特集 2022年11月28日

世界の文字でへのへのもへじ

どんなに絵が苦手な人でも、「へのへのもへじ」は描いたことがあるはずだ。意外(?)に江戸時代中期にはあったと言われ、歌川広重の作品にもそんな顔の侍が登場するらしい。

そして今知ったことだが、「へのへのもへの」「へめへめくつじ」「へめへめしこじ」「へねへねしこし」「しにしにしにん」とバリエーションも豊富。まぁ、確かに、つくろうと思えばつくれる。だったら。外国の文字でもへのへのもへじ的な顔を描けるんじゃないか?

タイ語、韓国語、中国語、ビルマ語で顔を描いてもらったところ、文字のクセがはじけた。
 

1984年大阪生まれ。2011~2019年までベトナムでダチョウに乗ったりドリアンを装備してました。今は沖永良部島という島にひきこもってます。(動画インタビュー

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おさらい的にまずは描いてみる

ひらがなが分かれば誰でも描ける、へのへのもへじ。

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迷うことなく描ける

うん、「へのへのもへじ」がまんま絵描き歌になってるもんな。誰でも描ける。

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うん、「へのへのもへじ」がまんま絵描き歌になってるもんな。誰でも描ける。

さすがプロだ、歌川広重。歴史に名を残す画家に「プロ」と呼ぶとかえって怒られそうだが、へのへのもへじでも、トメを活かした目とか、鼻柱とか、神は細部に宿るってこういうことだな。これ、厳密には「へのへのもへいじ」で、アゴのシワに当たる「い」も効いている。

クメール語のソーソーコームアが気になって

そんなへのへのもへじをなぜ世界の文字で描きたくなったか。それは、カンボジアに住んでいた知人がSNSでしていたある投稿を見たからだ。

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カンボジアの文字(クメール語)で描かれたへのへのもへじ的な顔

顔として完成度、高すぎない!?

まつ毛とか、くせ毛とか、スマイルとか、不二家のペコちゃんを思わせる個性を感じる。

こうして並べてみると、我が国の本家へのへのもへじはずいぶん感情が読めないというか、「何を考えているか分からんヤツ」感がある。敵にも味方にもなりそうだ。ちなみにカンボジア版へのへのもへじ、声に出すと「សសខមឿ(ソーソーコームア)」になるそうです。

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ソーソーコームアを生み出した中江さんに「誕生秘話」を聞きました。

ネルソン「まず、なんで描こうと思ったんですか」

中江さん「手書きのクメール文字で文章作成をしているときに、たまたま『ស』の文字が並んだタイミングで目っぽく見えたんですね」

ネルソン「ゲシュタルトが崩壊する瞬間だ」

中江さん「そこでなんとなく、鼻を足すならどの文字かな?口ならどれかな?と思って落書きしはじめたのがきっかけです。これ、カンボジア版へのへのもへじやんけ!と思い、真剣にどの文字を当てはめれば良いか考え、一番しっくりきたのが『ソーソーコームア』でした」

うん百年前か分からないけど、へのへのもへじを思いついちゃった人に思いを馳せる。タイムスリップして話を聞けるなら、「『の』と『の』を間違えて続けて書いちゃったんですよ、そうしたら…」と興奮冷めやらぬ様子で語ってくれそうだ。興奮したのか知らないが。

中江さんは投稿のあと、カンボジア人の友人たちからも反応があり、カンボジア人の奥様からも「可愛い」という評価がなされたとのこと(そのあと仕事しろと怒られたとのこと)。

文字=絵の発想は、以前、外国人の友人たちに推しひらがなを聞いたときのことを思い出す。

ここいらで本題!クメール語以外の文字で「へのへのもへじ」をお願いしたら、いったいどんなものが飛び出してくるのか。そもそも何かしら出るのか、出ないのか。確かめたい。

タイ語だと「イイイイエールアイ」

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まずはタイ語。日本のへのへのもへじのことは知っていたというタイ人のブータさん。「できると思います」と頼もしい返事、さぁ何が出る!?

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ブータさん「こんな感じはどうですか?」

ネルソン「か、顔!シッカリ顔じゃないですか~!」

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輪郭もお願いします、というと幾分ユーモラスになった。

ネルソン「これ、読み方は何ですか?」

ブータさん「อีอีแๆใ(イイイイエールアイ)です」

ネルソン「イイイイエールアイ。目が最高ですよね、完璧に眉毛がある」

ブータさん「そうそう、อี以外にも、กีやจีがあります」

ネルソン「うわっ、眉毛天国!」

ブータさん「一番むずかしかったのは口ですね」

ネルソン「口って、横線がないと成立しないイメージ。それがむずかしいということは、タイ語の文字は縦線が多いってことですか?」

ブータさん「そうなりますね」

ネルソン「文字のクセめっちゃ出るなこれー」

ブータさんによると「顔の輪郭はちょっと無理やりだけどタイ人なら読めると思う」とのこと。でも、本家のへのへのもへじの「じ」の自由度を思えば、これくらい許容範囲だろう。

タイ語は小さな丸が多いので、なんだか癖っ毛にも見えて、さらに黒目や鼻の穴の役割になるので、どこかユーモラスな三枚目俳優の匂いがする。

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韓国語だと「フーフーヌスイウン」

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韓国人の諸(じぇ)さん。韓国語(ハングル)はある意味で、へのへのもへじ先進国だった。

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まずはこれだけ送られてきた
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ハングル(ㅇ)を加えて輪郭を付けてみました

ネルソン「もはや顔のためにあるパーツ」

諸さん「ハングルは、シンプルで連想しやすさを追求して作られた文字なんですよ」

ネルソン「聞いたことある」

諸さん「子音と母音を組み合わせて『音』と『意味』を持つ文字なので、それぞれをパーツとして組み合わせるなら、いろいろと作れますね」

ネルソン「めちゃくちゃ腑に落ちた。読み方は?」

諸さん「本来は単独で読まない文字もありますが、あえて読むならㅎㅎㄴㅅㅇ(フーフーヌスイウン)です」

ネルソン「へーー」

諸さん「あと、口のパーツも、ㅁ、ㅇ、ㄴ、ㅂ、とあります」

ネルソン「よりどりみどり。そして、プレステのコントローラを思い出すな…」

余談だが、諸さんの話ではガラケー時代に顔文字をつくるため、韓国ではいろんな工夫があったそうだ(例:ㄴ(ㅅ ㅁ ㅅ)ㄱ)。その中で日本の「ギャル文字」のように、韓国でも十数年前にカタカナやラテン文字などを組み合わせた韓国語版ギャル文字が流行ったらしい。

øよøぎㅎビλĦㅎコ_¤ 읍ㅎF_しち흐ロっㅉヴ횾_≥∇≤☆ ゴıゴıㆀ 읍ㅎ℉_ズй_ザウてエ_øГøノでł_칀구등록_ㅎħ㈜λЙㅎゴ_。 칀그등록_ㅎħ㈜λıㄲうズı횽?_≥∇≤★ ㅎŊ㈜λıㄸйㄲじズı_글올ㄹらしıて℉_∽* ロЙ흴_ゼつじĦ㈜λıㄲっズき¿?

読めない…!そもそもハングルもギャル文字も読めない…!
これをハングルで書き直すとこう。

안녕하세요 오빠 너무 멋져요 키키 오빠 제 버디 아이디 친구 등록해주세요. 친구등록 해주실꺼지요? 해주실 때까지 글 올립니다. 메일 보내주실거죠?

前述した理由でハングルはある意味「絵文字向き」。なお、スイスは「스위스」となり、これが「山に囲まれて戦う傭兵」っぽいということで、スイス人の間で「まさしくスイスのイメージだ」と話題になったことがあるそうだ(スイスは欧州でも兵役義務のある数少ない国)。

中国語(簡体字)は「リータイイー」

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中日翻訳者の水谷さん。「なかなか難しそう」と言いながらも、中国語版を考えてくれました!

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ネルソン「顔だなーどれもこれも立派に顔!呼び方は?」

水谷さん「丽台乙(リータイイー)です」

ネルソン「よく見るとこれは、眉毛と目がくっついているの?」

水谷さん「そうですね、へのへのもへじみたいに1文字=1パーツで考えるとうまくいかないので、2パーツを兼ねる丽が出てくるまでが難しいところでした」

ネルソン「そうか。漢字はバラして使うものじゃないから。ある意味では1文字単位の完成度が高いからこそ、へのへのもへじをつくるためには、パズル的な要素が出てくるのね…」

なお、中国語では古語で「囧」という文字があって、本来は「明るい」という意味だけど、古いゆえに本国でももはや文字ではなく顔文字的に使われているとのこと。

水谷さん「台湾の注音(おもに台湾で使われる発音記号)を使えばこんなものもできますね」

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ネルソン「寝起きののび太感あるなぁ」

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ビルマ語は「ダッシッシッナ」「ウインササヤ」

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最後はビルマ語(ミャンマーの公用語)、翻訳者の水川さんにお答えいただきました!さっそく、へのへのもへじと意外な共通項が。

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ネルソン「目が…『の』!『の』!!」

水川さん「これ、ビルマ数字の8なんです」

ネルソン「へーーーー、めちゃくちゃ似てるのね」

水川さん「へのへのもへじにするためにあるような文字です(笑)」

ネルソン「読み方は」

水川さん「ဓ ၈ ၈ န(ダッシッシッナ)」

ネルソン「その響きめちゃくちゃ好きですわ」

水川さん「もうひとつありますよ!」

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水川さん「ဥ င်္ င်္  စ စ ယ(ウインササヤ)です。インは子音と組み合わせてはじめて文字になるので、これだけ使うのは微妙なんですが」

ネルソン「なんとなく女の子っぽい名前」

水川さん「ダッシッシナが男の子、ウインササヤが女の子、という感じですよね」

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もし全て独立して使える文字でないとやだ!という方には、「ウインガササヤ」をどうぞ。

ビルマ語は丸っこくてユニークな文字が多いので、顔のパーツにはもってこいでやりやすかった、とのこと。それこそ「၈」についてはもうそのまま「へ၈へ၈もへじ」(へシへシもへじ)でも通用しそうだ。

このあと、水川さんのミャンマー人の友達が興味を持ってくれ、彼女なりのへのへのもへじを送ってくれたが、おもしろかったのでこちらを紹介して終わりにしたい。

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人でなく…猫…!へのへのもへじは無限大…!!

世界の「へのへのもへじ」ではじける世界の「文字」のクセ

いやーー楽しかった。

国によってこれほど個性的な文字があれば、すでに各国にへのへのもへじ的なものがあるのではと思ったが、意外とそんなことはない。かと言って、描けないこともなく、むしろみなさんウキウキで描いてくれました。

「タイ語には横線が少ない」「ビルマ語には『の』とよく似た『၈』がある」「韓国語(ハングル)はシンプルを目指して作られた文字だから好相性」など、「顔になるかどうか」という観点で形が分かり知らない言語に興味を持つきっかけになったのでとってもうれしい。

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水谷さんの試行錯誤の様子

水谷さんが運営するボドゲサークルのHP:https://www.mysterious-treasure.com/

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実話を基にしたこんなマンガを100個作成!
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詳しくはリンク先をご覧ください!

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