今回、これはと思いついた物件を回ってみたが、「椅子(ベンチ)」における形状の可能性は無限大だ。
こと交通機関のベンチにいたっては、その存在理由からくる奇妙な形状が、興味深い様相を呈しているのだ。
と、またもっともらしいことを並べようと思ったけど、要は「イスは見た目じゃないっす」ってことっす。
「椅子」とは、座るものである。人が座れるような、そして座ることを誘発するような形状を、普通はしているものだ。
でも世の中には「エヘッ?これが椅子?」と思っちゃうような椅子が、多数存在するのはご存知のとおりだ。
しかし、見た目は奇をてらっているようなプロダクトでも、座るとなかなか、「おーい姐さんビールと枝豆」と言いたくなるような座り心地のものもあったり、それゆえに素人目からしても人間工学というのは奥が深そうで興味深い。
と、かしこまって書いてはいますが、要は「エヘッ、あんな椅子、座ったらどうなんの~?」という好奇心をそそられる物件にかたはしから座ってみました。今回は鉄道交通のベンチに的を絞って。
※2007年4月に掲載された記事を、AIにより画像を拡大して加筆修正のうえ再掲載しました。
まずは、JRの基本形を見ていただこう。
すっぽりと腰を受け止める流線型。なかなか座りやすそうだし、実際座りやすい。
こういうのは、おいといて。
で、その流れをくむかのように、ひたすら「人様のお尻、腰、ももなどのご都合に合わせて作ってあります」というベンチを、最近よく見かける。
こういうのも、おいときます。
今回気になるベンチたちは、例えばこれ。都営大江戸線の各駅は各様に工夫がこらされているがそのひとつ、赤羽橋駅。
ここにくるとガラスの体がもらえそうな、そんなガラスだらけの内装の駅なのだが、ベンチの座面も厚いタイルガラスだ。
さて、椅子なので、眺めてないで座ってみないと始まらない。よいしょっと。
背もたれがついている。見た目、「背もたれだなー」と漠然と思っていたのだが、座ってみてその実感はあまりない。背をもたれ、させたくない感じではある。痛いので。
座面も、 座りにくい!というほどではないが、あまり受け入れてもらえない感じである。
さて評価だが、以下のように★印+心地よさのイメージで評価させてもらおうと思う。あくまで主観だ。体の肉付きなどにも左右されるので、ほんと大目にみてください。イメージにいたっては自分でも何がなんだかだ。
赤羽橋駅・座りにくさ評価(★で5段階+イメージ) | |
見た目の、椅子と思えなさ | ★★ |
見た目の座りにくさ | ★★★ |
でも座ってみると?? |
★★★ |
他、大江戸線には個性的なベンチがたくさんあって、どれも紹介したくなる。が、ここはぐっとこらえて、「座りにくそうなもの」だけに意地悪く焦点を絞りたい。
これなんかどうだ。飯田橋駅の物件である。
滑り止めを兼ねた座面が効いている。ここに腰を落ち着かせればいい、という安心感。背もたれも武骨そうだが太さがほどよいのでまあ悪くはない。
飯田橋駅・座りにくさ評価(★で5段階+イメージ) | |
見た目の、椅子と思えなさ | ★★★ |
見た目の座りにくさ | ★★★ |
でも座ってみると?? | ★ ・・・居酒屋で4人席に5人組が通され、とりあえず通路側にかんたんなスツールをおかれ、しぶしぶ座っているうちなじんできてほろ酔い、な感じ。 |
さて次は、このベンチが地味にすごい。六本木駅のおしゃれベンチだ。
さすが土地柄を反映した洗練されたデザインだ。では座ってなじんでみよう。
写真ではわかりにくいが、近くにお越しの際はぜひ座ってみるといい。
滑るのだ。
じっと動かずにいようとしても、なんの加減か、腰がじわじわと前に出て行ってしまう。
座面と背もたれの角度・幅、そして着ている服の摩擦係数によるものと思われる。
が、 同行者も確かに「滑る」と証言していたので、服よりもベンチのほうに原因があるのか。
怪奇スポットでよく「缶が上に転がっていく坂」があるが、あのテイストを思い出す。
「恐怖!何もしていないのに腰が滑っていくベンチ」だ。
六本木駅・座りにくさ評価(★で5段階+イメージ) | |
見た目の、椅子と思えなさ | ★ |
見た目の座りにくさ | ★★★ |
でも座ってみると?? | ★★★★★ ・・・キャンプに行ったはいいがテントスペースが満員で、山の斜面にテントを立てざるをえなくなって一日中ドリフのように滑っている感じ。 |
エルゴノミクス、そしてフューチャリスティックという流れに反して、頑固な「木製のベンチ」もまだまだ健在なので、ちょっとこのページで座ってみよう。
ちょっと、といいつつJR青梅線の羽村駅まで足をのばしてしまった。
どうだ、このLっぷり。超低い座面。ショッキングな外観に合わない、かわいげな色。
よくぞこの都内に残っていてくれた、と肩をたたきたくなる。
座ってみると、やはり木だ。堅そうに見えてもどこか、人間の体になじんでくれる気がする。
羽村駅・座りにくさ評価(★で5段階+イメージ) | |
見た目の、椅子と思えなさ | ★ |
見た目の座りにくさ | ★★★ |
でも座ってみると?? | ★★ ・・・青春18切符で乗る夜行列車、L字型のあの椅子が憂鬱ではあるが覚悟して乗ってみると意外と長時間でも大丈夫だった感じ。 |
次は、ショッキングな外観という意味ではこちらも負けていない。東武東上線、北池袋駅のベンチだ。
合板でできたそれは、昭和の香りをプンプン漂わせている。夜のホームに置かれて蛍光灯を浴びている様は、失礼ながらさすが東武!と思わざるをえない。
剥がれかけた座面に腰を落ち着けると、これはこれでいいような気がしてきた。
よくわからないが、諦観を突き抜けたほのかな幸福、というか。
北池袋駅・座りにくさ評価(★で5段階+イメージ) | |
見た目の、椅子と思えなさ | ― |
見た目の座りにくさ | ★★★★ |
でも座ってみると?? | ★★ ・・・子供のころ、駄菓子屋にこんな椅子が置いてあって、昼間からアイス食べて、あのころはよかったなあ。 |
上の2つが洋菓子なら、これは和菓子、ようかんのようなベンチである。中身の詰まった、東急池上線旗の台駅のベンチだ。
昔ながらのベンチにしては、座面が高い。深く腰掛けると足が多少浮く。木のハンマーで膝を打てば脚気の診断ができそうだ。
作った当時、老若男女のどの体格レベルに合わせたのだろうか。
今この駅は改装工事中なので、このベンチがいつまでここにあるかわからない。が、これもぜひ次代に残したいベンチである。
旗の台駅・座りにくさ評価(★で5段階+イメージ) | |
見た目の、椅子と思えなさ | ― |
見た目の座りにくさ | ★★★ |
でも座ってみると?? | ★ ・・・この上で寝て夜明かししてもいい感じ。 |
さあ、ここからがこの企画のキモです。これが言いたかったのです。
まずは下の写真をご覧ください。阪急電車の中津駅だそうである(写真提供・デイリーポータルZライター・よしざきさん)。
いえ、ベンチです。
「長居は想定されていない設計。ってか、ホームが狭いので恐い」とよしざきさんもおっしゃるとおり。この手のベンチ、「長居はしてほしくない、が休むところは提供します」という二律背反のたまものでしょうか。ビジネスショウなどの見本市のセミナー会場でもよく見かける。
このアンビバレンツさが、ぐっとくるのだ。椅子なのか?椅子でないのか?
正しくはきっと、「ベンチ」ではないのかもしれない。その業界では「もたれ棒」というものかもしれない。でもこの際どっちでもいい。こういうあいまいなものがホームにたたずんでいる、その事実を共有したい。
中津駅・座りにくさ評価(★で5段階+イメージ) | |
見た目の、椅子と思えなさ | ★★★★★ |
見た目の座りにくさ | ★★★★★ |
でも座ってみると?? | ― ・・・座るというよりは、もたれかかるといった感じ。当然、歩道と車道の間にある柵よりは座りやすい(よしざき氏)。 |
東京にも見つけた。またも都営大江戸線だ。大門駅にてこんな遊具を発見。
ハイブリッドタイプというのか。ベンチたる部分と「もたれ棒」部分の合わさったものだ。
金属部にウレタンが巻いてあって、体のアタリに多少優しい構造になってはいるが、本気で体を預けようとするとそれほどやわらかくないのでなかなか無理がある、気がする。落ち着かない。
この黒い部分、スポーツジムの用具っぽい。
大門駅・座りにくさ評価(★で5段階+イメージ) | |
見た目の、椅子と思えなさ | ★★★★ |
見た目の座りにくさ | ★★★★ |
でも座ってみると?? | ★★★★★(もたれ部) ・・・これを利用して腹筋などするためのものだといい。 |
今回、これはと思いついた物件を回ってみたが、「椅子(ベンチ)」における形状の可能性は無限大だ。
こと交通機関のベンチにいたっては、その存在理由からくる奇妙な形状が、興味深い様相を呈しているのだ。
と、またもっともらしいことを並べようと思ったけど、要は「イスは見た目じゃないっす」ってことっす。
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