特集 2019年6月5日

自分流、わたし流、おうち流…洗濯機がメーカーを横断して落合だった

自分流の洗濯をする

実家を出てこのかた、洗濯はすべて洗濯機の自動運転にまかせきりだ。

適当にぶち込んで、自動モードのスイッチを押して、出来上がったものを淡々と干す。

なので洗濯機の取扱説明書などほとんど読んだことがなかった。

しかし先日、ふとしたきっかけで取説を読んだところ、洗濯機というのはかなり複雑な設定を自分で組めるもののようなのだ。

(そんなん当たり前じゃろうが、という方がたくさんいることも突き止めているのだが、そこはのちほどご紹介しますのでどうか今はこらえてつかあさい)

そしてこのマニュアル設定の呼び方が、メーカー各社で違い、どこもわりと落合っぽいことが分かった。

東京生まれ、神奈川、埼玉育ち、東京在住。Web制作をしたり小さなバーで主に生ビールを出したりしていたが、流れ流れてデイリーポータルZの編集部員に。趣味はEDMとFX。(動画インタビュー)

前の記事:昭和30年代のボードゲームを手に入れたので販売元メーカーに見てもらった

> 個人サイト まばたきをする体 Twitter @eatmorecakes

自分流の洗濯

私の家の洗濯機は東芝製の縦型。先日、買って以来はじめて取り扱い説明書を開く機会があった。

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宝石っぽいものと水流のあいだでたたずむうちの洗濯機

基本的な事項だけ抑えて深堀することなく使い続けていたが、いろいろと説明すべきことがあるのだなあと感心する。

そんななか、このページに目がとまった。

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「自分流の洗濯をする」(東芝 全自動電気洗濯機 AW-6D3M 取扱説明書より)

なんだろう。取り扱い説明書にあって急にメッセージと決意を感じる文章だ。

落合なのかな?

とも思う。

「自分を表す言葉+流」といえば、落合博満の「オレ流」だろう。

洗濯機というものがこのような落合性をはらんでいたとは。全く初めて知ることだった。

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「自分流の洗濯を記憶する」(東芝 全自動電気洗濯機 AW-6D3M 取扱説明書より)

どうやら自分流の洗濯は記憶もできるらしい。

メッセージらしさに機械らしさが乗っかり、まさか良い風情が生み出された。ほとんど俳句だ。

この「自分流」というのは、洗濯機にあらかじめ設定されたコースとは別に、洗い、すすぎ、脱水の時間や回数を自分の好きに設定できる機能のようだ。

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うちふるえる選択肢の多さ(東芝 全自動電気洗濯機 AW-6D3M 取扱説明書より)

何通りの組み合わせがあるというんだろう。洗濯機にこれほどの可能性があったとは。

これが自分流の洗濯か……!

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わたし流(パナソニック)、おうち流(シャープ)

これはと思い、他社の説明書も見てみると、世界にはさらなる広がりがあることが分かった。

編集部の橋田さんと実家から説明書を借りた。どちらもパナソニック製の縦型。

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機種が違うことによる微妙な表紙の違いもまたとても良い
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購入日をマジックで書いておく、うそみたいに生々しいこの実家感
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そしてパナソニックは、自分だけのコースを作る「わたし流」(パナソニック 全自動電気洗濯機 NA-FA90H2 取扱説明書より)

わたし流、である。

「自分流」にくらべると急にEテレの趣味の講座みたいなやさしさだが、流れとしてはやはり落合だ。

そして「自分だけの」というのが説明書としては異例のロマンティック。

ということは…と思いシャープの説明書も見てみた。

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「おうち流」ときた!(シャープ 電気洗濯乾燥機 ES-PU11B 取扱説明書より)

おうち流……とんでもない なるほどそうきたか感。しびれる。

さて、日本の洗濯機シーンというのはおおむね日立、パナソニック、東芝、シャープの四強がシェアを占めているという。

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量販店にもおおむねこの4社の洗濯機が並んでいた

最後、日立の説明書も見てみよう。

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洗うを造る

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手造り……?(日立 全自動電気洗濯機 BW-T805取扱説明書より)

これまでの〇〇流のくくりを一切スルーし日立が打ち出してきたのは「手造り」。

手造り!

すみませんついかみしめた。

「作る」ではなく「造る」というところに込められた創造の意欲。

「つくる」においては松下幸之助のいうところの「人をつくる」以来の味わいだ。

自分流(東芝)、わたし流(パナソニック)、おうち流(シャープ)そして、手造り(日立)。

洗濯機にすべてを任せず自立した洗濯をするコース設定にメーカーそれぞれに違う名前がついているという、こういうことが世の中のおもしろさだなと思う良い例にめぐりあってすっかり満足した。


さて、記事の内容としてはここから急展開します。

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唐突ですが、アンケートをとりました

この、自分で頭を使い考えて洗濯のコースを設定するという機能、私はいままで使ったことがなかった。

そこでこんなアンケートをとってみたのだ。

 

すると、なんと上記のとおり使ったことがあるという人が24%もいた……!

24%もの人が、洗濯に対して落合的なスタンスを取っているということだ。

アンケートを取るまでは実は「そんな奇特なひといるのかなあ」くらいの感じだったが、4人に一人が落合というこの結果……! 球界騒然ではないか。

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頭を使って洗濯をする方々

さらに上記ツイートのリプライと当サイトの「はげます会」の会員の方々から、どういう理由で使っているのかについても60件を超す情報が集まった。

ざっくり理由をまとめると、一番多かったのは「全体の洗濯時間を短くする」ために設定している、というもの。

洗濯機にもともとついている自動メニューだと洗いやすすぎ、脱水の回数や時間が長い、それほど汚れていないのに過剰だと感じる方が設定しているようだ。

な、なるほど……。

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ちなみに我が家の洗濯機は洗濯機まかせのコースだと10分前後洗って3回すすぎをして4分脱水でだいたい40分くらい(東芝 全自動電気洗濯機 AW-6D3M 取扱説明書より)

そういう方々は

「そんなに汚れてないからここまで丁寧にがっつり洗う必要ないな……かえって衣類がいたんじゃうしなあ」

と、頭をきちんと働かせているということだ。

すごい……。

私は洗濯機というのは、洗濯物を洗う機械というより、洗濯機にかけるために洗濯機にかける、というような意識でいた。

汚れが落ちるかどうかではなく、洗濯機にかけたかどうかが重要という。完全に思考が停止していた……。

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設定の様々さに感動する

次に多かったのは、脱水のみを設定して洗濯機に記憶させているという方々。

手洗いしたものを干す前に脱水だけする、それをいちいちボタン操作せずに実行するために登録しているのだそうだ。

それは……便利!!

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それにしても洗濯機にはさまざまな「〇〇のみ」がある(東芝 全自動電気洗濯機 AW-6D3M 取扱説明書より)

脱水に関しては、ワイシャツがしわになりすぎないよう、また衣類が痛まないように短くするという意見も多かった。

おもしろかったのは、いっぽうで脱水を長くする派がいたこと。部屋干しをするので乾きやすくしたい、干す時間を短く抑えたいという意図だ。

人の生きる多様性、まさにこれじゃないか。

滝すすぎがあれば回転すすぎもある

意志のある洗濯だから態度もさまざまだ。

感動したので、コメントいただいた設定についてもう少し紹介したい。

・すすぎだけ増やす
→肌が弱い家族のために洗剤を落とし切るため、おねしょ対応のため

・特性のある衣類に適した洗濯する
→スキーウェア、胴着と袴、ワイシャツの襟よごれ、下着、おしゃれ着まではいかないが丁寧に洗いたい衣類など衣類に特性に合わせたメニューを組むため

・すすぎと脱水だけする
→ティッシュがついた洗濯ものをもう一度洗うため
→毛布の手洗い時などに使うため
→デリケートな衣類を手洗いしたあとに使うため

・水を多めにする
→ドラム式でデフォルトだと水量が少ないので増やす設定にしている
→少ないと洗っている気がしない

・すすぎにこだわる
→通常のすすぎではなく「注水すすぎ」にしたい

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水を注ぎながらすすぐ、注水すすぎ。すすぎに種類があるのもはじめて知った…おれは本当に何も知らない……(東芝 全自動電気洗濯機 AW-6D3M 取扱説明書より)
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ちなみにすすぎにもメーカーによって独自ネーミングと必殺技がある。東芝とシャープは「シャワーすすぎ」(東芝 全自動電気洗濯機 AW-6D3M 取扱説明書より)
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日立は「回転シャワーすすぎ」。必殺技っぽさが盛れた(日立 全自動電気洗濯機 BW-T805取扱説明書より)
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そしてパナソニックは「滝すすぎ」。「滝・滝」で2回繰り返す。滝が洗濯でゲシュタルト崩壊することなんてある!?(パナソニック 全自動電気洗濯機 NA-FA90H2 取扱説明書より)

コメントを読んでいると、人々のそれぞれの営みの圧がすごい。

能動的に洗濯する人々の輝かしさがまぶしくて私はしばらく目がちかちかした。

母が怒る

さらに、へえと思ったのは「母の設定にならってそうしています」「母がコース設定しないと怒ります」というコメント。

そうか、洗濯機のマニュアルのコース設定というのは家伝のレシピのような性質があるのか! とはっとした。

日立のネーミングの「手造り」に最終的に納得がいったかっこうだ。

かっこいい水流のイメージ図たち

洗濯することも洗濯機も、おもしろい。

すっかり堪能したので、最後に、メーカー各社のパンフレットよりかっこいい水流のイメージ図を見て終わろうと思います。

生活、おもしろいなあ。

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シャープ洗濯機総合カタログ2019春 より
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東芝 洗濯乾燥機/洗濯機/衣類乾燥機 総合カタログ 2019-2号より
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パナソニック 洗濯機 総合カタログR 2019/夏 より
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日立 洗濯機・衣類乾燥機 総合カタログ 2019-春 より

衣類をきれいにするのが洗濯機だった

洗濯機というのは魔法の箱で、衣類を着たら入れて回す。すると、もう一度着ることが許される。

なにをもって許しを得ているのかはわからないが、とにかくそういうことになっている。そんな思いでいた。

しかしそうだ、洗濯機というのは洗濯ものをきれいにする機械だったのだ。

マニュアル設定の呼称の落合っぽさについておもしろがる入り口から、思わぬことで洗濯のあたりまえすぎる見て見ぬふりをしていた本質を見た。

いただいたコメントに「いろいろと研究して納得いく設定までたどりつきました」というものがあった。包丁をきれいに研ぎすませて使っている人のセリフだ。なんてかっこいいんだろう。

一方で「マニュアル設定を極めようとあれこれ設定を変えていたら結果オート設定と同じ内容になりました」というコメントもあり、風情だなあとしびれ切った。

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洗濯のプロからもコメントをいただいたが、洗濯はやはり二層式が最高とのこと
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いまなお売れていると聞いてはいたが今回のことでいよいよ納得がいった
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