戦後から続く佐世保のロングセラー
豆乳といえば、こちらの紙パックタイプのものを思い浮かべる方が多いだろう。
しかし、長崎県佐世保市で昔から販売されている豆乳はこちらである。
まず特徴的なのはロケット容器だ。チューチュー棒、チューペット、ボンボン、ポッキンアイス…地域や年代によってさまざまな呼び名があるかもしれないが、あのポキッと折れるアイスを連想してしまう。あと、駄菓子屋で売られていた舌の色が変わっちゃいそうな色をした甘い液体とかを。大人が見れば懐かしさ、子供が見れば物珍しさを覚えるかもしれない。
ここまで書いておいて恥ずかしい話だが、わたしは佐世保豆乳という存在をつい最近知った。「佐世保のご当地ドリンクなんですよ」とふとデイリーポータルZ編集部に投げてみたところ「なにそれ面白い!」となったのだ。そうなのか、豆乳が甘いのは珍しいのか。やはりずっと地方に浸っていると、そういう身近な面白さに鈍感になってしまう。
飲み方を、佐世保豆乳に愛着を持つ佐世保市民に聞いてみた。
歯でクルクルっとちぎって開けて、秒で飲むべし! (30代・サウナサン支配人)
ええー、と思い吸口を見てみると、手で簡単に開く仕様ではないみたい。
パピコなどは開けやすくするため指を引っかけるリンクがついているが、佐世保豆乳はなにもついていない。飲むためには、ワニのデスロールばりに頑張らなくてはならないのだ。
「うん、甘いけどグビグビ飲めるな」
くどい甘さではないのだけど、かすかに舌に残る特徴的な甘さなのだ。
具体的にどれぐらいなのかというと、通常の調整豆乳よりも甘い。果汁で例えるなら「あま~い!」って頬がゆるんじゃうくらいのスイカくらい。ジュースやコーラほどは甘くない。ちなみに甘さの秘密は砂糖と水飴だ(メーカーによって若干異なります)。
甘さのルーツは戦後にさかのぼる
甘いものが少なかった時代、ある豆腐屋※1が子どもたちのために豆乳を砂糖で甘くして飲みやすくしたことから“豆乳を甘くして飲む”ブームに火が付いた。そこからいろんなお豆腐屋のあいだで製品化されるようになり、70年近くのロングセラー商品、佐世保のソウルドリンクとまで呼ばれるようになったというわけだ。かつては5つの製造販売元があったが、現在は朝日食品工業株式会社と大屋食品工業株式会社の2社を残すのみとなっている。
※1 佐世保豆乳の発祥は、昭和14年創業の池田豆腐店(椎木町)とされている。現在は居酒屋として営業中。
ジャンルは「豆乳飲料」、だけど売場は豆腐のとなり
佐世保豆乳は、市内スーパーでは和日配コーナー(豆腐のとなり)に平然と並んでいる。飲料コーナーではないのだ。一応、ジャンルは豆乳飲料ということになっている。
地元スーパー、エレナさせぼ五番街店の豆乳売場担当の檜垣さんにたずねてみると、特に夏場の帰省シーズンが大人気らしい。まとめ買いなどの需要から、売場には三本入りの袋がもりもり並ぶ。懐かしの味を求める人がそれだけ多いということだろう。
檜垣さんが子どもの頃(40年ほど前)、冷蔵庫にあった飲み物の定番はオロナミンC・ヤクルト・佐世保豆乳だったそうだ。どれも強烈な甘さで元気ハツラツにしてくれそうなラインナップである。ちなみに糖度計で測ると、ヤクルトの糖度は19度、オロナミンCの糖度は15度だった。
市場にも豆乳が
戦前から続く佐世保朝市でも、佐世保豆乳が売られている。
もとは、街の川沿いに自然と並び賑わった市で、場所を変えつつ昭和46年に現在の場所へ移ったのだそうだ。
地元生産者による採れたての野菜や魚介などと一緒に、佐世保豆乳も並んでいる。かれこれ50年ほど取り扱ってるよ、と70代の店主が教えてくれた。
豆乳は、かつてはバラ売りから10本ほど袋詰めされていたりと自由に売られていたようである。あたりには販売用のケースが山のように積まれていたという。価格設定も市場ならではで、格安で飲めるコーナーもあったとか。
各地からの商人や買い物客でにぎわった朝市が、佐世保豆乳をより広める発信地となった。
初めて飲み比べをしてみる
そんなわけで佐世保で生まれて34年になるわたしだが、初めて地元のソウルドリンクを飲み比べしてみるのである。高校の時ずっと同じクラスだったけど会話すらしなかった人物と同じ大学になり、こちらから歩み寄るときのむずがゆさ。
現在も佐世保豆乳を作り続けているメーカー2社をたずねた。
朝日食品工業株式会社はスポーツドリンク的にグビグビと
佐世保市万徳町に工場を構える朝日食品工業株式会社は、創業72年になる老舗だ。主に製麺業を営むかたわら、佐世保豆乳も製造している。
朝日食品工業の佐世保豆乳は、すっきりとした甘さが特徴だ。大豆のクセを抑えているため、スポーツドリンクかのごとくグビグビいける。言い過ぎかもしれないが本当だ。
プレーンと並ぶグビグビ要員、市民に長年愛されてきたコーヒーも忘れちゃいけない。また、市の特産品である世知原(せちばる)玉緑茶の微粉末を使用した新フレーバーも登場した。こちらはほっと一息つくような深みのある後味が楽しめる。
かつては商店街として賑わっていた味わい深い通りを進み、近所で人気の饅頭店から小道に曲がる。少し進んでいくと本社に到着だ。
代表取締役の久保さんのお話によると、昭和30年頃はバラ売りをしていたらしい。市内の各商店では、店先に氷水をいっぱいためたバケツを置いて、プカプカ浮かせていたそうだ。
近所の子どもたちが、お小遣いをもって買いに来てはチューチュー吸いながら帰っていったという。やはりおやつ感覚で人気だったようだ。
甘さもはじめと比べると、健康志向など時代のニーズにあわせて控えめになったとのこと。
パッケージに書いてある「大地からの贈り物!」のフレーズがとてもポップで強かったので尋ねてみると、考えたのは先代の社長で、おそらく「大豆は畑のお肉です」からインスピレーションを得たものではないかということだ。
今後も変わらず、昔ながらの良さを貫いていくそう。
朝日食品工業の佐世保豆乳は、佐世保市のふるさと納税の返礼品をはじめ、佐世保市内のスーパーや道の駅などでゲットできるぞ!
大屋食品工業株式会社はしっとり優しい味わい
昭和27年に創業し、豆乳飲料や豆腐の製造、卸売を行っている大屋食品工業株式会社の佐世保豆乳は、大豆の存在感とかすかに感じる生姜の風味が特徴。おばあちゃんからもらったお菓子のような、しっとりした優しい味わいだ。
フレーバーはプレーンのほかにコーヒーとバナナがある。どちらも鼻から吸い込みたくなるくらい香り高く、大豆とマッチしている。おやつ感覚でも。
佐世保市のお隣、東彼杵郡川棚町にある本社兼工場をたずねた。
六代目となる、代表取締役の大屋栄治さんにお話を伺う。
──大屋食品さんの佐世保豆乳は、生姜が入っているのが特徴的ですね。
「はい、豆乳の味は独特なので、飲みやすくするために入れています」
──生姜が苦手な人でも飲める、そっと寄り添うかのようなさわやかさです。コーヒーとバナナフレーバーが生まれたきっかけは?
「6~7年前でしょうか。うちの女性従業員と大豆店さんからのアイデアで生まれました。商品化するまでに一年ほどかかりました」
──佐世保豆乳を使ったレシピが斬新ですね。
「僕もゼリーは作ってみました。あといろんなメニューを試してみましたが、難しいものですね。あと、青汁と混ぜて飲んでみましたが、なんと豆乳の味が勝つというとても意外な結果になりました」
──大豆の底力を見た気がします。
「も、もしよろしければ、工場見学なんて…。突然すぎますよね」とおそるおそる尋ねたところ、「いいですよ!」と快諾していただいた。ヤッター!見えないところでこっそりガッツポーズをした。
なんと、ちょうど豆乳をつくる様子を見せていただけることに。グッドタイミングだ。
興奮でつい言葉が駆け足になってしまったが、豪快かつ美しい製造過程だった。特に、豆乳がシズル感たっぷりに容器にヂューヂュー充填されていくさまはずっと見ていても飽きない。
──大屋食品工業さんでは、当初からこの容器で販売されているんですか?
「いえ、はじめは袋豆腐の容器を使っていました。その後、当時の設備にぴったりなロケット型容器を提案されて今に至りますね。使用したのはうちが初めてだと、先代から伺ってますよ」
──おお、チューチュースタイルの元祖。あと、「袋豆腐」は聞きなれないワードですね。
現在の角型容器の前身だったみたい。
大屋食品工業の佐世保豆乳は、川棚町のふるさと納税の返礼品をはじめ、九州フェアや楽天市場などのネットショップでも手に入れることができるそうなので、気になる方はチェックしてみてほしい。
「佐世保」はあとづけ
長年販売され続けている佐世保豆乳だが、はじめからそうだったのだろうか。「これは佐世保のもんじゃい!」と意気込んで作ったものだったのだろうか。
メーカー2社にたずねてみると、テレビなどの影響で“甘い豆乳=佐世保の豆乳”という認知度が高まったため、「佐世保」の文字をパッケージに入れたというとても興味深い返事がかえってきた。
戦後、ある豆腐屋がはじめた砂糖入りの豆乳は、新しい味わい方として佐世保や近郊の地域に広まり定着していったのだ。その味わい方に「佐世保」の名がついたのは、きっと外からの視点があったおかげである。
ご当地ドリンクあるある?
きっと皆さんの地元にも、ご当地ドリンクはあるだろう。「知ってる!美味い!自慢できる!」と胸を張れるひともいれば、わたしのように今更ながら知ってしまうひとも少なくないはずだ。
さいごに、佐世保豆乳と私というテーマでいろんなコメントを集めてみた。年代が偏りまくっているのはどうか大目にみていただきたい。
プレーンもコーヒーも好き。豆腐コーナーで目に入るとつい買っちゃう。(30代)
全然飲んだことがない。佐世保を出てから知りました。(30代)
小学生以来飲んでない。当時はプレーン一択だった。てか、いつから佐世保豆乳なんて名前付いたの? (30代)
豆乳=甘いものだと思ってたから、上京して豆乳飲んだときビックリした! (30代)
比類なきソウルフード。あの味に代わるものはない。帰省したら必ず飲む。容器がいろはす並みにソフトだけど、あれじゃないと飲んだ気がしない。(30代)
子どもの頃冷蔵庫に入ってた。コーヒーと混ぜても良いし、牛乳代わりにお菓子つくりに使うと優しい味になる。凍らせて練乳かけると糖分悪魔の所業的おいしさに!福岡出身の夫からは、「佐世保は豆乳まで甘くて怖い」と言われた。(40代)
仕事終わりにはキンキンに冷やした佐世保豆乳をいつも飲んでる。ビール代わり。(50代)
わたしの周りはけっこう好きなひとが多めだった。高齢のひとほど佐世保豆乳の認知度は高かったが、それでもやはり存在を知らないひとはいるし「好きでずっと飲んでるけど、そんな名前だったの?」と笑うひともいる。
また話は遡るが、終戦後に、佐世保の港に降り立った満州からの引き揚げ者たちに温かい佐世保豆乳がふるまわれていたということがあり、この味が生涯忘れられない高齢者も多いと耳にした。皆さんのご当地ドリンクはいかがだろうか。
甘いはうまいって北大路魯山人も言ってた
長崎は砂糖の消費量が全国のなかでも多いという(最近は長野県が一位。トマトに砂糖をかけるってホント?)。長崎と佐世保は文化圏がやや違うため、「長崎の甘いの代表格といえばカステラでしょ!」と言われれば「そうだね」と答えるがどことなく他人事だ(佐世保には「ぽると」という、カステラと並ぶほどの甘い銘菓がある)。
しかし醤油や、マヨネーズ(サンドイッチやバーガーの)の甘さは慣れ親しんだ味であるため、愛をもって「そんなもんだよ」と言うことができる。いまさら「甘い」と考えることもないのだ。
九州の醤油なんかは、遠く離れた故郷のママに仕送りしてもらう九州人も多いと聞く。これじゃなきゃ刺身が食えんのです。刺身が。
皆さんの地元のある意外に甘いもの、よかったら教えてください。
取材協力:
朝日食品工業株式会社
大屋食品工業株式会社
エレナさせぼ五番街店