匙は手で投げろ
なんだか思いのほか成果が出ないので、最後は匙を投げることにも匙を投げてしまった。スプーンのバカ!カタパルトのバカ!トレビュシェットのバカ!手作りの兵器を作るより、匙は手で投げたほうがよく飛ぶ。みんな、攻城兵器は城を攻めるときだけ使えよな!
意外と迫力のあるトレビュシェットを砲撃手視点でどうぞ
運動会シーズンだ。昔から運動神経が悪かった僕にとって、運動会はやっかいなイベントだった。みんなの前で走ったりしなきゃいけないからだ。
しかし改めて考えると、それってもったいないことだと思う。今からでも遅くはない、楽しい運動会を取り戻せないだろうか。大人になった今、運動会はないけれども、せめて運動会気分で一日過ごすことによって、あの秋の日の青春を取り戻せたらと思うのだ。
※2008年9月に掲載された記事の写真画像を大きくして再掲載しました。
運動会で一番楽しそうな競技といえば、障害物競走だ。今回は障害物競走をやって、運動会を満喫しようと思う。
とはいえ、僕はもう社会人で、仕事もある。会社の勤務はしっかりこなしつつ、障害物競走していきたい。そのためのメニューを立てた。
・スプーンでピンポン球を運びながら出勤
・網の下をくぐりながら午前中の仕事
・天井にぶら下がったあんパンを食べる昼食
・平均台の上で仕事
・腰ぐらいの高さのものは全部飛び越えながら帰宅
どうだろう。みごとな運動会と会社員の両立ぶり。障害物競走の物理的な障害をくぐり抜けながら、ビジネスシーンでのさまざまな障害も解決していく。ビジネスアスリートとでも言うべきだろうか。そんな人に、私はなりたい。
朝、いつもより少し早目に起きて身支度を済ませたら、さっそくはじめよう。最初の競技はピンポン球運び。よーい、スタート!
すぐにピンポン玉を落としてしまい、さっそくイライラし始める僕だ。ちょっと気を抜くとすぐに逃げ出そうとする、おてんばなピンポン球を手なづけるのは、楽しいと言うよりじれったい。しかし障害物競走はまだ始まったばかりだ。すでにちょっとうんざり気味だが、ここで負けるわけにはいかない。
ダメだ!家からまだ駅にも着いてないのに、15回も落としてしまった。普段なら5分くらいの距離だが、すでに20分ちかくかかっている。このペースだと、会社に着くまでに120回は落とすだろう。混雑した電車の中で人の足の間をコロコロ転がっていってしまうピンポン玉、のぼり階段で何度も下まで転がり落ちて再スタートを要求するピンポン玉。想像しただけでイライラしてきた。あー、もう!
やめ、やめ!一日中、障害物競走で過ごすなんて無理!もうこんなのやってられない。何が運動会だ。俺は怒ったぞ。もうこの企画、匙をアレする!
僕はとにかく怒ったので、匙を投げることにした。その怒り方ときたら半端じゃないので、普通に匙を投げたくらいでは全然おさまらない。
そこでカタパルトの登場だ。カタパルトというのはいわゆる投石機。中世の攻城兵器のあれだ。ピンと来ない人のために絵を描いてみたが、わかったのはカタパルトのことではなく自分の画力のなさだけだったので、読者のみなさんは大人しくwikipediaを見てほしい。(wikipedia / 描いた絵)。
たかだかスプーンひとつ投げるのにこんな文明の利器を登場させるあたりで、僕の怒りのすさまじさをわかってもらえるだろうか。しかもその「文明」が中世どまりであるあたり、僕がいかに怒りに我を忘れているかわかってもらえるだろうか。
とにかく僕はおこったぞ!がおー!
さんざん怒りを強調しておいてなんだが、いきなり弱々しいパイプの登場。素材は塩ビパイプ。内径16ミリ、細めのチョイスとなっております。
ひとくちにカタパルトといっても、石を投げる原理によっていろいろ種類があるようだ。今回はトレビュシェットと呼ばれるものをつくる。テコの原理を応用して石を投げるタイプだ。例によって絵を描いてみたが、さっきよりひどいのでここは黙ってwikipediaを見てほしい。(wikipedia / 描いた絵)
このトレビュシェット、テコに乗せるおもりが重ければ重いほど投げる力が強くなる。しかしそのためには、加重に耐えられる丈夫な機体が必要だ。そこで重要になってくるのが材料で、丈夫な素材を使えばそれだけコストも上がる。強度とコストをてんびんにかけ、緻密な強度計算により材料を選定する必要があるのだ。
今回は、家に16ミリのパイプが余っていたので迷わずそれを使用している。
このきゃしゃなボディ、「カタパルト」のカクカクした語感よりも、「トレビュシェット」のシュッとした語感のほうがよく似合う。でも本当によく似合う名前はカタパルトでもトレビュシェットでもなくて、「石なげそうち」ではないだろうか。製作中、牛乳パックで造ったロボット状の工作を持った小学生たちが通り過ぎていった。感じたくなかったシンパシーに胸が張り裂けそうだ。
素材の弱々しさはいかんともしがたいが、なんかピカピカした金具が付き、大きな可動部分ができたことでちょっとは機械っぽくなってきたではないか。なったよな、な?
wikipediaの写真とはずいぶんちがうものの、僕の考えたシンプル版トレビュシェット、ここに完成。
トレビュシェットの製造は完了。引き続き発射準備に入る。攻撃開始は日の出と同時に行う。まずはトレビュシェットで城壁を破壊し、突破口が開けたところで騎兵隊が一気に突撃。奇襲で敵がパニック状態のうちに、歩兵部隊が城内を占拠する作戦だ。作戦というか気分だ。ここは公園なので城壁も城もない。
重りにはペットボトルを使った。あまり重いと、てんびんがポッキリいくか土台部分がつぶれてしまう。ギリギリの妥協点として、今回は1.5リットルを使用。ちなみにいまキャンペーン中で、1リットルの水を買うとユニセフからアフリカに10リットルの飲料水が供給されるそうだ。この記事は3ページありますが、この1.5リットルの水を買ったところが、唯一社会に貢献している部分です。
はたして僕の怒りを乗せた匙はどこまで飛んでいくのか。そして遠心力の加わったペットボトルの重みに、16ミリのパイプは耐えられるのか!?
3…2…1…発射!
手を離すと同時にオーバーアクションで逃げる僕。てんびん部分の長さは2m。大ぶりのスイングは間近で見るとかなり迫力がある。
そして肝心の匙。僕の設定では敵の城壁までの距離は8mだったのだが、結果は2m50cm。歩けば4歩くらいの距離だ。えー。
カタパルトを使って匙を投げることには成功した。が、せっかく古代兵器の技術まで持ち出したのに、成果が飛距離4歩ぶんというのは、なんと不甲斐ないことか。初めての投石器製作、もう少し試行錯誤させてほしい。
先端をL字に曲げることによって、スプーンが飛び出す角度を変えてみようという作戦だ。
またL字パーツを付けることで別のいいこともあった。発射前、てんびんをより深く傾けて、勢いを付けることができるようになったのだ。(先がまっすぐだと、水平より傾けるとスプーンが抜け落ちてしまう)。
では発射します。
まったく振るわず。4歩が3歩に縮まった。いや180cmなら2歩でもいける。人によっては歩かなくても身長だけでいける。
ボールを投げるとき、手は45度の位置で離すといい、と聞いたことがある。投石器でも理屈は同じだろう。先端をL時に曲げたのは失敗だったのではないか。45度の角度で飛んでくれるように、てんびんの先端の角度をこんどは45度に調整した。
さらに、テコの力がさらに強力になるように、てんびんを重り側に少しずらした。スプーン側の回転半径が小さくなるので遠心力が弱まる恐れはあるが、それも試してみないとわからない。
最初と同記録。2m49。
いろいろと手は尽くしたと思うのだが、飛距離は伸びなかった。もう策は尽きた。これ以上飛距離を伸ばすのは無理だ。がんばったのに!なんなんだ!
なんだか思いのほか成果が出ないので、最後は匙を投げることにも匙を投げてしまった。スプーンのバカ!カタパルトのバカ!トレビュシェットのバカ!手作りの兵器を作るより、匙は手で投げたほうがよく飛ぶ。みんな、攻城兵器は城を攻めるときだけ使えよな!
意外と迫力のあるトレビュシェットを砲撃手視点でどうぞ
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