こんな心穏やかに作品を見れるとは
私は展覧会に行くのが趣味です。しかし、作品を見てのんびりやすらぐことがむちゃくちゃ下手です。作品を前にすると、脳が回転して回転してしかたがないのです。
最初のうちは作品をボーっと見ているのですが、
記憶の引き出しをグワ、グワ、グワっと空き巣のように乱雑に開けまくって、「この作者はこの年代のこの地域の人で、こういう需要があったはずだから・・・」とあれこれ考えちゃうのです。
こんな感じで見てると、莫大なエネルギーを消費します。空き巣もこれくらいクタクタになっちゃうのでしょう。
とある美術館に行ったときのこと。いつものように展覧会で誰に頼まれてもないのに思考しまくったあと、展示室の外に「お花のしおりを作ろう」コーナーがあり、試しに作ってみました。
ポケットに入れてぐちゃぐちゃになるのが嫌だったので、手に持って別の展示室で絵を見ていると、
「きれいな絵やなあ・・・」「大きい絵や・・・」とシンプルな感想が出てきます。目の前の作品を描いた作者の師匠を思い出したり、類似作品を脳内検索することもありませんでした。
「もしや、お花のしおりのおかげ・・・?」と気が付きました。「自分は今、一輪のお花を持っいるのだ」と思うだけで心穏やかに、素直に絵をみることができたのではないでしょうか。
散歩中ですら思考がとまらない私
私は散歩をしている時でさえも、目についたものを手掛かりにすぐ脳のガサ入れをしてしまいます。行き過ぎた公権力です。
あと、散歩中に信号にひっかかるとちょっと嫌だし(まったく急いでいないのに)、ガソリンの値上がりを見ると「ウッ」とダメージを受けます(車の免許を持ってないのに)。眉間にしわが寄って表情も険しいはず。
そんな散歩中に脳も心もせわしない私ですが、お花を持てば、あの展覧会のときのようにゆったりとした心を得られるのでは・・・?
それを持って外に出かけると、
晴れやかな笑顔が出るわ出るわ。目元・口元が自然にゆるんでいます。
一輪のお花を持つだけで、何も考えずに風に吹かれることができます。些細なことに心が惑わされることがなくなるのです。
さてあちこち歩き回ってみましょう。心惑わせトラップがあふれる街中、私は平穏に散歩ができるのでしょうか。
いつもは踏切の遮断機が上がりはじめるやいなや、のれんをくぐるかのように早めのスタートダッシュを決めるのですが、お花を持っている私はそんなことしません。バーが上がりきってから歩き出します。
契約を全く考えていないのに、「駅から歩いて15分かかって、この広さで月18万⁉」と、お部屋の条件に心乱されることもありません。お花を手にした私からは、「あら、このアパートの名前すてき」という感想が・・・。
心の平穏がつづき、「理想のお散歩」ができました・・・!
「かわいいお花を持って散歩してる奴が、思い詰めてる方がおかしい」と思え、お散歩を純粋に楽しめました。遊園地でキャラクターのカチューシャを身に着け、開き直ってしまうのと同じです。
大人なのに、お花を一輪持ってウロウロしているところを他の人にみられる恥ずかしさはゼロではないのですが、お花がもたらすルンルン気分で無事相殺されました。
お花に心を寄せる
私の日頃のお散歩というと、道端のゴミ収集場の空き缶を見て、「近所にめちゃくちゃ発泡酒飲む人おるやん」と思ったり、建物の構造を見て「この接骨院、もともとローソンやったんやな」と思ったりすることが多く、植物に心を寄せることはあまりありません。(唯一目が向いてしまう植物といえば、私有地からはみ出ている鉢植えとかでしょうか。)
しかし、今回のお散歩では、自分がお花を持っているからか、
素直に「キレイだな」と思うことが出来たのです。しかも立ち止まってまで・・・!
お花を一輪持つことで、散歩中に注目するものまで変わってきました。
自分が犬を散歩させてたら、散歩してる他の犬が気になるのでしょうし、ダウジングの道具を持ってたら、金属がありそうなところばっかり気になるのでしょうね。散歩のテーマを変えるため、持ち物を変えるのは効果がありそうです。
手に持つお花の種類も変えてみました。
つやつやしたピンクのチューリップを見ているとウキウキしちゃいます。「お、春っぽい!」と、テンションが上がりました。
気分に合わせてお花を変えるのもアリです。
私は家に花瓶がなく、お花を買っても楽しむすべがないと思っていたのですが、「手に持って歩けばいいのだ」と気付きました。
「中国のおっさん達の間では、鳥をいれた鳥かごを持って散歩する趣味がある」と聞いたことがあります。当時、「部屋に鳥かご置いて眺めとったらええのに・・・」と感じましたが、お花散歩を経験した今、一緒に外に出るとテンション上がるし、家に置いているときより眺める時間も多くなるんやろうなと共感できました。中国のおっさんとも心で繋がれたひと時です。
ココア一杯がすてきに・・・ということは?
お花散歩中、少し休憩しようとドトールに入り、ココアを注文しました。持っていたお花をソーサ―に添えると、
飲みさしであることもカバーしてしまうお花の華やかさ。もしや、今までの写真もお花のおかげで、いい写真になっていたのではと気が付きました。
たとえば先ほどのラーメン二郎の写真ですが、
ラーメン二郎のシャッターの前で微笑む不気味さだけがそこに残りました。これでは全く絵がもちません。
今後、写真が地味になりそうな予感がするお出かけ先には、お花を持っていこうかしらと思いました。