渋谷駅の立体地図を展示している企画展が現在開催中である(2019年11月現在)。作ったのはこれまでもデイリーポータルZに登場してもらった昭和女子大学 准教授の田村圭介さんだ。
ただ、渋谷駅の立体地図模型なのに、43点ある。
過去から未来まで、地形ありから建物だけまであらゆる渋谷駅が模型になっているのだ。地図が立体になり3次元になって、さらに時間軸まで手に入れて4次元になっている。
「羽化する渋谷」
昭和女子大学 光葉博物館
2019/12/14(土)まで開催(月曜日休館)
10:00 〜 17:00
(※この記事はデイリーポータルZの運営元であるイッツコムのサービスエリア、東急沿線の魅力を紹介する記事なんです。昭和女子大学は三軒茶屋にあります。)
ボリュームありすぎの展示
今回は、渋谷駅の時系列模型を展示している「羽化する渋谷」展と学園祭「秋桜祭」での展示 山手線全駅模型のふたつを見学する。(山手線全駅模型は学園祭だけの展示なのでもう終了しています)
ふたつ同時に見られるならいっしょで!とお願いしたときはまさかこの量になるとは思ってなかった。
左)昭和女子大 田村圭介准教授 右)山手線全駅模型のリーダー 林(リン)さん
まずは渋谷駅の時系列模型を展示している「羽化する渋谷」展から見ていこう。
展示室の中央には渋谷駅2012年と2020年の駅構内模型(1/100) 。これだけで記事1本になるのだが
これが1885年の渋谷駅開業時から駅の形が変わるたびにいちいちある。まじか。
これだけで田村さんの渋谷への熱は止まらない。周辺の地形込みの模型もある。
1/4000の渋谷駅周辺の地形と渋谷駅
これも時系列にずらーっと24点並ぶ
谷底の土地に鉄道が集まって駅が肥大化していくのが手にとるように分かる。
この地形込みの模型は別のスケールの作品群もある。
これはもうちょっと大きい1/1000の模型。谷だ。こちらも7点
多すぎる。これの説明を聞くのに何時間かかるだろう。しかも取材チームは僕のほか、大山(土木好き)、西村(路線図好き)、三土(地形好き)、べつやく(渋谷好き)というよく喋るメンバーである。
こんなの12時間経っても終わらないぞ。徹夜も覚悟の取材である。
学園祭の日に撮影したので入り口のフォトスポットで浮かれる5人
しかし模型も田村さんの話も全て面白かった。全編サビみたいなレポートはじまります。
渋谷駅はコンパクトになろうとしている
いま改造中の渋谷駅はどうなるのか。会場中央にある1/100のでかい模型を使って説明してくれた。2020年の模型があるのは分かるがなぜ2012年の模型があるのか。
田村:2012年がもっとも渋谷駅が拡張した時期だから。東横線が地下に行く前です。
渋谷駅はどんどん拡張していっているのだと思ったら、2012年が拡張のピークで、それ以降はコンパクトになろうとしている、とのこと。
田村:この時期が各電鉄会社がそれぞれの最適解を求めてやりたいように作って、別の電鉄会社とドッキングして迷宮化したんですね。
東横線、埼京線が南に伸びて
西を見れば井の頭線が遠くにある
部分で見ても全体が把握しにくいので、つまり「あちこちにある電車のホームがつながって広がってた」と理解してもらえればOKです。
そしてさらに迷宮にさせていたのが折り返しの階段だ。
副都心線からJRに行く階段が2回折り返している(2012)
田村:これがもっとも迷いやすい階段で、踊り場を2回転させると人は方向がわからなくなる。
この原因となっているのが渋谷川である。渋谷駅の地下には川(渋谷川)が流れているのだ。
2012年の渋谷駅では副都心線からJRにむけてまっすぐ階段を作ると川にぶつかってしまうので階段が2回も折り返している。
まっすぐ上がっていくと全員水浸しである
田村:渋谷駅は川を越えるがテーマなんです。
そこで再開発で川を動かした
川を手前に動かしたので、まっすぐの階段を作っても川にぶつからなくなった(現在)
田村:これで副都心線・東横線からJRに行くときの階段を直階段にできた。これは東急とJRが手を組まないとできないね。2027年にはこの階段を上がったところにJRの改札ができるので、なんとなく歩いていても乗り換えができるようになる。
すげえ!逆に言うとこれまではなんとなく歩いていても乗り換えができない駅だったってことだ。
これが2020年の渋谷駅。一画面に収まるくらいコンパクトになったのだとご理解ください。
一画面に収まるかどうかは僕のカメラの問題であるような気もするが次に行く。
どこまで駅にするかという問題
この模型、作るのさぞかし大変だろうと思ったらやっぱり大変だった。
大山:模型を作る範囲を決めるのが難しいのでは?
田村:そう、良い質問。駅とはなにかという定義付けから決めていかないといけない。これは出口を含めるという考えで作ってある。
ただ、ハチ公・交差点がないとわからないので目印として入れてある。
スクランブル交差点の下に田園都市線が埋まっている
ちっちゃいのいた! 1/100のハチ公像(寺田模型)
図面をもらってない
この模型を作るにあたって、鉄道会社から図面をもらってないそうだ。
田村:出してくれとお願いしたんだけど、出してくれなかった。古い雑誌には図面がでてたりするので古雑誌を集めたり…。でも、出してくれたら展示するのにまた許可をとったりしないといけないから展示できなかったかもしれない。
古い資料を集めて、実際に歩いて調べている。だから人が歩くことができる部分が模型になっている。
階段が黒いのは合板をレーザーカッターで切ったから。焦げた跡
フロアごとに色分けしたらどうかなど言われるそうだが、このデザインにこだわっている。
でも渋谷川にはニスを塗った。この板だけ光ってるのがわかるだろうか。
川だからといって水色に塗ったりせず、ニスで表現したのだ。これだけでこだわりがヒリヒリ伝わってくる。
谷が都会になるまで
目を引くのはこの構内図模型だが、地形図と渋谷駅の変遷もよかった。これもいい。だってまず渋谷駅がない時代の地形から始まるのだ。
田村:これが数万年かけてできた渋谷の地形
宇田川と渋谷川が合流する谷地。3つの丘が囲っている。
宇田川という地名も言われてみれば川だ。しかもいまのスクランブル交差点を堂々と流れ、王将も山手線も越えたあたりで渋谷川と合流していた。
そんな谷に1885年、山手線が通って最初の渋谷駅ができる。いまの渋谷駅よりも南側(恵比寿寄り)に駅があった
この模型群を使って田村さんに1時間ぐらい話を聞いたが、それを全部載せるとギガが減るのでざっくりまとめた。
・山手線、市電、玉電(現東急田園都市線)が渋谷に集まる
・頑張ってさらに電車を通す(井の頭線は丘の上、東横線は川の上、銀座線は空中)
・いよいよ土地がなくなって地下を開発する(半蔵門線、田園都市線、副都心線)
平地だったら新宿や品川のように横にずらっとホームを並べられたのに、谷だったので工夫を重ねて渋谷が出来てゆく。
このあたりは現地で売ってるパンフレットに完璧にまとまっていた。日経新聞のサイトにも田村さんが書いたいい記事があった(渋谷駅は一日にして成らず 「谷底」変遷から見える過去と未来)。でもパンフレットはキラキラしてかっこいいのでぜひ見に行って買おう。
またこのパンフレットも凝ってる。シルバーのケースに4冊入っている
西武のA館とB館が空中でつながっている理由
渋谷駅の再開発で渋谷川を動かしたはすでに書いたが、宇田川も場所が変わっていると教えてもらった。
スクランブル交差点のあたりを大胆に通っていた宇田川が
渋谷の発展とともに北に移動している
田村:センター街のあたりを流れていた宇田川が井の頭通りを通るようになった。いまの西武のA館とB館のあいだ。
西村:西武が上でつながっているのは!!
大山:下に川があるから。あれは橋なんですよ
西武のA館とB館が地下でつながってないのは川があるから
田村:その先の丸いトンネルは、あそこを宇田川が流れてたから
三土:いまは暗渠ですね。自転車置き場があるから。
暗渠が自転車置き場になるのは「暗渠あるある」だそうだ。三土さんが言ってるのしか聞いたことがないのだが。
自転車置場になってるところは暗渠を疑え
川を埋めて、隙間の土地にビルを建てて谷が渋谷になった。
あの谷をよくここまで作った
まだあるぞ!
ここで終わりではない。地形と駅の関係を示す模型のもうちょっと大きいやつがあるのだ。縮尺1/1000である。これも時代ごとに7点。
1885年 山手線が通っただけの渋谷。奥を左右に横切る帯は大山街道(現宮益坂から道玄坂)
3つの丘に囲まれた谷であることがよくわかる。最初の渋谷駅は谷を避けていまの埼京線ホームあたりにあった。
田村:このころの渋谷は3つの川があわさるから湿地帯だった。山手線が高架じゃなかったから、技術的に駅を谷に作れなかったんじゃないかな。
それが1996年にはこうなるのだ。
1996年。谷底に基地のように渋谷駅ができた
萌ポイントは下から覗くと地下鉄の駅が見えること
地表を裏から見ることができるのだ。プールの底から空を見るような感じで土を透視できる。
この模型の後ろにはその時代の渋谷の写真が貼ってある。そこで驚いたのがこの写真。
1932年の渋谷駅の写真に甘栗屋があることだ
甘栗屋すごい!と思ったが調べてみると不思議なことがわかった。
甘栗太郎は1917年創業の甘栗屋で、いま渋谷にある甘栗の店は1966年創業なので渋谷の甘栗屋は入れ替わっているのだ。「君の名は」か。
山手線前駅展示もある
渋谷の歴史だけで2時間かかったが、別の部屋で山手線全駅の模型の展示もあるのだ(学園祭のみの展示なので現在は展示していません)。
渋谷の時系列でおなかいっぱいだが、今度は山手線全駅である。
しかしこれがまたおもしろいのだ。これは秋葉原
制作リーダーの林さんいわく「秋葉原の模型にはガンダムみがある」。ガンダムみってなに?と思ったが意外にしっくり理解ができた。ガンダムみ。
立体地図模型を見た瞬間は構造が把握できないのだが、しばらく見てると自分が知っている駅の構造と合致する。目の前の模型と記憶がシンクロする瞬間が気持ち良い。
いちどシンクロすると模型の中に現実のものがプロットされていく。
総武線ホームのミルクスタンドはこのあたりだな、とか。
この模型もすべて歩いて調べているそうだ。タイルの数や歩数で調べているという。地道!
大塚駅。こういうのもいいねー。都電ホームがたまらん。
この山手線全駅模型はもしかするとまた展示があるかもしれないので期待しよう。高輪ゲートウェイ駅もきっと作るはずだ。
この大学に入り直したい
町の歴史を調べて、模型で可視化していくのは文句なくおもしろそうである。もちろん大変だろうけど、その大変さもまたおもしろいだろう。
しかしこれはどういう研究ということになっているのだろうか。駅の構造と人の行動?聞いてみると、
田村:そう、目的が必要なんだよ(笑)
と笑っていた。おもしろさが優先しているのがうっすら見えてこの人信頼できるなと思った。
高校の同級生でもあります
「羽化する渋谷」
昭和女子大学 光葉博物館
2019/12/14(土)まで開催(月曜日休館)
10:00 〜 17:00
この取材のようすをまとめた動画もあります。