特集 2022年11月25日

ユニコーンは実在した! 二本足のユニコーンを見に行く

ユニコーンという伝説の生き物がいる。見た目は四本足で馬のようではあるけれど、額に一本のツノが生えている。残念ながら動物園でも、野生でもユニコーンを見ることはできない。伝説の生き物だからだ。

しかし、ドイツのマクデブルクという街の自然科学博物館に、ユニコーンの復元された骨格標本が展示してある。伝説ではなかったのだ。ただ変わったことにそのユニコーンは我々が知るユニコーンとは大きく異なる。二本足で二足歩行なのだ。

1985年福岡生まれ。思い立ったが吉日で行動しています。地味なファッションと言われることが多いので、派手なメガネを買おうと思っています。(動画インタビュー)

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> 個人サイト Web独り者 彼女がいる風の地主恵亮

ユニコーンについて

我々は伝説の生き物に憧れを抱く。竜や幻獣と呼ばれる「バジリスク」や「ヨルムンガンド」など挙げればキリがない。ヨーロッパの神話を読んでいたり、ファンタジー系のゲームをしていたりすると彼らはよく登場する。 

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ユニコーンも伝説の生き物ですね!

ユニコーンも誰もが知る伝説の生き物だ。馬のような形で、四本足で歩き、額には美しいツノが一本だけ生えている。一角獣ということだ。我々が生を営むこの世界は広いけれど、一角獣は存在しないのだ。だからユニコーンもまた伝説なのだ。

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ツノは基本二本なんです!

イッカクという鯨類はツノが一本生えているように感じるけれど、これはツノではなく牙だ。サイもまたイレギュラーなツノを持つように感じるけれど、これはツノではなく毛だ。ユニコーンのような一本だけのツノを持つ生き物はいないのだ。

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美しいですね!

旧約聖書にユニコーンは登場している。新約聖書には登場しない。もちろん今の動物を集めた図鑑にもユニコーンは登場しない。時が経つと彼らはいないことになって行く。しかし、17世紀にユニコーンの骨が発掘された。それを元に復元された骨格標本が展示してある博物館があった。

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それがマクデブルクの自然科学博物館です
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マクデブルクの自然科学博物館

ドイツにマクデブルクという街がある。海外旅行の相棒「地球の歩き方」を見ても文字だけで、街の紹介は一切ない。首都「ベルリン」から電車で2時間弱ほどの街だ。ザクセン=アンハルト州の州都でもある。 

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マクデブルク大聖堂があります

マクデブルク大聖堂はドイツ最古のゴシック様式の大聖堂だ。このように記事にするからには、言葉にしなければいけないけれど、マクデブルク大聖堂には言語化できない感動があった。そして、その感動を超える出会いが、マクデブルク自然科学博物館にはある。

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自然科学博物館に感動はあります

マクデブルク自然科学博物館に行けば、マクデブルクの歴史や文化を知ることができる。そして、あるのだ。我々が憧れた伝説の生き物であるユニコーンの骨格標本が。

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伝説との出会い!
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実在したユニコーン

ユニコーンの復元された骨格標本が展示されている。ユニコーンと言われなければユニコーンとは思わないかもしれない。我々が脳内で描くユニコーンとは大きくことなるからだ。第一に二本足なのだ。

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我々が想像するユニコーン
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実在するユニコーン

ユニコーンは二足歩行だったのだ。人間やトリ以外に二足歩行できる動物がいるだろうか。恐竜は二足歩行だったかもしれないけれど、哺乳類に限定すれば、人間以外にありえない。でも、二足歩行をするのだ、ユニコーンは。 

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立派な二本足!

ユニコーンは絶対に二本足で歩いた。だって手の骨がないのだから、彼らが前に進むには基本的には二足歩行しかありえない。そのためだろうか、足の骨は立派だ。その二本の足で我々が知らない時代の大地を踏みしめていたのだ。

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カッコいい気がする!

二本足に気を取られて、もはや額の一本のツノの存在を忘れていた。立派な一本のツノが天井に向かい伸びている。情報が渋滞している。伝説の生き物の骨格標本があって、二本足で二足歩行で、一角獣。整理すればそういうことなのだけれど、それぞれのインパクトが強すぎる。

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情報が渋滞するユニコーン!

私は骨格について詳しくはないけれど、それでもこれ動けないでしょ、と思ってしまう作りになっている。あらゆる機能を捨てた骨格。ユニコーンと書いていなければ、ユニコーンとはまず思わない。新しい知らない出鱈目なアートにすら感じる。

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でも、書いてあるんです!

「Einhorns」がドイツ語でユニコーンを意味する。1663年に採石場である骨が見つかったそうだ。それがユニコーンの骨と断定され、この骨格標本は作られた。きっと当時の人にもユニコーンと断定しなければならない理由があったとは思うけれど、昔からユニコーンの姿は有名だし、なぜこうなるのか不思議だ。

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不思議よね!

見れば見るほどに不思議で、それが自然科学博物館にあることに感動を覚える。想像する、彼らが生きていて、大地を歩いていた様子を。でも、ダメだった。風邪で熱が出た時みたいに頭はボーっとして彼らの歩く姿は想像できなかった。だって、想像できない骨格なんだもん。

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できないよね!
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感動する展示方法

私はこれを個人的に見に行った。記事にするかはわからなかった。でも、した。それには理由がある。勝手に深読みしたのかもしれないけれど、展示スペースが完璧なのだ。まずはユニコーンの展示から2つ離れた展示室の話をする。 

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その展示室がこちらです!

鳥類を先頭にシカがいて、サルがいて、ゾウがいて、クジラがいて、シャチもいる。多くは剥製だ。みな一様に同じ方向に進んでいる。これはおそらく「ノアの方舟」に乗る場面の再現だ。大洪水から逃れるために動物たちは「ノアの方舟」に乗る。

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ノアの方舟に乗るシーンだと思う

実はノアの方舟にはユニコーンも乗ることになっていた。しかしユニコーンは傲慢で暴力的だった。その一本のツノでノアの方舟に乗る動物を傷つけた。それに神は怒り、ユニコーンをノアの方舟に乗せなかった。だからユニコーンは洪水に飲み込まれ滅びたのだ。

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その結果、ここ!

ノアの方舟に乗れなかったユニコーンを再現しているのではないだろうか。いま彼が展示されているのはエレベーターホール。エレベーターの両脇には男女のそれぞれのトイレもある。もはや展示室にもユニコーンはいないのだ。

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ポツンといます、物語を感じる展示です!

ミュージアムショップに行く。このユニコーンのグッズ的なものは見当たらない。係の女性にグッズや本はないですか? と聞く。「ノー」と潔く大きな声で言われ、私と彼女は顔を見合わせ、一呼吸おいて一緒に笑った。なんだか笑ってしまうのだ。その後、近所の本屋でマクデブルクの歴史の本を買った。どこにもユニコーンのことは書いていなかった。

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買ったけど書いてなかった!(ドイツ語だから自信はないけど、書いてないと思います)

ちなみに、このユニコーンは氷河期に絶滅した「ケブカサイ(頭蓋骨)」と「マンモス(骨格)」で構成されている。ユニコーンだけれど、ユニコーンではないのだ。

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これがケブカサイ
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これがマンモス

だとしても、ユニコーンはいたと言いたい。しかも、二本足で二足歩行のユニコーン。いた方が面白いから。4月の新入生のように背筋をしゃんと伸ばして今日も立っているのだ。とても愛おしく感じる。17世紀の人がこれを見た時、どんな反応をしたのか知りたい。たぶん笑ったんじゃないかな。

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謎の記念撮影!

ユニコーンを見た

ユニコーンの話ばかりをしたけれど、マクデブルクの自然科学博物館は素晴らしく、4時間もいた。街の歴史や文化はもちろん、ネイチャー系のことも詳しく面白く展示してある。私の博物館ランキングでは5本の指に入る。もちろんその理由にはユニコーンがいることも大きいけれど。大好きだわ、このユニコーン。

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もう一度載せておこう!

 

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