特集 2023年12月6日

デッカい船が、ドカーンと着水!進水式は楽しい

わたしのささやかな趣味の一つに、船の進水式を観に行くというのがあります。デッカいものがドカーンと動く!というエンタテインメントの原型がここにあります。

海外旅行とピクニック、あとビールが好き。なで肩が過ぎるので、サラリーマンのくせに側頭部と肩で受話器をホールドするやつができない。

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進水式を探そう

船があらかた完成したタイミングで関係者を集め、船を初めて水に浮べる瞬間を祝う儀式。それが進水式である。華やかに飾り付けられた客船や貨物船が、船台から滑り降り、バーンと着水する映像をテレビやSNSで見たことがある人は、多いと思う。あるいは子どものとき、船のおもちゃで進水式のまねごとをしたという人もいるかもしれない。

ただ、ひょっとしてだけど、進水式がカジュアルに一般参加できるイベントであるということまでは、あまり知られていないのかも。

進水式の例。船が動き出すのは1:10頃から

実はありがたいことに、一般に公開されている進水式というのは、探せば全国各地にけっこうある。特に造船業のメッカである瀬戸内海では頻繁に進水式が執り行われており、毎月どこかしらで船が産声をあげる様子をみることができる。

以下の3つの造船会社は定期的に進水式を一般公開していて、こまめにウェブサイトで情報更新があるのでおすすめです。

尾道造船:https://onozo.co.jp/ja/ceremony
常石造船:https://www.tsuneishi.co.jp/launch/
内海造船:https://www.naikaizosen.co.jp/launching/

残念ながら業界全体としては、写真のような「ドック」と呼ばれる水槽の中で建造する方式が主流で、船台で船を建造する造船所は少なくなっているのだそう。寂しい…
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進水式に行こう

ここからは広島県尾道市にある尾道造船さんをモデルケースとして、進水式の魅力をご紹介したいと思う。

スタイリッシュだなー尾道駅

わかりますよ。東京の人が尾道までいくのは、そう気軽な話ではない(東京物語の時代からそうだ)。でもほら、そこは尾道なので。風光明媚なしまなみ海道や、歴史を感じさせる街並みを観光しながら、ついでに進水式も覗いてみるくらいのスタンスで臨むとちょうどいい。

ちなみに筆者の住む大阪からは、ギリ日帰り圏内なので遊びに行きやすい。写真はただ歩いているだけで楽しい小路
街全体が、海や船舶との距離感が近いのが嬉しい
尾道ラーメン、麺が独特でおいしいね

 
尾道駅から造船所までは便利なバスも出ているけど、ゆっくり歩けば1時間。ぶらぶらと海を見ながら街歩きするにはちょうどいい距離だ。

尾道造船所の正面玄関。徒歩で、バスで、自家用車でぞろぞろと人が集まってきている

ここで一つポイントを。時間には余裕をもって、開始30分前には造船所に到着しておきたい。式典が始まるまでのあいだ、船の周囲を歩きながら造船所内を見て回る時間もまた、すごく楽しいのだ。

いまどき、いろんな業界の企業が力を入れているので工場見学自体は珍しくもないけど、これだけ大きな工業製品を作っている工場は、他にない。なんか、見たことないくらいでっかい鉄塊がしれっと置いてあってそれだけでドキドキできるのだ。

たぶん、船の外殻の一部なのだろう。こういうかたまりをレゴブロックみたいに組み付けていって船になるんだなあ
働くクルマもたくさん走っていて、キッズ大興奮。でも安全上、決められたルートからはみ出さないように注意だぜ
お、真正面に見えるのが今日の主役、お誕生日を迎える船!旗や紅白幕で飾り付けられ、へさきにはクス玉もぶら下げてある
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進水式に圧倒されよう

進水式の見学エリアは、二つに分かれている。下図の長細い緑色が船体で、左右それぞれに見学場所がある。

進水式では船のお尻から着水する。そのほうが船体へのダメージがないらしい

 係の人によれば、見学場所①は海側に近く、ダイナミックに目の前を船が通過していくところが見どころ。②は船首側で支綱切断(後述)の様子が見やすく、船の動き始めから着水までをずっと眺めていられるのが特徴とのこと。うむ、悩ましい二択だ。

「そびえる」という日本語は、こういう景色のためにある。けっきょく見学場所②に陣取ることにした
ごついカメラを構えた先輩たちの隙間に、お邪魔させてもらう

いまさら言うのも恥ずかしい明白な事実だけど、船って超でかいんですね。この日、晴れ舞台にあがる船は全長約180m、型幅32mだという。サイズ感がよくつかめないので180mくらいの人工物を探してみたら、渋谷のヒカリエ(35階建て)の高さがちょうど同じくらいらしい。

そういう巨大構造物が滑り台(船台)をずりずりと下って、海に着水する。驚きを通り越してなんかちょっと怖い気がしてきた。

 

へー、人も乗り込んでるんだなと思って撮影してみたけど、当たり前か。だって着水したあと誰が操船するんだという話だ
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進水式を愛そう

写真中央、紅白幕で囲われたステージが来賓用のVIPシート

定刻となり、いよいよ進水式が始まる。が、しかし始めのうちは静かなものである。場内アナウンスによれば、開会挨拶や船の命名式などが行われているらしいけど、地上の見学場所からは何をしているのかはさっぱり見えない。式典はもっぱら、来賓用のVIP席で執り行われているのだ。

いつの日かあの、一段高い特等席から進水式を見てみたい。つまり船の発注者になればいいのか。たくさん金を貯めないとな…
地上では、まだ?まだ進水しない?と待ちわびる声が

10分ほどして「それでは支綱、ご切断です」とアナウンスが造船所に響く。これが進水式のクライマックスを告げる合図である。支綱切断。つまり文字通り、船を支えている綱を斧で断ち切り、船は海に向けて進み始める。それまでゆったりのんびりした空気がただよっていた見学者たちが、色めき立つ。いざ進水である。

(コマ送りの都合上、実際よりも早いスピードで滑っているように見えています)

楽団の音楽、くす玉、花火!トラディショナルな豪華演出の3点セットに見送られ、船は滑り出した。こうなるとあとはもう、あっという間だ。するすると船台を滑り降り、無事に着水。観客からは大きな拍手が巻き起こる。

これは、別の日に見学場所①から撮影したもの

 この光景には、自然に「おお…」と声が出てしまう。デッカい物体が、壮麗な音楽に合わせてドドドーンと動いていくさまを大勢で見守るというのは、「原初の祭り!!」という感じがして大いに心躍るものだ。

いやー、これはいいものを見たなーと思いながらの帰り道。お隣にはベビーカーを押す地元のママ友集団がいた。その中にひとり、最近になって尾道に転居してきた人が初参加しているらしい。しきりに大きかった!すごかった!と繰り返し、周囲のママ友たちは誇らしげに頷いていた。

ふと、この人たちのご家族には、造船所で働いている人がいるのかもとなんとなく思った。そうだとしたら、進水式は家族の仕事場を知る場としても機能しているわけで、そんなのいつまでも無くならないでほしいじゃん…とますます進水式が好きになってしまった。


祭りのあとも祭りだ

毎回ではないものの、進水式のあとにはさらなるお楽しみが用意されていることがある。餅まきである。家を新築するときに近隣の方に向けてお餅やお菓子などを景気よくばら撒くやつだ。昔から進水式につきもののイベントなのだそう。

前線ではエキサイティングな争奪戦が

地域の子どもたちにとってはめちゃくちゃ嬉しいイベントだろうな…と思って見守っていたら大人たちもまあまあ気合いが入っている。

控えめに後方待機していたのだけど、たまたま足元に転がってきたクジを拾ったら普通にいい地酒がもらえてしまった。なるほどこれは気合いが入るわけだ!

<取材協力>

尾道造船株式会社
https://onozo.co.jp/ja/
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