特集 2018年11月18日

夜の美術館のカッコよさを伝えたい

都内の5つの美術館を巡った

美術館が好きだ。アートが好きなので色々な展覧会をよく見に行くが、そもそも美術館という空間が良い。静けさに支配されていて都会にいながらどこか浮世離れした気分が味わえる。

しかしその静寂がむしろ緊張感を高めているのか、美術館に対して取っ付きにくい印象を持つ人も少なくない。しかも展示されているアートも「よくわからない」とくれば、足が向かないのも理解できる。

であるならば作品は別にいい。まずは美術館そのものを見てほしい。それも夜の、だ。
 

1992年東京生まれ。普段は商品についてくるオマケとかを考えている会社員。好きな食べ物はちくわです。最近子どもが生まれたので「人間ってすごい」と本気で感じています。(動画インタビュー)

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> 個人サイト 日和見びより

夜は美術館の「色」がよく分かる

「夜の」と書いたのにはいくつか理由があるが、第一には美術館の個性が際立つからだ。

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最初にやってきたのは六本木にある国立新美術館

国立新美術館は2007年にオープンした比較的新しい美術館で、建築家の黒川紀章による設計である。大ヒット映画『君の名は』に登場したことは記憶に新しい。そんな美術館の夜の姿がこちら。

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未来都市に来てしまったかのような非現実感

ぐにゃりと曲がった造形から光があふれる姿はまるで宇宙船のようだ。NASAっぽさがある。NASAっぽさとはつまりカッコよさであろう。

この国立新美術館は建物自体が個性的で美しいのだが、夜は暗闇の中で建物の存在感がさらに増し、昼間以上に魅力的なビジュアルとなるのだ。

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正面からのショットは手前に黒いUFOが着陸しようとしているようにも見える

また外観だけでなく館内も夜独特の雰囲気で満たされている。

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夜の闇が館内に溶け込んでいる感じがする
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外観のカッコよさに対し、館内は落ち着いた大人の雰囲気

見た目は派手だが中身はしっかり、「東大生だけどギャル」みたいな美術館だ。このギャップも夜ならでは。アートはよく分からなくても、夜の国立新美術館の単純なカッコよさは理解してもらえるのではないだろうか。

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ちなみに地下にあるミュージアムショップは他ではあまりお目にかかれないアート系雑貨が充実しておりおススメです(ミュージアムショップ内は撮影禁止)

国立新美術館は近未来的なカッコよさがあったが、逆にトラディショナルな重厚感を感じられる美術館もある。

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それが目黒にある東京都庭園美術館

この美術館はその名の通り庭園が併設された美術館で敷地面積が広い。そのため入口のチケット売り場から美術館の建物までは少しばかりアプローチがある。

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非日常空間へと誘う道を抜けると…
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味のある建物が目の前に現れる

格調高い外観の建物が温かみのある灯りをまとい、見ているだけでどこか安心する。先ほどの国立新美術館がSF映画なら、こちらはヒューマンドラマといったところか。

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個人的なお気に入りは入口のアーチとこの画像右上の窓部分が円形に張り出しているところ。全体が直線で構築された建物にこの2つの曲線が入ることで、可愛さが生まれている。

実はこの建物は、朝香宮という皇族の一家が暮らしていた旧朝香宮邸を美術館として利用している。通りで格調高いわけだ。皇室御用達も御用達、Top of 皇室御用達である。なんたって住んでいたわけなので。

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建物が建てられた1930年頃にフランスで大流行していたアール・デコ様式の建築

 アール・デコ様式とは簡単に言うと、余分な部分を排した機能的で実用的なフォルムの装飾様式だ。ややこしくなるのでこれ以上は深入りしないが、夜になってライトアップされることで、そのシンプルでありながら装飾的な外観がより際立って見えてくる。

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建物の裏側、庭園側から見たところ。ライトアップされ陰影がはっきりすることで柱のリズム感がより感じられる

国立新美術館と東京都庭園美術館、同じ美術館ではあるがここまで印象が違ってくる。それもライトアップにより各美術館の「色」が強まる夜ならではの醍醐味といえるだろう。

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東京都美術館はエロい、三菱一号館美術館はえらい

夜の美術館といえば上野の東京都美術館も忘れてはいけない。

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話題になる展覧会を多数企画している東京都美術館。最近だと2016年に開催された伊藤若冲展が凄まじい人気だった

行ったことはあるが昼間の姿しかしらないという人も多いかもしれない。こちらが東京都美術館の夜の姿だ。

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写真だと少し分かりづらいが、左側の棟に注目。

左側の棟の窓、手前から赤、緑、黄色、青とカラフルに配色されていることが分かると思う。建物内の壁が色分けされており、それがライトに照らされて見えているのだが、これが美術館にとても色気を与えている。

昼間に見ても外の明るさに負けてしまいこの部分の色はそんなに印象に残らないのだが、夜になると暗闇の中に各色がしっかりと映えて昼間とは全く違った印象を与えてくれる。

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低層の中央棟部分。地下1階にある入り口に降りるためのエスカレーター、階段、エレベーターが並んでおり、それぞれ別々の照らされ方をしているのが可愛い

この美術館も前川國男という巨匠レベルの建築家が設計しており、やっぱり有名な建築家は芸が細かいなぁと思わず感嘆が漏れる。

それにこの建物に主に使われているレンガも夜にマッチする素材だ。照らされてほのかに赤く浮かび上がる姿には艶を感じてついつい引き寄せられてしまう。

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「ちょっとだけなら見せてあげる」と言わんばかりの照らされ方。もはやエロスを感じる

いかんいかん、レンガにエロスを感じ始めてしまったので、エロくないレンガで心を落ち着けよう。

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というわけでやってきたのは三菱一号館美術館

丸の内にある三菱一号館美術館は、明治政府のお雇い外国人ジョサイア・コンドルの設計で建てられた三菱一号館を復元した美術館である。その全貌は入り口とは反対の道路側から見ることができる。

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大都会TOKYOにおいてもなお圧倒的な存在感がある

巨大なビルがひしめく丸の内でこれだけの存在感を出せるのは、レンガという都心においては少し異質な素材を用いているからだろう。夜はより一層素材の質感が訴えかけてくる。

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ちょっと整いすぎている気もするが、それが大財閥三菱の抜け目のなさを感じさせる

東京都美術館と三菱一号館美術館はどちらもレンガ作りではあるが、印象はかなり違う。前者は温かみ(を煎じて煮詰めるとエロス)を感じさせてくれるが、後者はむしろ威厳のようなものを強く感じる。「エロス」ではなく「偉さ」だ。

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「こいつ、うまいことを言ったと思ってるな」とざわついている読者の皆様におかれましては三菱一号館美術館の近くで始まっていたイルミネーションの画像を見て心を落ち着けてください

このように同じ素材であってもそれぞれの美術館の色を強く感じることができるのは、夜が素材感を強調してくれているからだろう。

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結局はカッコいいと言いたい

最後にもう一つ、カッコいいやつをみてほしい。

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それがこちらのすみだ北斎美術館

両国にあるすみだ北斎美術館は2016年にオープンしたかなり新しい美術館だ。こちらは現在の日本建築界を代表する建築家の一人である妹島和世による設計で、これまで見てきた有名建築家による建築物同様かなりこだわりの強い建物となっている。

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思わず「こだわりぃ~!!」と声が出てしまうビジュアル

全面アルミパネルに覆われた外観は海外の近代美術館などでよく見るパターンだが、それが日本の両国にある、しかも中で展示されているのは葛飾北斎なのだ。表参道のおしゃれなレストランでめちゃくちゃ美味しい蕎麦が出てくるような意外性に興奮を隠せない。

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建物のスリットが入口になっていて、入るだけでワクワクする
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昼間はアルミパネルに周りの風景が映り込み、建物が周辺に溶け込むようになっているが、夜はアルミパネルに光が反射し存在感がグッと増す。
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振り返るとスカイツリー。手前の遊具との共演によるダブルツリー

アール・デコとか素材感とか高尚そうなことを言ってみたが、結局は「カッコいい!」と言えるから夜の美術館が好き。それだけだ。


物事は極めようと思うとどんどん知識の層が厚くなっていって理論による武装がすごいことになる。建築というのはその最たる例で巨匠と言われる人たちが書く本などを読むと、もう哲学書を読んでるんじゃないかというレベルで何を言っているか分からない。

そういうことはどうでもよくて、とりあえず巨匠たちが作った建物を見て単純に「すごい」とか「かっこいい」とか言っていればいいんじゃないのか。その足掛かりとして夜の美術館は分かりやすくいて良いぞ、というお話でした。

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三菱一号館美術館の前に輪郭だけで構成された「概念」みたいなツリーがあった。やっぱりアートは難しい
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