくれってのがあるわけじゃないですか。アイドルは本人が作るわけじゃないですけど最初のうちは自分が何者かになりたいとかステージ立ってキャーキャー言われたいとかだったとしても、途中からファンとの繋がりみたいなところが大きくなって。それプラス上に上がっていくのが理想なんですけど。

今はなんかそういう感じでもなくて、みんな楽しく自己実現できればいいんじゃない?みたいになってる。さすがにみんな武道館は無理だってわかってきたので。だから音楽性もどんどん上がってきて一般的なバンドの人が曲書いてたり、好きな曲をちゃんとやるようになってきたりとか。もちろんアイドルアイドルした曲もありますけどね

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「しげりんよかったよ」とおっさんに言われるとちょっとイラッとしてしまった。でもこの人のおかげで盛り上がったのだと思うと仲間意識が芽生えた。このイラ感と仲間感か。

大坪:アイドルって基本3年だって言われていて、1年目はわけわからないのに楽しいって感じで、2年目ぐらいでうちのグループここより上に行くかなどうかなって見えてきて、3年目の真ん中ぐらいでこれ以上なさそうだからもう辞めちゃおうかなっていう。そっから2~3ヶ月卒業ライブまで設定してやるから合計して3年ぐらい。

実際考えてみると部活って基本3年じゃないですか、中学も高校も。人間って本気でやれるのは3年くらいがせいぜいなんじゃないかっていう

──ありがとうございます! レベルを下げきったこれがぎりぎりアイドルだというものを一度やってみます!

そして出来上がった初ライブ。これをあと3年やるのか…

 


そうしてアイドルの気持ちがわかった

そして最低限のライブをやってみた。

ケムタさんの話で大体アイドルのことがわかったと思ったのだが、実際にやってみてからの知見もすごかった。とにかく身体がめんどくさい。覚えなきゃならないし、荷物運ばなきゃならないし、ステージを準備しないといけない。

覚えなきゃという状態は手かせ足かせがついたようなもので、ひたすら面倒なのだが、一旦スッと歌詞が出てくるようになるとその手かせ足かせがとれて体は自由を感じる。その自由さに目の前のおっさんが大きな声と飛び跳ねる質量でもってついてくる。普段浴びない拍手というものを浴びる。これが20人いたなら20倍の賛同となるのだろう。面倒くさいことを経ているだけにここの喜びは跳ね上がりそうだ。

これらの構造は演劇にも似たようなものがあるのだが、アイドルはここからチェキ会がある。書いてはいけないような複雑な感情が湧く。今回は「おっさんがおっさんを評価するなよ…」と思ったがこれはアイドルの子の純粋なそれではないかもしれない。それでも目の前で感想をもらう怖さはありそうだ。

神輿としてかつがれること、そしてその気持ちはよくわかった。今度はファンとのつながりを味わってみたいのであと3年がんばろうと思う。

 

ライターからのお知らせ

コントの舞台をやったりしてきたんですが、コロナ禍で公演もできないのでスネークマンショーみたいなコントのアルバムを作りました。音声配信なのにCDっぽいものを買わないと聞けません。めんどくさいことをしてもらいたくて。アイドルのときもそうですけどやっぱりめんどくささが必要だと思いまして。
 
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レコードジャケットじゃなくて(QR)コードジャケット。物が届きます

 

 

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