12杯目、上杉食品のひやかけ
昨夜は体が疲れているけれど頭は妙に冴えていて、どうにもうまく眠れなかった。それでもさぬきうどん旅は続いていく。
最終日となる3日目は、昨日の丸亀エリアよりもさらに西側、観音寺方面まで車を走らせる。
やってきたのは営業時間が朝6時半から8時までの1時間半だけという『上杉食品』。どうやら地元の食堂や商店などに卸しているローカルな製麺所で、配達が始まるまでの間だけ店内で食べることができるようだ。
これぞ香川のモーニング。せっかく飛行機に乗って来たのだから、やっぱりこういう『訳ありの店』のうどんが食べたいのだ。
店から少し離れた場所に駐車場があるのだが、店のある細い道路側は入口に段差があるので、車高の低い車は県道側から入るのをおすすめする。
早起きしてやってきました。食料品も置いている雑貨屋にしか見えない外観でかっこいい。
上杉食品の店内は結構な広さがあり、客層は地元っぽい人と観光っぽい人が半々くらいだろうか。
平日の朝から穏やかに、ずるずるとうどんをすすっていた。
ここも味わい深い店である。
店の奥に製麺所があり、朝だけ茹でたての麺を食べさせてくれる。
案内されたテーブルに座り、ここでもひやかけを注文。納豆をプラスして朝食っぽくしてもよかったかもしれない。
テーブルに置かれた茶色い液体の入ったペットボトルを眺めながら、これはお茶じゃなくてうどんのつゆなのではと疑いつつコップに注ぐ。
どっちかなと飲んでみたらお茶だった。
中身はかけつゆじゃなくてお茶でした。
値段の感覚がだいぶ麻痺しているが、うどんの小が350円でも十分安い。
心に染みる三つの格言。
おばちゃんが持って来てくれたひやかけは、ちょっと太くてガチガチのストロングスタイル。すすった瞬間に笑ってしまった。明らかに香川にきて食べたうどんの中で一番しっかりしている。
麺肌は絶好調の力士みたいにツルピカなのに、よく噛まないと食べられないのがおもしろい。これは温かいうどんが正解だったかと思いつつ、この硬さもまた愛おしい。ここじゃなきゃだめだという熱烈なファンが多そうな個性派うどんだ。
麺が硬くて驚いた!
そういえば『よしや』の山下さんが、「製麺所が作るうどんは数時間後に食べてもおいしくないといけないので、伸びにくいように固く作る場合があり、さぬきうどんが注目された理由の一つはそのうどんの硬さだった」というようなことを話してくれた。
これはまさにそのタイプであり、例えば5時間後に食堂で温め直してもおいしいうどんなのだろう。だからこそ出来立てはこの硬さなのかと納得しつつ、さぬきうどんブームの源流を味わえたようで心が躍る。
その一方で上杉食品と同じくローカル製麺所である三嶋製麺所(一番最初に食べた店)で食べたうどんは、こことまったく真逆だったのがさぬきの奥深いところで、製麺所で食べるうどんといってもその在り方は実に様々のようだ。
山地蒲鉾の揚げたてがうまい
上杉食品の営業時間が早すぎて次の店がまだやっていないので、銭形砂絵とやらを眺めてたり、山地蒲鉾で揚げたてを買い食いしたり、るるぶに載っていた天空の鳥居を参拝したりした。
意外と観光ができている自分にちょっと驚く。うどん旅をより楽しむコツは、いかに腹ごなしの観光を割り込ませるかだ。
展望台から砂浜に描かれた銭形砂絵を眺める。瀬戸内海はとても穏やかだった。
うどん屋のトッピングとしてもお馴染みの山地蒲鉾でお土産を買って、「揚げたてはこちら」と書かれた矢印を進む。
店舗のすぐ裏に工場があり、水・日以外ならその時に揚げているかまぼこがランダムで買えるのだ。これは一番オーソドックスな天ぷらかな。熱々でめっちゃうまい。
いいだこ天も揚がったので買う。すり身を纏って揚げられたタコ、最高だ。
天空の鳥居というところにもいって、その先にある石段を登ったり降りたりしてお腹を空かせた。
13杯目、カマ喜riのぶっかけととりちく
帰りのフライトは高松空港発の16時20分。高松まで戻る時間やレンタカーを返す手間なども考えると、あと一杯がいいところだろう。
最後に向かったのは『カマ喜ri』という変わった名前の店で、昼間としては初めて訪れるフルサービス(一般店)の店舗である。
ここは11時オープンなのだが、私が到着した11時8分には駐車場がほぼいっぱいになっていた。
テラス席もあるカフェみたいなうどん屋さん。
窓がとても大きくて明るい店内はほぼ満席。オープンキッチンが見えるカウンターが空いていたので座ると、製麺機が目の前にあってうれしかった。
かけは温かいうどんだけとのことなので、冷たいのを食べたくて初のぶっかけを注文。うどん旅も最後なので我慢していた天ぷらを解禁して(なんだかんだ食べていた気もするが)、とりちくというセットもつけた。
明るい店内には女性客も多い。
製麺や調理の様子が見られる特等席だ。
『本日のコーヒー』や『ケーキセット』と書かれていてもおかしくない黒板だが、そこにあるのは『かけ』や『いなりずし』の文字。フルサービスでもこの値段なのかと驚く。
運ばれてきたうどんをみてニヤリ。オムライスみたいに整えられた麺の上に、ちくわの目とカットされたレモンの口で顔が作られているではないか。インスタに上げたくなるヴィジュアルだ。
旅の締めに相応しいうどんだった。
こんなにかわいいうどんなのに、麺はしっかりパワフルというギャップがすごい。ちょっと太めで弾力と硬さがしっかり融合していて、顎が喜ぶ噛み応えが堪らない。うっすら柑橘の酸味を感じる甘めの濃いぶっかけつゆがよく合うマッチョな麺だ。
ぶっかけという食べ方もいいな。うどんの注文の選択肢がまた増えてしまった。
この盛り付け、かわいすぎやしませんか。もし私が店をやるときは真似をしたい。
クリスピーな衣に薄く切られた鶏肉の天ぷらは、胡椒が効いていてぶっかけとよく合った。ちくわは山地蒲鉾だ。
お土産用うどんのパッケージがものすごくかわいい。予定表にある水曜日のミズカマキリはうどん以外の麺類が出るのだとか。ものすごく気になる。
お土産を購入。かわいいなあ。
14杯目、はやし家製麺所のひやかけ
予約変更ができる新幹線と違って飛行機は乗り遅れる訳には絶対いかないので、少し余裕を持たせたスケジュールにしたため、かなり早めに高松空港へと到着。
お土産屋を眺めつつ、こんなに時間が余るならもう一杯行っておくかと、空港内にある『はやし家製麺所』に吸い込まれてみる。
空港内にいりこの香りを漂わせる罪深きうどん屋さん。
空港内のテナント店とはいえ、そこは高松空港に構える選ばれしお店である。いわば香川県の玄関口を任される店だけあって、きっちりと観光客がイメージしているさぬきうどんらしい一杯を出してくれる店だった。
ひやかけは500円。なにを食べても高いのが相場の空港の食事としてはかなり安い。
店内調理の天ぷらがたくさん。
おでんもあるよ。
ひやかけに追加注文のすだちを絞る。むちっとした太麺にいりこの効いたつゆ。空港からこのクオリティなのが香川県だ。
番外編、高松空港のうどんスープ 空港だし
最後の最後に番外編として、空港二階にあるコンビニ脇の『高松空港のうどんスープ 空港だし』を飲みに行った。
これは蛇口から温かいうどんのかけつゆが出てきて無料で飲めるというサービス(冗談)なのだが、設置されているのが雑居ビルの給湯室みたいな場所で、より違和感を高めている。
蛇口をひねって出てきた温かいつゆの味は、がもううどんのつゆとよく似ていて懐かしかった。
コンビニの脇にひっそりと設置された、だしのでる蛇口という冗談。
給湯室感がすごい。
さぬきうどん旅、楽しかったなと一人で乾杯。
空港の二階にもうどん屋があって気にはなったが、さすがにもうやめておいた。
高松空港にあったはなまるうどんの広告。丸亀の飯野山だ。
そして後日入った丸亀製麺の店内にも見覚えのある写真が。これまったく同じ写真じゃないかな。
うどんの材料は小麦粉と塩水だけ。それでも営業形態や地域の特色だったり、店主の目指す理想や価格帯によって、店の数だけ違ったうどんが存在する。
その楽しみ方はこちら次第で、シンプルに好みの味を探す、店の雰囲気を味わう、成り立ちから導きだされた味を深読みするなど、様々な角度から楽しめるのがいいところ。カレーやラーメンに比べれば食べ歩きもしやすいし。
香川県にある14軒うどん屋を回ったことで、さぬきうどんの輪郭がおぼろげながら見えてきたが、その枠から外れる個性的な存在もさぬきのうどんの魅力であることがよくわかった。みんなそれぞれおいしかった。
ということで、大満足だった二泊三日のさぬきうどん旅なのだが、行ってみたら臨時休業だったり、定休日と日程の関係で回れかったり、現地で知ったけどスケジュール的に食べられなかったりした店がいくつもあるので、また春にでも行こうかなと企んでいる。
さらには釜玉だけを食べ歩く旅、カレーうどん縛りの旅、一度行った店で食べなかったやつを頼む旅など、何度もリピートしたいところである。
ただ今回の旅以降、満腹の向こう側まで行かないと食べた気にならない体になって、すっかり何キロか太ってしまったので、そのうち倒れるかなという気はしている。パタリ。
編集部からのみどころを読む
編集部からのみどころ
14食たべた上にソフトクリームや魚まで食べています。本人も書いてますが別腹がでかい。
「歯に力を入れてから麺を噛み切るまでの0.1秒に物語を感じる見事な麺」という表現はさすがうどんと文筆を両立させている人です。(林)