タクシー運転手さんのジンクス(デジタルリマスター)

プロスポーツの世界には「2年目のジンクス」という言葉がある。1年目に活躍した選手は決まって2年目に成績不振に陥るらしいのだ。
実際は、2年目もバリバリ活躍する選手も沢山いるし、その因果関係に根拠はない。でも、プロスポーツのような「勝負事」に身を置く人たちは、ジンクスを気にしがちだと思う。
自分なりの縁起担ぎをしている、というような話も良く聞く。負けるまでユニフォームを洗わないとか、スパイクの紐は必ず左からしめるようにしているとか。
ユニフォームを洗わないだけで勝てるんだったら、そんな楽なことはない。ユニフォームを洗ったって勝てる時は勝てる。選手たちもそんな事は重々承知の上で、それでも自分なりの縁起担ぎを大事にしているのだと思う。勝負事には「時の運」みたいなものが大きく影響することがあるからだろう。
で、タクシーの運転手さんも「時の運」を気にしてると思うのだ。たまたま乗せた客が遠距離だったらラッキーだし、その逆もあり得る。お客を選べない分、「時の運」が売り上げに与える影響が大きいように感じる。
そんなタクシー業界のジンクスを集めてみることにした。
※2009年2月に掲載された記事を、AIにより画像を拡大して加筆修正のうえ再掲載しました。
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実際に乗ってジンクスを聞いてみる
出来るだけ多くの運転手さんからジンクスを聞き出すため、ワンメーターずつタクシーを乗り継いで行くことにした。ワンメーターの距離で運転手さんと打ち解けないといけない。これまで磨いてきたタクシー運転手さんとのコミュニケーション能力をフルに発揮していく。

事務所の前で1台目のタクシーを拾い、まずは渋谷から表参道に向かう。渋谷→表参道→外苑前→青山1丁目、と3台のタクシーを乗り継ぎ、帰りも3台に分けて渋谷に戻る。合計6人の運転手さんからジンクスを聞ける計算だ。
1台目のタクシーに乗り込み行き先を告げ、車が動き出して少ししてから運転手さんに質問した。

「今、運転手さんのお話を集めてまして、ちょっといいですか?」
運転手さんはバックミラー越しに僕を見た。一瞬間が空いてから、「なんでしょう?」と聞き返してくれた。
住「あの、タクシー業界のジンクスみたいなもの、あります?」
運転手さん「ジンクス?」
住「ええ、前を霊柩車が走っているとツキが上がる、みたいな」
運「ああ、そういうジンクスですか」
運転手さんは少し考えてから、思い出したようにしゃべり始めた。
運「不思議なんですけどね、ワンメーターのお客の次は必ず次のお客もワンメーターなんです」
最初のジンクスいただきました。ワンメーターの次は必ずワンメーターが続く。
しかしそれは本当だろうか?
信号待ちの間、運転手さんはこの日の業務日誌を見せて説明してくれた。

確かにワンメーターが続いている。僕もワンメーターで降りる予定なので、僕の次もワンメーターのお客が乗ることになるのか?
運「ところがね、これまた不思議なんですけど、ワンメーターが4回以上続くと5回目はロング(遠距離)のお客さんに当たるんですよ」
2つ目のジンクスが出て来た。日誌によると僕は3回目のワンメーターだったので、この後ワンメーターが乗れば、その次は遠距離のお客に当たる可能性がある訳だ。
運「そういうのを、僕たちは『返し』って言ってます」
近場のお客が続いた後に遠距離のお客に当たることを「返し」と呼ぶらしい。
運転手さんは更に話を続ける。
運「これはあまり良い言葉じゃないですけどね、ワンメーターのお客様のこと、仲間内で何て呼んでるか知ってます?」
住「いや、知りません」
運「ゴミって言うんですよ。ひどい話ですけど」
住「ゴミ!」
運「だから、ワンメーターばっかりだった日とか、今日は東京都清掃局だったよ、って言ったりします」
ワンメーターで降りづらくなってしまった。
でもどうだろう? ワンメーターが4回続けば次は遠距離に当たるわけで、ここで僕がワンメーターを越えてしまったらそれが崩れてしまう。
運転手さんのジンクスを尊重して、1台目のタクシーをワンメーターで降りた。
次のタクシーに乗り継ぎます。
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