なるべく多くの運転手さんから心がぽかぽかする話を聞くために、1人の運転手さんとお話しする時間をワンメーター以内とした。ワンメーター以内でどれだけの「心がぽかぽかする話」を聞けるのか、予想もつかない。急に「心がぽかぽかする話をしてください」と言われても、僕だって困ってしまう。この殺伐としたビジネス社会を生きていると、そう簡単に心がぽかぽかしたりはしないのだ。
しかし、運転手さんは色々なお客さんを乗せていて、色々な人生を垣間みているような気がするのだ。運転手さんだったら1人1つはぽかぽか話を持っているはず、と勝手に決めつけて、早速タクシーを拾う。
しかし、現実は甘くなかった。
合計11名の運転手さんから話を聞いたが、中々ぽかぽかする話を聞き出せない。
運転手さんA
「うーん、私はお客さんと深く話さないタイプだから」
運転手さんB
「怖い話だったら沢山あるんですけどね。怖いって言っても心霊的なことじゃなくて、からまれる系の話ですけど」
運転手さんC
「怖い話だったらあるなぁ。錆びた日本刀で頬を叩かれたりとか」
運転手さんD
「ぽかぽかする話なんてないよ。リストラされた人の話だったら沢山聞くけどね。こないだも甥っ子は東大卒なのにリストラされたって人を乗せたなぁ」
運転手さんE
「ずっと携帯電話で彼女とケンカしている男の人がいましたよ。電話をしながら彼女の家に向かってたんですけど、彼女の家に着いた頃に別れる事が決まったらしくて、そのままさっきの場所まで引き返してくれって。なんだか可哀想だったけど、この話はそんなにぽかぽかしないですよね?」
いくら沢山の人生を運んでいるとはいえ、そうそうぽかぽかするような場面に出くわさないのだ。怖い思いだったり嫌な思いをすることの方が多い、みなさんそうおっしゃっていた。
それでも、5名の運転手さんから心がぽかぽかする話を聞く事が出来た。
すべてワンメーター以内で聞いた、心がぽかぽかする話である。
次ページでそのお話をお伝えします。