はげまされて和歌山へ
なにか突出した特産物がある町って、その特産物に特化したなにかをしようとしすぎて、予想外の方向性になってることが多くて面白い。予想以上に、どこもかしこも梅だった。
ところで先月に引き続き、この記事も「デイリーポータルZをはげます会」の皆さまの会費から経費を出してもらったもの(2本目)です。ありがとうございます。次回まで和歌山ネタは続きます。
「和歌山県の梅干し工場の裏手に、梅の種が山のように積まれている風景を30何年か前に目撃した」という情報が届いた。
もし本当なら見てみたいが、「30何年か前」ってことはもう今はないのだろうか。
聞くだけで唾液が溢れてくる「梅干し工場」というワードに惹かれつつ、現地へ探しに行ってみた。ついでに梅干し関連施設もめぐってみた。
自転車を漕ぐ編み物マシーン取材のために和歌山へ行った。他になにか面白いものはないかな~とTwitterで現地に関する情報収集をしていたところ、こんなリプライをもらった。
梅干し工場の裏手に、梅の種が文字通り山のように積まれている風景を30何年か前の南部で目撃した記憶があるんですけど、まあ検索すれどもそんな話が出てこないという。……幻だったのかどうか調べてください
場所は和歌山県の南部。「みなべ」と読むのか。この情報がもし本当なら見てみたいし、そもそも梅好きなので普通に産地に行ってみたい。
そんな訳で梅干しの生産が日本一の「みなべ町」(現在はひらがな表記が正式)に降り立った。
梅工場付近の一帯には梅の実がたくさんなっていて、脳になんらかの良い効果をもたらしそうなほどいい香りだ。歩きながら息をスーハースーハーするだけで癒されてくる。
梅の花の頃だと、もっと町全体が梅の香りに包まれると聞いた。その季節も良いんだろうだなぁ。
ところで、「梅の種が山のように積まれている」らしいのは、「梅干し工場の裏手」だ。
裏手っぽいところに来てみたが、ない。
山積みの種を探して工場の周辺をウロウロしても、どうにも見つからないので、直接聞いてみることにした。
――工場の裏に梅の種が山のように積まれている場所があるって聞いたんですけど、心当たりってありますか?
「近年は種を廃棄するときには、業者が引き取ることになってるんです。昔だとあり得たと思うんですけど、今はもうないですよ。」
――どこの工場で山積みになってたとか、そんな情報もないですかね……?
「この辺りの梅干し工場だけでも200軒以上はあるので、ちょっと分からないですね。」
ということだ。
工場数がめちゃめちゃ多いのと、種が山積みになってる場所はもう絶対にない、というのはよく分かった。
他の人からも「昔テレビで見た、練り梅を再整形して種無し梅を作る工場がまさにその光景だった」という情報も得たので、種の山積みは本当にあったのだろう。
見てみたかったが、ないものは仕方ない。せっかくなので「梅干館」の見学や、町にある施設めぐりをして梅を存分に堪能しよう。
入口の扉を開いた瞬間、唾液がブワァァァッッッと溢れ出た。今までほんのり漂ってた梅の香りが急激に濃厚になったのだ。
工場の様子を見学できるほかには、梅干しの製造過程や歴史の解説パネルがあったり、ものすごく古い梅干しなんかもある。
それ以外には、展示用の台や照明が梅干し型だったりするのを、じっくり眺めたり。
見学後、売店で梅ジュースを買って飲んだら、さらに梅で満たされた。
満足しつつも、みなべ町にある梅に関する資料館はここだけではないらしいので、もう一軒行ってみよう。
ここも同じように、梅干しの製造過程や歴史が盛りだくさんなのだが、展示されている模型類が謎の見ごたえがある。
一軒目でも見たようなものすごく古い梅干しは、ここにもあった。これは「日本最古の薬草漬け梅干」。(詳しくは、みなべ町のこのサイトに載ってる)
これには具体的な年代の表記はなかったが、幕末のものらしい。当時は漢方薬として重宝される貴重品でもあったのだ。
見学を終えて施設内を見ていると、手作りっぽい品も目につく。これらもとにかく梅干しだ。
そしてこんなガチャガチャも見つけた。カプセルに食べ物が入ってること自体にちょっと驚いたが、よく考えたら梅干って保存食だから問題もないのか。
ひとつ買って開けてみると、当たり前だが本当に梅干しが出てきた。分かっていても、やっぱり「ガチャガチャから食べ物が!」という新鮮味がある。
梅干しをかなり堪能したのでそろそろ帰るかなーというところでふと脇のほうを見てみると……
こ、これは……!?
というか、これはある意味「山積みの種」と言ってもいいんじゃないか!?
当初思ってたのとは違う形ではあったが、まさか最後の最後で「山積みの種」に観音様の形で出会えるだなんて。
有難いような気がしたので、拝んでおいた。
何の情報もなく種に辿り着けたことになんだか達成感を感じつつ、梅の里めぐりは幕を閉じた。
なにか突出した特産物がある町って、その特産物に特化したなにかをしようとしすぎて、予想外の方向性になってることが多くて面白い。予想以上に、どこもかしこも梅だった。
ところで先月に引き続き、この記事も「デイリーポータルZをはげます会」の皆さまの会費から経費を出してもらったもの(2本目)です。ありがとうございます。次回まで和歌山ネタは続きます。
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