特集 2024年5月10日

24時間営業でセルフスタイルのうどん屋「惑星のウドンド」のこと

まずは性善説でやってみるという話について聞く

――夜中に来るお客さんも多いですか?

夜中の方が多いぐらいですね。終電がなくなった後に、カップラーメン食べてしゃべってる若者がいたりとか。

――そこも性善説だから、たとえば寝てるだけの人もいるかしれないし。

そうです。でもそれで全然いいんです。とにかく神経質にならないのが大事なんだなと。

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「惑星のウドンド」を通じて過剰に神経質にならないことを学んだという斎藤さん
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――たとえば、去年初めて来た時点では、お釣り用の小銭が置いてあったりしましたよね。あれも驚きました。持っていかれる可能性もあるわけで。

そうです。今は実験的にお釣りをおかず、お釣りが出ない人は現金でも払ってもらえて、あとはオンライン決済にしてみてるんですけど、でも、釣銭を持っていかれるというのも、それってじゃあどれぐらいの確率なんだろうと。100人にひとりかもしれない。そのために不便にすることが本当に正しいのかって、それを疑うことも大事じゃないかと。もちろんそれも地域によるとは思うんですけど。

――たしかにそうですね。

まあ、実際にお釣りを持っていかれたことも何度かあって、警察にめっちゃ怒られたんですよ。「犯罪を誘発してる」って(笑)

――えー!それはひどいですね。

それにはすごく違和感があって。持っていく人が一体なぜそんなことをしたのか、その背景だってあるはずですよね。そこも向き合ってみたいと思うんですよ。だって、その人はたぶんこの街にいるわけですよ。その人をただ犯罪者にして、その責任は誰が取っていくのって。みんなが責任転嫁するからその人はそういうことを続けてしまうのかもしれない。もっと適切な対応があるのかもしれない。

――ルールでシャットアウトしてしまったらそれまでですもんね。あと、ここはお湯が沸いていますし、電気はついているし、維持費は結構かかりますか?

でも、ハードルは極めて低いんです。もともとうちは月に60食は無料配布してるんですね。公式LINEに登録してくれた人に抽選でプレゼントしていて、当選確率も高いんです。月60食分はマイナスになってもいい前提なんですね。売り上げを追いかけなくていい余裕も作ってある。初期投資も抑えられているし、スタッフが基本いないということで人件費もかからないし、誰かに追われて何かをしなければいけないというのが極めて低いんです。

――お店の中が綺麗でいいなと思うんですが、掃除はどうですか?

一日に1時間半は掃除するのに必要で、たとえば茹で麺機も毎日掃除するんで、お湯が沸かせない時間は発生しますね。ただ、それもどの時間でもいいわけです。お客さんの少ない朝にやってもいいし。今のところそんなに負荷になってはいないです。

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昼は陽光が差し込んで明るい店内

――お酒を飲んでいいというのも寛大ですね。

僕自身もよくここで飲んでますからね(笑)アルコールは他のお店で買ってくださいっていうのも、たとえば自販機をおけばいいのかもしれないって思ったんですけど、これはこれで合理的でもあるなと。他のお店で買ってもらうと年齢確認はそこでやってもらえるわけですよね。僕らがそれをする必要がなくなるわけです。

――本当ですね。人がいないとできない部分を外部に委託しているというか。2022年のオープンから2年が経って、思うところはありますか?

街に明かりがつき続けるのはいいなと思ってますね。課題はあるんですけど、思ったより神経質にならなくていいんだというのは思いました。やっぱりやってみないとわからないなっていうのが正直なところですよね。

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――このスタイルは蛍池という場所だから可能なことでもあるんですかね。もっと繁華街だったら違うのかな……とか。

それはありますね。東京でやろうと思っていたこともあるんです。高田馬場とか、学生の多い街で。でもそれならスタッフ一人は常駐しないとだめだろうなと。そういう意味では蛍池だからこそ振り切ったこともできるなと。この場所は、「みつか坊主」が火事になった後に店舗として使わせてもらっていた場所だったんで、土地勘もあるし、第一歩としてはいいなと思って、一番難しい形でやってみようという。

――そこは街の規模で変わってきそうですよね。

たとえばお客さんがひっきりなしに来るような場所だったら誰かがある程度は管理した方がいいし、逆に来ない時間帯があるならそこは人がいらないわけですよね。そういう加減はいくらでもできるんです。たとえば極端なことを言えば、商品を買った人しか入れないような仕組みにだってできるし、今、うちでは一番極端な例を実験してるんです。一番シンプルな形をまずやってみているというか。

――まずは性善説でと。

はい。それは学生に教えてもらったことで。飲食店の「こういうことがあるかもしれないからこう備えないといけない」っていうのが彼らからしたら面倒に見えたんでしょうね(笑)それが本当にどこまで正しいのかっていうのが、彼らからの問いだったんです。賢いんでしょうね、みんな(笑)

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「惑星のウドンド」と斎藤さん

――自分の中の凝り固まった考えがほぐされるような気がします。お店にとってイレギュラーなことがあっても、それは何かを考えるきっかけだし、そうやって受け入れる姿勢がちゃんとあるというか。

そうですね。まあ、こういう店が増えたらいいのかっていうのはわからないです(笑)でも、やることによって、ヒントはいっぱい見えるんですよ。今やってるお店(「みつか坊主」のこと)に生かせることはいっぱいあるし、飲食以外にも、ここで得たことが生かせる場はあると思うんですよね。でも飲食って大事だなというのも改めて思うんですよ。食べたり飲んだりしながら、人が集まって議論したり、そこから生まれるものがたくさんあると思うんですよ。

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――今後こうしてみたいというのは何かありますか?

こことはまた違う仕組みで、新しい場所でっていうのはやってみたいですね。違う地域のきわきわのラインを見てみたい。

――改めて、「みつか坊主」の店舗をもっと増やす!とかじゃなく、こういうスタイルにたどり着いたというのがすごく面白いですね。

増やしていく方向って、明らかに苦しい戦いだと思うんですよ。それだけ人も必要になるし。でもこれから人口は減っていくわけで。むしろ人口が減った後には、この仕組みを必要とする人が増えてくるかもしれないなと思います(笑)そんなに遠くない未来に、ここで試しているようなことがめちゃくちゃ必要とされるかもしれない。まあこれが正解かもわからないんですけど。

――しかし、本当に居心地のいい場ですね。ここがきっかけで蛍池に来れたのもうれしいです。

蛍池のことは僕も改めてめちゃくちゃ好きになったし、ここでしかできないことがいっぱいあるなと思っています。学生さんは多いし、大阪大学ってすごく優秀なのに、京大とか東大と比べて自分たちを下に見てる子も多くて(笑)そこはモヤモヤしないでせっかく4年間ここにいるんだから楽しもうよっていうのも言いたいし、大阪の外からここに通う子たちにとってはこの街が大阪の印象になるわけで、ここが楽しかったらまた大阪に戻ってこようと思ってもらえるかもしれないですよね。

――本当ですね。そういう発想がすごく面白いと思います。今日は本当にありがとうございました!

と、斎藤光典さんの考えは聞けば聞くほど柔軟で面白いのだった。コロナ禍以降、冷凍餃子の無人販売所などが街に増えた印象があり(今は少し落ち着いた気もするが)、そういう店舗の中には買った商品の分の代金を箱に入れるスタイルで、つまりは性善説に基づいたところもある。

ただ、店の中で飲食してのんびり過ごしていいというのはやはりなかなかに勇気のいる試みであるように思えて、それを「まずは試してみないとわからない」と実行に移している斎藤さんがかっこよく見えてくる取材になった。またあの硬いうどんを食べに行こう。

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また来ます!

「惑星のウドンド」

大阪府豊中市螢池中町2丁目5−13

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