ただ自分が好きだという理由で突っ走ってしまった感もある今回の記事ですが、すこしでもトキハソースの魅力は伝わりましたでしょうか?
途中、スーパーで気軽に買えないなんて話も出ましたが、オフィシャルサイトにはオンラインショップもありますので、気になった方はぜひお試しあれ!
1年くらい前、街をふらふらと散歩していたところ、最寄駅である板橋、西巣鴨、北池袋からそれぞれ15分くらい歩く、北区の滝野川という場所に、ソースの工場があるのを発見しました。
へーこんなところに、と思って近づいてみると、店頭に珍しく、ソースの自動販売機がある。そのなかの「生ソース 濃厚」というのを何気なく買い、家でメンチカツかなんかにかけて食べてみたところ、衝撃を受けたんですよね。
「こんなにフルーティーで美味しいソース、今まで食べたことない!」
それ以来、大のトキハソース(読みは「ときわそーす」)ファンになってしまった僕なのですが、ついに念願かない、実際に会社にお邪魔して、気になるお話をあれこれ聞かせてもらうことができました。
これまでの歴史から「生ソース」の秘密まで、個人的に終始興奮しっぱなしだったトキハソース物語をどうぞ。
やってきました、ソースの聖地(自分のなかで)トキハソース。
今日はこちらのおふたりがお話を聞かせてくださいます。
パリ:田口さん、安藤さん、今日はよろしくお願いします。まずはトキハソースの歴史について教えていただきたいのですが。
田口伊津子さん(以下田口):創業は大正12年で、もともとはこの場所ではなくて、板橋区にありました。その後、高速道路建設のために立ち退きになりまして、こちらに移ったのが昭和47年。創業者が祖父の小倉榮男。2代目が父の坂田実。私で3代目になります。
田口:祖父はもともとコックだったんですね。弊社が創業した大正12年ごろは、カレー、とんかつ、コロッケが“三大洋食”と呼ばれていました。そこで祖父が「これからはソースの時代がくる!」とひらめいたようですね。当時はちょうど、関東大震災からの復興に向け、みんなががんばっていた時代でもあり、何か「食」にまつわることで人々を元気にしたい、幸せにしたいという想いもあったと聞いています。
パリ:そして東京でもっとも古いソースメーカー「トキハソース」誕生したと。
田口:はい。ただ、当時はもっと古いメーカーさんもあったようです。今東京に残っているソースメーカーが14社あるんですが、その中ではいちばん古いということですね。
パリ:偶然発見したこともあり、ここに来ないと買えない貴重なソースというイメージがあるのですが。
田口:やはり大手さんなんかと比べると、どんなスーパーでも買えるソースというわけではないですね。しかもソースって、少子高齢化の影響もあって、年々消費量が落ちてきているんです。ご高齢になるとどうしても揚げ物を食べる機会が減っていきますよね。家で揚げ物をする家庭も減っている。ご自宅でソースを使う機会自体が減っている時代なんです。
パリ:なるほど。確かに、僕の生まれた昭和の時代と比べて、家庭での揚げ物に対するイメージはだいぶ変わってきている気がしますね。
田口:だから今スーパーに行くと、例え大手さんの製品であっても、ソースってどちらかというと目立たない位置にあると思うんです。醤油などと比べると、種類も圧倒的に少ない。実際にこの一週間をふりかえってみて、ソースを使った料理ってそんなに食べていなかったりしませんか?
パリ:確かに……いや、今日はヨイショしに来たわけではないんですが、僕は本当にトキハソースが好きなので、このソースの味でご飯が食べたいから、揚げ物を買って帰るとかはけっこうありますね。つい最近も(笑)。
田口:そういうヘビーユーザーさんにはとても助けてもらっています(笑)。でもそのお話が表している通り、もはやソースって“嗜好品”なのかもしれませんね。たいていの方は、賞味期限内に使い切れなかったりするそうで、年々容器が小さくなってきているという傾向もあります。そういうこともあって、弊社も少し前に、大幅に商品ラインナップを減らしたんですよ。
パリ:そうなんですか! 確かに、現在のラインナップはかなり厳選された感じがありますが。
田口:ただですね、トキハソースの生産量のうち、流通商品はほんの一部で、約9割は業務用なんです。例えばカップ焼きそばに入っているソースだったり、袋麺のやきそばソースだったり。だから、間接的にはかなり多くの方が、弊社のソースだとは知らずに召し上がられているかもしれません。
以下は、揚げ物の中でもっともプレーンと思われる「イカフライ」にかけて食べ比べてみた僕の個人的感想。
「生ソース 濃厚」 初めて出会って感動した味。口の中が華やぐようなフルーティーさ。ソースの概念がいったん崩壊する。
「生ソース 中濃」 もしも出会いがこちらだったとしても衝撃を受けていたであろうフルーティーさ。それでいてさらりと軽快でもある。
「生ソース ウスター」 甘みが強く、味に深みがある。どこかドレッシングっぽさもあり、生野菜にも合いそう。
「とんかつソース」 ほーこうきたか! とにんまりしてしまう味。生ソースの濃厚よりはおとなしめだけど派手さもあり、バランス良し。
「焼きそば」 すごく親しみのある味でクセがなく、醤油の代わりに使えそうですらある。
「特選」 多層的な旨味が絡み合う深い味わいは、王者の貫禄。ぱぱっと肉を焼いてこれで味つけるだけで、高級料理に早変わり。
パリ:そもそも、創業当初はどのようなソースを目指して製造を開始されたのでしょうか?
田口:当時は砂糖がすごく貴重だったんですね。だから、代わりに現在はあまり使用されていない人工甘味料のサッカリンを使ったソースなんかも世に出回っていたそうなんですが、弊社はきちんと砂糖を使って、主原料の野菜もきちんと生のものを仕入れてということをずっとやってきました。これは、現在まで引き継がれている伝統といえるかもしれません。
パリ:大変立派なことだと思いますが、同時にご苦労も多そうですね。
田口:野菜の収穫量って、その年の天候などの条件による変動が大きいじゃないですか。そういう部分で大変な思いをしたことは、過去に何度もありますね。セロリがどうしても足りなくて、トラックで現地の農家さんのもとまで行ってなんとかわけてもらったりとか。
パリ:そして現在、トキハソースの最大の特徴といえば、僕もその美味しさに衝撃を受けた「生ソース」だと思うのですが、これは具体的にどんなソースなのでしょうか?
田口:一般のソースは、野菜を煮て、そのスープの部分を使うんですね。つまり、いちばん美味しい部分を使って、だしがらとなった野菜は捨ててしまうんです。ただ、業務用として大量のソースを作れば、廃棄もかなりの量になり、非常にもったいないと感じていました。
パリ:そうなんですね。それは確かにもったいない……。
田口:なので、なんとかこの野菜をまるごと使ったソースが作れないかな? というところから生まれたのが、加熱するのではなく、酵素を使って野菜を分解して作る、生ソースだったんです。野菜を酵素分解すると、すべて溶けてしまって、一切廃棄する部分がなくなるんですね。
パリ:へー! すごい! けど作りかたが想像できません。
田口:野菜をみじん切りにするところまでは一般的なソースと同じなんですが、それを煮るのではなく、毎日毎日撹拌しつつ、約2週間かけて酵素分解していきます。最初は粒状だった野菜たちが、徐々にどろどろの液体に変わっていくんです。
パリ:加熱しなくても!?
田口:はい。そもそも使用している酵素が、熱に弱いんです。40度以上になると酵素が死んでしまうので、むしろ熱を加えてしまうと生ソースにはならないんですね。だからこそ、パリッコさんがおっしゃってくださったように、これまでにないほどフレッシュな野菜の味を感じるソースになっているというわけなんです。
田口:生ソースが開発されたのは2代目の時代で、「東京都ソース工業協同組合」と「東京都立食品技術センター」という、ふたつの組織と協力して生み出されました。当時、国が予算を出すので、何かアイデアを出して地場産業を盛り上げようというプロジェクトが立ち上がりまして、2代目がずっと考えていた「野菜を廃棄せずにソースができないか?」という案を、みんなで協力して形にしていった。熱を加えないぶん、衛生面は大丈夫か? 日持ちはどうなのか? といった部分は、技術センターの方にたくさん知恵をお借りしながら。
パリ:ぜひ映画化してほしいお話!
田口:(笑)なので、東京都ソース工業協同組合の組合員であれば、どの会社でもこのレシピをもとに生ソースを作っていいことになってるんです。ただ、なかなか手間がかかるし、材料もすべて生の野菜を使わないといけないので、なかなかハードルが高いようです。うち以外だと、2社ほどのソース会社さんが作られていますね。
パリ:そのお話を聞いて、普通に日持ちもすることがさらにすごいことに思えてきました。
田口:しかも、保存料などは一切使っていないんですよ。研究の末にたどり着いた、ソースに加える塩、砂糖、酢、この三角形のバランスをどうするかをきっちりと守れば大丈夫。なので、昨今の健康志向に応えて「減塩」だとか「糖質を下げる」みたいな商品は、そのバランスが崩れてしまうので作れないんです。
パリ:3種類の生ソース「濃厚」「中濃」「ウスター」の違いについても教えていただけますか?
田口:使用している材料はすべて同じで、配合率が違うだけなんです。一般的なとんかつソースや中濃ソースのとろみって、でんぷんでつけるんですね。でも、生ソースは加熱不可なのでそれができない。純粋に原材料である野菜由来のとろみなんです。その差をつけるために、例えば濃厚ソースならリンゴとトマトをふんだんに使っています。それが反映されて、甘くてフルーティーな味わいになる。
パリ:配合の差で、ウスターのようなさらりとしたソースも作れるんですね。それが味にも反映される。おもしろいなー!
パリ:次に、トキハソースのなかではもっとも高級品である「特選」についても教えてください。
田口:特選は、作りかたにこだわりがあるんです。生ソースを作るとき、タンクの底に、生野菜と香辛料のエキスが濃縮された「オリ」と呼ばれるものが沈殿するんです。オリには旨味成分が凝縮され、美味しいソースを生み出す原石ともいわれていて、弊社のすべての商品に入っています。特選ソースは、この旨味が凝縮した部分をタンクから引っこ抜いたものなんですね。
パリ:引っこ抜く!? これまたまったく工程が想像できません……。
田口:フフフ、そーっと抜き出す方法があるんです。なので、特選ソースだけを作るということはできなくて。
パリ:くぅ~!
田口:ちなみに、どんなソースでもしばらく置いておくと、成分が底のほうに沈殿します。なので注意書きに「よく振ってお使いください」って書いてありますよね。それをしないで使っていると、やっぱりだんだん成分が濃縮されていくんですね。以前お客様に「特選ソースを使っていたら、最初はウスターだったんだけど、だんだんとんかつソースみたいになってきちゃったんだけど」ってお問い合わせをいただいたことがあって、「振らずに使い続けるとそうなってしまうことがあります」と、理由をご説明したんですけど(笑)。
パリ:ん? ということは、そのソースは、旨味の凝縮された特選をさらに凝縮したソースということですよね!? むしろ家で試してみたいんですが!
田口:たぶん、すごく美味しいと思いますよ(笑)。
パリ:トキハソースさんは、ソースの販売以外に、イベントなどの展開にも積極的ですよね。例えば毎週水曜日に(+偶数月の第一日曜日にも)工場の直売所で販売されている「瀧野川やきそば」とか。これはオリジナルの焼きそばソースを使った商品というわけですか?
田口:焼きそばは「焼きそばソース」で、トッピングに使っているキンピラとローストビーフは、「特選」で味つけしています。やはりソースの消費量が減っていることもあって、なんとかして家に眠っているソースを使ってもらえないかなと思ったとき、いちばんオーソドックスなメニューが焼きそばかなと。また、トッピングにキンピラを使用したのは、かつてここ、滝野川という土地は、ゴボウとニンジンの産地として有名だったという経緯もあります。
パリ:そうだったんですね。しかし、ソースで作るキンピラってのも珍しくて。
田口:本当に特選ソースだけしか使わないんですが、これがなかなかいい味になるんですよ。香辛料も10種類以上入っているので、あれこれ揃えなくても味が決まってしまうというのはあるかもしれませんね。カレーライスのちょい足しなんかにもすごく向いてるんですよ。
パリ:しかしローストビーフまで乗って500円ってかなりお手頃。
田口:そこは苦労してますね(笑)。「これ、専用の機械買ったほうが早くないですか?」なんて言いながら、みんなで野菜を刻んで。ちなみにローストビーフはそれまで料理経験のなかった安藤の担当で。
安藤彰斗さん(以下安藤):そうなんです。社長から作りかたを教わって。
パリ:料理経験なしでいきなりローストビーフというのもすごいですね(笑)。
安藤:本当に他には何にも作れないんです。ローストビーフしか。
パリ:わはは。そんな人いないですよ(笑)。
パリ:「ソースマン」というオリジナルキャラクターもいますよね。これまたかなりぶっ飛んでいて。
田口:ソース業界が衰退しないためには、何かしら攻めた行動をしていかないとと。ただ、そういうところにかける予算というのはなかなかないので、社員手作りでやらせてもらってます。ソースマンは普段は志木工場でソースを作っていて(笑)
パリ:ちなみにこのデザインはどなたが?
安藤:現在はプロデューサー業もやられている、元乃木坂46の川後陽菜さんにお願いしました。いきなりご相談のメールをしてみたら、快く受けてくださって。
パリ:意外すぎる豪華な人選!
田口:その前は、ドン・キホーテで買ってきた既製品のパーティーグッズが衣装だったんですよ(笑)。だからかなりのグレードアップで。
パリ:いや~、ネタがつきませんね。
パリ:それからすみません、実はさっきからずっと気になっていたんですが、安藤さんが着ていらっしゃるブルゾン……めちゃくちゃかっこいいですね!
安藤:ありがとうございます(笑)。非売品なんですが、今事務所で働いている社員はみんなこれを着ていて。ちなみに、最初に作ったTシャツは、直売所で商品を買っていただいた方向けのポイントカードがあるんですが、その商品になっています。
パリ:Tシャツほしい~!!! あとで買い物するので、ポイントカードお願いします!
安藤:もちろん。ちなみに雨の日はポイント2倍です。
パリ:雨が降ったらまたきます!
安藤:その他にもグッズ展開はいろいろ考えていて、僕も含めてそういうのが好きな社員が多いというだけなんですが、勝手にパーカー作ったりとか(笑)。
パリ:単純にロゴがかっこいいですもんね。
パリ:あ、それからすごくお聞きしたかったんですが、個人的にもいろいろ試行錯誤しながら楽しんでいるトキハソースですが、オススメのレシピや食べかたなどはありますか?
田口:例えば瀧野川焼きそばに乗せているローストビーフ、ソース味のローストビーフってみなさんあまり召し上がったことはないと思うんですが、お手軽ですごく美味しいです。それでいて、ちょっとお客さんに出しても喜ばれるような。
パリ:作りかたを見ると、ローストビーフ史上1位なんじゃないかってくらい、本当に簡単ですよね。ちなみにこのレシピはどなたが開発されたんですか?
田口:開発なんてそんなたいそうなものではないですが、昔から私の家で作っていたものです。
田口:他にも生ソースの濃厚でいうと、鮭のムニエルとか、もっと簡単なのは、チキンナゲットやフライドポテトにそのままつけるとか。
パリ:ポテトにソースを合わせる発想はなかったですが、確かに合いそう!
田口:ケチャップよりもすこしだけ大人っぽい、甘すぎない味わいで意外に美味しいですよ。
パリ:友達にもトキハソースファンがいて、生のトマトに生ソースの濃厚をかけるのが好きと言ってました。
田口:濃厚には特にトマトがたくさん使われているので、合うと思います! あと、卵料理にもよく合いますよ。シンプルなオムレツに生ソースとか。本当は手の込んだ料理のレシピなんかもあれこれお教えしたいんですけど、そういうのってハードルが高くて長続きしないじゃないですか(笑)。まずは普段から食べているものに、試しにかけてもらえたらと思って。市販の焼きそばなんかも、付属の粉末ソースを半分にして、半分を特選ソースにしてもらったりすると、またいつもと味わいが変わっておもしろいと思います。
田口:あ! それと私、アボカドと生ソースの組み合わせが好きで。
パリ:わ~、そういうの聞きたかった!
田口:半分に割って種をくりぬいた穴に生ソースの濃厚をたらして、スプーンで食べるんです。
パリ:僕、アボカドの穴には30種類以上の食材を詰めたことがあるんですが、こんなところで正解に出会えるとは!(笑)
田口:粉もん文化が定着している関西と比べると、関東のソースの消費量ってかなり少ないんです。しかも、串揚げならウスターだし、お好み焼きならお好みソースというように使い分けるんですが、関東だと中濃ソース1本でなんでも済ませてしまっていたりする。常に、どうしたらもっとソースを使っていただけるのかということは考えていますね。「意外とこんな料理にも合うよ」っていうメニュー提案だったり、キッチンカーを作ったり、ソースマンもそのひとつですし。
パリ:個人的には、未体験の方に一度トキハソースを試食してもらうのがいちばん話が早いと思うんですけどね。「ソースってこんなに美味しかったの!」って。けど、そこに至るまでが大変なんですもんね。
田口:ありがとうございます(笑)。少しでもソースの魅力を知ってもらうため、今後もがんばっていきたいと思います。
パリ:田口さん、安藤さん、貴重なお話をありがとうございました!
トキハソースの工場の一角には、自販機の他に商品の直売窓口もあり、昼間はそこで買い物もできるようになっています。
というわけで、最後はもちろんお土産を買って帰りましょう。
よ~し、これでしばらくはトキハソース生活、安泰だ~。
ただ自分が好きだという理由で突っ走ってしまった感もある今回の記事ですが、すこしでもトキハソースの魅力は伝わりましたでしょうか?
途中、スーパーで気軽に買えないなんて話も出ましたが、オフィシャルサイトにはオンラインショップもありますので、気になった方はぜひお試しあれ!
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