「惑星のウドンド」が生まれたきっかけについて聞く
――「みつか坊主」は火事の後も店舗を移して営業されているわけですけど、そこから「惑星のウドンド」も始めようと思ったのはなぜだったんでしょうか。
「惑星のウドンド」は2022年にオープンしたんですけど、2017年ぐらいから考え始めていたんです。「みつか坊主」にはスタッフが一杯いるんですけど、給料もできるだけ払いたいんで、人件費は大きくて、それはそれで当然なんですけど、収益のバランスを考えながらお客さんにどう楽しんでもらえるかというのが頭の中にあって。
――なるほど。
たとえばそれで生産効率を一気に上げようと思うと品質的に納得できない部分がどうしても出てくるんですよ。スタッフの働きやすさとお客さんが楽しめることと、それを両方考えるのを一度やめようと思ってみて、どっちかに振り切ってみようと。それで人を採用せずにまわしてみるっていう。そういうことを考えたんです。
――そこで無人営業のスタイルにたどり着いたんですね。
そうです。うちはもともと学生の子たちとの関りが多かったんですけど、理系の学生と話している中で、「性善説に基づいたデータが欲しい」って言われて。
――データ……というと?
学生たちが飲食店を活用してデータを取って、それをもとにプログラムを作るというのをしてみたいと。それで、性善説に基づいて数字を計ったら、飲食店のことが一から計り直せるんじゃないか、それをやってみようと。
――「性善説に基づいた」っていうのはあれですか。無人で販売して、商品が持っていかれてしまうかもしれないけど、一度、性善説をベースにしてデータを集めてみようと?
そういうことですね。学生たちはうちの店のデータを基に実際にプログラムを作っていて、機械学習をさせて「今日これだけ売れたから明日どれぐらいの商品を用意しておくといい」みたいな、受注発注をある程度計測できるようにしてたりするんです。
――すごい。それは面白いですね。
学生さんたちにそうやって街を活用してもらえるのはうれしいですし、もう一つは蛍池に24時間明かりをつけるっていうのも目的で、蛍池ってよく「遅くまでやってる店が無いから飲みに行かへん」って言われるんですよ。「じゃあ24時間あけてるんでお酒買ってきて飲んでいいですよ」っていうのをやってみようと思って(笑)
――なんというか、もうそういう大きな実験というか。
完全に実験ですね。まずはそれでやってみて、全部がうまくいくわけじゃないでしょうし、それでわかることもあると。そもそも、うどんをやりたいっていうのはずっとあったんです。(「惑星のウドンド)の麺のモチーフになった)富士吉田のうどんってめっちゃ面白くて、山梨で初めて吉田のうどんを食べた時に「こんなに硬い麺が許されるんや」っていうのが衝撃で。あと、うちもそうなんですけど、コロナ禍にラーメン屋さんってデリバリーを始めるところが多かったんですけど、食べてみて、特に麺に対して「これでいいのかな」っていう思いがあって、そこが吉田のうどんに関しては、割とクオリティがぶれないんです。これはすごい商品やなと。
――茹で時間さえちゃんと調整すればセルフでも美味しく食べられるということですね。
そうなんです。このスタイルでやっても麺に対して僕らがあまり神経質にならなくていいっていうのがあったんです。
――なるほど。セルフスタイルにちょうど合う麺があって、だからこそできたことだったんですね。
「惑星のウドンド」の細かな部分についてさらに聞く
――この麺を再現するのは大変でしたか?
いや、「みつか坊主」の時からお世話になっている製麵屋さんがあって、そこの方を「山梨にうどん食べにいきませんか?」って急に誘って(笑)食べてもらって、実は最初はあまりいい印象じゃなかったらしいんですよ。「嫌いです」って。それでも作ってはくれたんですよ。でも作るに当たって製麺屋さんは僕よりも何度も食べていて、今は好きになったって言ってました(笑)
――ははは。そんなことが。お店の中のこのマンガがすごく目立ちますけど、これは?
オープン前に東京と大阪でこの麺の試食会をしてみたんです。ただ、麺がとにかく硬いので、特に大阪では残す方も多くて。うどんだと思って食べるから感覚がずれるのかなと。「この麺をどう表現すればいいやろう」と考えて浮かんだのが「ウドンド」という言葉だったんですよ。うどんっぽいけどうどんじゃないっていう(笑)
――別の、新しい何かみたいな。
伊勢うどんみたいな柔らかい麺もあれば、こういう硬い麺もある。それを知ってもらうためにこの麺の説明をアメコミ風のアニメにしてもらえませんかって、仲の良いデザイナーに頼んだんです。そしたら、こういうSFっぽいマンガになっていって、最終的に「これは惑星のウドンドというものにしよう」ってなって(笑)
――ははは。ある星の特殊な食べ物っていう設定なんですね。
このマンガに合わせて店構えも作っていったんです。というのも、ただ「うどん」って看板に書いたら、こういう硬い麺が苦手な人も「うどん屋さんがある」と思って入ってきてしまうかもしれないですよね。自分で作るスタイルというのも特殊なんで。それは申し訳ないと。だからこういう、ある程度の入りにくさも重要なんです(笑)
――うどんに関してはつゆのある「かけうどん」のタイプといわゆる油そばみたいな、「かけ油うどん」との2種類ですが、これで結構アレンジできるものですね。
最初は肉入りのも作ってたんですけど、これだけで結構遊びの幅もあるんで、2種類でいいやと思って。でもそこはあまり説明しないようにしていて、自由にしてもらえばと思ってるんですけどね。麺を15分茹でて一度水でしめてつけ麺みたいにしても美味しかったり。持ち込みOKにしてるんで、それを使ってアレンジしてもいいですし。意外だったのが、持ち込み大丈夫というので、周りのお店からも喜んでもらえるんですよね。近くの店で惣菜を買ってきて飲んで帰るだけの人もいますし(笑)
――ははは。それだとお店の売り上げにはならないわけですよね。そういうことも想定していたんですか?
もちろんです。でもそれって、割と慣れた人しかできないんですよ(笑)