特集 2018年11月27日

銭湯の開店準備をした後のお風呂が最高すぎる

銭湯の開店準備を実際にやってみたら銭湯のありがたさに気付きました

ときどき思い立ったように銭湯に入りたくなる。2年前まで住んでいた家が、引っ越してから1ヵ月くらいお湯が出ないというボロアパートで、その間は銭湯にお世話になっていた。その頃の名残なのか定期的に銭湯に入りたい欲が湧きあがるのだ。

何と言っても銭湯は気持ち良さが違う。家のお風呂にはない開放感が味わえる。そんな銭湯の気持ち良さをもっと味わうにはどうすればよいのか。大事なのは苦労することだろう。自分で打った蕎麦は美味いし、自分で稼いだ金は尊い。この理論でいけば自分で開店準備した銭湯は気持ち良いはずだ。

最高の気持ち良さを求めて、銭湯の開店準備を体験させてもらった。

1992年東京生まれ。普段は商品についてくるオマケとかを考えている会社員。好きな食べ物はちくわです。最近子どもが生まれたので「人間ってすごい」と本気で感じています。(動画インタビュー)

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地味だからこそ伝わる大変さ

今回、銭湯の開店準備を体験させていただいたのは高円寺にある小杉湯さん。

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高円寺駅から徒歩5分、THE銭湯という風格を漂わせている

この小杉湯は銭湯好きの間では「交互浴の聖地」として有名なのでご存知の方もいるかもしれない。その他にも営業前や定休日に銭湯関係のイベントを開くなど、銭湯界の盛り上げにめちゃめちゃ貢献しているすごい銭湯だ。

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今回、開店準備を指南していただく小杉湯のみほさん(左)と塩谷さん(右)
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体験するのは筆者(左)とDPZライターのトルーさん(右)。バイト先にいそうな2人でお送りします

準備を開始したのは12時頃、オープンは15時30分なので15時前には終えられるように進めていかなければならない。早速準備に取り掛かろう。

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まずはバスタオルを畳むところから

スーパー銭湯ではバスタオルの洗濯は業者に任せているため既に折り畳まれた状態で仕上がってくる。しかし小杉湯を始めとした多くの銭湯では少しでも安価にバスタオルを貸し出したいという想いから、洗濯や畳む作業を自分たちで行なっているそうだ。ありがたい話である。

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タオルを畳んで重ねていくと私にも徳が積み上がっていく気がした

タオルを畳み終えたら次は足拭きマットにコロコロをかけていく。

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サイズが大きいのでコロコロのしがいがある

実は洗い場の床をゴシゴシ磨く、みたいな大掛かりな掃除は前日の晩の営業終了後に既に終わっている。必然的にオープン直前の準備は細々した作業がメインになってくるわけで、この記事の作業風景は基本的に地味だ。しかし地味だからこそ作業の大変さがよく分かる。地味とは身近で共感性が高いことを私たちは地味ハロウィンで既に学んでいる。

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普通は絶対通ることのできない男女の浴室を隔てる扉を自由に行き来できるのは地味ながらじわじわと興奮する

銭湯は“数の多さ”が大変

さて次はいよいよ銭湯の裏手に回っていく。

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一回入ってみたいと思っていた扉の向こうにいざ潜入
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湯屋感のあふれるバックヤード!

様々な道具が揃っているが、きれいに整理整頓されている。これはみほさんのこだわりでもあり、見えてるところだけではなく裏もきれいに保つという心がけから何か一つ使ったらきちんと元の場所に戻すことを徹底しているという。当たり前だけどなかなか出来ないことの一つだ。とりあえず押入れに何でも放り込みがちな筆者は耳が痛い。

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勝手口から外に出ると何やら家庭用サイズの浴槽が
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浴槽の中からはお風呂用の椅子が!

お風呂用の椅子が洗剤につけ置きされていた。椅子は1週間に一度、桶は毎日つけ置きしているという。考えてみれば必要な作業だが、これまで銭湯を使っていて意識したことがなかったので、思わず「そうか、これもか…」という声が出た。やることがたくさんあるぞ、銭湯。

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紐で縛られているとどうしても出てしまうチャーシュー感
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この椅子は水風呂の浴槽まで運び、そこで一つずつ磨いて洗剤のぬるつきを落としていく

中腰になって汚れを落とし続けるのはかなり腰に負担がかかる。最初のタオル畳みもそうだが、一つ一つの作業自体は単純でもなにせ数が多いのだ。デイリーの記事はいっぱいあるものやでかいものに興奮しがちだが、多ければ多いほど、でかければでかいほどその裏には努力が隠れている。すげぇすげぇ言うだけではなく、もっとありがてぇありがてぇと言っていかなければならない。

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この作業くらいからこの後に入るお風呂は気持ちいいことを確信し始めた
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それと椅子を縛っていた紐はこういう風にかけておくと忘れてしまうことがあるので、すぐにしまおう。銭湯の開店準備をする時のために覚えておいてほしい

だんだんと疲れがたまってきたが、やるべきことはまだたくさんある。 

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ユーザー目線の先輩みほさん

次は椅子を洗うのに使っていた水風呂の浴槽を掃除していく。

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掃除の仕方を丁寧に教えてくれるみほさん

やることはたくさんあるのだが、みほさんがぐいぐいと見習いの私たちを引っ張ってくれるのでとても作業が進めやすかった。この感覚なんだか懐かしいなと思っていたが、これ部活だ。後輩魂に火がつき、作業にも熱が入る、みほさん、いい先輩だな。

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トル―さんの笑顔も後輩が見せるやつだ

そんなみほさん、実はもともと小杉湯のヘビーユーザーだったという。通いすぎてついには小杉湯オーナーからスカウトされて働き始めたという異色の経歴の持ち主だ。筋金入りの小杉湯Loverである。

そして、自分自身が小杉湯のヘビーユーザーであったからこそ、今でもユーザー目線で物事を見ることを心掛けているそうだ。

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磨き掃除をする時もしゃがんでお客さんと同じ目線になることを意識している

みほさんは小杉湯で働き始めて7ヶ月ほどになるというが、毎日同じ作業をしているとは思っていないという。日々、改善したいこと、やりたいことが出てきて飽きることがない。そんなみほさんの銭湯に対する熱い想いが気持ち良い銭湯を作っているのだ。

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バックヤードのこの張り紙もみほさんによるもの

余談だが、みほさんが良い具合に焼けているので何かスポーツをやっているのか聞いたら、「これは交互浴のやりすぎで焼けた」という。交互浴とは通常の温かいお風呂と水風呂に何度も交互に入る入浴法だ。交互浴で焼ける、そんなことがあるのか。いつかNHKスペシャルで取り上げてほしい人体の神秘である。

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水風呂を磨き終え、バックヤードにある栓を捻ると…
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水風呂に水が流れ始めた!ダムの竣工に立ち会ったような感動がある

名物「ミルク風呂」はこうして出来る

水風呂は水を溜め始めたが、普通の温かいお風呂の方はどうなのか。実は温かいお湯は溜まるのに時間がかかるため、私たちが作業を開始するよりも前の11時頃から注水を開始していた。お湯の会場入りは早い。

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13時30分頃にはお湯もいい感じで溜まってきた

小杉湯には名物の「ミルク風呂」という白いお湯がある。これを作っていかなければならないが、直接ミルク風呂の素をお湯に投入するのではなく、一旦70度近くのお湯が入ったおけを用意してそこで溶かしていく。

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一気に家庭科の授業っぽさが出た。生クリームだな
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それを浴槽に広げていく

ミルク風呂はお湯が循環するうちに段々薄くなってしまうため、1日にあと2回程度はミルク風呂の素を追加しているという。小杉湯へ行って素の追加に出会えたら、その時が一番の高濃度ミルク風呂なのですぐに入った方が良い。

小杉湯では、その他にも日替わりで色々な変わり湯を用意したり、実際の温泉のお湯を運んで提供していたりする。温泉のお湯を運んでくる時は1回の運搬量が2トンにもなるという。購入単位が「トン」って現実離れしていて笑ってしまう。いつか「じゃあ、これを2トンください」みたいな規模感の会話をしてみたい。

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この日は酵素風呂だったので、特濃の酵素液なるものをお風呂に溶かした

お湯の準備以外にも、

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シャンプーやリンスの補充(これも数が多い!)
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ロビーのドリンクの補充
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掃除中に出たゴミを取り除くブラシ掛け
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さらにはコインランドリーの掃除

といった様々な作業を行い、やっと準備完了。思った以上にやることが多く、大変な仕事だった。ここまでの作業をいつもはほぼ1人でやっているというのだから驚きだ。

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準備を終えた喜びを表現しきれないライター2名

塩谷さんが「店主が高齢で銭湯を閉めることになると周りの人は『もっと続けてほしい』と言うけれど、準備の大変さを知っているとまず『お疲れ様』という気持ちが出てくる」と言っていた。普通に銭湯に入っているだけでは分からないが、実際に準備をしてみると本当にそう思う。やってみて分かる現実だ。

最後に念願の一番風呂に入らせていただこう

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自分の手で準備をした銭湯、いつもよりも輝いてみえる

ざぶーっとお湯につかると開店準備の疲れが一気に身体から抜けていく。間違いなくいつもの銭湯よりも気持ち良い。そもそも銭湯で一番風呂に入ることはまずないので、かなりの贅沢感がある。とても良い経験をさせてもらった。

忘れてはいけないのは、普段入っている銭湯でも同じような準備が行われているということだ。銭湯が減っているこの時代に、ずっと続けてくれていることにもっとありがたみを感じていきたい。

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気持ち良さを表現しきれないライター2名

みほさんが綺麗な銭湯を維持してくれている一方で、塩谷さんは銭湯文化の発信や盛り上げに力をいれていて、銭湯の魅力を図解したイラスト「銭湯図解」を描かれている。来年には書籍化もされる予定だという。

塩谷さんのような活動が最近の銭湯ブームを牽引しているのだと思うが、その裏ではみほさんのようにしっかりと銭湯そのものを守ってくれる存在がいるのだ。このバランスでこれからも銭湯という文化を後世に伝えていってほしい。

 

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塩谷さんの書く小杉湯がこちら
取材協力:小杉湯
〒166-0002
杉並区高円寺北3−32−2
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