特集 2018年10月8日

日本に7頭しかいないマサイキリンに会いに鹿児島へ

大変いい思いをさせてもらいました
大変いい思いをさせてもらいました
マサイキリンというキリンの種類をご存知だろうか。
2018年10月現在、日本の動物園において7頭しか飼育されていないという希少な種だ。しかもそのうち6頭は九州にいるのだという。

一度この目でマサイキリンを見てみたい。さらには飼育係の方から話を聞いてみたい。そう思い立って、鹿児島へ行ってきた。
埼玉生まれ、神奈川育ち、東京在住。会社員。好きなキリンはアミメキリンです。右足ばかり靴のかかとがすり減ります。

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あなたはマサイキリンを見たことがありますか

キリンが好きだ。

スタイリッシュな身体のフォルム、”めちゃくちゃ背が高い”というわかりやすいキャラの立ち方、クリーム色と茶色の特徴的な模様、大きな目。青空に一番映える動物は間違いなくキリンだと思う。グッドデザイン賞をあげたい。
左は4歳の頃の筆者が描いたキリン、右は17歳の頃描いたキリン。そう、キリンが好きだ
左は4歳の頃の筆者が描いたキリン、右は17歳の頃描いたキリン。そう、キリンが好きだ
「キリンさんが好きです、でもゾウさんのほうがもっと好きです」というCMがあったが、ゾウの踏み台にされるキリンが心底不憫でならなかった。

で、突然だが質問である。

「あなたはキリンを見たことがありますか?」

こう訊かれたらほとんどのひとはYESと答えると思う。では質問を少し変えよう。

「あなたはマサイキリンを見たことがありますか?」

自信を持って首を縦に振るひとはぐっと減ると思う。実は自分もマサイキリンを見たことがなかった。今まで見てきたキリンはすべてアミメキリンという種だったのだ。

何せマサイキリンの7頭に対し、アミメキリンは日本に160頭以上いるらしい。
キリンと言われてぱっと思いつく姿は多分アミメキリンのはず。これは金沢動物園のアミメキリン
キリンと言われてぱっと思いつく姿は多分アミメキリンのはず。これは金沢動物園のアミメキリン
「キリンの種類とか興味ないな」という方もいるかもしれないが、ちょっとここらへんキリン界では熱い話題なのではじめに説明しておきたい。

キリンの種類が判明したのはつい2年前のこと

そもそもキリンは最近まで1種類の「キリン」という種であり、その中に「9~12種類ほどの亜種が存在している」と思われてきた。
これまで考えられていた「キリン」という括りの中の9亜種。ここにコルドファンキリンなどを含め12種と考える説もある
これまで考えられていた「キリン」という括りの中の9亜種。ここにコルドファンキリンなどを含め12種と考える説もある
しかし2016年、それを覆す事実が判明する。「キリン、実は4種いるぞ!」という研究結果が出たのだ。DNAを調べていくうちにそれこそ「ヒグマとホッキョクグマくらい違う」ほど彼らの間に遺伝子上の違いがあることが分かったのである。
新分類。この4種のあいだでは野生の環境では交雑もしないとのこと
新分類。この4種のあいだでは野生の環境では交雑もしないとのこと
おまけ、終わり
おまけ、終わり
とにもかくにも、メジャーなわりにキリンの研究者は少ないらしくまだまだ解明されていないことは多いのだとか。

マサイキリンがどこにいるか調べよう

ではマサイキリンはどこにいるのか。こういったときに役立つのが「日本動物園水族館協会」webサイト内の「飼育動物検索」である。
見たい動物を検索すると飼育されている動物園が表示される素敵なサイト
見たい動物を検索すると飼育されている動物園が表示される素敵なサイト
検索をするとアミメキリンが全国の45園で育てられているのに対し、マサイキリンは4園にしかいないことがわかる。鹿児島、熊本、宮崎、徳島。そう、本州や北海道には1頭もおらず、九州と四国でのみ飼育されているのだ。さらに言うと四国には1頭存在するのみなのでほとんどのマサイキリンが九州に存在することになる。

なぜ九州に固まっているのか、話を聞いてみたい、そしてマサイキリンをこの目で見てみたい。ならば行くしかない、目指すはいま日本で最もマサイキリンの多い動物園、鹿児島市平川動物公園だ!

キリンを求めて約250里

というわけでようやく本題である。

直線距離にして1,000kmほど南下して鹿児島へやってきた。9月下旬でありながらこの日も気温は31度。南へ来たのだなぁと実感させられる蒸し暑さだ。
はるばる来たぜ鹿児島(はじめて来た)
はるばる来たぜ鹿児島(はじめて来た)
いきなりキリンに会う前にしっかり背景をお伺いしよう。

話をしてくださったのはキリン飼育係の田邊さん、教育普及係の落合さん、プライベートでケニアにキリンを見にいくほどキリン好きの獣医師、伊藤さんの3名。

こちらは北向ハナウタとウェブマスターの林さんでお送りします。
左から筆者、落合さん、田邊さん、伊藤さん
左から筆者、落合さん、田邊さん、伊藤さん
田邊さんの「飲み物は(お茶じゃなくて)焼酎の方が良かったですか」という鹿児島らしいもてなしからスタート。

そもそもマサイキリンって?

自分はキリンが好きなのですがアミメキリンしか見たことがなく…ぜひマサイキリンを見てみたいと思い今回お伺いしました。
マサイキリンとアミメキリンって体格も違うんですか。
マサイの方がオスでいうと0.5~1mくらい大きいですね。
アミメはほっそりした印象がありますね。柄のせいもあるかもしれませんが。
白の部分が少ないので遠目にキュッと見える。
キリンだったら1mくらい誤差なのでは?
林さん、さすがに1mの差は大きいと思います。

それと、今回平川動物公園の方々がマサイキリンのことを「マサイ」、アミメキリンのことを「アミメ」と呼んでいたため、そのまま表記していく。
自分は鹿児島から出たことなかったので、”キリン”といえばマサイなんですよ。だからアミメを見たときに「全然違う!」と思いましたね。キリンとは思わないレベル。
キリンとは思わないレベル!
私は千葉に住んでいて逆にアミメしか見たことなかったのでマサイに憧れがありました。
雰囲気も違いますし、見てて別の生き物と感じます。
すごい、別の生き物と感じるほど違うものなのか。

伊藤さんのキリン愛は相当なもので、キリンが近くにいる獣医大を受け、キリンのいる動物園を探してこの平川動物公園へ就職したという経歴の持ち主だ。
メガネもキリン柄。愛が強い
メガネもキリン柄。愛が強い
ちなみに上の柄はアミメ。あとで実物の写真をお見せするけれど、マサイはもっとランダムな柄をしているのだ。

なぜマサイキリンは九州に固まっているのか?

全国で160頭を超えるキリンがいると思うのですが、マサイは7頭なんです。
こちらの動物園に3頭?
そうですね、お父さん、お母さんとその子どもです。
7頭中の3頭。実に日本の動物園の半数近いマサイキリンがここにいることになる。

話題は気になっていた「なぜマサイキリンが九州に?問題」へ。まず特定の地域に同じ種が固まっていることについて。
推測もありますが…隣県だとその動物の情報を得やすいですし、近くの動物園であれば繁殖においてもBLが結びやすいんです。
BLってなんですか?
ブリーディングローン (Breeding Loan) のことです。繁殖を目的として動物を貸し出すもので、動物園同士で契約を設けて数年ごとに更新されていきます。
サッカーで言うところのレンタル契約みたいなものだ。購入費をかけずに新しい血統を取り入れられるメリットなどがあるとのこと。BL、Boys Loveしか聞いたことなかった。
キリンの移動って大変なので、それもあると思います。
キリンってどうやって運ぶんですか?
専用の輸送箱に入れて、首を斜めにして運んでいます。
大きくなってからは輸送が困難なので、理想としては2歳までですね。
実際の輸送の様子。キリンの負担にならないように一定時間ごとに首を伸ばせるよう工夫されている(写真提供:平川動物公園)
実際の輸送の様子。キリンの負担にならないように一定時間ごとに首を伸ばせるよう工夫されている(写真提供:平川動物公園)
外国から入ってきたときに日本各地で「マサイ入れたい!」「うちも!」と受け入れてしまうと動物の移動が大変なので、そういう理由があると聞いたことがあります。
特に気候が暖かいからとかそういうことではないようだ(アミメであれば北海道にもいるし)。

つまりはマサイがはじめて外国から入るぞ、というタイミングで手を挙げたのが九州一帯だったのではないか、ということらしい。
キリンは慎重というか、なかなか新しい環境に馴染みづらいとテレビで見たことあります。
箱から出るのも怖がりますし、しばらくは群れからも離して様子を見ます。段階を踏んで。慎重という点ではどの動物でもある程度そうなんですけど。
キリンの慎重さについてはこのあとにも触れていく。当たり前だけど、生き物を育てるのって易しいものじゃない
キリンの慎重さについてはこのあとにも触れていく。当たり前だけど、生き物を育てるのって易しいものじゃない

もっとマサイキリンを推してもいいのでは

ところで平川動物公園はマサイキリンが日本でもっとも多い動物園なのに、特に推されている気配もない。東京から押しかけた自分としてはもっとアピールしてもいいのでは、と思うのだけど…。
2016年にキリンの種類が分かれたのですが、これまでずっと「キリン」という名前で展示をしていたので、うちはマサイがいるんだよ!というのは推してこなかったですね。
なるほど、ここで冒頭の「キリン、4種と判明」の話に繋がるのだ。
百数十頭いるなかで7頭しかいないのであれば、広報としてはもうちょっと推してもいいかもしれないですね。
いま(平川動物公園の)秋の動物公園まつり期間で「好きな動物にエサをあげよう」というイベントを実施しており、当日の開園後から整理券を配布しているのですが、開園前からずらーっと並ぶくらい人気です。中でもキツネザルとキリンは人気ですね。
エサやり!それは確かに人気が出るだろうな。

キリンを育てるための世界的なガイドラインを見せていただいたりしながら、キリンが自分たちの部屋に戻る時間が近づいたため外へ移動することに。

さあ、いよいよマサイキリンとの対面だ!

マサイキリンとキリマンジャロと

連れられてきたのは、この動物園でも推しているアフリカの動物たちを混合展示しているエリア。キリンと一緒にシロサイやダチョウが広いエリアで飼育されている。

へーっと思ったのが、背景に見える桜島をアフリカのキリマンジャロに見立てているのだという話。鹿児島ならではの粋な借景である。
その日はうっすらとキリマンジャロ、もとい桜島。この立地でしかできない贅沢な展示だ
その日はうっすらとキリマンジャロ、もとい桜島。この立地でしかできない贅沢な展示だ
そしてすっと奥に目を配ると…
いたー!わかりますか、2頭いる!
いたー!わかりますか、2頭いる!
遠くにいた!

時間は15時45分。だいたいこの時間になるとこの奥の寝室への通路の近くにいるらしい。

ちょっとさすがに遠いなーとカメラを構えていたら、「エサをあげにいきましょう」との提案が。えっ、いいんですか!
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