特集 2026年7月21日

「隙間タワー」の魅力を楽しみ、そして学ぶ

堅牢で逞しく、同時に美しくもある東京タワーやスカイツリー。近くでも遠くから見ても良いのだが、最近新たなタワーの楽しみ方に気づいた。それは「隙間タワー」だ。

1980年、東京生まれ。片手袋研究家。町中で見かける片方だけの手袋を研究し続けた結果、この世の中のことがすべて分からなくなってしまった。著書に『片手袋研究入門』(実業之日本社)。

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美しく自由なタワー

東京に生まれ育って45年。東京タワーには数えるくらいしか行ったことがない。しかしごく稀に近くで見ると、毎回新鮮な気持ちで思う。

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「格好良いな。美しいな」

近くで見るといつも想定よりデカい。だから毎回素朴に「デカいな!」と口にしてしまう。だがあれだけデカくても鉄骨の赤と隙間から見える空の青の対比が美しいので、威圧的どころか優しい印象すら抱く。いや、優しいというより自由。屹立する東京タワーを邪魔できるものなど、何もないのだ。

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更地になった築地の向こう側に…

私は東京で飲食店を営んでいるので、週に一回必ず河岸に仕入れに行く。2018年までは築地場内市場、移転以降は豊洲に通っている。築地場内は大好きな場所だったので、移転してからも更地になっていく様子がなんだか気になる。先日も勝鬨橋から工事の進捗を眺めていた。

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勝鬨橋を築地から勝どき方面に渡って行くと…
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こんな風に現在の築地場内市場跡地が見える。建物はもうすべてない

なんとなく橋の中央付近まで歩を進めていた時、見えたのである。

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あ!
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直線距離にして2.6km先にある東京タワーが、少し手前、汐留に立つタワーマンションのちょうど間に挟まれた状態で見えたのだ

近くだと他の何にも邪魔されない東京タワーの圧倒的な存在感も、ちょっと離れてしまえば「その他大勢」に紛れてしまう。それが東京という都市の今なのだ。なんて悲しいんだ…とは意外にもならず、むしろちょっと良いと思った。何故だろう?

勝鬨橋の上を歩き回ってみると、少し位置がずれるだけでも東京タワーは見えない。

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見えない
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ちょっと見える
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見える!

このレア感、あるいは、あるべきところにピタッと収まっている気持ち良さ。これはこれで面白い風景だ。私は「隙間タワー」の魅力に目覚めてしまったのだ。

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思わず夜景も撮りに行ってしまった。やっぱり良い
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そういえばあのタワーも

いや、正確に言うと目覚めたのではない。考えてみれば、私は以前から隙間タワーの魅力に気付いていた。

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ただそれは東京タワーではなく、スカイツリーによってだった

スカイツリー、開業当初は「東京タワーに比べて…」みたいな意見もよく聞いたが、完成までの過程を見られたこともあって個人的にはすっかり愛着を抱いている。そして近くまで行った時の「あ、デカイ!」は、さすがに東京タワーをもしのぐ。

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いや、さすがにデカ過ぎ

そして私の住んでいる東京の谷根千地域には、スカイツリーを「隙間タワー」として眺められる最高のスポットがあるのだ。

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千代田線千駄木駅から向丘方面に路地を抜け、この階段をのぼり高台に出る
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ちょうど鴎外図書館の向かい側のこの場所から遠くを眺めると…
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ほら!不忍通りのマンションの間にぴったりおさまってる約4.7km先のスカイツリー

以前からこの場所が好きだった私は、既に隙間タワーの魅力に気付いていたのだ。

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やはり夜景も美しい

きっと東京タワーやスカイツリーを隙間タワーとして楽しめるスポットは、他にもたくさんあるのだろう。

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そういえば隅田川の新大橋付近からもスカイツリーが隙間タワーとして見える

築地場内の跡地には全天候型のドーム球場ができるそうだが、球場や周辺に建つビルの立地や形状によっては勝鬨橋から東京タワーを望めなくなるのかもしれない。そう、隙間タワーはいつなくなってもおかしくない眺めなのだ。全国には無数のタワーが建っている。皆さんも是非、自分だけの隙間タワースポットを探してみて欲しい。

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林編集長からの提案

…と、ここまでの内容をある日のDPZ企画会議で提案した。我ながら良い企画だと思った。しかし林編集長から飛び出したのは、意外なひと言だった。

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「う~ん…。石井さんも隙間に入った方が良いんじゃないかな?」
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「…え?私が?隙間に?なんで?」

正直、意味が分からなかった。しかしDPZに参加するようになってからの4年間、林編集長のアドバイスに間違いがあっただろうか?いや、ない。

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こうして、私の隙間探しの旅が始まった
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私は美しい

今回ばかりは撮影をお願いした妻に自分でも企画意図が説明できなかった。「林さんがさ、見たいらしいのよ。隙間に挟まった俺をさ」と言うと、妻は「ふ~ん」とだけ返事した。

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そうか。木が3本立っていれば隙間チャンスは2回あるのか。動画でもご覧下さい

しかし、どうだろう?色々な隙間に挟まるうち、なんだか利点が見えてきた。東京タワーやスカイツリーと違って、石井公二は近くで見ても堅牢でも、逞しくも、美しくもない。

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石井公二以上でも以下でもない、ただただ普通の石井公二だ

しかし、隙間に入るとそれが一変する。自分の両サイドに物体があることで、自分がいるべき、立つべき場所がハッキリと分かる。居場所を見つけた人間は強い。自然と自信に溢れたポーズが飛び出してくる。

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噴水と噴水の隙間に立ってみる
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こんな石井公二、見たことない。『華麗なるギャツビー』のディカプリオのようだ
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妻の覚醒

噴水の写真を撮った時に妻が「私、分かってきたわ」とつぶやいた。分かっちゃった!

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例えばこの写真を撮った時に「反対の方が良くない?」と提案があった
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確かに断然こっちのほうが良い!(せっかくなんで拡大して見てくださいね)
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「あの隙間なんかどう?」。妻がどんどん提案してくる。もう誰も彼女を止められない
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妻もこんな石井公二、見たことないだろう
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え?石井公二、いなくない?
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え~!いたっ!なんたる、なんたるっ!
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この写真を撮った時は妻が静かにうなずいていた
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こんなの石井公二専用の隙間だろう

隙間産業、スキマバイト、スキマスイッチ。思えばいつだって隙間が時代を動かしてきた。ならばこれからは隙間撮影。写真を撮られるのが苦手だったり、写真映りに自信がない方。どうか騙されたと思って試してみて欲しい。今まで見たことないあなたが、きっとそこにいる。


隙間は未知数

DPZ読者の皆様に新しい石井公二を見せることができて感無量である。林編集長には最初からこの展開が見えていたのかと思うと、畏怖の念を抱く。

…ただ、元々なんの話しようとしてたんだっけ?

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それじゃあ、また!
編集部からのみどころを読む

編集部からのみどころ
入稿時に石井さんからこんなコメントをもらいました「『石井さんが挟まったら良いんじゃないかな?一気にPV減るけど』と言ってたのが忘れられません!」。
ウェブメディアを作ってる人の発言とは思えません。でもデイリーポータルZの読者の皆様におかれましては後半こそが読みたかった記事ではないでしょうか。真顔の石井さんの隙間に挟まる姿。(林)

はげます会限定連載「石井公二のおいしいもの手帖」

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