「これでいい」と「これがいい」のあいだで
二人暮らしをはじめてしばらく経った頃、味噌汁をつくる私の横でパック豆腐の水をいそいそとコップに移して飲む彼を見て「これはえらいひとと付き合ってしまったな」と思った。

もしかすると、人の数だけそういう野良道が、ひっそりと愛される飲み物があるのではないか。
そう思って「自分だけが飲んでいる、ちょっと変わったおいしい飲みもの」をアンケートで募集したところ、たくさんの回答が集まった。

もったいないしめんどうだし「これでいい」というタイプと、自分の理想の味を求める「これがいい」タイプ。そして誰かからもらった飲みものをずっと覚えているタイプ。
読んだだけで味や飲んでいる風景が思い浮かぶものもあれば、まったく知らない世界を覗かせてくれそうなものもある。これは飲んでみなければ。
せっかくお気に入りを教えてもらったのだ、味の良し悪しではなく「こういうときに飲みたい!」というシチュエーションを考えながら飲み比べることにした。どれがどの飲み物のことか、想像しながらご覧ください。


過去にはジュースを水で薄めたものを「貧者のフルーツウォーター」と呼び、飲み物界に激震を起こしたレジェンドだ。

3yk:石川さんは普段白湯のバリエーションとして飲んでいるんですか?
石川:白湯は味がないから飲まないです。味があるのが大事なんです。



ほのかな酸味とカラメル、シナモンみたいな漢方っぽい香り。ただの薄めたコーラと思いきや、意外にも複雑な味だ。
古賀:ばあちゃんちで出てきたら、あーまた変わった飲み物飲んでら、ぐらいで受け止められそう。
ぼんやりした味の靄の向こう側に、「台所で薬代わりのコーラをお湯で薄めるおばあちゃん」という情景がぼやぼやと浮かんでくる。AIに描かせた絵のような曖昧さである。

古賀:これはたしかに冬の在宅勤務にぴったりだ。からだがぽかぽかしてきた気がするね。
3yk:何も考えず飲み続けられますね。
冬の在宅勤務中、無心で飲む
次から、いよいよ投稿でいただいた飲み物を試していこう。
3yk:冬の夜におばあちゃんと一緒につくって飲んでたっていう一文がいいですよね
林:吉本ばななみたいな世界観ですね


林:初詣の神社で並んでいるときに配ってくれたら嬉しいなあ。これで寿命が5年延びるぞって言われたい。
古賀:これは冬の季語になり得ますよ。

3yk:底に溜まってる、砂糖がまぶさった梅干しがまたいいですよ
石川:これは確かに、しょっぱい梅干しが正解ですね。お湯に味が負けていない。
初詣の行列に並び、体が冷えてきた頃に神社の人が配ってくれる
3yk:次は一転して、怠惰な方向からの投稿です。
林:小腹が空いたときにケチャップを舐めるわんぱくっぷり、最高ですね


石川:匂いはトマトじゃなくてケチャップですね。何か色々と足りていない、ギリギリのトマトスープ。

古賀:私は結構好きかもしれないですね。これだけだと足りないけど、この先にピザとかオムライスが来るぞ来るぞっていう、予感、ワクワクがある。
林:オムライス屋の行列に並んでいるときに出されたら、完全に準備万端になるね
3yk:家族で外食行くときに、意見が割れることあるじゃないですか。「俺はオムライスより寿司が食べたい」って。そういうときに飲ませたらいいんじゃないですか。
古賀:「まあまずはこれ飲んでから考えてみてよ」って。
林:これ飲んだあとでも寿司食べたいって思えたら、たいしたもんですよ
家族で外食、「オムライスより寿司がいい」と仲間割れになったとき

小さな好奇心から生まれたお気に入りの飲み物は冷蔵庫の救世主になるだろうか。

古賀:うおっ味が強い!!!今までのなによりも味が濃い!!
紅しょうがは生姜の梅酢漬けだから、味の構成的には梅干しのお湯割りと同じはず。しかし飲んでみると酢、塩っ気のインパクトが強く、ジャンクさに振り切れている。
古賀:薄めて砂糖を足したらコンビニに売ってるねり梅の味だ!
石川:意外とジンジャーエールにはならないんですね

石川:毎朝一杯飲むっていう健康方法がありそうですね
林:紅生姜っていうのが、親戚のおじさんっぽいですね。酒ばっか飲むのやめて、体のことも考えてんのよって。
酒飲みの親戚のおじさんに「毎朝一杯、俺が考案した健康法」とすすめられたとき
林:さすがにシンプルすぎませんか?
古賀:レシピを削いで削いで削いで最後に残ったものが「水と酢」
3yk:意識が高いラーメン屋みたいですね


林:なんかしらの工場見学で飲まされる味ですよ。
子どもたちにぶへーっって言わせて、ここから発酵させて2ヶ月、おいしくたのがこちら!って驚かせる、踏み台の味。
3yk:まだ工程の途中だったんだ!
投稿者さんがたどり着いた原点への回帰を、工程途中のものだなんていう私たち。いったいあと何周人生をまわしたら追いつけるのだろう。
工場見学で味見させてもらった、大事な工程を踏む前のものとして
この記事の公開後物議をかもしたパック豆腐水。
企画に対するコメント数と同じくらい「飲まないでしょ」と言われたがはたして理解は得られるのか…
林:これは……豆腐だね
古賀:めちゃくちゃ体に良いよってデータがあれば…飲むかな……
林:湯豆腐の汁って、すぐポン酢汁になっちゃうじゃないですか。そのときに割下として豆腐水が足されたら嬉しいと思う
石川:蕎麦湯的なポジションだ
湯豆腐の汁がポン酢汁になっちゃったときの割下として

古賀:さんま食べたあとの皿にこの汁があるよね!!!
林:居酒屋の取り分け用の小皿でさ、焼き魚とか厚焼き玉子と、大根おろしとって食べて、これで次にサイコロステーキ載せたらうまい!っていうときの汁ですよ。「あ、皿変えなくていいです」って言うやつ。
飲み物としては……大根汁とビールのちゃんぽんで飲み会になり得るか?と一瞬希望が見えるも、どうも遠くの方に食べ物のイメージがちらつく。
そのあと我慢できずに食べた、大根おろしの本体側のなんとおいしいこと!シャリシャリとした舌触りと清涼感がいつも以上に嬉しくて、大根汁にはブースト的役割があるようだ。
本体を食べる前の、助走として