パリ:行かねばじゃないですか! 来年のカレンダーに入れときましょう「なんやら牧場」って。
ナオ:はは。それを来年見て「なんやら牧場……ハァ?」
パリ:まったく成長しない。
吉高の大桜の開花状況は印西市のホームページで公開されているのでチェックしてみてください。
http://www.city.inzai.lg.jp/0000001369.html
千葉県印西市に「吉高の大桜」という名木がある。樹齢300年を超えるという木で、市の天然記念物にも指定されている。その木のすぐそばに、1年のうち桜の季節だけ営業している茶屋があるという。そしてその茶屋の「タケノコご飯」が名物なのだそう。
私とパリッコさんとの飲酒ユニット「酒の穴」はとにかく“茶屋”に目がない。景色のいい場所で簡単な料理と飲み物を提供していて、建物はかなり昔からあって味わい深い、と、そんな場所が「〇〇茶屋」と名のつく店に多いのだ。我々にとっては天国のような店が。
桜の木のそばに期間限定の茶屋が現れるなんて聞いたら確かめずにはいられないので、行ってみることにした。
「吉高の大桜」があるのは千葉県印西市。調べてみると、北総線の印旛日本医大駅という駅からなら歩いても行けそうだ。
パリッコさんと印旛日本医大駅で待ち合わせる。駅の外へ出るとそこは、ニュータウンだった。
ナオ:印旛日本医大駅、降りたことありました?
パリ:あるわけない。何ひとつイメージのない状態で、家の最寄駅から1時間半くらいかけて行きました。
ナオ:駅前はまさにニュータウンという感じでしたね! ドーンと景色が広くて、建売住宅が並んでいる。
パリ:馴染みのない、観光地でもない街のたまらなさが存分に味わえました。駅舎の形も変わってて。
ナオ:あー! なんだったんだろうあれ。離れてみてびっくりしましたね。
パリ:いまだにわからないです。モチーフが。
ナオ:とがった塔みたいな。
パリ:今調べてみたところ、「日本の鉄道駅としては珍しく駅舎に展望台があるが、通常一般公開はされていない」だそうです。
ナオ:公開してよ!
パリ:人集まるよ!
ナオ:あと、そうだ。駅名に「(松虫姫)」ってカッコ書きがあって。あれも謎でした。
パリ:桜へ向かって歩く途中に「松虫寺」っていうお寺があったから、何か伝説がありそうですね。うちら、何も調べないんすけどね、そういうの。茶屋しか眼中にないから。
ナオ:はは。確かに。
パリ:デイリーポータルZのライターとは思えないスタンスですね。反省せねば。
パリ:今回ってそもそも何がきっかけだったんですっけ。
ナオ:パリッコさんの提唱する「天国酒場」みたいな場所がどこかにないかなと思って「茶屋 見晴らし」とかで検索してずっと調べてたんですよ。で、見つかった店をストックしていって。そうやってで見つけたんじゃないかな。
パリ:ネットにあまり情報がなかったんですよね。それによけいそそられて。
ナオ:3月末から5月頭頃までの桜の季節限定だということだけわかって、その時は季節外れだったので「来年行きましょう!」って2人で話して、何ヶ月も先のカレンダーに「印旛沼」とだけとりあえず入れておいた。
パリ:いざ近づいてみると「なんだその予定」っていう。
ナオ:印旛沼……ハァ? って。まったく忘れてましたから。
パリ:たまにカレンダーに「飲み会」とだけ書いてあることがあるんですけど、あれものすごい恐怖。
ナオ:ははは。
パリ:誰とくらい書いとけよ、酔ったときの自分! 結局スルーしてしまうんですけど。万が一約束を破ってしまった方が実在するなら本当にすみません。
ナオ:そうか、スルーするしかないのか。
パリ:手がかりなしですから。とりあえず適当な居酒屋に行ってみても、たぶん店違うだろうし。
ナオ:適当に入った店が正解だったらすごい。「おお! 遅かったじゃんー!」って。
パリ:「重役出勤〜!」とか言われて。
ナオ:誰だかまったく知らない人に囲まれてね。
パリ:世にも奇妙な物語「飲み会の予定」。
ナオ:取材に同行してくれる予定の古賀さんより我々が早く着いて、一杯飲みながら待ちましたね。
パリ:そうそう。駅前にあった地元スーパーで、酒とつまみを買って。
ナオ:「ナリタヤ」っていうスーパー。成田が発祥なのかな。初めて聞くスーパーだったけど、千葉ならではのものなんかもあってね。
パリ:ああいうの最高に楽しいすね。
ナオ:「北総豚肉餃子」っていうのと、「錦爽鶏」っていう地鶏の鶏天も買いました。
パリ:美味しかったなー。ただ、スーパーで会計する前にカゴを見たら缶チューハイとカップ酒、プラカップ焼酎、あと、プリン体にあらがう機能性ヨーグルト。レジの人、「もう酒やめときなよ」って思ったでしょうね。
ナオ:酒と健康。「どっちだよ!」っていう。で、こっちは「どっちもだよ!」と返す。
パリ:ははは! 「ウコンの力」を酒で流し込むパターンね。
ナオ:欲望むき出し。豚も鶏も! 酒も健康も!
パリ:いいとこ取りですわ。
ナオ:それらを買って駅前の広場で食べながら待ったと。なんせ我々、椅子を持ってますから!
パリ:それまだ説明してませんでしたけどね。
ナオ:読者の方は「え! 地面に座ったの? 大丈夫?」と心配されたでしょう。
パリ:大丈夫なんです。我々、ちょっと遠出する時、椅子を持っていくクセがあるので。「チェアリング」というやつですよね。
ナオ:もう、その時点で楽しかったです「うまいなー! 天気いいなー! さて、帰ろうか」っていうぐらいで。しかしそこに、気を引き締めるがごとく古賀さんが到着して。
パリ:のんきに「古賀さんも一杯どうですか?」とか言ったら、「茶屋はどうするんですか!」って。ハッと。
ナオ:危なかったですね。我に返ってようやく歩きだしました。
ナオ:結構歩きましたね。
パリ:距離的に20分くらいと予想してたんですけど、遠回りしたりして、40分ぐらいはかかったかな。
ナオ:うんうん。最初はニュータウン的だったのが、すぐにのどかな山あいの風景になってきて。
パリ:なにせ茶屋しか眼中にないので、「何かアル→」みたいな怪しげな看板すら、「どうせちょっと変わった喫茶店かなんかでしょ」みたいな感じでスルーしながら。
ナオ:面白そうな雰囲気だったけど、今回はスルーで!
パリ:縁があればまた!
ナオ:はは。
ナオ:あ、でもさっきの「松虫姫」伝説のもとなのであろう「松虫寺」にはお参りしましたね。途中にあったので。
パリ:いい雰囲気のお寺でした。
ナオ:そうだ! お寺のあたりで、パリッコさんが空に向かって伸びる木々を見上げて、「あそこに綺麗な鳥がいますねー。なんていう鳥だろう」って。
パリ:あ〜、ありましたね。
ナオ:そしたらその鳥がサーッと飛び去っていった後に、羽毛が舞って手のひらに落ちてきたじゃないですか。
パリ:ふわーっとね。うわー綺麗! と。
ナオ:それを見て古賀さんが「なんなんですか、この取材」と言ってました。
パリ:わはは!
ナオ:ただの休日みたいな。
パリ:古賀さんを不安がらせてしまいましたね。
ナオ:お2人は「歩け歩け会」の方ですか? みたいなね。
パリ:「歩け歩け飲みながら会」まさに、健康も! 酒も!
ナオ:欲張り団体だ。
ナオ:道沿いの桜もまだ咲き始める前で、都内よりも気温が低いのかもしれない。「これ本当に茶屋なんかやってるのかな?」って不安になってきて。
パリ:ダメだったらもう、なんの情報もない記事になりますもんね。
ナオ:「何もない場所に椅子をおいてみたよ!」っていうだけの記事。途中で骨組みだけの謎のスペースに椅子を出したでしょう。
パリ:なんだか不思議な場所でしたね。
ナオ:そのためにちょっと荷物を道に置いて、で、さて歩き出そうと思ってみたら、すぐそこにイノシシよけの電線が張ってあって。
パリ:こわかった。
ナオ:あとで近くの人に聞いたら、まず昼間はイノシシが来ないので電流は流れてないと。電流がたとえ流れていてもそれほど強い電流ではない。ただ、「触ると嫌な感じがする」んだそうです。
パリ:少し嫌な感じがするくらいの電流か。触ってみればよかった。
ナオ:そんな勇気ないでしょ!
目的地の吉高の大桜を発見した一行。遠めに見ても、桜はまだ全然咲いていないのがわかる。まあそれはいい。それはいいとして、肝心の茶屋はどうだ! 桜が全然咲いてない時期に本当に営業しているんだろうか……。
ナオ:吉高の大桜はまだ全然咲いてないし、不安がだんだん絶望に変わってきて、でもとりあえず近くにあるという茶屋へ向かいました。
パリ:やってましたね、茶屋。
ナオ:よかった。本当に嬉しかった。
パリ:「峠茶屋」もしくは「お休み処 須藤」っていうのがお店の名前なのかな。
ナオ:入ってみたらすごい良い雰囲気でね。お祭りなんかである座って食べていける大きな屋台みたいな。椅子とテーブルが置いてあって。
ナオ:ちょうどうちら以外人がおらず、店主さんにいろいろとお話を聞かせてもらうことができました。そこで聞いてわかったことを箇条書きにしてみましょう。
パリ:うんうん。で、我々としては最大の衝撃だったのが、
ナオ:そうそう、酒がなかった。缶ビールぐらいあるかと思ったんだけど、なかったですね。甘酒はあったけど。
パリ:いくらなんでも想定外でした。
ナオ:場所柄、車で来る人も多そうだからな。
パリ:よく考えると「茶屋」って言ってるし、うちら、茶屋に酒があると思い込みすぎてましたね。
ナオ:茶屋への偏見ね。茶の屋ですから。
パリ:茶の屋にしては、お茶はタダ。気前いい。
ナオ:確かに!
パリ:お茶を飲みながら一通りのメニューを頼みましたね。
ナオ:片っ端から食べましたよ! タケノコのシャキシャキ具合、すごかったな。
パリ:たけの子ごはんも、たけの子みそ汁も、味が濃くてうまいうまい。全部地場産の食材で。
ナオ:体にいいもの食べてる! って気持ちになりました。50円のゆで卵すらやけに美味しかった。
パリ:店主さん、100本に1本くらい、天才みたいにうまいタケノコがあるって言ってませんでした?
ナオ:そうそう。っていうか、5月頭に店で出す「たけの子の刺し身」は、厳選した本当に美味しいタケノコだけを使ってるみたいな話だったかな。
パリ:やばいでしょうね。
ナオ:吉高の大桜がほんと、あっという間に咲いて散るんですって。1週間ももたないぐらいで。それが散ったあとがいよいよタケノコの美味しくなるタイミングだと。
パリ:粋な話だな〜。「それ、めちゃめちゃ食べたいです! けどその時はさすがにお酒飲みたいな〜。持ってきちゃダメですか?」って聞いたら、ご主人が「俺の分もな」って、ニヤッと。
ナオ:お酒好きなんですよね! ご主人の分もあるなら持ち込み可ってことか。
パリ:そうらしい、くらいのアバウト情報ですが。
ナオ:持ち帰りできるから店の外に出て、買ってきたお酒と一緒にとかね。
パリ:あ〜、それいい! もしくは店の外にビールだけ置いといて、店内と往復してもいいかもしれない。
ナオ:やけにトイレの近い客だな、みたいな。
パリ:実は逆に摂取してました〜!
ナオ:ギャフン!
ナオ:店主が、須藤さんという方なんですが、有機農法にこだわっている人で、めちゃくちゃ詳しく教えてくれました。全然わからないから、へーって言うしかなかったけど。
パリ:店中で野菜とか加工品も売ってたりして、ただその中でひときわ異彩を放ってたのが「峠スーパーX」ですよね。
ナオ:峠を攻める走り屋集団の名前のような。
パリ:と、思いきや、泥の洗顔フォームみたいな見た目のクリーム。
ナオ:なんかその有機農法に関する何かを使ったものだとのことでした。
パリ:「塗ったらなんにでも効く」って言ってました。印象的だったのが、「痛風の人が痛いところに塗ったら、たちどころに痛みがおさまった」と。だけど、「手荒れなんかにも良さそうですね〜」と言ったら「手荒れも、2週間くらい塗ればすっかり良くなる」って言ってて、そこは割と普通のクリームなのね! っていう。
ナオ はは! 効能に差が。
パリ:痛風には特に効く。
ナオ:まあでも俺も、喉乾いてる時のビール一杯はすぐ飲み干すけど、バリウムは飲むの遅いです。
パリ:同じことですね。
ナオ:ご主人の話は難しくて分からないところもあったけど、野菜が実際旨かったので「何かしらいいんだろうなー!」と、味が何よりの証拠でした。
パリ:そうそう! 普通なら、「怪しいな〜」とか思っちゃうようなシチュエーションだけど、野菜のうまさが説得力になってしまう。
ナオ:すごい親切な方で、さっき採ってきたばかりだっていうほうれん草をゆでて味見させてくれて、それもびっくりするぐらい甘みがあって旨かったなー。
パリ:砂糖でもかけたのかってくらいの甘さでしたね。しかもそのほうれん草を「少しわけてやるから持ってきな」って、とんでもない量くれて。
パリ:というわけで、これで今回の目的は達成!
ナオ:茶屋スタンプをポーン!
パリ:いわゆる「酒の穴」ではなかったかもしれないけれども。
ナオ:酒スタンプは甘酒でポーン!
パリ:甘酒で押しちゃうんだ。
ナオ:いいっしょ。
茶屋をすっかり堪能した我々。ここに茶屋があるのは吉高の大桜のおかげである。その桜も見ておかねばいかんと桜の前へ。近くで見ても、無論、咲いてない。
パリ:とにかく咲いてませんでしたね。
ナオ:まっだまだでした。
パリ:けど、おかげでまったく人がいないので、椅子に座って桜の木を見上げたりして、こういう花見もいいなと。
ナオ:ね。あれはあれで!
パリ:花が咲いてないから花見ではないけど。エア花見?
ナオ:未来の花を見てるっていうか。
パリ:未来をつまみに飲む。
ナオ:咲いたら綺麗でしょうねー! って、飲む。
パリ:未来を見つめる酒の穴。
ナオ:でもそれがありなら、いつでもできますね。散った後に「咲いてたんでしょうねー! この前まで」でもいいし。
パリ:花見のネクストレベルですね。
ナオ:そこになぜか事務用の机が置いてあって、パリッコさんが「一度やってみたかったんすよ」と、急に「野良ノマド」なる行為をやりだしましたね。
パリ:うん。スタバとかじゃなくて、なんでもない場所専門のノマドワーカーがいてもいいんじゃないかと、ずっと思ってたんですよ。
ナオ:我々がそんな風に楽しんでいたら「吉高の大桜を守る会」っていうジャンパーを着た方が声をかけてくれて。
パリ:「咲いてないでしょ?」ってね。
ナオ:「咲いてないっすねー!」って。
パリ:話を聞いてたら隣の農家のおじさんで、畑を見せてくれるということになりました。
ナオ:三浦さんという方でした。色々な野菜を育ててましたよ。桜を見に来る人が多い週末なんかは沿道で野菜を売ってるみたいですね。
パリ:我々もたまらず売ってもらいました。
ナオ:水菜買いましたね!
パリ:畑から引っこ抜いた水菜をそのままっていう、これ以上ない新鮮さ。100円でこれまた大量、しかもカブのおまけつき。
ナオ:サービス良すぎる。
パリ:もう、リュック野菜でパンパンですよ。
ナオ:ボウリングの玉一個ぐらいでしょ。重さ的に。
パリ:そういえば、水菜を抜いてくれた時、なんとなくテレビとかのイメージで、「これ、今この場で食べたら美味しいんでしょうね!」って言ったら、おじさんが「食べられないことはないけど、洗ったほうがいいよ」って言ってて、そりゃそうだと思いました。
ナオ:はは。その場で丸かじりっていうシチュエーション、憧れるんですよね。
パリ:でも普通に水菜に土がいっぱいついてて。ていうか、それやるの、少なくとも水菜ではない。
ナオ:そうかー、キュウリとかトマトとかね。
パリ:水菜かじって「甘〜い!」じゃねえだろと。
パリ:帰り道、ぜんぜん迷わなかったっていうか、実ははてしない一本道でしたね。20分くらいで着いたのかな?
ナオ:行きはいろいろ寄り道したからな。
パリ:最後に駅の近くの公園で見た「牛むぐり池」も妙に印象に残っています。
ナオ:そうだ。「牛むぐり」ってなんだろうってね。怖いよなんか。
パリ:かつて牛をむぐった池であることは間違いないんだろうけど。むぐるってなんだよ!
ナオ:俺の予想では、牛の鼻輪をグイグイグイ! っていうイメージです。
パリ:かわいそう!
ナオ:むぐらないであげてー! っていう。
パリ:でも、池ってことはまさか、牛の頭をおさえつけて、池にブクブク沈めて、苦しそうにしたらがばっと出してあげて、そうやって何かを鍛えたとか?
ナオ:はは。かわいそう! むぐらないでー! っていうかそうだとして、なぜわざわざそんな名前につけるんだっていうね
パリ:このままじゃ牛があまりにもかわいそうなんで、調べてみましょうか。
ナオ:はい、検索。
パリ:「都から松虫姫を乗せてきた牛は、姫が都に帰る時、別れを悲しんで池に飛び込みました。その池は『牛むぐり池』と呼ばれ今でも残っています」だそうで、一番かわいそうな話だった……。
ナオ:むぐりとは、「もぐり」に同じ。だって。牛が身を投げたんだ……。
パリ:そもそもうちら、まだ「松虫姫」について何も知らないですよね。
ナオ:牛との関係性も。そこは追って調べていきましょう。
パリ:ちなみにさっき検索したサイトに「姫との別れを惜しんで牛が…牛むぐり池」って書いてあって、キャッチのつけ方が秀逸。
ナオ:牛が、え、どうなったの!? って。そのままCM入るやつですね。
パリ:結論としては牛がむぐったわけで、正解出ちゃってますけどね。CMまたぎなら、「姫との別れを惜しんで牛が… 牛〇〇り池」がいいのかも。
ナオ:「牛ぺろり池」
パリ:池の水をぺろりと飲んじゃってね。惜しみかた独特だな!
ナオ:悲しくてめっちゃ喉乾いちゃって。
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