指圧師さんがうどんを打つ
指圧師さんは、入ってくるとまず「今日はどの辺りが辛いですか?」と聞いてきた。いつもなら、首から肩にかけてと腰を、とお願いするところだが、今日は違う。テーブルの上に置いた団子状のうどん粉を指差して、
「僕の代わりにこのうどんを指圧してもらえますか?」
とお願いした。
キョトン。
そんな擬音がピッタリはまる表情で、じっとうどん粉を見つめている。
「あ、指圧師さんならきっとおいしいうどんを作ってくれると思いまして」
何の説明にもなっていない補足を加え、なんとか交渉が成立した。こういう時は詳しく説明しない方がいい。デイリーポータルで培ったノウハウである。
指圧師の大里さんは、東京治療院という病院から派遣されてこのホテルにやって来た。うどんを打つのは初めてです、と戸惑いながらうどん粉の指圧を始めてくれた。
さすがプロの指圧師である。指先の力強さが違う。うどん粉がグイグイ押されているのが分かる。
大里さんの仕事ぶりに満足しながら、チラッと手順書に目を通した。次の手順を確認しようと思ったのだ。
「ビニール袋に生地を入れて足で均一によく踏む」
ん? 均一に?
親指で押しているので均一じゃないのだ。
一旦、大里さんの手を止めてもらった。
「均一に押す事って出来ます?」
「だったら、掌圧でいきましょう」
親指で圧を加えるのではなく、手の平全体で押していく技らしい。それならば、足で踏むのと同じように、均一な圧を期待出来る。
ここに来て、大里さんも僕の計画に完全に乗ってくれたようだ。おいしいうどんを目指して、2人の間にグルーヴが生まれた。
それぞれの思いを胸に
一通り掌圧が加わったら、うどん粉を僕が引き取る。ビニール袋から取り出して団子状にするのだ。団子状にしたら再びビニール袋の中に入れ、大里さんにバトンタッチ。掌圧を加えてもらう。
これを3回繰り返す事で、シコシコとしたうどんに仕上がる訳だ。
今、原稿を書きながら上の写真を確認した。大里さんが全然乗ってない。戸惑いを隠しきれない、そんな表情を浮かべている。
グルーヴを感じていたのは、僕1人だったようだ。
とはいえ、大里さんもプロである。うどん粉を患者に見立て、全力で掌圧を加えていく。
本来、「足ふみ」する事でグルテンの密度が高まり麺にコシが出る。その「足ふみ」を手でやらなくてはいけないのだ。相当な圧力が必要である。がんばれ大里さん。がんばれグルテン。
大里さんと僕のやり取りが3回を数えた。これで大里さんの作業は終了だ。
うどん粉もいい感じに伸びている。
大里さんが来てからここまで30分かかった。しかし、マッサージの時間は40分ある。残り時間を利用して、僕をマッサージしてくれた。
大里さんの指圧はとても気持ちよかった。この腕ならきっとうどんもうまくなる。マッサージを受けながらそう確信した。

