与路島の後に渡った奄美大島では全長1.5m超の丸々太った美ハブに会えた。誰に届くのかよくわからない自慢で奄美旅を締めさせてください。

翌日、前夜のハブ充の余韻を反芻しつつ散策すると、浜沿いを集落の南端まで行ったその先に、山の斜面をつづら折りに登っていく道を見つけた。
請島で3日間歩き続けた疲労を引きずって与路島に来て、よせばいいのに北側の山奥にある戦争遺跡を見に行ったりして体は悲鳴を上げていたが、ここは行っとかないといかんだろうと「まんが日本昔ばなし」に出てくる山のような急斜面を登っていった。
今ではほとんど通る人もいないのだろうか。土砂がかぶさり、道の真ん中にいた大きなリュウキュウイノシシが「え?人来るの?」みたいな感じで薮にかけこんだ。ところどころで沢と交錯し、じめっとした湿気をたたえている。
1時間ほど歩いて緩やかな降りになると、一段と草木が生い茂り不気味さを増してきた。薮でイノシシが威嚇するような鼻息を鳴らし、大量のカラスが一斉に鳴き始める。そのワイルドな喚声にまじってどこからか「ミヤー、ミヤー」という、かぼそい子猫の声が聞こえてきた。その声は最後の力を振り絞るように「ミィヤー!」と強く響くとぷっつりと途絶えた。声のほうに目を凝らしても草木ばかりで何も見えない。
「なんじゃ、今のは......こわっ!こっわ!」
舗装路はそのすぐ先で途切れ、その先は土砂と薮で塞がれており、早足で引き返し山を降りた。
宿に戻り、いい感じの山だったけど行くの大変だし、怖いことがあったし夜行こうかな、やめようかなと、瀬戸内町の図書館で買った「瀬戸内町立図書館・郷土館紀要」に掲載されている論文「与路島ノート」(町 健次郎)を眺めていたら、島の山地名が記されていた。朝に行った山の近くに「テーダヤマ」という名が記載されていた。
「テーダ、テーダ....」
与路島に来てすぐTさんに会った時の会話を思い出した。「ティーダ?のほうへ行くといいよ」、あの「ティーダ」とはここではないだろうか。昨夜一緒にハブ探しをしたのに「ティーダ」のことを聞くのをすっかり忘れていた。ばかだな。
そうとなったら坂がきつかろうが怖かろうが行くしかない。夜にふたたび山道を登った。
わかってはいたが、イノシシが薮の中からシューシューと鼻息で牽制しまくってくる。そのイノシシに全部食われてしまったんじゃないかというくらいトカゲもヘビも出てこない。
うっそうとした山中でこわい思いだけして帰るのだろうか、そしてこういうことは結構あるのだ。
朝と同じく1時間ほど山道を登りきって降りとなり、このまま行くとあの怖いところに着いちゃうなあ、と恐る恐る歩みを進めると、沢ではカラスのかわりにカエルの大合唱、濡れた道の上ではリュウキュウカジカガエルがピョンピョンと跳ね、活況を呈していた。
かしましいカエル達に迎えられ、昼よりも夜のほうがこわくないぞ、なんでだよ。と道の脇の木陰を除くと、いかつい表情のあいつがとぐろを巻いていたのだ。
今までの疲れや焦燥を癒すようにじっくり、しっとりと観察し、写真を撮りまくった。ハブは身じろぎひとつせず一点を見つめている。
さらにその3mほど先の道の上でクシュッとなっているやつがいた。
私がしつこく写真を撮っていたら嫌気が刺したのか、体を伸ばして逃げようとしたがそれでも見つめていると、なぜかその場で再び体をクシュっとさせて、動かなくなった。ストーカーのようにしつこい私はそのさまを動画におさめたので見てやってほしい。
3分ほどかけてゆっくり体を丸める(動画は35秒に編集)。ラストのあくびがかわいいのでドントミスイット。
フィーバーは止まらない。またすぐ数mの距離でおすまししているハブがいた。
一晩に何匹ものハブを見たことはあるが、って昨夜もそうだったが、距離にして6~7mほどのところに3匹も密集していたのは初めてだ。こわいのを我慢して来てよかった。
ハブは臆病なヘビで、すぐに薮の中に逃げこんだり、息を潜めるようにじっとしていたりするが、ここで出会った3名様はそれにしても動かない。うろうろしながらカメラを向ける私の存在に気づいていないふりでもしているかのようだ。
同じ部署の4人のうち3人で飲みに行って、誘わなかった1人と飲み屋で遭遇してしまったみたいなバツの悪さを感じる。
「いやーさっき駅の改札で偶然一緒になってさ〜」とか無理な弁明をするよりは徹頭徹尾こちらに気づかない、もっと言うと存在しないように振る舞うのもひとつの処世術なのかもしれない。
私が去った後で「やべー、あいつまさかここに来るとはなー」とかやるのだろうか。誘われなかった1人のような気持ちになり、大きな達成感と少しの疎外感と共にその場を離れた。振り返ったがハブは動かなかった。
与路島の後に渡った奄美大島では全長1.5m超の丸々太った美ハブに会えた。誰に届くのかよくわからない自慢で奄美旅を締めさせてください。
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