自分を厳しい環境に追い込んでこそ
合宿だ。いつもと違う環境に自らの身を置いて、より強い自分に出会うことである。やっぱり山だろうか。断食道場や禁煙合宿も遠くでやるらしい。忍者も山ごもりで必殺技を身につけたりするではないか。かっこいい。
それぐらいの検討(10秒ぐらい)のうえ山ごもりに決定。年も押し迫った12月27日、東京駅集合である。
順序が逆になったが、今回の参加者のプロフィールである。男3人、ウキウキする要素ゼロでむしろウキウキする。
土曜日担当ライター。株式会社デジタルビイム社長。朝おきたらテレビはつけるが見ずにネットでメールをチェックする。移動中でも携帯で10分おきにメールをチェック。
日曜日担当ライター。イラストレーター兼会社員。朝おきたらネットが先。1日じゅうYahoo!ニュースを見ている。更新ボタンを押してまで見る。でもテレビのニュースは見ない。
ウェブマスター。金曜日に記事も担当。朝おきたらまずパソコンを立ち上げる。メールとよく見るサイトが更新されていないかをチェック。
目的地は長野のとある高原
山ごもりの目的地は長野。長野までは新幹線で1時間45分。長野駅からは車で40分ほどにある高原である。
携帯ばかり見ているが、実際ほぼこんな感じである。このあとネットが遮断されるとはいえ、わかりやすい未練である。
しかもこのまえ、ヨシダさんはmixiで「私のミクシィ人生もついに終わりの時がきてしまったのかもしれません」という日記まで残している。辞世の句みたいなことになっている。
かくいう僕もデイリーの編集部あてに「27日15時から24時間、ネットがつながらないので僕には連絡が取れないものと思ってください」と覚悟をきめたようなメールを送っていた。電話すればいいのにねえ。
山荘の前で携帯をひらくとアンテナ3本立っていた。あ、予想外。携帯の電波も届かないような山を予想していたが、これなら遭難しても安心ですね。
しかし我々が欲していたのは遭難ではなくネットとの謝絶である。しかたないので別の方法でネットを断つことにした。ヨシダさんが「ネット断つだけだったらここまで来なくてもよかったのではないか」と正論を言っていたが笑って流した。
2008年12月27日 15:00 ネット断ち開始
さて、いよいよネット断ち開始である。最後のメールチェックを行った。スパムメールしかきてなかったが、これもしばらく見られないと思うと愛おしい。バイアグラ格安よ。
携帯を回収して木にぶら下げた。もうどんなメールが来ても見ることができない。「あなたに100万円あたりました。今日中に連絡くれないと無効です」というメールが来ていてもだ。
このときは真剣にそんなことを考えていたが、いま思えばそれはスパムだ。
2008年12月27日 15:10 ブログをはじめる
合宿のベースキャンプとなる大部屋に入る。後ろに立派な掛け軸があるが、きっと「ネットがなくても頑張れ」とかそんなことが書いてあるのだと思う。
ここでネットにつながらないあいだ、退屈しないための過ごし方を考えている。
アトラクションのひとつは、ブログだ。
いきなりネットみたいなことを言いだして驚かれるかもしれない。でもこの24時間で我々が更新するブログはこれである。
ヨシダさんが行きがけに「ネットがないと僕の存在自体がなくなります」と言っていた。
そういえば3人ともネットを使って文章やイラストを発表してきた。ネットがないと情報を得られないだけじゃなくて、伝えることができないのだ。たしかにそれは存在自体がなくなるといっても過言ではない。困る。
だからノートにブログを書くのだ。
いま理屈がやや飛びましたね。
全員、適当な漢字を「ブログ」と読ませている。これは偶然の一致じゃなくて、住さんが「ちょっといい話」と書いて「ちょっといいブログ」と読ませることを思いついて書いたところ、全員真似した結果である。そのあたりのプライドのなさもネット断ちの影響だろうか。
ネットを断ったつもりが、むしろどれだけネットが好きかということを表す結果となっている。槇原敬之さんが歌詞で「もう恋なんてしないなんて言わないよ絶対」と言ったのと同じ現象であろう。
ブログの更新方法
さて、このノートブログの更新方法である。
どこからどう見てもブログである。しかも、これがまた本気で楽しいのだ。自分が書いた文章に対してどんなことが書かれているかどきどきする。
住さんが自分のノートが帰ってくるときに「♪コメントついたかなー」と楽しげに言っていたのが忘れられない。
正直に言ってしまえばこれは交換日記だろう。ものすごく短いスパンの交換日記だ。交換日記なんて思春期のほんの一瞬だけ経験するようなことをブログと称してやっていたのだ。甘酸っぱい。男3人で雪山にこもって交換日記を書いているのもかなり甘酸っぱい。いや、甘くはない。ただ酸っぱい。
第1回エントリー
では3人のエントリーです。
コメント数を書いたり、ふだんは使わない絵文字を多用して、ネットらしさを出そうとしている。住さんはHTMLタグで書き始めていた(そのページはなぜか破棄)。そりゃもう10年以上タグを書いているのだ。
こんな3人をネットから遮断して大丈夫なんだろうか。
2008年12月27日 16:40
ミッション2 モバイルでブログ更新
外に出るとほてった頭が冷えて気持ちいい。思ったよりも寒くなく、雪を踏むのがおもしろい。
と思ったのは最初の5分だけで、あとからどんどん冷えてくる。早くブログのネタを探さないと凍えてしまう。
ネタ、ネタはないか。ネットにこそつながっていないけど、思考回路はいつもと一緒である。
よし、これだ。とソリで遊んだことをブログのネタにする。3人とも一斉に書き始める。書いている途中に住さんが「でもこれ見せる相手がヨシダさんと林さんしかいないんだよな」とつぶやいた。
そのふたりならここにいて、ソリで遊んだことも知っている。このインターネット、意味あるのか。
ブログをかいつまんで言うと、僕がソリがうまかったということが書いてある。
スポーツ関係(乗ってるだけだけど)で誉められるのは嬉しい。主にコメント欄で誉められた。嬉しくてコメント欄で返信している。
自分のブログでもふだんやらないことだが、紙ならばできる。心の時代ですわ。
誘いにも乗らない
再び部屋に戻ろうとしていると、ロビーのパソコンでネットを見ている人がいた。
おお懐かしのインターネット! 3人で「インターネット!」「フラッシュ!」「ホームページ!」「アンド検索!」と後ろでぶつぶつ言っていたらところ
「使いますか?」
と聞かれてしまった。
「いや、おれたちはネットしないから」
と力強く言って帰った。互いの意志の強さを確認した瞬間だった。おれたちはネットがなくてもなんとかなる。
ネットを断って2時間
もうずいぶん経ったと思ったがまだネット断ちから2時間だった。まだ禁断症状は出ていない。
2008年12月27日 21:40(ネット断ち6時間40分経過)
ミッション3 Yahoo!ニュースの見出しを予想する
Yahoo!ニュースが大好きなヨシダさんのために、新聞でニュースを見てそれがYahoo!ニュースでどのような見出し(トピック)になるかを予想するのはどうだろう。
1問目
まずはこのニュース(テレビでたまたま見ただけだけど)。
▼
真央ちゃんすべりっぱなし
浅田真央、くるくる回ってV
浅田真央、魔王になった!舞った
帰ってきてからネットで調べると、このニュースはこう書かれていた。
オーソドックスである。いつもおかしなトピックばかり目につくけど、そういえばほとんどははわかりやすいものだったのだ。
2問目
もうひとつ。このニュースである。
▼
マッキー世界に一つだけの歌詞
槇原の花は世界にひとつだけ
マッキー999に勝った、泣いた
帰ってきてから調べた正解はこれ
そのまんまだ。名誉を傷つけたというだけで歌詞がオリジナルかどうかの判断は裁判所は行わなかったのだ。
ネットがないからあたりかはずれか分からない
この企画は結構おもしろい。これだけで別の企画ができそうである。だが、このときの我々は
「ほぼこれであたりですね」
「簡単すぎてつまんないや」
「おれたち、すごいね」
と、当たってるものだと思ってやめてしまったのだ。ネットがあれば大ハズレであることがわかるのに。昔話ならぜったいにひどい目に会う軽率さである。
それではじめた新たな遊びが
これが見返してみてもあんまりアマゾンには見えないのだ。でもこのときは多いに盛り上がっていた気がする。
思いつく遊びがことごとくネットである。ネットへの思いが溢れすぎている。
2008年12月28日 10:00 (ネット断ち19時間経過)
ミッション4 雪だるまを作る
ネット断ち合宿も一夜明けてミッションが急に林間学校のようになった。
雪だるまを作っていた少年時代はネットなんてなかった、雪だるまを通じてそのころを思い出すのが狙い……というのはいま考えた。
こんな雪だるま(雪棒)だが、写真がないのをいいことに手書きブログでは書きたい放題である。
ところで住さんのイメージは
なぜそこを?と思うところで嘘を描いていた。裸で雪だるまを作る祭は日本中にあるのだろうか。ああネットで調べたい。では雪だるま作ったことについてのブログ全文です。
2008年12月28日 13:30 (ネット断ち22時間30分経過)
ネットを経ってから22時間。あと1時間半で終わりである。15時にここを出て再び長野から新幹線で帰る。ヨシダさんが帰りの新幹線のことを気にしているが、僕はばっちりとってない。
新幹線の切符はいざとなればネットですぐ取れるし……、あ、でもいま無理か。これはちょうどいいかもしれない。最後のミッションにだ。
ミッション7 インターネットを使わないで新幹線の予約をする
いったいなにをどうしたらいいのか分からない。ネットがない時代はどうやって出張していたんだっけ? 協議の結果
1) 104で長野駅の電話番号を聞く
2) 長野駅に電話して頼み込む
という手順になった。
さて、104で教えてもらった長野駅に電話してみると新幹線の切符を買う方法はふたつ、
・直接駅に来る
・インターネット
だそうだ。電話での予約はないのだ。
しかも駅員いわく、今日は長野新幹線のダイヤが乱れていて駅に来てもらって、来た電車に乗ってもらうのがいいと恐縮しながら教えてくれた。
なぜか最初から妙に低姿勢だと思ったらそういう事情があったのだ。長野から新幹線ではなく、在来線で松本に出てそこから新宿行きの特急に乗るのもいいかもしれない。
こういうときインターネットがないということは…
地味だ。あらかじめ時刻をメモしておけば、駅でどちらのルート経由で帰るのが早いかがわかる。乗り換え案内ならば一発だが。
しかし発見があった。時刻表を書き写すのが楽しいのだ。これならネットがなくてもじゅうぶん気を紛らわせることができる。
2008年12月28日(2日目) 14:30
いよいよネット断ち企画も残り30分。最後のブログ更新をして山荘の前でフィナーレ~ネット解禁だ。
住さんだけでなく、ヨシダさんも人物を裸で書き始めた。
ほかにも3人ともぼんやり・ぐったりしている。これはネットというより、特にやることもないまま24時間閉じこめられていたのが原因かもしれない。
2008年12月28日(2日目) 15:00
ついにネット断ち合宿もフィナーレのときを迎えた。山荘の前で記念写真を撮る。
ぜんぜん影響ありませんでした
24時間メールをチェックしないで、ウェブも見なかったが、特に大きな影響はなかった。仕事納めのあとだったというせいもあるが、メールが見られないあいだに仕事関係でのトラブルもなかった。無事に時間は過ぎていた。
1日ぐらいネットがなくても平気である。でもメール見られないでクヨクヨ心配しているなら見たほうがすっきりするかもしれない。
2021年追記
ここで12年の年月が過ぎました。これは2008年末に撮影し、2009年の元旦に公開された記事でした。
スマホの前から僕らはネット中毒だったことを思い出しました。ガラケーでなにを見てたんでしょうか。思い出せません。ZooKeeperかな。
それにしても3人でわざわざ一泊して、1本の記事にかける熱量の高さに驚きます。こういうロードムービーのような記事をまた書きたいですね。同じ3人で。
ちなみにこの飯綱高原の施設は富士通労組の保養所でした。当時、ニフティにいたので富士通の保養所が使えたんですよね。保養所のお土産コーナーに富士通ようかんがあったのを覚えてます。