特集 2019年10月15日

なぜ太鼓を叩いてイクラを盛るのか

太鼓を叩いていくらを盛る店がある。あれを家でやる

太鼓を叩いてイクラを盛る店がある。北海道に有名店があったような気がするが検索するとそのような店は全国に広がっているようだ。

なぜイクラなんだろうか。同じ魚卵でいえばタラコじゃだめなのか、タラコじゃ。もっといえば家の納豆ご飯じゃだめなんだろうか。

「家の納豆ごはんと太鼓めちゃくちゃ合う!」となれば食卓に革命が起こって太鼓が必須になるかもしれない。すごい。太鼓とともにいろいろ盛ってみた。

1980年生。明日のアーというコントのユニットをはじめました。動画コーナープープーテレビも担当。記事はまじめに書いてます(動画インタビュー)

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太鼓を叩いてもらって、イクラを盛ってもらおう

あなたが家で太鼓を叩きながらイクラ丼を盛ってもらいたいと思ったら必要なのは人だ。イクラを盛る人と太鼓を叩く人を用意した。

イクラを盛るときの掛け声は「よいしょぉ!」であるらしい。となるとあの男だ、と俳優の八木光太郎を呼んだ。大声と明るい芝居に定評がある八木くんである。

祭りの衣装を八木くんには着てもらう。狭い場所におめでたさが醸される。

太鼓はデイリーポータルZ編集部から藤原浩一が叩いてくれることになった。太鼓は家にあった楽器を適当な棒で叩く。家に太鼓と「よいしょ!」がやってきた。

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「よいしょ! よいしょ!」と声を出し盛る係として俳優の八木光太郎を呼んだ。でかい声と明るいキャラクターにとにかく定評のある男である
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そして画面外では太鼓を打ち鳴らしてもらう

イクラはスーパーで安いすじこが売ってたのでほぐしてもらってタレにつけた。おいしそうだ。量にして3人前くらいはある。豪華だ。これは太鼓でも鳴らしたくなるものだ。

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なるほど、これは祭りだなというビジュアルである。これに太鼓までつくのだ

準備はできた。さあいくらを盛ってもらおう。

あまりのやかましさに笑う

怒涛のアッパー感。暴力的なまでにお祭りである。

そもそも居酒屋は大声を出す空間でもあるのだなと思う。こんなに狭い室内で太鼓を鳴らして舞台俳優の大声を聞くとあまりのやかましさに思わず笑ってしまう。

それもただ大声なだけならいいのだが、この男はイクラをざっぱざっぱいいかげんに盛ってくるのだ。高級な魚卵を盛る人はもっと考えて盛るんじゃないだろうか。

大きな音があり、バカがいる。それもこんな狭い空間に。なにかいたたまれないような、恥ずかしさにも似た感覚がある。

とにかくここにあるのは祝祭性のなにかだ。そしてお祭りは家でやるべきではない。

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「めっちゃくちゃうまい、めっちゃくちゃうまい」とイクラ丼をかきこむ八木くん。盛りすぎだよ。全員腹がパンパンになる撮影でした

ところでつい笑ってしまったあと、イクラを食べてみるとあまりに正統派な美味しさで真顔になってしまった。

あれだ。よくできたイクラ丼はもはや卵かけごはんと区別がつかないあれだ。SFと魔法の関係に似たやつだ。これは太鼓の一つでも鳴らしたくなる。

実際に太鼓を鳴らしたあとに「太鼓でも鳴らしたい」と思えたのだからイクラのお祭り感はすごい。

太鼓とともにタラコを盛ったらどうなる?

ところで家でこんなにイクラを食べることなんてあるのだろうか。もっとお求めやすい魚卵、たらこだったらどうなるのだろう? 太鼓はイクラ限定のものなのだろうか?

祝祭性を帯びたタラコごはん

タラコ丼という丼は聞いたことがない。イクラと同じような構造でもやはりタラコはタラコごはんであり、日常のものなのだと思う。それが今お祭りのように盛られている。

しかし盛りすぎである。ちょっとは加減してくれればいいものの、この声の大きな人はなぜにここまで盛ってくるのだろうか。その声の大きさとバカさ加減に再び吹き出してしまう。

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太鼓で勢いよく盛ってくるので成人病まっしぐらのたらこごはんができた

太鼓を鳴らすと塩っぱくなる

タラコはちょっぴり食べてごはんをかきこむくらいがちょうどいいのであって、これだけ盛られるとものすごく塩っぱい。太鼓を鳴らしてよいしょ!よいしょ!と盛っていくと、日常を超えた味になった。

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くうう、しょっぺええ

納豆ご飯だとどうなるんだ? 

 たらこからどんどん日常に寄せていこう。今度は魚卵から離れて納豆である。これが成功すれば太鼓付きの朝食も夢ではない。

よいしょ! よいしょ! と八木くんが納豆をかきまぜてはご飯に盛っていく。

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「よいしょお! よいしょお!」そんなに要らないって
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日常を超えてお茶碗も超えてきた。こぼれた納豆はあとですする羽目になる

納豆ごはんの味の地味さに混乱する

寂しさがあった。太鼓を鳴らしてハッピ姿の人が楽しく盛ってくれたはずなのだが口に入れたものは納豆である。釣り合わなさを舌がはっきりと感じた。

口は喜びを期待していたのにどこまでも日常の味がやってきた。もっといいものが来るはずなんだけど、という思いがある。

いや、もしかしたらイクラ、たらこ、と来てパブロフの犬のように脳が餌付けされたのかもしれない。私はもう太鼓を聞くとよだれの出る体になってしまったのだ。

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太鼓のあと、日常の味。舌が落差を感じ取っている。

もっと日常、のりたまごはんは? 

納豆ご飯よりももっと手軽に盛るものだとどうなるだろうか? ふりかけである。太鼓を鳴らしてのりたまを盛ってもらった。

 

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「よいしょお!(ザッパー!)よいしょお!(ザッパー!)」たしかに太鼓でも鳴らさなければこれくらい大盤振る舞いできない

太鼓のちからで日常を超えてくる

ふりかけはかけすぎるなと親に注意されたのだろうか。知らず知らずのうちに私達の脳にはふりかけリミッターが設定されている。これ以上はいけないという罪の意識でふりかけの量は制限されている。

それを太鼓とハッピの人が祭りの形で超えてくるのだ。ザッパザッパふりかけられるのりたま。最後にはザーッである。

もしかしてこのイクラの太鼓は「やっちゃいけなさ」を表現しているのではないか。ふりかけられすぎたのりたまと太鼓になぜか親和性を感じた。

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太鼓のちからで日常を超えたのりたま。ふりかけを食べることが久しぶりだったが意外とテンションの上がる味だった。これは3ヶ月に1度くらいなら辛いことがあった夜にやってもいい

ごはん以外はどうだ?

今まではごはんに何かを載せてきていたのだが、ごはんから離れてみたらどうなるだろう?

私達日本人はお米がしみついていて「米に何かのせるとうれしい」という気持ちと太鼓がリンクしていたのではないだろうか。

ためしに焼きそばに鰹節を太鼓とともにのせてみた。

 

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祭りの結果がこれである。
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口の水分がこれほどもっていかれる焼きそばがかつてあっただろうか
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パンにジャムはどうだろう? 洋食文化と太鼓は合うのだろうか?

 

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それでは八木くんおねがいします「よいしょお!」

 

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なんでこんなに盛るんだ…と一発で肩を落とした。

ごはん以外の太鼓の合わなさ

 ごはんじゃなく焼きそばやパンに太鼓を叩いてもらった。鰹節やジャムがのってくる。飢餓状態にあるわけでもないので、そんなに嬉しいものではないし太鼓が必要だとも思わない。

しかしそれでも祭りがはじまるのである。ハッピ姿の人が太鼓のリズムで日常を超えた量をのせてくる。

「もう関係なくなっちゃってるよね!?」で終わる漫才師がいる。そのつづきを延々見ているような気分である。力なく、笑いだけが漏れ出る灰色の世界だ。

やはりこれは日常すぎるのではないか。お祭り感のないものだからじゃないか。そう思ってお菓子のねるねるねるねをやってもらった。もはや盛るでもなく、練ってもらうのだ。

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祝祭性を取り戻せ!とばかりに知育菓子のねるねるねるねをやってもらった。太鼓に合わせて「盛る」から離れて「練っ」てみた

なにが「よいしょ!」なんだ、なにが…

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よいしょ!という声が飛ぶ。こんなに威勢のいいねるねるねるね初めてだ
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おい、八木よ… という出来上がり。味としてはまあそんなに変わらない。あとねるねるねるねは数十年の時を経てラムネ菓子としておいしくなっていた。

大本命、ケーキにクリームを盛る

ねるねるねるねの喜びとは「練れば練るほど色が変わって…」の部分にあるので身体というより知的な興奮に近かった。太鼓、要らない……そして八木くん、ちゃんと練ってくれ……

やはりもっと原始的な喜びに太鼓は合っているのではないか。身体がうまいと感じるようなものだ。ここでイクラに代わる大本命の登場。ケーキである。これにクリームを足す。甘みと乳脂肪分、体のよろこびを足していく。

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ケーキに追いクリームしていくのはどうだろう。舌への喜びが必ずあるものだが

 

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おいおいおい、八木クン、そんなに盛らなくても…

 

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太鼓を鳴らすとケーキが装飾型縄文土器みたいになった。八木ぇ…

ケーキに太鼓、わからなくはない 

太鼓の音とともにケーキにクリームが追加されていく。このやっちゃいけなさ、やはり太鼓が合う。ケーキにクリームをのせるのもイクラをどんどん盛っていったのもお祭りなのだ。

ただし、出来上がりの見た目には「祭りのあと」感が漂っている。味は悪くはない。クリームたっぷりのケーキは好きだし舌も喜んでいる。ただ、祭りの時間は短かったなと思う。

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「うまっ!」と八木くん。かき氷の食べ歩きが趣味で甘味に強い男である

「盛る」 ではなく「あげる」

最後にもう「盛る」「なにかを追加する」から離れてみようかと思う。太鼓を鳴らしながらレーズンを手にのせてみた。

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よいしょ! よいしょ! なにがよいしょなのかさっぱりわからないが
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ただただ敗北感だけが残った

太鼓はやっちゃいけなさの表現

イクラを盛るのに太鼓鳴らしてるのおもしろいな~とヘラヘラ笑っていたが、実際にいろいろやってみたところ「あれはやっちゃいけなさを表現してるのか!」と妙に納得してしまった。

祭りとはそもそもそういうものだ。たとえば銭湯でお湯をじゃぶじゃぶ浴びて小さな喜びを感じているのも小さな小さな祭りである。日常の制限を破り欲望を解き放つ瞬間だ。

なにも何月の第何週とかに神輿をかつぐだけがお祭りなわけではない。日常を生きるにおいて、小さな祭りはここにもあそこにもある。

ライターからのお知らせ

毎回お伝えさせてもらってました、アーの本公演がつい2週間前となり、お席が少なくなって参りました~!
 
八木くんおもしれえな~という稽古の日々です。めちゃくそに考えまくったコントをただただ味のある人たちが演じる公演になっております。
 

テアトロコント special 明日のアー vol.5
『最高のアー 』

@ユーロライブ(渋谷)

11月3日(日) 19:00 11月4日(月・祝) 14:00 19:00 11月5日(火) 14:00 19:30 11月6日(水) 19:30

前売3500円、U25&学生割引2500円、高校生以下1000円 チケットはこちらから→ https://t.livepocket.jp/t/saikou

 

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これだけいて俳優が八木くんと笠木泉さんのみという恐ろしい布陣でお迎えします
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最高のチラシが出来上がっていることは前回もお伝えしたとおり!

 

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