特集 2019年12月9日

三葉虫に寿司を運ばせたい

回転寿司のレールって、三葉虫に似てる。

そういう、にわかには理解しがたい思いが脳内でくすぶり始めてから、半年近くがたった。

一度「似ている」判定を下してしまうと、実際はどうあれなかなか頭から追い出せないのが人間というもの。

ここらで自分で作った三葉虫に寿司を運ばせて、邪念を供養してやらねば。

変わった生き物や珍妙な風習など、気がついたら絶えてなくなってしまっていそうなものたちを愛す。アルコールより糖分が好き。

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回転寿司のレーンが三葉虫に似ていると思うにいたるまで

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レールの上で回っている寿司の数が少ないことが多くなった。

まず、直接の原因はレールの上を流れる寿司が少なくなったことにちがいない。

最近の回転寿司屋では、食品ロスを減らすためか、平日の昼ともなるとレーンの上はガラガラで、寿司よりもお品書きの方がたくさん流れていることも少なくない。まるで現物の寿司は絶滅危惧種になったみたいだ。

同席者との会話が途切れたりした時に、寿司が豊富に流れていれば寿司を眺めることができる。寿司がないから、代わりに列をなして行進する三日月型の板を見つめるしかない。

そして思うに、ここに三葉虫がつけ入る隙がある。

 

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レーンを構成する三日月型の板が三葉虫っぽい。

たぶん、この三日月型の板だけを見せられても三葉虫を連想することはない。

しかしである。

  • 寿司があんまり流れてない。まるで絶滅危惧種だよね。

(→三葉虫は何億年も前に絶滅している!)

  • 寿司って海鮮だよね

(→三葉虫は海の底を這ったり泳いだりして生活していたと考えられている!)

  • このレール、同じ形の繰り返しで、節足動物みたいだよね。

(→三葉虫は節足動物!)

みたいにして、少しずつ外堀が埋められていった結果、「回転寿司のレールは三葉虫みたい」という発想が出力されたのだ。

我ながらどうしようもない強引なこじつけだとは思うけれど、先日友達と回転寿司を食べに行った際についこのことを口にしたら、「わからなくもない」というような返事がかえってきた。

「わからなくもないなら、まあ、ありってことだな」

勝手に背中を押されたことにして、寿司運び三葉虫の青写真を描き始めた。

実際の三葉虫はこんな感じ

帰宅してGoogleフォトの底をあさってみたら、以前どこかで撮った三葉虫の化石の写真が出てきた。

「Conocoryphe sulzeri」で検索すると、どうも目を持たないことが特徴の種らしい。

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頭の形が似てなくもない。

似て......なくもない?

寿司のレーンを見てイメージしていたうろ覚えの三葉虫像に比べて、実際の化石はかなり寸詰まりだったというのが正直な感想だ。

でもほら、頭のところはちゃんと三日月型だし。なんて言い訳を言っても仕方ありません。こいつらが現代に蘇って寿司を運んでくれるんだから、それだけで十分華があるはずだ。

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今思えば、どちらかというとこいつの方が似ているかもしれない。胴のあたりとか。

 

三葉虫の作り方

ひょっとしたら誰かの参考になるかもしれないので、三葉虫の作り方を説明しておこう。

まずは、動力になる部分だ。

これは最初、ラジコンを使うつもりだった。

ネットで調べてダイソーで売られているスポーツカーのラジコンに目星をつけていたのだが、現物を見に行くと思っていたよりかなり大きかった。

これでは、カレー皿みたいなサイズの三葉虫になってしまう!ということで、操縦することはすっぱりと諦めて、電車のおもちゃとレールを買ってきた。

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電車一両とレールが8本で合計300円。安い!

敷かれたレールの上を走ることしかできないが、それで十分である。

「新幹線923形 ドクターイエロー」という細かい商品名がついている。凝ってるなあ。

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ただし電池は別売だった。
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主な、というか唯一の素材はダンボールだ。

石粉粘土を使って三葉虫の形を作ることも考えたのだが、土台の電車が重さに耐えられるか微妙だったので却下。拾ってきたダンボールを切ったり貼ったりして形を作ることにした。つくづく安上がりだぞ、三葉虫!

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3つに分けられるから『三葉』虫。

さて、三葉虫の名前は、体が真ん中の軸部とその両脇の肋部の3つに縦割りできることからついたそうだ。

作る時は、この3つの軸を意識するとそれっぽくなりそうである。

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ベースの板の真ん中に軸になる山をたてた。
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心を無にして、ひたすら足を作っては並べる......。
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心を無にして、ひたすら足を作っては並べる......。

以前にイカとタコの靴を作った時にも感じたことだが、足の多い生き物を工作で再現にあたっての避けて通れない苦行が、この延々足を作っては取り付けるという工程だ。

「足なんか2本ありゃ十分だろ!」

という、二足歩行目線からの怒りが湧いてくるが、イライラしても三葉虫の進化が早まったりすることはないので地道に作るしかない。

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なんとか終わった。これでも、本物の三葉虫よりはだいぶ足の数を省略しているはずである。
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頭部を作る。三葉虫の体の中で一番回転寿司のレールっぽいパーツだ。
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基本的な体の作りはできた。
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盛り上げるべきところを盛り上げたら、完成〜!

形はできた。

色を塗ろうかとも思ったのだが、ダンボールの黄土色とカサついた質感がとてもしっくりくる感じだったので(たぶん、化石の状態でしか三葉虫を見たことがないからだろう)そのままにしておくことに。

あとは電車の上にポンと取り付けるだけである。

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スイッチと干渉しないようにして
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合体完了。いつでも動かせます!

 

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どの向きに動くのが正解なのかは、もはや誰にもわからない

レールに載せる前に、床の上を走らせてみた。 

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ギリギリ指が入るくらいの高さにしたので、スイッチの切り替えがやりにくい。
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あ!

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 スイッチを入れた途端、予想外の逆走を始めたので驚いた。どうも前後を逆にして取り付けていたらしい。

でも、逆走するのが間違いとも言い切れないのではあるまいか。

カニだって、化石しか残っていなければ他の生き物と同じように前に歩いていたと考えられたかもしれないじゃないか。

滅んでしまった生き物について、我々が確信できることはそれほど多くないのだ。

寿司をのせて動くところをご覧ください

台車を180°回転させて固定しなおし、レールにオン。

さあ、いよいよ寿司をのせて回転しますよ。

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握り寿司が売っていなかったので巻き寿司。崩れにくいから少しだけ安心だ。

 

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わかってたけど、全然回転寿司っぽくはない。(倒れてもいいように寿司にラップをかけています)

心配していた転倒はなかったので、そこは一安心。

順調にぐるぐると回り続ける寿司運び三葉虫を見ていると、回転寿司のレーンに似ているかどうかはどうでもいいように思えてきた。

よくわからないものが物を運んでくれるというのは、愉快なものだ。茶運び人形なんかも、たぶん同じ発想で作られたに違いない。

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寿司と、まわる向きを変えて。

 

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むしろ背中に寿司がないと安定しない

背中の寿司を食べるために取り上げたところ、なんと一周するかしないかのうちにあっさり脱線してしまった。

どうやら、上にものがのっていないと揺れが大きくなって車輪が浮いてしまうようだ。

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役目を終えると、程なく脱線する三葉虫。

三葉虫を走り続けさせたいなら、一度おいた寿司は取れないことになる。

使用者は寿司を食べるか、かわいい三葉虫を動かし続けるかの究極の2択を迫られることになるのだ(寿司を「運ばせる」ことが目標なので、要件は満たしたということでよろしくお願いいたします)


三葉虫はかわいい

寿司をとると転倒することはさておき、動く三葉虫を見て胸にこみ上げてきた感情は「かわいい」だった。

三葉虫が現代まで生き残っていたら、人気のペットになっていたかもしれない。あるいは寿司ネタか。

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片付けの最中、ストーブの上に仮置きされる三葉虫。炙りスルメならぬ炙り三葉虫ですね。

 

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