ふわふわとしていた思い出に輪郭がついた
どこにあったか覚えてないけど、存在はしっかり細胞に刻まれている店「らりるれろ」。今回の訪問で、そのふんわりとした記憶に輪郭がついた。
バーガーの美味しさもさることながら、その輪郭はやはり、「らり坊」の形をしていたのである。
1950年頃に米軍基地関係者から伝わったとされるレシピを皮切りに佐世保名物となった「佐世保バーガー」。現在は老舗から新店まで約20店舗ほどのバーガー店が、個性あふれるメニューを展開中だ。
その中でも50年以上の歴史を持ち、現在長崎では大野店と西海橋店の2店舗がある「らりるれろ」はインパクトのあるお店。
ここに行ったよという話を聞けば、少なくともわたしはその人に対して勝手に親近感を抱くので、ぜひ足を運んでみてほしい。
50年以上前、「佐世保バーガー」という呼称が登場するより以前から営業しているという「らりるれろ」。
わたしが幼い頃、ハンバーガー好きの父がよく買ってきてくれたのを覚えている。
いつでもアツアツ、具材の野菜はみずみずしい。作り置きをせず、オーダーを受けてから手作りするスタイルだ。
今でこそ「これが佐世保バーガーの特徴なんですよ!」とハイテンション気味に言うところを、長年淡々と貫き通しているのである。
わたしにとって「らりるれろ」とは、「わたしはやっぱり佐世保人なんだ」と再実感するための1つのアイコンだった。
気がつけば父がふらりと買ってきてくれていたため、実店舗で食事をした記憶がない。お店の場所も、たぶん車で連れて行ってもらったんだろうけどやはり記憶がない。
しかしお店の存在は、がっちりと細胞に組み込まれていたのだった。
小学生、中学生、高校生……と歳を重ねていく毎に、なぜかふと思い出していた。「あの辺にあったよね。たぶん、バスセンターの近くに」と、誰に確認するわけでもなく自問して流す。
駅の近くだった?住宅街の中?思い出す場所は、毎回変わっていた。それはどれも、たぶん違っていた。
しかし、場所が分からないことにモヤッとするよりも「うんうん、まだわたしは佐世保人だ」と謎の安心感を得ていたのであった。
そのアイコンたる「らりるれろ」の看板キャラクターが、この子である。
陽気なピエロのようにも見える彼の名は「らり坊」という。以前、取材で経営関係者の方からそう伺ったが、調べてみると「らりちゃん」の呼び名がメジャーなようだ。
一度見ると忘れられないビジュアルである。
きっと、このお店を昔から知っている人には、ハンバーガーのキャラクターとしてこの子が結びつくだろう。マクドナルドよりも身近な存在だったはずだ。
先日立ち寄った大野店では、らり坊のマグカップが販売されていてとても嬉しい気持ちになった。
今回伺ったのは「らりるれろ西海橋店」。佐世保市から車で40分ほどかかる場所にあるが、近くに国指定重要文化財の西海橋があるなど、ドライブにはうってつけのスポットなのだ。
観光客はもちろん、地元の方からも親しまれている。とても良い年季の入った建物に、初来店にも関わらず懐かしさを覚えてしまった。
店内に入る。まず目に飛び込んできたのは、漫画本やスロットゲーム。条件反射的に「懐かしい」と思ってしまうものたちだ。
このお店は、創業以来ずっとこの場所で営業を続けているそうだ。近年改装されて新しくなった空間に昭和がぽつぽつと残っていて、とても不思議な気持ちになる。
まずはカウンターでオーダーだ。せわしなく鉄板でバーガーを焼いている男性は店主だろう。焼きたてのバンズ、パティの香りが胃袋を刺激する。
おすすめNo.1は、ベーコンエッグバーガー(530円)だそうだ。リーズナブルかつボリュームにも期待できる!
けれども!
「ベーコンエッグ……チーズバーガーで」
欲が出た。ここまで来たから、ちょっと贅沢スイッチが入ったのだ。
焼き上がりまで時間があったので店内で待つことに。あたりを見回す。時はちょうど正午、わたしと同じようにお昼ご飯を待っているお客さんがちらほら居た。
古いテーブルゲームが3台もあり「おぉ」と声が漏れた。リアルタイムでは遊んだことはないけれど、本や漫画で見た昭和の喫茶店のシーンと答え合わせをするかのように、いそいそと座る。
100円を投入し、テトリスをプレイ。レバー操作が下手くそすぎて、どんどん不細工に積みあがっていく。
ミスの度に「あっ」「うっ」と声を挙げる。母親の顔色を察してか、2歳のわが子がトントンと肩を叩いて励ましてくれた。
健闘むなしくゲームオーバーに。「ママ負けちゃった」と彼女に報告すると、盛大に泣かれてしまった。
バーガーを受けとるとき「やっと来れて良かったです」と伝えると、店員の女性から満面の笑みで「嬉しいです!また来てくださいね」と返された。きらりと汗が眩しい。
せっかくなので、ドライブがてら屋外でバーガーを食べる。
包装紙に押されたスタンプの文字が味わい深い。1つ1つが店長さんの手押しなのだそうだ。
ベーコンとエッグとチーズがこれでもかと入ったバーガーはずっしりと重かった。これぞ贅沢な重みよ!
「甘いマヨネーズ」が特徴とされる佐世保バーガーだけど、こちらのバーガーはブラックペッパーが効いている。バンズはふんわり柔らかくほのかな甘みで相性も抜群だ。暑さで体力を削られた体にバチバチのエールをくれる。
生玉ねぎにも背中を押され、ポテトに手を伸ばす。これまた塩加減がちょうど良い!なお、ポテトにはお好みでブラックペッパーをかけることができる(大野店では確認済みですが、西海橋店では要問合せ)。
この、ブラックペッパーがけポテトに郷愁の念を感じる佐世保の人もいるようだ。
どこにあったか覚えてないけど、存在はしっかり細胞に刻まれている店「らりるれろ」。今回の訪問で、そのふんわりとした記憶に輪郭がついた。
バーガーの美味しさもさることながら、その輪郭はやはり、「らり坊」の形をしていたのである。
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