トリュフオイル仕立 海苔佃煮の少女マンガ性
取材時現在、紀ノ国屋のおにぎりには、ことばで訴求こそされないものの2つのラインがある。
一般的な具が並ぶ、パッケージに銀色を使ったラインと、より高級感の高いおにぎりをアグレッシブに追及する金色のパッケージのラインだ。
「トリュフオイル仕立 海苔佃煮」のおにぎりは、金のラインの一品である。
海苔佃煮といえば、おにぎり界では不動の人気を誇る具ではあるものの、派手なほうではない。
2個買うとして、まずは鮭やいくら、明太子、シーチキンマヨネーズといった、動物性のものをアッパー系として携えてたあとで、抑えとして買うダウナー系のおにぎりのうちの一種と(異論は認めますが)言っていいと思う。
そこを、そこをだよ。トリュフオイルで仕立てることにより強引に格上げしてきたわけだ。
つまり「地味でさえない私がなんでこんなことに???」なんである。
完全に少女マンガ展開だ。
トリュフオイルの勢いをもってすれば海苔佃煮も、鮭やいくらを押しのけて御曹司との結婚レース、あんがいいいところまでいけるんじゃないか。
がぜん応援したくなるおにぎりなのだ。
「奥出雲産仁多米」にも触れたい
トリュフの前に、米の話をしておこう。
おにぎりのパッケージを見て「良さそうなのはわかるけども、なんだろうな」と思わせるのが、使用されているお米だ。
「奥出雲産仁多米こしひかり」とある。
ゆっくりおちついて読めば、「奥出雲産」の「仁多米」だとわかるのだけど、「奥出雲産仁多米」と塊になったときの文字の圧がなかなかすごい。
仁多米は島根県仁多郡奥出雲町で栽培されるブランド米だそう。
取り扱うお米屋さんのページには「日本穀物検定協会の米食味ランキングで、西日本で唯一『特A』を獲得しています」という文言もあり力強い。
そんなこしひかりにつつまれる、トリュフオイル仕立 海苔佃煮。
雑に食べずに立ち止まってパッケージを読むだけでもう体験としてのありがたみがはじまっている。
いつもの海苔の佃煮に「トリュフの風味を探す時間」が加わる
で、食べた。
口に含んだ瞬間から、脳のテーマは「トリュフはどこだ」だ。
海苔の佃煮の味はよくわかっている。ではトリュフはどうトリュフなのか。
自信のなかにうっすらとある、昨今のトリュフブームでぎりぎり食べたことのあるトリュフ風味のポテトチップスやトリュフ塩のあのおもかげを探す。
いる!
思った以上にくっきりと、私でもわかるトリュフ味を味蕾につかまえることができた。
おおお。結構堂々としてこれはトリュフだ。
いっぽう、佃煮の存在感もきりっとしたもので、なるほど、こうしてうまいものというのは作るのだなという、足し算料理の見本をみせてもらったかのようだ。
このおにぎり、私が買ったときは税込291円であった。一般的なコンビニのおにぎりも昨今はずいぶん値上がり指定はいるが、それに比べてもそれなりに高級な値段だと思う。
いつもの海苔の佃煮に「トリュフの風味を探す時間」が加わる。なるほどこういう種類の豊かさか。
せっかくなので金シリーズをもうあと2種食べておきました
ここからは完全にただ美味しい物を食べるだけの時間だ。
紀ノ国屋のおにぎりの金のシリーズで「国産黒毛和牛のしぐれ煮」(税込324円)と「国産深蒸し穴子の蒲焼き」(税込302円)も買っておいたのだ。
「買っておいたのだ!」って、ふつうにちょっと良いおにぎりを買って食べただけである。
最初に書いてしまうとどちらもとてもおいしかったです。
正解に最短距離で到達する味
しぐれ煮は、うまいものの好きな人が喜んで買うのだろうなという、ちゃんとぜいたくをまっとうするおにぎりだった。
食べるなりすぐに迷うことなくおいしさが口にひろがる。
おいしさの正解に最短距離で到達してくるようなわかりやすい味で、頭を使う必要がないのが助かる。
とはいえちゃんと真面目にコクや奥行きが味にあるから、ばかの食べ物とも思わせない。
穴子のやわらかさをおにぎり全体で表現
こちらはかなりゆるめにふんわり握られており、江戸前寿司のあなごのにぎりの、あのお布団みたいなやわらかさをおにぎり全体で表現したかのようだ。
魚介のたんぱくを甘い味で食べるよろこびが口内にふわふわのままひろがって、ありがとうございますとただ御礼の気持ちであった。
金のラインの3つのおにぎりは、いつもよりちょっといい物を食べたときの、「ふふん」という感じ(伝わるだろうか、ちょっと気位が高くなるような)がある。
3個食べて中年の胃をいっぱいにさせながら、最終的にただいい気になってた。