色々なとん蝶を食べてみよう
――この、大阪高島屋限定の「細切り梅昆布入り」は食べたことありますか?
山琴「ないですね」
――じゃあそれから食べてみましょうか。あれ、包装がちょっと違う。そして、なんか、白い!
山琴「白とん蝶」
――食べてみますね。うーむ、淡い!これぞとん蝶の美味しさという感じですね。
橋尾「味よりもまずは最初に食感が来る感じ。あ、でも後から結構味が来ました」
今野「うんうん。渋い」
――だってさ、これ、高島屋限定のコラボで、それでこの繊細さっていうのがいいじゃないですか。昆布でドーンと主張するとかでもなく、引きの美学というか。
今野「引き算の美味しさなんですよね」
――そうそう!余計なものを足さないで、最低限の要素だけで表現している。こんな人間になりたいです。
橋尾「とん蝶のような人間に?」
山琴「それでいうと、『とうもろこしとん蝶』も阪神百貨店の限定ですよね」
――限定が色々あるのもとん蝶の特徴。あ、じゃあ「ゆかりとん蝶」を食べてみましょうか。私は初めてなんですが、これは主張が強いのかも。うんうん、これは一番個性がある気がします。
山琴「パッケージからして主張がありますもんね。ゆかりがしっかり入ってますし、お酒が進む味だと思います」
橋尾「たしかに他より主張はあるかも。でもやっぱりなんていうか、ゆかりと梅と昆布の味だけで美味しいものにしている感じはあります。余分な要素はないっていうか」
――そうですね。それがとん蝶のよさですよね。「焼肉とん蝶」とかはたぶん絶対に出ないっていう。
山琴「出たら買いますけどね。カレー味とか、ビリヤニとん蝶」
――ははは。出なそう!それにしても、めっちゃお腹いっぱいです。もち米がお腹を圧迫している。今野ぽたさんは、前にとん蝶のお弁当みたいなのも食べてましたよね。
今野「あれも新大阪駅で売ってるんですよ。とん蝶2個分という感じのボリュームで、片方が赤飯になっているやつとか、バリエーションがあるみたいなんですけど」
――2個分だったら結構な食べ応えだと思います。お腹の減り具合の単位にできそうじゃないですか?「とん蝶2個分ぐらい食べれそう」とか。今、私はかなり満腹なんですが、最後に「とうもろこしとん蝶」を。
橋尾「とうもろこしのビジュアルが夏らしくていいですね」
今野「とうもろこしの香りもしっかりありますね」
山琴「でも味わいは淡い感じがしますよ。塩っぽさは強くないです」
――とうもろこしを使ってこんな風に繊細に仕上げるというのがとん蝶らしいです。
橋尾「とん蝶の製造工程の動画を見たんですけど、もち米の段階から具材と一緒に蒸してるんですよね。だから全体の味がよく混ざって、淡い感じになるのかな」
――今検索して動画を見てみると、本当に一つずつ手作りなんですね。パッケージに包むのも人の手でやっているようです。今日、とん蝶を食べてみて、みなさんどうでしたか?
山琴「よく考えたらかなり個性的な食べ物だと思いました。ちょっと懸念があるのは、限定がこれからどんどん出て、どうしても買えへんのとか出てきたら、寂しいなと。とん蝶好きとしては悩ましい」
橋尾「久々に食べたんですけど、東京の人が大阪旅行に来た時とか、食べてみて欲しいです。中身がわからなくて手が出しにくいかもしれないけど、食べたらわかると思う!」
今野「大阪の本当にうまい物ってこういう感じですよね。揚子江ラーメンでもそうですし、たこ焼きでも美味しいところって出汁の味だけで食べさせたりするし」
――たしかになー。
山琴「実は昨日、とん蝶を食べたんですけどね。家でちょっとこんな風に焼いて」
橋尾「美味しそう!」
山琴「この、『焼きとん蝶』、美味しかったです。少し油をひいて、外側をカリッとするぐらいに焼いて」
――これはよさそうだなー!
山琴「それと、一度やってみたかったのが、これです」
――うお!とん蝶茶漬け!?
山琴「そうそう。家にあった玄米茶でやってみたんですけど、それこそ時間がちょっと経ってパサパサになったとん蝶も、こうやって食べたらいいと思うんですよ。ちょっとわさびを乗せたりして」
今野「出汁をかけても美味しいかもしれない」
――これは新しい可能性ですね。色々できそう!
山琴「『焼きとん蝶』と『とん蝶茶漬け』は個人的におすすめです」
――あと、そうだ。このとん蝶巾着には何を入れるといいでしょうね?
橋尾「大事なもの全部入れておくのはどうですか?ICカードも入れて、改札をこれでタッチして」
――ははは。そうしてみようかな。この巾着だけ持って街をぶらり、みたいな。今日はみなさんありがとうございました!
この後、時間いっぱいまでカラオケを歌ったりして過ごした。いい夜だった。
この取材のすぐ後、大阪のことを長年書いてこられ、今は東京に住んでいる文筆家の井上理津子さんとトークイベントでお話しする機会があった。その打ち上げの場で、とん蝶の話になった。井上さんもとん蝶が大好きで、大阪に来るとよく買って帰るという。
井上理津子さんと団田芳子さんとの共著に『関西名物 上方みやげ』という本があり、関西圏の美味しいものがこれでもかと紹介されているのだが、本棚にあったその本を久々に開くと「とん蝶」も紹介されていた。そこに記載された文章を少し引用したい。
“もち米は、佐賀を中心に九州産のヒヨク米を一〇〇%使用。丸一日水に浸けてから、完璧に水切りし、木の蒸籠に入れ、ガスボイラーで約二〇分蒸す。水をかけて、小休止させた後、一気に約一〇分再度蒸し上げる。秋口の新米は水分が多すぎるので、前年の収穫分を半分混ぜ、季節が進むにつれて徐々にその配分を変えていくのだとか。豆は、宮城県のツルノコ大豆。塩昆布は、老舗メーカーに特別注文。小梅は「皮が硬いほうが合う」と甲州産のもの。二等辺三角形の型こそ、機械で押すが、アルミホイル(竹皮風包みの裏側)に包むのは、一つ一つ手作業なのだそう。「蒸籠は菓子用と同じ大きさです。毎朝五時からつくりはじめ、最後にできあがるのが午後三時なので、一日に一〇〇〇個から一三〇〇個が限度。保存料を入れてませんから、府外では売れないのです」”(井上理津子, 団田芳子著「関西名物:上方みやげ」(創元社)2012より引用)
2012年に出版された本なので製法などに変更があるかもしれないが、とん蝶が丁寧に手間をかけて作られているものであることが確かに伝わってくる。
存在してくれていることがありがたい大阪の味。食べたことがない人はぜひ今度味わってみてほしい。


