台風を乗り越えし者だけが島に住める?
「島は一年いないと住めるかどうかが分からない」
今住んでいる沖永良部島への移住前後で、そんな話をよく耳にした。決まってあとに続く「台風とかあるし…」という言葉。どうも台風を耐えられるかどうかが踏み絵というか、一種のふるいになるらしい。
よっしゃいっちょ耐え切ってみようやないか!ということで住みはじめてみた訳だけど、テレビを付けたら「日本人が体験したことのないレベルが来ます」と言っていた。いや、そこまでとは聞いてないぞ。
過ぎてしまえば予想されたほど大きな被害もなかったけど、そんなでっかい報道もあって、島ならではのユニークな台風銀座あるあるを見たり聞いたりできたので、紹介したい。災害に備えながらも楽しみを見つけてる。意外と、10年先の日本の日常になってるかもしれない。
SNSで集落間で停電報告
台風前、吉成さんにはお世話になった。私と、島2年目の夫婦の台風ビギナーたちに逐一、台風情報と対策を教えてもらっていたのだ。
それではインタビューはじまります。
水嶋「停電するとてっきりネットはできないものだと思ってたけど、電波塔が無事だったらネットはできるんですね」
吉成「そうですね。だから、集落によって停電したりしなかったりするので報告会みたいになるんです」
森「高校のときとか、同級生とLINEで『(電気)ついてるー?』みたいな感じで確認取り合ってましたよ」
水嶋「へぇ!LINEってところがまたリアルだな。というか、タフ」
台風銀座あるある①:SNSで集落間で停電報告
都会だと停電は一大事だけど、もはや停電はなるものであるという前提であれば、ある意味盛り上がるネタにすらなる。たくましい…。
発電所近くから電力が復旧していく
水嶋「集落で違いがあるってことは条件が違うんだ?以前耳にして戦々恐々としたんだけれど、一昨年にも大きな台風が来て、一週間停電したとかなんだとか。それって洒落にならないと思うんだけど…」
吉成「うちは3~4日だったかな」
水嶋「えーそれコンスタントにあるんでしょ?すごいな」
吉成「うちの祖母の集落だと電柱がボキボキに折れたんですよ」
水嶋「俺の知ってる台風じゃない」
森「復旧は(西側にある)知名町からしていくんです」
水嶋「なんで?」
森「発電所があって、そこから徐々に…」
水嶋「へぇー。地震では標高の高い方がいいというけれど、発電所に近い方が復旧が早いっていうのもおもしろいな」
島の電力復旧を行うのは九州電力で、台風が来るときには事前に復旧部隊が島入りしているらしい。そういえば台風前後に、町のケーブルテレビでも九州電力が「切れた電線はぜったいにさわらないで」とCMが流れてた(撮り忘れた)。台風銀座は九州電力と関係が深い。
台風銀座あるある②:発電所近くから電力が復旧していく
ガソリンスタンドが混む
これは台風10号の前に全国ネットでよく報道されたので、もはや離島台風あるあるというより世間の常識になりつつあることなのかも。
吉成「ガソリン満タンは大事ですね」
水嶋「それって、停電したら電力取れるからだよね」
吉成「それもあるけど、風で飛ばないようにするために」
水嶋「え、なんで?ガソリン入れたら飛ばなくなるの?」
吉成「重さをもたしとくんですよ」
水嶋「あ、あぁーーーーーなるほど!」
吉成「だから台風前はガソリンスタンドめっちゃ混みます」
森「混みますよね」
田舎だと移動に欠かせない車、災害においてそれ以上に命綱だったのか。ちなみに離島は車検と自賠責保険の費用が本土の1/3近くに設定されてる。その理由は「鉄道など車以外の移動手段がないから」という話もあるが、こと台風銀座においては車の有無が死活問題になる。
ここまでは「まぁそれもあるかも」というあるあるだったかもしれない。しかし、このあたりからさらに踏み込んでいくことになる。
台風銀座あるある③:ガソリンスタンドが混む
前日にカレーをつくりがち
停電すると、冷蔵庫も使えなくなるかもしれない。なので生鮮食品はなるべく調理しておいて、少しでも時間を持たせる人も多いらしい。
吉成「台風の前ってカレーつくりがちじゃない?」
森「そうですね(笑)」
水嶋「なんで!?」
吉成「まず冷蔵庫の整理もあって何を入れてもおいしいし、台風だと学校も会社も休みで家族みんなが家にいるから、バッと食べられる…そういう思考?」
森「どんなに大量につくってもいいみたいな感じありますよね」
水嶋「じゃ、台風前後は島中の家庭でカレーがつくられてるのか…」
台風の前日にはカレーを食べる。理由を辿っていけば停電対策ということなんだけど、料理、ましてやカレーと言われると一気に平和的なニュアンスに。ネット発祥で「台風の日にはコロッケを食べる」なんて話もあるが、実際のところは合理的にもカレーが正解だったのか。
台風銀座あるある④:前日にカレーをつくりがち
台風情報は日本と米軍と欧州から仕入れる
それと、以前吉成さんから聞いたことで「ハイテクだな!」と思うことがあった。
水嶋「台風は日本の気象庁以外からも調べるって話…米軍とあと…」
吉成「ヨーロッパ中期予報センターですね」
水嶋「それすごいよね、離島にありながら世界中から情報を集めてるって。基地かって。最前線は日本だけに頼れねぇって気概を感じる」
吉成「というより、日本だと台風が発生してからじゃないと個別の詳細は発表されないんですよ。だけどこっちは台風発生地域に近いから、発生したら数日して来ちゃうんですね。本土はその5日後とか」
水嶋「台風が出た!って聞いたときの感じ、まんま怪獣だもんな」
吉成「だから、熱帯低気圧のうちに調べる必要があって、『米軍 予報』って検索したり、ヨーロッパ中期予報センターのサイトに飛んで調べるんですよ。ネットの使える若い人とか、農家さんとかは」
水嶋「島の人ってふつうに気象情報アプリ入れてるもんね」
吉成「ただ今後は気象庁も台風に発達する見込みのある熱帯低気圧の進路も発表すると話していたので、変わってくるかもしれません」
台風銀座あるある⑤:台風情報は日本と米軍と欧州から仕入れる
暴風対策にコンテナを積む
そしてヴィジュアル的に驚いたのが、コンテナ。島の流通はほとんど船なので、島内ではコンテナをよく見かけるのだけど、これが台風前になると防風林に変身する。
水嶋「あれはじめて見たときビックリした、要塞やんかって」
吉成「めっちゃ楽ですもん、フォークリフトで持って行ってバーンと置いて」
森「簡単ですよね、片付けも持ち上げて移動するだけで…」
水嶋「そこで『楽』とか『簡単』とか言葉が出てくる時点で、俺の感覚はまだまだ島人にほど遠いな…」
台風銀座あるある⑥:暴風対策にコンテナを積む
まだまだあるある台風銀座あるある
と、ざらっと書いてみたけれどまだまだあります。
「巣ごもりするしかないからお酒がよく売れる」とか、「台風のときにやることが各家庭で決まっている(吉成さん宅ではおばあちゃんが百曲歌うとか)」とか、「台風後は家や車についた塩を洗い落とす」とか、「停電に備えてクーラーはいつも以上に冷やしておく」とか。
祖母は「昔台風が本土に行くことはなかったよ」と話す。滅多にということだろうけど、台風にしろ豪雨にしろそう珍しくはなくなった。こんな島暮らしが将来日本のスタンダードになるかもしれません。
ライターからのお知らせ
沖永良部島(おきのえらぶじま)での島暮らしをYouTubeでも発信してます。この記事に書き切れなかった台風あるあるも下記動画で公開中!興味のある方はぜひ。