あおりにも芸術が宿る瞬間があった
たとえばサッカーにもあおり行為がある。不必要にテクニックをひけらかして相手を挑発したりだとか。ことばをつかわなくても私達は「急げ」とか「バカ!」だとか行為で示すことができる。
そしてときには「急げ」以上の何か、ことばを超えた何かを示すことがある。これはもうあおりではなく芸術と言っていいのではないかという状態だ。
あおることあおられることは社会的に問題であるが、突き詰めるとノンバーバルコミュニケーションの先があった。いやがらせの向こう側が見えたのだ。
少し前に世間ではあおり運転が問題になっていた。エアガンで後ろから撃たれたりするらしい。なんだそれは。あおり運転、一体どんなことになってるんだ。
そもそもあおり運転って何なんだ。ふだん運転しない側からすると言葉を使わずによく「あおり」が分かるものだと思う。飲み会の一気コールとかじゃない、ただの車での移動なのに。
もしかしたら他の行為でも「あおり」は可能なのだろうか。例えば歩行でもあおれるのだろうか。様々なあおりに挑戦してみた。
運転なりなんなり、言葉を使わずにその行為だけであおりは可能なのか? たとえばそれはダンスなどの身体表現に近いのではないか?
そう思ってコンテンポラリーダンスに明るい舞台俳優、八木光太郎くんとただ呼びやすかったデイリーポータルZ編集部の藤原浩一を呼んだ。
まずは車のあおりを歩行でやってもらった。
なんて変な人だ。嫌すぎる。これらはあおり運転の歩行へそのまま移植したものである。それでもこれだけ嫌なのか。
だったら歩行ならではのあおり行為とはなんだろうか。車でなく人によるものだ。藤原が生み出したあおり歩行とはこちらである。
手を叩く藤原に対して嫌がる八木くん。なんのためにこんなことをしてるのかはわからないが、これはたしかに嫌だなという感触がある。
「車で言えばしつこくクラクションを鳴らされているようだったし、得体の知らないものがすごい近くにいる恐怖感がありました」とはあおられた八木くんの感想だ。
すごい。本当にあおり運転みたいになってきてる。ただの変なおじさんではないのか。
ほかにどんなあおりが可能なのだろうか? 人をせっつくような状況を考えていて、つづきものの漫画を2人で読んでいるときが思い当たった。
もう読んじゃったよ、早く読んでくれ、そんな気持ちを読書で表現することは可能なんだろうか?
読むところがない、というアピールを延々とすることでこれはたしかにあおり読書かもなという読み方ができた。
対して八木くんのあおり読書がこちらだ。
「本を閉じる」という行為がエスカレーションしていくとたしかに「早くしろよ」が伝わる。そしてその音が大きくなっていく。
前者の藤原が「あてつけ、あてこすり」に見えたのに対してこちらはより「あおり」に近い。それは相手に対して向けられているかどうかだろう。
「あおり」は相手に向けて行為をエスカレートさせていくこと。ああ、こんなものでも知見はたまっていくのである。脳のメモリーをムダなことに使ったのがくやしい。
飲食にもあおりという概念はあるのだろうか? たとえばソフトクリームをなめるという行為で相手をあおるというのは可能なのか?
藤原がペロペロペロペロ、と高速でソフトクリームをなめはじめた。ふだんの行為を高速でやるだけで相手をあおるということになるのか。いや、なってるのかこれは?
だからなんなんだ? この人は何が言いたいんだ? という気がしないでもない。
ペットボトルのお茶を飲むのにもあおり行為は可能なのか二人にやってもらった。藤原は法螺貝のような音を出していた。たしかに暴走族みたいであおってる感があった。
そしてここに来てだんだんよくわからなくなってきたのがこの八木くんのこのあおり飲みである。
全く言語化できないし、これがあおりなのかも全くわからない。ただ一つ言えることは、言語化できないものが一番おもしろいのではないか、ということだ。
だんだんあおり行為が小学生のいやがらせに近くなってきている(そもそもあおり運転が小学生みたいなことなのだろうが)が、ここに来て八木くんの掃除があおりを超えた何かを見せ始めた。
壊れたロボットなのだろうか。それともせっついているのだろうか。言語化できないなにかに出会った瞬間、あおり行為にも芸術点のような指標軸ができる。
たとえばサッカーにもあおり行為がある。不必要にテクニックをひけらかして相手を挑発したりだとか。ことばをつかわなくても私達は「急げ」とか「バカ!」だとか行為で示すことができる。
そしてときには「急げ」以上の何か、ことばを超えた何かを示すことがある。これはもうあおりではなく芸術と言っていいのではないかという状態だ。
あおることあおられることは社会的に問題であるが、突き詰めるとノンバーバルコミュニケーションの先があった。いやがらせの向こう側が見えたのだ。
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