特集 2020年1月6日

おせち料理の定番野菜、クワイの謎に迫る

お正月料理の定番、クワイ。

お正月料理以外では見たことのない食べ物、クワイ。

筆者は京都在住だが、お隣大阪の吹田には吹田クワイなる、ただでさえ影の薄いクワイの中でも輪をかけて希少なクワイが存在するという。

気になるので、見に行ってきた。

変わった生き物や珍妙な風習など、気がついたら絶えてなくなってしまっていそうなものたちを愛す。アルコールより糖分が好き。

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近くて遠い野菜、クワイ

「影が薄い」などと失礼なことを書いたが、ひょっとしたら筆者が知らないだけで世の中の人々は日々クワイを消費しているのかもしれない。

そんな不安が頭をよぎったので、事前にアンケートを取ってみたところ、予想に反して合計1565件もの大量の回答が寄せられた。

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ツイッターとフェイスブックでアンケートを取りました。回答してくれたみなさま、ありがとうございました。
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きれいにほぼ三等分。そして肩身の狭そうな「しょっちゅう食べる」勢。

「年5回以上食べてる」(これは全体のたった2.4%だった)以外の回答がきれいに3分の1ずつに分かれていて、円グラフがグーグルクロームのロゴのようになった。

これはちょっと意外だった。まさか、3人に1人はクワイをそもそも知らないなんて......。おせち料理に入っているクワイしか知らない層と合わせると、実に全体の7割弱に達する。

直感は正しかった。クワイ、やっぱり影が薄いと断言してしまって問題ないようだ。

正月料理のお煮しめ意外では、素揚げにする、中華料理やタイ料理の炒め物に入れる、珍しいところだとコメと一緒に炊くといった食べ方を教えてもらった。

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これは、普通のクワイ。

ところで、知らない人のために説明すると、クワイとは上の写真のような野菜である。

丸い本体からニョキっと芽が出た姿がとってもキュート!!

と思った人、いい感性をお持ちです。

クワイがおせち料理に入れられるようになったのは、「芽が出る」姿が「めでたい」に通じるからであり、おそらく、クワイが重箱の中に留保され続けるのも9割方はこのダジャレのせいなのだ。何かの拍子に、この世のクワイから一斉に芽がなくなってしまったら、多くの人がクワイを重箱から追い出すんではなかろうか。

クワイ好きの人からはブーイングが来るかもしれないが、筆者はおせち料理のクワイを旨いと思ったことがない。なんとなくモソモソした食感で、食べるたびに「これなら栗やジャガイモを入れてくれればいいのに......」という、クワイが聞いたらいじけて家出してしまいそうな感想を抱くことが、わが心中の年頭行事と化している。

一般に流通するクワイのほとんどは、中国で食用に品種改良された青クワイで、今回見に行く吹田クワイとは、同じオモダカ科の植物とはいえ別物なのだそう。当然食味も違うのだろう。願わくば、これまで食べてきたクワイよりも舌にあうといいのだが。

希少な吹田クワイの聖地は、都会の真ん中にある

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最寄り駅は、北大阪急行電鉄の緑地公園駅。

大阪府吹田市は、都会である。

北部には日本で最初の大規模ニュータウンである千里ニュータウンが横たわっている。

筆者は以前、吹田市の北隣の箕面市に住んでいたことがあるのだが、自転車で箕面から吹田を突っ切って大阪市内に出ようとすると、高架道路やら線路やら不意に現れる緑地帯やらで町が切り分けられていて、非常に苦労したのを覚えている。

昭和の人々があこがれた未来都市は、自転車移動者には優しくなかったのだ。

そして、吹田クワイはそんな都会の片隅で細々と栽培されている。

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この、住宅地の合間にある農園こそが吹田クワイの聖地なのだ。
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平野農園の主、平野紘一さん。

――今ちょうど収穫期なのでしょうか。

「うん、12月の頭ごろから収穫を初めて、昨日でちょうど収穫が終わりました。」

しまった、しょっぱなから痛恨のニアミスだ。

クワイ畑は、水田とほぼ同じ

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収穫を終えたクワイ畑。水が抜かれている。

――ここが昨日までクワイが植わっていた土地......なんというか、割と普通ですね。

「クワイの畑というのは基本的に水田と同じ。もともと湿地帯に生えるオモダカという植物の仲間だから。

食品として流通しているのは塊茎(植物の茎の、地中に埋まった部分がでんぷんを蓄えて膨らんだもの)で、掘り起こしやすいように収穫前に畑の水を抜いてしまう。

冬になると地上部の茎や葉は枯れてなくなってしまうから、収穫前に来ても畑の見た目はこれとほとんど同じですね」

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夏には白い花が咲くそう。

 

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畑に水をひく水路にはクレソンが繁茂していた。水がきれいなのだろう。

――栽培するうえでなにかコツはあるのでしょうか?

「吹田クワイは農薬の類に弱いから、とにかくきれいな水で育てること。安定して収穫するにはもちろんいろいろと気を使う必要があるけど、極端な話、水がきれいならほっておいても育ちます。

今大阪の街があるところは、大昔にはほとんどが海の底で、大阪湾の一部だった。このへんは千里丘陵に近いから少しだけ標高が高くて、海に沈んでこそいなかったけど、それでも当時は湿地帯だったから今でも湧水が豊富。その水でクワイを育ててるっていうわけやね

だいたい5月に植えて12月に収穫するから、それ以外の時期は空いた畑で葉物野菜を植えたりすることもできます」

仁徳天皇の治水事業が功を奏して現在の大阪平野ができ始めたのが5世紀頃。

戦後の宅地開発や農薬の影響で絶滅したかに思えた吹田クワイが、木下ミチさんという方によって自宅前の田んぼで偶然再発見されたのが昭和38年のことだそうだ。

一粒のクワイの向こう側に、なんという歴史があることだろう。

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クワイを収穫するための”クワ”

――どれくらい収穫できるんですか?

「年によって多少の増減があるけど、近所の農家で作ってる分も合わせてだいたい100kgくらいやね。そのうち8割か9割はうちの畑で作ってる。どうせ田んぼを作るなら稲を植えたほうがいいから、よそではあんまりやりたがらないね」

――たった100kg!少ないですね。

「そう、少ない。だから通販とかは一切やってなくて、地元の八百屋に卸したり、農園に併設した直売所で売るのが精一杯なわけ」

――正真正銘の地産地消だ。

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直売所に並ぶ吹田クワイ。
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100gで400円。年間100kgしか収穫できないにしてはめちゃくちゃ安く感じる。

――安いですね。

「吹田クワイではほとんど儲けは出てません。知ってもらうためには、誰でも変える値段で売らなあかんから。絶やさないように作り続けるだけ」

100kg全部をこの値段で売っても40万円。割に合わなさそう。

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取り出してみた。

――普通のクワイよりも、だいぶ小さい......?

「小さい。普通に流通しているクワイとちがってほとんど品種改良されてない、野生に近いものだから。

吹田クワイは、古くは豊臣秀吉が陣中で食べたという墨書きが残っていたりするんだけど、そのころと全く同じものを今もこの畑で栽培してるし、味わうことができる。

そういう野菜は、あんまりないよね」

――もはや食べる大河ドラマだ。

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クワイ焼酎は数がなさすぎてとても販売できない

――吹田クワイを使った焼酎もあるんですね。

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吹田クワイ焼酎『芽吹』

「何年か前に、豊作で量が多めに確保できたときに作ったもんやね。ただ、最近は作れてないから、残ってるやつももうとても売ることはできへん」

――吹田クワイを使った特産品は他にもあるのでしょうか?

「『クワイビール』や『クワイパン』を作ろうという計画はあった。

まずアサヒビールと連携して『クワイビール』を作ろうとしたんだけど、大企業には大型の醸造タンクしかないから、最低でも1トンからの材料が必要で、とてもじゃないけどクワイが足りない。

『クワイパン』も同じで、山崎パンと一緒に試作品を作るところまではいった。ただこれも、製品化するには収穫が桁違いに足りない。

その点、焼酎を作ってる酒蔵は50kgからの少量でも醸造できる小型タンクをもってるところがあった。もともと規模が小さい酒蔵がたくさんあるからね。それでも、協力してくれるところを探すために福島県や九州まで足を伸ばした。大変だったねえ」

――ビールにもなるんですね。焼酎、飲んでみたいなあ。(※本当に貴重なものなので、絶対に売ってもらえません)

需要も供給も少なすぎて大手が絡んでこない。そこは強みでもあり、弱点でもあるようだ。

『面白い』は強い

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直売所には、吹田クワイ以外にも何十種類もの野菜が並ぶ。

――ものすごい種類の野菜ですね。全部、平野さんの農園でとれたものなのでしょうか。

「そう。少量多品種を無農薬で栽培することがうちのモットー。1年を通して、だいたい、野菜180種、ハーブ20種、果物20種くらいを育ててます」

――ええ!すごすぎる......大変ではないですか?

「大変だけど、これが面白い。

吹田クワイも、うちは平成14年から作ってるけど、その頃には周りの農家でも作ってるところがそこそこあった。それが1件また1件と減っていって、今ではうち以外ではほとんど作ってへん。

続けてこられたのは、こういうことが好きやからやと思います。

幸いここは街中だから、「手伝いたい」言う学生や市民もたくさん来てくれるしね」

好きでやってる人が一番強いのである。おもしろサイトのライターとしても、ここは大いに見習わなければなるまい。

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農業体験を指導したり、学校給食に野菜を卸したりもしているらしく、平野さんは多忙である。
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農園のそこここには立派な菊の花が。これも平野さんが「好き」で栽培しているもので、19才のときから始めて79才になった現在まで続けているという。
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平野農園は、吹田市の市民農園のカカシコンテストで優勝したカカシが余生を過ごす場でもある。今年の優勝カカシがこれ。モチーフは、頭部がクワイになった吹田市のゆるキャラ「すいたん」だ。
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同じく「すいたん」カカシ。胸に名前が書かれているのは、ディテールの若干の甘さへの自覚ゆえだろうか。

 

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配達のついでに駅まで送ってもらった

軽トラで野菜を届けにいくついでに送ってくれるというので、ご厚意に甘えてしまった。

どこまでも親切で気さくな人である。

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野菜を届けにきた先は、マンション1階の理容院の前に開設された無人販売所。

――無人販売もされてるんですね。

「生産者と消費者の距離がすごく近いということが、街中で農業をやることの魅力のひとつやね。ここのマンションは僕の持ちものやから、入居者においしい野菜を届けられるのは嬉しいし、無人とはいえ理容院の人が気を配ってくれるから安心やしね」

――食と住の両方を支えるなんて、責任重大ですね!

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基本的には性善説で成り立っている。
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野菜の他に、なぜかオオクワガタの幼虫が売られていた。経営の多角化である。

本当に気さくにいろいろなことを話してくださるので、こちらもつい踏み込んだ質問をしてしまう。

――平野農園の後継者はいるんですか?

「それが一番の気がかりやねん。

僕が今79才で、畑もやらなあかん、マンションの管理もしなあかん、農業の普及啓発もせなあかん。とてもボケる暇がないくらい忙しいし元気やけど、あとが決まらんと吹田クワイも消えてしまうしな。

ただ、僕の息子くらいの世代は「農業なんか仕事にできるか!」て感じの人が多かったんやけど、最近の若い人らの中には真剣に一次産業に取り組みたいと思ってくれてる人も増えてるみたいやから、そこが希望です」

――世界恐慌が起こっても飢えずにすみそうですもんね。結局、食べ物を持ってる人が一番強いと。

「そうそう、そうやねん!」

 

話が非常に盛り上がり、なんなら「僕にクワイ作りを教えてください!」などと言ってしまいかねなかったのだが、生憎そうなる前に駅に到着した。

吹田クワイや農業に興味を持った人はぜひお立ち寄りください。

 

平野農園

564-0063 大阪府吹田市江坂町3-11-20

定休日:月・水・日

直売所営業時間:10時~15時

食べてみましょう

平野氏のバイタリティに圧倒されて、若干話がそれた。

最後に、買って帰った吹田クワイを食べてみることに。

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いろいろな形や大きさのが混じっている。

クワイの調理は、まず皮を剥くことから始まる。

しかしこんな小さなものの皮を包丁で剥くのは大変だ。食べるところがだいぶ減ってしまいそうでいやだなあ......。

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と思ったら、爪やスプーンで軽くひっかくだけで簡単に剥けた。
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皮が剥けたら、水が濁らなくなるまで水洗い。
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素材の味が引き立ちそうな素揚げに。

揚げてる途中から気づいてましたが、美味しいです。というより、でんぷんの塊を油で揚げてまずいはずがない。

普通のクワイよりえぐみと苦味が強いが、このクセの強さがまた良い。

思えば、おせちに入っているクワイは冷めたものばかりだった。クワイを美味しく食べるには、油と熱が必要だったのだ。

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本体はホクッ、芽の部分はカラッと揚がってて旨い。一粒で二つの食感が楽しめる。お得。

芽の出る1年になりますように

年始から美味しい食べ物を発見できたので幸先がいい。

今年も知らないことをいろいろ体験して、報告できる一年にしていきたいです。

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揚げたクワイがあまりに美味しかったので、「ひょっとしてスイーツにもなれるのでは!?」と調子に乗って甘露煮にしてみたが、甘味とクワイのほろ苦さが喧嘩して絶妙なミスマッチだった。得意な分野で勝負していきたいですね。

 

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