「春巻き」という食べ物に、違和感を感じたことはないだろうか。
料理名に季節の名前が入っている。食材を除いて、他に季節の名前が入った料理名を言えと言われたら思いつかないし(どなたかご存知であれば教えてほしい)、四季のない国の人には得体の知れない料理だろう。「春巻き」はあるのに、「冬つつみ」や「夏はさみ」はない。
もともとは、立春の頃に新芽を出す食材を巻いて揚げていたことから付いた名前らしい。ここにも疑問がある。
現代の春巻きの材料といえば、肉、椎茸、たけのこなど。たけのこが春の食材なのはわかるとして、肉を食べる季節は任意だし、椎茸は秋にも収穫できる。
もしかして、我々がふだん食べている「春巻き」は、本当の「春巻き」ではないのではないか?
春の食材だけが詰まった、本物の春巻きが食べてみたい。だってこんなにも春のことが大好きなのだから。
まずは食材を集めよう - トマトもピーマンも春野菜?
まずは春が旬の食材についておさらいしよう。
昔の人に倣って「春に新芽を出す食材」をコンプし始めると、おそらく最後は山に野草を摘みに行くことになってしまうため、今回は身の回りで「春が旬」とされている食べ物を集める。
kewpieのHP、素材の基本によると、春が旬の食材はこの27種類だ。
キャベツ、新玉ねぎ、玉ねぎ、じゃがいも、大根、トマト、たけのこ、きゅうり、ピーマン、にんじん、かぼちゃ、菜の花、長ネギ、アスパラガス、レタス、スナップエンドウ、さやえんどう、ごぼう、長芋、かぶ、れんこん、セロリ、そら豆、クレソン、イチゴ、グレープフルーツ、鯛
キャベツ…はわかるとして、新玉ねぎと玉ねぎが2つともリストインしている。新玉ねぎに対して「旧玉ねぎ」という呼び方がされないのは玉ねぎへの配慮なのだろうか。
こうして見ると、春の食材としては意外なものが多い。かぼちゃは冬至かぼちゃから冬のイメージだったし、トマトやピーマンは夏野菜だと思っていた(と思ったら、夏が旬の食材にもリストされていた。単純に旬が長くて優秀なだけだった)。
このリストを見ながらスーパーの野菜コーナーをうろうろした結果がこちら。
さすが旬の食材と言われるだけあって、野菜売り場でも大々的に推されているものばかりだった。我々はスーパーを歩いているだけで、気付かぬうちに旬を浴びている。
……
〜突然ですが、ここから筆者の悲しみと祈りのコーナーです〜
筆者はクレソンが好きだ。野菜の中で一番好きだ。いつもステーキの添え物のように扱われているが、ステーキとクレソンの量が反転しても筆者は嬉しいし、食材の中ではウニとかカニとかと同じくらい好きだ。今年のふるさと納税は返礼品がクレソンの地域にしようかと考えている。
しかしだ。
本当に引くくらい売ってない。今回、クレソン以外の食材は1つのスーパーで完結したにも関わらず、クレソンは3軒回ってもなかった。念のため河原も見たがクレソンはなかった。
結局、翌日家族に頼んで遠くのスーパーをハシゴしてもらい、ようやく手に入れたのだった。
全国のスーパーさんにお願いします。
〜悲しみと祈りのコーナー終了 引き続き本編をお楽しみください〜
食材の準備と、おいしいフルーツダレの作り方
食材がそろったところで準備に取り掛かろう。
春巻きとして成形しやすいように、野菜を洗ってひたすら切っていく。
キャベツは粗い千切りに、レタスは細めのざく切りに。揚げた後の食感や火の通り方を想像しながら、淡々と食材を切っていく。
正直、揚げたときにこの3つがどう違ってくるのか想像がつかない。スーパーでこれを同時に3つ買う人あんまりいないだろうな。
生春巻は春巻きなの?と思われるだろうが、春巻きのふりとて大路を走らば即ち春巻きなのだ。
明らかに揚げ物に向いていなさそうなグレープフルーツとイチゴだが、今回は春巻きのタレとして活躍してもらうことにした。
今回はタレの調味料以外に味付けを行わない。
素材の味をそのまま楽しむスタイルだが、上のタレが2つともたいへん美味しくできたため、淡白すぎるということはないだろう。
いよいよ春巻きを巻いて揚げていこう。
ついに完成、27種旬食材入り春巻き
まずは27種類全詰め春巻きを作らねばなるまい。
この時点で明らかに春巻きの量ではない。SUBWAYだってもう少し控えめに盛っている。
あっっっつ!!!!!火傷RTA。
これだけ分厚い春巻き、ちょっと放置したくらいでは簡単に冷めない。めちゃくちゃに熱い。でもおいしい!!
確実においしいのだが、一体なにがおいしいのかと訊かれるとまるでわからない。漠然とした総体としておいしい。脳内彦摩呂が「これってなんの箱ですか?」と小首をかしげてくる。
魚と野菜がぎっしり詰まっているせいか、揚げ物とはいえ、すごく身体に良さそうな印象だ。成城石井で買った、知らないオシャレっぽいお惣菜を深夜に食べているときの感覚に似ている。さりとて旬の食材が27種も入っているのだから、きっと栄養価は恐ろしく高いのだろう。
この混沌の中でも鯛の香り、タケノコやアスパラのシャキシャキ感、豆とかぼちゃの風味はしっかり主張してくるため、揚げの調理に向いているようだ。これらをメインに、具材を減らして再構築してみよう。
素材が少ないとおいしさが分かりやすい。
胃のストレージの限り食べ比べてみた結果、筆者のおすすめの組み合わせはこちら。
・鯛×菜の花×タケノコ
王道の春!という感じの組み合わせだが、鯛の旨味、菜の花の香り、タケノコの食感どれをとっても完璧だった。
・カボチャ×にんじん×アスパラ
甘いホクホク感と、アスパラの食感がアクセントになっていてバランス良くおいしい。
・さやえんどう×スナップエンドウ×そら豆
この3種を揚げて違いが出るのか…!?と思ったが、風味が一体化しているにも関わらず、食感が異なるため食べていて楽しい。
・ゴボウ×菜の花×じゃがいも
ゴボウの風味は揚げられても強く残る。菜の花で香り、じゃがいもでジューシーさを補強するスタイル。
イチゴスイートチリソース、甘くて華やかなのにしっかり辛くてとてもおいしい。あらゆる春野菜に合う気がする。
生春巻きの方が印象が淡白になりやすいため、にんじんや鯛など、味が濃いものを多めに入れていくのが必勝法になりそうだ。
「春巻き」の本質
春の食材全詰め春巻き、全体的にまんべんなくおいしいのだが、強いて欠点を挙げるとすれば「食べやすすぎる」ことだ。良くも悪くもあまり印象に残らない。
想像するに、昔の人たちが作っていた「春に新芽を出す植物を巻いた揚げ物」は、現代のスーパーで売っている野菜を巻いた春巻きよりもずっと野趣あふれるものだっただろう。野草の苦味や旨味は揚げてもしっかりと残る。
もし自宅で春食材春巻きをつくるのであれば、春にしか摘めないヨモギやスイバの新芽、たんぽぽの若葉などを混ぜて揚げてみるとおもしろいかもしれない。