いしてっ
鹿児島の友人から聞いた方言のなかでもっとも好きだったのが「いしてっ!」という言葉だ。”主に汚い液体が急にかかったとき”だけ使う言葉らしい。生きていて、そんなに汚い液体が急に飛んでくる機会があるだろうか。
どうにかこの2泊3日のあいだで「いしてっ」を聞きたい…と聞き耳を立てていたが、最後までその機会はなかった。
先日マサイキリンに会いに鹿児島へ行ってきた。はじめての鹿児島だ、せっかくなら他にも観光をしてみたい。
いろんなひとに「鹿児島でオススメありますか」と訊いて回ったところ「定番だがかき氷の白熊はどうか」という意見を多数もらった。意外とまだこのサイトでもメインで記事にはなっていないようだ。
調べてみたところ白熊以外にも最近ではいろんな色の熊が展開されているらしい。いいじゃないか、キリンの記事の次はシロクマ。ハナウタ動物園である。
今回の旅では結果的に4色の熊を、5杯食べることができた。白、黄色、黒、黒、赤。黒がだぶっている理由は本編でまた…。
※白熊、白くま、しろくまなど様々な表記があるが、ここでは現地で最も多かった「白熊」の表記に統一する
時は9月末。今年は一気に夏がシャットダウンされ、都心では早くも長袖を羽織り始めた頃。こんな時期にかき氷?と思うなかれ、鹿児島はまだまだ完全に夏真っ盛りだ。
鹿児島県民いわく4月から11月までは半袖で過ごすとのこと。そりゃあかき氷文化が熟成されるものである。
鹿児島名物白熊を語るうえで避けては通れない店がある。それが白熊発祥の地である「天文館むじゃき」だ。
現地の人の”ウラ技”いわく「2階なら空いてます!」とのこと。なるほど、確かに1階の喫茶店は躊躇うほどの行列ができていたが2階はすぐに席に着くことができた。ありがとう現地の人…!
写真でわかるだろうか。もっとおしゃれな雰囲気なのかと思ったら完全に"古き良き洋食屋"の様相。居心地が良い。
ちょっと待って、この店で何色も熊が揃ってしまうではないか。一瞬で閉じて見なかったことにする。白熊です、白熊をお願いします。
レギュラーサイズにしようかとも思ったけど、これから何食もかき氷を食べるのである、無理はしないほうがいい。ここは意地を張るところではないのだハナウタ…と言い聞かせベビーサイズを選んだ。充分大きいな?
練乳味と聞いていたのでもう少し甘くて重たいのかと思っていたのだけれど、そこは土台が氷である。うまく緩和されて嫌味なくスッと食べられる。この練乳が自家製とのこと。や、単純にこの練乳がうまいんだな。うまい。
隣の席には地元民らしきキャップを被ったおじいちゃん二人。ずっと楽しそうに笑っているので少し聞き耳を立ててみたけれど本当に会話が聞き取れない。途中で野球の話が挟まったことしかわからない(片方がカープファンらしい)。すごいぞ興奮するぞ鹿児島弁。
ひとりは白熊、ひとりはカレーライスを食べていた。彼らの日常の中に白熊があるのだなぁと思う。
一方白熊はずっと美味しい。
バナナ、パイン、メロン、ぶどう、マンゴー、寒天ゼリー、レーズン、チェリー 、何らかの白い豆。果物のアクセントがうれしい。このトッピングは季節によって変わるらしい。
そしてやっぱりこの練乳だなー、この練乳を売ってほしい。
隣ではカレーライスを食べ終えたおじいちゃんが白熊を頼んでいた。結局ふたりとも食べるのか。
夜に近くを通った際も別のおじいちゃんたちが「白熊食べよう」と話をしていたり、4階の居酒屋へ向かって「10人入れますか」など明らかに普段使いのひとたちがいたり、鹿児島の人たちになくてはならない店なのかなと感じた。ちょっと、観光客向けの店なのかと穿った見方をしていたけれど、全然違ったのだ、いいぞいいぞ白熊!
白をクリアしたぞ、次は何色だ!と勇んで向かうは、歩いて数分のところにある「cafe 彼女の家」。ここで食べられる熊が…
「cafe彼女の家」という店名と若干ちぐはぐな外観は、なんとなく中華料理屋を彷彿させる。
彼女の家にはじめて行って、このサイズのスピーカーが並んでいたら少し身構えるな。内装は純喫茶のようで、外観ともまた異なり不思議なバランスだ。
まぁそんなことは良いのだ。この店では黄色い熊を食べるのだ。
何せ明日はマサイキリンに会いに行くのだ。無理をしない自分は一番小さいハンディ黄熊を頼む。
やっぱり大きいのだ。ハンディとは、手とは。
鹿児島のひとだけ手が大きいのだろうか。
まぁ大きいことはいいことなので早速食べる。この距離でも香るこの黄色い果物の正体はマンゴー。ちょうど台湾のかき氷がイメージとして近いだろうか。
先ほどの白熊と打って変わって濃い。ドロっとしたマンゴーのシロップが奥まで染み込んでいるのだ。
クーリッシュというアイスのマンゴー味がとても好きだったのだけど、あれにマンゴーのぶつ切りを加えてさらに高級感を出したような、そんな感じだ。
ただ、濃いまま進むので多少飽きもくるなぁ、と奥の方まで食べたところでバナナが数切れ入っていた。ありがとう変化のバナナ!うれしい。もっと入っていても良いぞ。今回の旅で一番「スイーツ!」という感じを出していたのが黄熊だった。
帰り際店員さんに「他の色の熊を出す店ってありますか」と訊いたところ「黒い熊がいますね」とのこと。黒い熊、なんだろう、イカスミかな。
ところで鹿児島の都心は路面電車で移動するのだけど、
これは最後まで怖かった。
黒い熊の存在を把握したが、ここらでちょっと中心街を離れよう。天文館通から路面電車で30分ほど揺られたところに赤い熊がいるらしいのだ。
沿道は上の写真のような具合でずっと南国を思わす樹木が立ち並ぶ。駅から少し距離のあるこのIL MOLEという店は、グリルの美味しそうなリゾートレストランだ。
ここで食べられるのがドラゴンフルーツを使った赤熊。だったはずだが。
貸切だった。またのご来店をお待ちされてしまった。
ひとり旅なのでずっと無言で移動していたけど、その上で絶句した。静寂に静寂が重なった。いやーでもなー、披露宴はめでたいからなー。仕方ないよなー。
落ち込んでいるわけにもいかないぞ、すっかり日も暮れていたがもう1熊したい。先ほどの黄熊の店員さんの言葉を思い出す。そうだ、黒熊だ。
這々の体で店を移して「カジュアルレストラン まき」へ。ここもまた駅からは離れた場所にある。連日歩数は25,000歩を超えた。
鹿児島には外装と内装の雰囲気を変えなくてはいけないというルールでもあるのだろうか。ここでは「元祖 氷黒熊」が食べられるとのこと。
当然巨大な熊が出てくる。もう大きいのには慣れてきた。
黒熊の”黒”の正体はコーヒーだ。白熊の練乳にコーヒーの苦味を加えることで口当たりがとてもいい。コーヒー好きにはうれしい。とはいえ2本刺さったポッキーがビターに感じる程度には甘い。甘いコーヒー好きにはうれしい。
寄りの写真を見てもわかるだろう。氷がふわっふわだ。これはどこの白熊についても共通なのだけど、まあ氷がきめ細やかだ。いいかい、ふわっふわなのさ。
底に残った甘いミルクコーヒーをストローで飲み干して完食。マスターも人懐こく、会計時に親しげに話しかけてくれた。トータルすると「うちのかき氷が一番」という話だった。
今日は白、黄、黒の3色を食べることができた。明日も食べよう、亜種白熊。
日は変わって市役所前駅。だいぶ路面電車にも慣れてきた。西郷隆盛像の近くにあるこの店は「SANDECO COFFEE 数学カフェ」。
そしてここで食べられる白熊というのが、3Dだというのだ。はて、今までの白熊もだいぶ立体感のある盛り付けだったが、3Dとは?
3Dだ。かわいい、これはインスタグラムのやつだ!
想像の通り、この店には女の子とカップルしかいない。キャップをかぶったおじいちゃんはどこにもいないのだ。そわそわしてあまり写真が撮れなかった。
耳のパインを凍らせてより白熊の色に近づけているなど強いこだわりを感じる。味は練乳味とチャイ味が選べる。チャイ味を選ぶ、チャイが好きだから。
で、見た目のかわいさに油断していたけどこれがかなりおいしい。この白さに混じる茶色い粒はどうやらスパイスのようだ。練乳の甘さの中にスパイスの辛みとシナモンの香り…どの白熊をもう一度食べたいか訊かれたらこれかも、というレベルで好きだ。いや、むじゃきの白熊も良かったな。どっちかです。
忘れてはならないのが、味に変化をつけられる追いコーヒー。
そう、これをかけることにより”茶熊”になるとインターネットに書いてあった…と思って店内のメニューを見たら”黒熊になります”の文字。あれ?
まとめサイトを鵜呑みにしてはいけないものである(言い訳をすると公式サイトがなかったのだ)。まぁでも個人的に美味しかったからいいのだ。
ちなみに「料理を待っている間に、数学の問題が解けるよ!」というアトラクション的な情報もあったのだけど、これも今はやっていないらしい。まとめサイトよ。
さて、3Dの白熊を食べ終えたあとは編集長の林さんと合流してキリンの取材を敢行。夕方になり、どこか行きたいとこあるか、記事なら手伝うよとのこと。
林さん、赤い熊、リベンジさせてください。
というわけで旅の最後に、昨日断念したIL MOLEへ再挑戦することにした。事前に店舗へ連絡し、今日は営業していることを確認。同じ轍は踏みたくない。
ようやく中へ入ることができた。それにしてもここまでまわった店が洋食屋、純喫茶、アメリカンダイナー、おしゃれカフェ、リゾートレストランとどれも趣が異なるのが面白いなと思う。
着くなり、林さんからかき氷のガリガリした食感が苦手だという事実を打ち明けられる。え、大丈夫ですか。
見るからにリゾート感満載のパインやメロンといったフルーツ選びで一番派手な亜種白熊だ。ほどよい酸味と甘さが取材終わりの身体にうれしい。この酸味がドラゴンフルーツなのだろうか、はじめて食べるから自信がないが。
ママ熊、緑茶シロップを使った和の白熊だ。緑茶を使っているし勝手にこれを緑熊としたいところだけど、名前を冠していない以上ここはスルーするのが大人というものである、惜しいが。
林さんの”ガリガリ嫌い”を懸念していたが、この氷なら食べられるとのこと。そう、白熊の氷はどこもふわっふわなのだ。
それにしても、ここもまた女性客が多い。赤熊のキャッチフレーズは「美容と健康に嬉しい一品」だ。まぁ…美しくないより美しいほうがいいから…。
ここの白熊たちは夏季限定のメニューとのことなので、食べられる時期と披露宴にご留意ください。今年は10月末までの提供とのこと(すみません、かなり差し迫ってますね)。
というわけで白熊をたらふく食べた。欲を言えば、青熊とかピンク熊とかカラフルな熊がいたらさらに華やいだと思うが、今回の成果はここまでだ。氷菓白熊の誕生からおよそ70年(諸説あり)、ここから先白熊はどう進化してくのか、注目していきたい。
鹿児島の友人から聞いた方言のなかでもっとも好きだったのが「いしてっ!」という言葉だ。”主に汚い液体が急にかかったとき”だけ使う言葉らしい。生きていて、そんなに汚い液体が急に飛んでくる機会があるだろうか。
どうにかこの2泊3日のあいだで「いしてっ」を聞きたい…と聞き耳を立てていたが、最後までその機会はなかった。
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