特集 2018年11月8日

現役タクシー運転手に「変なタクシー乗り場」を案内してもらった

エキサイティング品川駅高輪口

「このタクシー乗り場、変だな。どこが変?」と書くと、完全に大喜利のお題だろう。

そもそもタクシー乗り場が変だと思ったことがない。1台も来ないけど本当にここに並んで大丈夫か、ぐらいしか感じたことがない。ほぼ「無」の面持ちで並んでいる。

ところが、数々のタクシー乗り場を知るタクシードライバーにとっては、「ここ変だな」と感じるタクシー乗り場があるらしいのだ。

現役のタクシードライバーに「変なタクシー乗り場」を案内してもらった。
 

1975年宮城県生まれ。元SEでフリーライターというインドア経歴だが、人前でしゃべる場面で緊張しない生態を持つ。主な賞罰はケータイ大喜利レジェンド。路線図が好き。

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タクシーでタクシー乗り場を案内してもらおう

我々はどこから来て、どこへ行くのか。

タクシーもまた、どこから来て、どこへ行くのか。その起点こそがタクシー乗り場だ。言わばオリジン(origin)である。

それはさておき、お知り合いの「ぜつ」さんが、『いま訪れたい 変なタクシー乗り場』という同人誌を作った。ぜつさんは現役のタクシー運転手である。

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客を乗せ、タクシーを転がして暮らしてきた。だけども変なタクシー乗り場に対しては、人一倍敏感であった。

これが面白い。新橋駅やバスタ新宿など、そうそうたるターミナルのタクシー乗り場が「変」だという。

4つもタクシー乗り場があるのに誰もいない国会議事堂前、ボタンを押してタクシーを呼ぶ京成上野、駅とタクシープールが離れている鶯谷……運転手だからこそ知ってる事情が満載である。

タクシー乗り場がこんなことになっていたなんて!早く言ってよ!と拳を握った。これはご本人に直接案内してもらわねばならない。

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ぜつさんにタクシーで来ていただきました。

ぜつさんはこの10月に個人タクシーの運転手になったばかり。ライターとしても活動しており、ジモトぶらぶら散歩マガジン「サンポー」タクシー運転手なのに街歩きをする記事 などを書いている。「ネットメディアと冗談がわかるタクシー運転手」という貴重な人材である。

今日はぜつさんオススメのタクシー乗り場を3つ案内してもらう。その前に、せっかくなのでぜつさんのタクシーをまじまじと見せてもらった。

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「空車」でもない「迎車」でもない、「自家使用」のプレート。個人タクシー事業者は1人で業務用と自家用の車2台を持つのは大変なので、こうして表示すればタクシーを自家用車として使うことが認められている。

今回はぜつさんのご厚意で、貸切営業ではなく「自家使用」として乗せてもらった。わざわざすみません。これって、お客さんを乗せないなら「回送」でもよさそうですが。

「あ、それは法律違反なんです。『回送』を出せるのは休憩、燃料補給、車庫に戻る場合などに限定されていて、道路運送法で条件が定められています。理由のない『回送』は乗車拒否と見なされてしまうので」

そうなのか。ちょっとコンビニ行きたいから、みたいな気軽さで「回送」を出しちゃダメなんだ。

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個人タクシーの「行灯(あんどん)」。真ん中のキャラがかわいい。
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そういえばタクシーって前輪の近くに地名が入ってますよね。

「これは車庫表記ですね。タクシーの車庫があるエリアを明記しないといけないんです。僕は東京23区内と三鷹・武蔵野が営業エリアなので」

他エリアを走ると「よそものだ!」とすぐわかる仕組みである。でも、例えば東京都内から他県までお客さんを乗せることって普通にありますよね。

「出発地点と目的地のどちらかが営業エリアならセーフなんですよ。僕だったら、東京→大宮、大宮→東京はセーフ。大宮→浦和みたいに他エリア内だけで営業すると怒られますね」

出発前からタクシーに対する知識欲が満たされはじめている。あふれる前に先を急ごう。1箇所目は「五反田」だ。

「反対側」にある五反田

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JR五反田駅西口。駅を出てすぐ目の前にタクシー乗り場がある。
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別の角度から。この乗り場のどこが「変」か、わかりますか?

よーく見るとわかる「変」である。タクシーを止めて、お客さんが乗り込む。そのとき開くドアは……。

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タクシーをグルッと回り込まないと乗れない!

歩道と自動ドアが反対側にある!間違い探しみたいなタクシー乗り場だ。 「こんなことになってるのは都内でもここぐらい」と、ぜつさんは言う。

「この道、一方通行なんですよね。なるべく右側に寄せて駐めるんですけど、トランクに荷物を入れたいお客様にあたると大変なんですよ。ドアが少ししか開かないんで、外に出るのもギュウギュウになっちゃって(笑)」

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正面から見たところ。4車線分の広さがあるが一方通行。駅に近いほうにタクシー乗り場があり、道の反対側にはバス停が。

 タクシー乗り場とバス停が逆だったらいいのでは……と、一瞬思ったが、結局バスが止まっても乗降口が歩道と反対側だ。どっちもダメだ。頭が痛くなってきた。

ただ、バスを反対側から回り込んで乗るようになると、後続車にとっては壁(バス)から人が飛び出してくることになるので、交通安全上よくない。じゃぁタクシーで……という苦渋の決断でこうなってるのかもしれない。

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タクシーは横2台分のスペースがある。

「左側のタクシーが車体半分だけ後ろにいますよね。これは『自分はあとから来たのをわかってますよ』アピールです。順番守ってますよ!と」

ぴったり横に並ぶと「こいつ、割り込む気では?」を警戒されてしまう。ご安心を!と「現在地」で意志を伝えているのだ。高度なコミュニケーションである。

たまに順番がわからなくなり、「俺が先?そっちが先?」と身振り手振りで伝えるのも「タクシーあるある」らしい。お互い密室にいるので、あの手この手で意思疎通を図るしかないのだった。

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ちなみに、反対側の東口タクシー乗り場は普通でした。駅からちょっと離れているので西口に比べて客もタクシーも少ない。

個人タクシーは思い立ってもすぐなれない

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次の目的地へ移動。ちなみに今日は「自家使用」なのでタクシープールには入れません。さっきまでコインパーキングに駐めてました。

次の変なタクシー乗り場は「品川駅高輪口」である。ぜつさんのタクシーに乗せてもらって移動した。

そういえば個人タクシーになったら、自腹で新しいタクシーを買うのだろうか。それって大変じゃないですか?

「いえいえ、僕は個人タクシーの権利を譲渡してもらったので、車やメーターなど設備一式を前のオーナーから譲り受けたんですよ」

個人タクシーになるには「新規許可」「権利譲渡」「相続」の3通りの方法がある。しかし、ぜつさんの開業エリアではいま「新規許可」を受け付けていない。個人タクシーを辞める人から権利を譲ってもらうしかないのだそうだ。

さらに、申請には「運転手として10年以上雇用されていたこと」「申請日以前3年間、無違反であること」など条件があり、地理試験にも合格しなければならない。思い立ったらすぐなれるものではない。

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ぜつさんは「過去5年間無事故無違反」をクリアして地理試験が免除になった。「運転手になって最初に受ける試験より、はるかに難しいやつなんです。絶対受けたくないから、前職では運転にメチャクチャ神経使いましたよね(笑)」

「そうだ、井上さんが座ってる助手席、前後にシートが動かないんですよ。前のオーナーは車をいじるのが好きみたいで、いろいろカスタムされてるんですけど、僕全然わからないから直せなくて……」

毎日車を運転しているからといって、車に詳しいとは限らないのだ。わかる。僕も路線図が好きだけど鉄道にそこまで詳しくない。シンパシーを感じる。

「狂乱」の品川駅高輪口

さて、到着したのは品川駅の高輪口である。

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先日プロ野球のドラフト会議が行われた新高輪プリンホテルがある側でお馴染み。

乗り場にはタクシーがたくさん並び、タクシーを待つ人が行列を作っていた。だいぶ繁盛しているなぁと思ったら、ぜつさんは「やっぱり『回ってない』ですね」と言う。

「タクシーもお客さんもたくさんいるじゃないですか。これは、お客さんを乗せる→次のタクシーが来る→お客さんを乗せる……、というサイクルがちゃんと回っていないんです」

いったいどういうことなのか。近くの歩道橋からタクシー乗り場を見てみよう。

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2つの交差点にタクシー乗り場が挟まれている
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上から見るとこんな感じ。

タクシー乗り場から出発しても、目の前の信号が赤だとそこで止まってしまうのだ。

信号が青になっても、右折(東京方面)すると隣の信号待ちをしている車両で詰まってしまう。左折(川崎方面)しようにも、横断歩道を渡る人がメチャクチャ多くて横切るのに時間がかかる。

お客さんを乗せたタクシーが、なかなかこのエリアを離れられない。結果、タクシープールからなかなかタクシーが減らない、という状況が生まれてしまう。

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タクシー乗り場から出てから、右にも左にもなかなか行けない……!

さらに、タクシープールには「降車」のタクシーもやってくる。狭いタクシープールに「乗せる」と「降ろす」が混在し、一般車も入り交じって大パニックになっている。

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基本的にインコーナーが「降ろす」、アウトコーナーが「乗せる」。客を降ろしたら速やかに去るのがルールだが、「たまにそのまま乗り場で乗せる奴がいるんです。マナーがひどい奴はTwitterのタクシークラスタで拡散されています」(ぜつさん)

さらにさらに大変なのが、タクシープールの入口。隣が駅ビルの搬入口になっており、トラックや清掃車両が引っ切りなしに出入りしているのだ。

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この混乱にトラックも参戦。緊急車両の駐車場まである。
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「前が詰まっているので『ここで降りますか?』って聞いたんでしょうね。止まっている間もメーターは上がり続けますから」
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縦に横にと車が入り乱れる。歩道橋の上から「ちょっと行けなんですけど!」「それはいけませんお客様~!」と、しばらくアテレコして遊んでしまった。そういう動画を撮ればよかったと後で思った。
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歩道橋から後ろ(東京方面)を振り返ると、タクシープールに入りたいタクシーが列を作っていた。ここにも暗黙の「順番を守るルール」が存在している。

どうにかしてほしいけど、どうにもならないだろうなぁ……と諦めてしまうタクシー乗り場である。シムシティだったら一回全部壊していると思う。

タクシーのメーターは鉛で封印されている

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再び目的地へ移動します。
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助手席に座っているので目の前にメーターがある。お値段を来たら「相場は10万円」だそう。

移動中、メーターを見ていて気になった。この、左右の下端にある、金属がグルグルしたやつ。なんだろう?

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これ。針金をグルグルしてる。

「これはメーターを鉛で封印してるんですよ」

鉛で封印!? なにか霊的なものを封じているわけでは……。

「年に1回、メーターの検査があるんですよ。ワンメーターの距離が正しく設定されているかなど確認して、合格したらそれ以上いじれないように針金と鉛で封印するんです」

もう、口頭で「不正はダメ」って注意するレベルじゃないのだな、と、封印に至る経緯に思いを馳せてしまう。

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確かに「装置検査済み」のシールが貼られていた。これメーターの検査だったんだ。
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「この鉛のやつ、写真撮って『裁縫で使う糸通しみたい』ってツイートしたことあるんですけど、誰もいいね押してくれなかったんですよね……」わかりますわかります。持つところに女の人が描いてあるやつだ。

メーター以外にもタクシーは点検が多い。車検が年に1回あり、(通常2年に1回)、整備士による点検が3ヶ月に1回義務づけられている。そんなに。

毎日車を走らせるからこそだが、それゆえ自動車保険料も高くついてしまうそう。タクシー業界には、保険料の負担を軽減するための共済まであるという。知らないことばかりだ。

他にもタクシーでお金がかかること、ないですか?

「燃料代ですね。今までは会社持ちでしたけど、個人タクシーは全部自分持ち。その辺の道をなんとなく流すなんて、ガソリンがもったいなくてできないですよ。道を流すタクシーはブルジョワです」

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普段は、一方通行だらけの世田谷区を中心に営業しているぜつさん。車2台がやっとすれ違えるような道でも「こんなの幹線道路ですよ」と余裕の構えだった。

「非公式タクシー乗り場」三軒茶屋

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パッと見どこかわかりづらいですが三軒茶屋です。

最終目的地は「三軒茶屋駅」だった。東急田園都市線で渋谷駅から西へ2駅のところ。

この区間、東急田園都市線は地下を走っており、三軒茶屋駅も地下駅だ。目立った駅舎もなく、タクシー乗り場もない。

「三軒茶屋は国道246号線、世田谷通り、茶沢通りと幹線道路が交差していて、車の往来が激しい場所。結構タクシーを利用する人もいるのですが、乗り場がないので……」

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こういうことになっちゃうわけですね

ぜつさんによると、それでも夜は客待ちをしているタクシーがいるらしい。それもバラバラに待っているのではなく、「横断歩道のそば」など、人がいる場所になんとなく集まってくるそうだ。まるで誘蛾灯である。

とはいえ、今回の目的はあくまで「変なタクシー乗り場」だ。タクシー乗り場、ないんですよね……?

「ないんです。ないんですけど、『タクシー乗り場じゃないけどタクシー乗り場みたい』なところがあって……」

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そんな「非公式タクシー乗り場」みたいなところがあるのか。我々は国道246号線を東京方面に向かった。
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「ここですね」  ここ?
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「駐車禁止」の標識だけど……? 
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あっ!

駐車禁止の場所でも、タクシーの客待ちだけ許されているゾーンがあるのだ。

このゾーンに並んでいるタクシーはルールを守っているタクシーだ。どうか優先的に利用してあげてほしい。

正直者が馬鹿を見ない世界に!


「知っている人」だから見える景色

もうこれから先、タクシー乗り場を見ると、変か変じゃないか確認してしまうだろう。

「知っている人」と「知らない人」では見える光景が違う、という記事がデイリーポータルZにはよくある。「タクシー乗り場」もその仲間入りだ。

全国を探すと、もっとエラいことになっているタクシー乗り場があるに違いない。各地元のタクシードライバーさんに話を聞いてみたい。喜んで話してくれそうな気がする。
 

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タクシーに貼ってある「ちょっとそこまで はいどうぞ」のステッカー、かわいくないですか?
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