特集 2020年2月6日

ウィーンから片道1万円で極夜の北極圏に行く

冬の北極圏では、太陽が一日ずっと沈んだままの「極夜」の現象が起こる。

昨年末にノルウェーのトロムソを訪れた。目的はオーロラを見ること。でも結果的には、この極夜が心に刻まれた。

「地球上にこんな場所があるなんて…」と、青臭いことを思ったりもした。

※ 当初のタイトル「片道1万円で極夜の北極圏に行く」が日本発だと誤解を招く書きぶりだったので、「ウィーンから」と冒頭に追記いたしました。すみませんでした…!(Satoru)

1982年生まれ。ウィーンに住んでいるのに、わざわざパレスチナやらトルクメニスタンやらに出かけます。
岡田悠さんと「旅のラジオ」更新中。

前の記事:どの国からも承認されていない国家「アジャリア」に行く

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文字どおりの北極圏

ウィーンに暮らす友人たちは、「オーロラを見るならトロムソ」と、申し合わせたように語る。

トロムソ…?

当時の私には、その地名すら初耳だった。

北欧のノルウェーの、さらに北限に近い場所。文字どおりの北極圏だ。

オーロラ予報アプリ(そういうものがあるのです)では、「最高の観測スポット」と評価されていた。

これはもう、行ってみるしかないだろう。

 

 

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トロムソの中心にあるトロムソイヤ島に泊まった

 

 

アイスランドでの失敗

私は一度、オーロラ観測に失敗している。

1年前に家族でアイスランドに出かけたが、運悪く、オーロラを見ることはできなかった。

それどころか、雪道ですべってレンタカーを大破させた。保険でもカバーしきれない損害で、約15万円を追加で支払うはめになった。

オーロラは、私にとって鬼門なのであった。

 

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アイスランド警察のお世話になった

 

物価の高さをどう乗り越えるか

そういうわけで、今回の旅では、

(1)車の運転はしない

(2)なるべく安く行く

の2つの原則を守ることにした。

とくに後者については、「北欧の物価の高さをどう乗り越えるか」を考える必要があった。

 

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なにしろ、HARIBO(グミ)が1袋800円もする国である。

ノルウェーの首都オスロからトロムソまで、国内線が2万円もする。4人家族なら8万円。さらにウィーンからオスロへは…?

私の財布から、きゅっと小さく、絞るような悲鳴が聞こえてきた。

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鉄道とLCCのミックスが最安だった

食糧については「乾麺戦略」を採用した。これは、パスタの乾麺をたくさん持参するという戦略だ。

そして移動手段は、ヨーロッパの網の目のような交通機関をくまなく調査して、鉄道LCC(格安航空会社)のミックスが最安と結論づけた。

具体的には、

【ウィーン ⇒ ワルシャワ】
・オーストリア鉄道。
・寝台車で11時間。 3,000円
(未就学児は無料)

【ワルシャワ ⇒ グダニスク】
・ポーランド鉄道。
・指定席で3時間。 2,800円
(未就学児は無料)

【グダニスク ⇒ トロムソ】
・格安航空会社 Wizz Air。
・ランダム席で3時間。 2,500円

この乗り継ぎなら、1人あたり片道1万円未満でトロムソまで行けることをつきとめた。

Google MapやSkyscanner(フライト検索アプリ)では容易に出てこないルートの開拓。これが私の最近の趣味である。

 

※ ここまでお読みになって、「なんだ、【片道1万円で北極圏】ってウィーン発かよ。てっきり日本発かと思ったよ。タイトルに偽りありだ」と憤られた向きもあるかもしれない。その人に、私から一言申し上げたいことがある。「すみません」ということだ。

※※ 他方で、日本にお住まいの方であっても、「ワルシャワ等の主要都市へは有名な航空会社を使いつつ、そこから先のルートはローカルな鉄道・バス・LCCなどを自力で発掘する」といった旅のスタイルが、もっと親しまれても良いとも思う。本記事がそのヒントとなれば幸いです。

 

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物価の安いグダニスクで3泊した

 

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DPZの記事で紹介されていた「つぼみちゃん」も食べた。おいしかった

 

 

われらの救世主、その名はWizz Air

先ほど登場したWizz Airという格安航空会社。

ご存じない方も多いと思うが(ほぼ全路線がヨーロッパ域内だから)、私の周りにはWizz Airの愛好者ばかりが集まっている。局所的な人気を得ているのだ。

Wizz Airの最大の特徴は、「料金がやたらに安い」ことだろう。

 

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たとえば、ハンガリーからコソボへのフライト。

9.99ユーロ(1,200円)と、「値段表記を誤ったんじゃないか」と疑わせるような安さのチケットが並んでいる。

また、ウィーンからローマ行きを調べてみても、

 

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9.99ユーロの連続である。9.99ユーロの隊列が肩を組んで、我々を誘惑しているような画面である。

Wizz Airを知らない人に(とくに日本人に)こうした話をすると、ある定型的な反応がみられる。

「フライトがすぐにキャンセルしたり、サービスが最悪だったりするんじゃないの?」

「コスト削減で、エンジンがひとつしか無いんじゃないの?」

「わけのわからない追加料金をどんどん取られて、結局は高くつくんじゃないの?」

答えはすべて、「ノー」である。

フライトのキャンセル率は0.2%だ。サービスだって悪くない(こちらの期待値をゼロにすればよい)。

エンジンもちゃんと2つある(当たり前だ)。予約時に「わけのわからない追加料金」を徴収されそうになるのは……まあ事実だが、問題はない。それらの罠を回避する抜け道はちゃんとある。

これから私は、そのことを大いに力説したい。

北極圏に到着するのは、もう少しお待ち願いたい。

 

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座席もそれほど狭くない(体格の大きいヨーロッパのお客さん向けだからか)

 

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空港ターミナルから飛行機へのバスは無いことが多い(たぶんコスト削減のため)。滑走路を歩かされることになるが、それもWizz Airの魅力ではある

 

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Wizz Airを愛するあまり、機内販売で模型を買ってしまった(10ユーロ)

 

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Wizz Airを愛する3歳の息子は、Wizz Airと同じ色の帽子・マフラーしか着用しなくなった

 

Wizz Airは航空業界のデイリーポータルZである

Wizz Airは、ユニークな立ち位置にあるLCCだ。

ヨーロッパのLCCといえば、ライアン・エアーイージージェットが有名だ。これらのLCCは、パリマドリードなどの人気観光地を旗に掲げ、そこへ安値で行けることを惹句にしてきた。

これに対して、ハンガリーに本社を置くWizz Airは中東欧エリアに強みがある。クルジュ=ナポカとか、ザポリージャとか、「どこだっけ、それ?」と聞き返したくなるような行き先が多い。Wizz Airしか就航していない空港もあるほどだ。

 

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そんな路線ばかりで大丈夫なのか?

これが、大丈夫なのだ。私はWizz Airに30回ほど搭乗したが、いつもほとんど満席だった。

ニッチな路線は、ニッチな顧客に支えられているので、かえって他律的要因(不況など)に強いのだ。

競合他社の少ないオルタナティブなスポットに狙いをつけて、一部のファン層から支持を得る。

Wizz Airは、航空業界のデイリーポータルZなのである。

 

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最近は北アフリカやコーカサスにも路線を拡大している

 

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予約サイトは27言語に対応している(日本語は無い)

 

Wizz Airは航空業界のサイゼリヤである

Wizz Airは、驚くほど経営状態のよい会社である。

こんなに安い料金で、どうやって利益をあげているのか。

私が注目したのは、100機を超える所有機のすべてがエアバス社の小型機A320シリーズで統一されて、しかもその9割弱が旧世代の(=約30年前に発売された)機体ということだ。

「すべての卵を同じカゴに入れるのは危険ではないか」と思われる向きもあるだろう。しかし、ひとつの機種に絞ることで、パイロットの育成費や機材の整備費が節約できる面はたしかにある。

さらに、旧型のベストセラー機というのは、それだけ実地で使い込まれてきたわけだから、設計不良によるリスクは(新型機に比べて)むしろ少ないという見方もある。

巧みなロジスティクスで料金を下げる。過酷な労働条件を課すあまりに反発が起き、かえって経営状態にタワミをもたらした競合他社とは対照的だ。

Wizz Airは、航空業界のサイゼリヤなのである。

 

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いつのまにかクリックしてしまう

予約画面のわかりやすさも抜群だ。

ユーザーの現在地情報を読み取って、最寄りの空港からの行き先を初手から提示してくれる。

導かれるままにクリックすると、どの日程が安いとか、追加の荷物にいくらかかるとか、わかりやすく並んだオプションをするすると選んで、気がつくと決済画面に至っている。気がつくと電子チケットが送られてくるのだ。

Wizz Airは、予約画面のわかりやすさが収益増につながることを知っている。「価格比較サイトよりも公式サイトから予約した方が常に安い」のも、そうした戦略の一環だろう。

 

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のどごしもなめらかに、あなたは決済画面に導かれてゆく

 

このように私を惹きつけるWizz Airのサイトだが、「本業の人の審美眼にも耐えられるのだろうか?」との疑問も胸中に浮かぶ。

こういうときは、航空業界に詳しい知人に訊くのがいちばんだ。

そこで私は、日本の大手航空会社の高松支社長であられる小田和彦さんにサイトを見てもらって、率直な感想を問うてみた。

小田さんのコメント

皮肉な話ですが、私たち(所謂)レガシーキャリアの人間は経験が邪魔をして、なかなかWizz Airのような発想にはなりません。

同社が提供する優れたUI(ユーザーインターフェース)は、「空輸業」という航空会社の本分への回帰がもたらした成果ではないでしょうか。

やるべきことが明確になれば、やらなくてよいことも明確になります。私たちレガシーキャリアは、あまりにも多くのことをやろうとし過ぎているのかもしれません。

思いがけず反省の弁まで引き出してしまったが、Wizz Airのサイトには、やはり卓越したものがあるようだ。

 

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Wizz Airマスターになるための3つのコツ

Wizz Airについて語るときに私の語ることは、どこまでも無辺際で果てしがない。しかしこのままでは北極圏にたどり着くことが叶わない。

そこで、この脱線話の締めくくりに、あなたがWizz Airに乗るときに留意すべき(かもしれない)3つのアドバイスを短く添えることとしたい。

 

(1)携行荷物をできるだけ減らす

無料持ち込みの許される手荷物は、1人あたり1個。それも【40cm × 30cm × 20cm】以内に限られる。

大きなスーツケースを携えようものなら、たちまち数千円を取られてしまう。そこには情状酌量の余地はない。

制約のなかで、私は【40cm × 30cm × 20cm】のビジネスリュックを購入した。家族用にはヨーロッパのAmazonで「LCC専用バッグ」を買った。

こうして私の思考体系は、Wizz Air仕様にリビルド(再構築)されたのである。

 

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Wizz Airに最適なビジネスリュック

 

(2)陸路との組み合わせを考える

インターネットの「フライト検索」は、その名のとおり、空路だけが対象である。

だが、ヨーロッパとは、鉄道やバスの成熟した地域でもある。これを活かさない手はないだろう。

たとえば、私がコソボを訪れたとき、ウィーンからブダペストまでオーストリア鉄道に揺られて、そこからWizz Airでコソボの首都プリシュティナに入った。これで片道5千円。(参考:オーストリア航空の直行便で行くと約2万円)

ロンドンへ出かけた際にも、ウィーンから直行便があるのに、あえてスロバキアの首都ブラチスラバにFlixBus(格安長距離バス)で行き、そこからWizz Airでロンドンに入った。片道3千円の旅である。(参考:ブリティッシュ・エアウェイズの直行便で行くと約8千円)

この豊穣なる格安移動の世界では、空路の乗り継ぎだけを眺めていては可視化されない部分があるのだ。

 

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ロンドンでは、大英博物館で「マンガ展」を観た

 

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つげ義春「ねじ式」の原画に対面した

 

(3)追加料金の発生から逃げ回る

Wizz Airで航空券を予約すること。それは、次々に提示される追加オプションについて、必要性の有無をジャッジしてゆくプロセスにほかならない。

座席を自分で選びたいのなら、+2,000円

あとでフライト変更をしたいなら、+2,400円

空港の窓口でチェックインするなら、+3,600円

予約を取り消したいのなら、+7,200円

運航情報をスマホで受信するなら、+120円

ちょっとした気のゆるみが、あなたの財布をどんどん軽くする。すばらしきはWizz Airのシステムだ。

こうした状況にあって、私の基本的なスタンスは「すべて謹んでお断りする」というものだ。

座席は、選ばない。(幼児と保護者のペアは、ランダム席でも必ず隣席になることを私は知っている)

チェックインは、オンラインで自ら手続きする。

航空券は、iPadに画像を保存する。

空港の窓口には、そもそも行かない。

なにも保証せず、なにも変更せず、なにも印刷しない。

裸一貫の人生。

大切なことは、すべてWizz Airで学んだ。

 

Wizz Airへの取材に失敗した

Wizz Airのことを、もっと知りたい。

昨年末に、Wizz Airへの取材を申し入れた。編集部にお願いして、英語の名刺をつくってもらった。

けれども返答はなかった。異なる部署に3回ほど申し込んだが、私の受信ボックスは沈黙を保った。

「貴社の航空券の料金は、残席数などを入力値とするプログラムが自動算出しているように思われる。その真偽をご教示ありたい」といった質問状を事前に送ったが、それでかえって警戒されてしまったようだ。

かくなるうえは、電話取材しかない。ウェブサイトで窓口を探す私の目に、とある記述が飛び込んできた。

電話でのお問い合わせは、+1,800円

「Wizz Airは最高だ」と、私は思った。

 

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極夜の北極圏にたどり着く

Wizz Airの飛行機が、トロムソに着陸した。

「ここは、ずうっと夜なの?」と、6歳の息子が言った。

「そうだよ。というか、昼でもお日さまが昇らないんだ」

出発前に極夜のしくみを説明してから、子どもたちは興奮しっぱなしであった。

 

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三角コーンと一緒に記念写真を撮った

 

市街地から離れた湖のほとりに、木組みの家が静かにたたずむ。この一室を借りて、5つの夜を数えた。家主のご婦人は、刑務所で看護師をされている方だった。

玄関をあけて、未踏の雪道を歩いてみる。

湖面は暗く凍結して、私が跳ねてもびくともしない。湖の上に立つと、ここには街の灯が及ばない。「オーロラを見るには最高のスポットよ」と、ご婦人が笑顔で説明した。

「オーロラ」と、3歳の息子が言った。

 

 

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湖畔の側道に2本の細い溝。何のためかと不思議がっていると…

 

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地元民がスキーで移動するためのインフラだった

 

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ベビーカーも雪道に特化していた

 

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バスの乗車券をアプリで購入したとたん、使用期限のカウントダウン(1時間30分)がはじまった

 

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ゴシップ紙の見た目がドイツ語圏と似ていて、ゲルマン民族の文化を感じた

 

オーロラの旅

オーロラを見るには、「待つ」ことが肝要となる。

湖の上で、寒空を眺める。なにも見えぬまま、子どもの顔が凍ってくる(だいたい10分くらいでそうなる)。そうしたら家に戻って温まる。しばらくして、頃合いがよくなったら、また外に出る。

そのシンプルな繰り返し。

試行回数を増やせばチャンスは増える。でも基本的には運の良し悪しで決まるゲームだ。商店街の福引をガラガラまわして、黄金の玉が出るか出ないか。それとほぼ同じである。

 

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オーロラの旅の特殊性は、大部分が「予見可能性の低さ」に依っている、というのが私の意見だ。

我々が遠出をするとき、目的地は事前にわかっている(=予見できる)ことがほとんどだ。

つまり、お祭りでも、演奏会でも、魚市場でも、どこに行くべきかは調べればわかる。あてもなくぶらぶらする旅だとしても、「ぶらぶらする範囲」の目安くらいはついている。それが旅行の通常だ。

 

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でもオーロラは、「いつ」「どこで」見られるか、そこがいまいち判然としない。だから旅程も組みにくい。「今日は教会、明日は洞窟」とはいかない。「今日も明日もオーロラ待ち」となる。

3日間でよいのか、7日間にすべきなのか、滞在日数にすら確証が持てない。

 

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不安と期待の混ざった、でも行為としては「待つ」だけの時間が流れていく。

こんな性質のアクティビティは、人生を通してもなかなかないだろう。

 

※ 読者諸賢へのアドバイス。オーロラを見るための最善のオプションは、地元の観測ツアーへの参加である。でも私は「家族4名で6万円」の料金設定にひるんでしまった。「Wizz Airなら30回ローマに行ける」と、せこい計算をしてしまったのだ。

 

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「世界最北の水族館」にも行った

 

ダーク・ブルーの空の下で

夜が明けても太陽は昇らない。

山の端に色づいた残光が、かろうじてその存在を感じさせるだけだ。雲量が多ければ、昼と夜の境目はいよいよ消失する。

そんな極夜の環境に、我々は意外にもすぐ慣れた。憂うつな気分に圧されはしなかったが(あと1ヶ月も居たらどうなるかわからないが)、ふとした心の動きは内省に向かった。

ダーク・ブルーの空の下では、目に映るものすべてが思慮深く見えるのだ。

 

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ガソリンスタンドにすら思慮深さがあった

 

ノルウェーに住む知り合いは、「規則正しい生活がとにかく大切なんだ」と言う。「僕はモラルの話をしているんじゃない。生きのびるための話をしているんだ

トロムソに来て、私はその意味を理解した。レストランでビールが1,000円するのも、この地では合理的なのかもしれなかった。

 

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たまたま入店したハンバーガー屋で、日本のオールド・ゲームがフューチャーされていた

 

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そういえば北欧出身の知人には任天堂ファンが多い。極夜とテレビゲームは相性が良いのか

 

そして私は、極夜の「効用」にも思いを馳せた。

たとえば、家具や建築にみられる北欧デザインの洗練。あれはつまり、厳しい外気から隔たろうとした人々が、凝るべき対象を身のまわりに求めた結果ではないか。

「世界の読解力ランキング」で北欧諸国が上位にいるのも、じつはそれと似たような理由かもしれない。日光の乏しい世界にあって、書物の摂取は生きしのぐための手段なのだ。

極夜の北極圏では、なにしろ時間がたっぷりある。あてもないことをつらつらと考え、私は眠りにつくのであった。

 

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ロープウェイでストールシュタイネン山に登った。搭乗時間はわずか3分12秒(計った)なのに、グダニスク~トロムソのWizz Airとほぼ同料金だった

 

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命がけで自撮りをしている中国人がいた

 

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寒さで顔がこわばった

 


旅の目的を達成した

凍結した湖の上で、その晩も私はオーロラを待った。

そもそもオーロラとはどのように出現するものなのか。

映画の予告篇のタイトルみたいに、いきなりバーンと出てくるのか。それとも前触れみたいなのがあって、少しずつ立ち現れていくものなのか。

私にはよくわからなかった。なぜなら実際に見たことがないからだ。

突然、遠くから若者の歓声が聞こえてきた。

反射的に空を見上げると、

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淡い緑色の光が、すうっと帯をほどくように伸びていく。

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光の筋は、もううまく思い出せなくなった遠い記憶のように、よるべなく揺らいで、そうして音もなく消え入った。

「オーロラ」と、3歳の息子が言った。

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