「わざと振らない」という選択
「わざと振らない」という選択。反骨精神にあふれたかっこいい生きざまであると思う。
ただ、我々はしばしば臆病だ。振らないことで、せっかく買った飲み物がひどく不味くなるかもしれない。そんな恐怖に駆られて、結局よく振ってお飲みしてしまうのだ。
反骨したい、でも美味しいドリンクも飲みたい。そんな葛藤にさいなまれながら、いいことを思いついた。振らずに飲むとどうなるか、事前に調べておけばいいのだ。
よく振らなかったらどうなるのか
ということで、「よく振ってお飲みください」系飲料(一部例外あり)を10種類、用意した。
用意するにあたって、スーパーを巡りながら「これも振らなきゃいけないのかー、へー」的な発見があるかと思われたが、調べてみると当サイトの先輩ライターであるところの古賀さんが3年以上も前に通った道であった。もちろん今回は喜んでそのレールに乗っからせていただいた。すでに反骨精神のかけらもない展開だが、おかげで買い出しが15分で済んだ。持つべきものは先輩である。
スコールは「乳系なのに振らなくていいのか!」と思い買ってみたのだが、よく見たら炭酸飲料であった。当たり前だ。
いつもは見えない変化を白日の下に
すべての飲み物を、透明のコップに注いでいく。本当によく振らなきゃいけないのであれば、このまま数日おけばなにか変化が起きているはずである。
普段は紙のパックや缶に入っていて見えない変化を、透明のコップに入れることで変化があらわにしようという狙いだ。
てっきり黒いと思っていた黒酢ドリンクが全く黒くなかったのには「なぬっ」と思ったが、いろんな色のドリンクが並ぶにつれて、だんだん机の上が華やいできた。
一日経過
そして寝かせること1日。
この時点で大半が沈殿し始めているのではないか、と予想。さて見てみよう。
野菜生活にみごとな沈殿が発生していた。ちょっと寝転びたいくらいのフカフカ感。やっぱり「よく振ってください」は振らなきゃだめなんだ!
しかし、みなさんどうか落ち着いてください。ここで重大発表がある。
この野菜生活、「よく振ってお飲みください」が書いてないドリンクなのだ。もうひとつの野菜ジュースとの比較対象のために買ったものだ。それがひとりでダントツに沈殿している。
こういうときよく「テスト勉強してないって言ったのに、一人ですごい点取るやつ」なんて例えをする。しかしこのジュースは、そんな友人同士のじゃれあいそのままのテンションを食品表示に持ち込み、全国流通に乗っているのだ。果敢である。
参考までに他のドリンクも見てもらおう。
腑に落ちない気分だが、とりあえず経過を見守ろう。
二日経過
そして二日目。一見平和に見える冷蔵庫だが、今日も新たな変化が起こっていた。
のむヨーグルトの上に、うっすらと白っぽい液体の層ができていた。
そういえば食べる方のヨーグルトでも、開けるといつも上の方に液体がたまっている。のむヨーグルトでも同じことが起こるみたいだ。
ちなみに昨日の野菜生活は相変わらず沈殿中。ただ、昨日より沈殿が圧縮されたというか、濃く、(厚みが)薄くなった気がする。昨日はふわふわの粉雪が積もった感じだったのが、砂漠の砂みたいになった。
三日経過
見たところ特に変化はない。
実はこの日、地震があった。東京都23区は震度3。ちょうど僕は外出中で、この実験のことを思い出し「やべっ」と思ったのだが、家に帰ると野菜ジュースや飲むヨーグルトは分離したままだった。
震度3くらいの地震は、よく振ったうちには入らないらしい。
四日経過・結果発表
そして4日目。今日も特に変化はない。これ以上待っても意味がなさそうなので、実験はそろそろ打ち切りだ。
では結果どうなったか、写真つきでご覧ください。
分離したとこ飲み比べ
様子が変化したのは2種類だけであった。「よく振ってお飲みください」神話の崩壊。「あえて振らない」時代の到来。残る邪魔者は、野菜生活と飲むヨーグルトだけであるが…。
落ち着いて考えてみよう。様子が変化したとはいえ、それだけで「振らなきゃ!」と思うのは時期尚早。
分離したことでかえって美味しくなっている可能性だってあるじゃないか。
分離した部分をスポイトで少しずつ吸い込み、別のコップに移していく。
こうして「野菜生活の上の層」「野菜生活の下の層」の2つのドリンクを作る。分けて飲んでみようという魂胆だ。分けて飲んだほうがうまければ、イコール振らないほうがいい、ということ。
まず上の部分を飲んでみる。
色は意外に濃い色だけど、濁ってはいない。澄んだ色だ。
コップに口をつけると、むわっと青臭いような、草っぽい匂いが広がる。材料に書いてあるケールの匂いだろうか。
反面、飲み口は意外にさわやかで、のみやすい。酸味があるので、原材料にあるオレンジやレモンが効いているのかもしれない。
一方、沈殿物を集めたものは、なんていうか沼っぽい見た目。上澄みの部分より色が濃いだけでなく、ちょっと黄色っぽい。
かいでみると見た目とは裏腹にリンゴっぽい香りがして、フルーティーで美味しそうだ。さっき感じた草っぽさがない。
飲み口はさすがにどろりとしていて舌に残るが、上澄み部分と比べてそれほど濃厚な味というわけでもなかった。甘い。なんの味かよくわからなかったけど、リンゴか、あるいはにんじんやピーマンの甘みかもしれない。
あと後味がクッピーラムネっぽい気がした。
上澄みはホエー
さて、飲むヨーグルト。
上澄みになっているのはホエーというものだそうだ。たまに食べ物の原材料欄をみると、マヌケな語感で気分を和ませてくれるアレである。wikipediaによると「高蛋白・低脂肪で栄養価が高い」と書いてある。さらにはパックに使われたりもするそうだ。それ、うまいんか?
まずはホエーのほうを味見。
色は透明度が高くて、ちょっと黄色がかった白。匂いをかいでみると、ヨーグルト特有の酸っぱい感じがなくて、ほんのり甘いような匂いがする。
そして飲んでみて、ハッ!とした。この味は…
そうだ、スコールに似てる。
実験に使ったスコール(炭酸が抜けてる)と飲み比べてみると、スコールの方は甘みが強くて人工的な感じがするけど、この上澄みはそれをもうちょっと自然な甘さにした感じがした。
そして残りの部分。
これははっきり言ってのむヨーグルトそのままだった。見た目も匂いも味も。
強いて言えば酸味が少し抜けてマイルドになった気がするのだけど、気のせいかもしれない。
細かく飲み比べてみたものの、野菜生活も飲むヨーグルトも、どちらも分離後の味は可もなく不可もなく。
それに比べて分離前を飲んでみると、やっぱりメーカーが作った飲み物ってよくできてるよね!という味であった。
「あえて振らない」はそれなりにアリ
そういうわけで、最初の話に戻ると、振れって書いてある飲み物でも意外と分離しない。したがって、「あえて振らない」という生き方はそれなりに有効だ。たまにはずれもあるけど。飲むヨーグルトと野菜ジュース以外は「あえて振らない」、みたいな感じでいいんじゃなかろうか。
一方で、何が何でも「あえて振らない」というハードボイルドな生き方を望む人は、それもいいと思う。分離したら多少味は落ちるかもしれないけど、まあ飲めないほどじゃない。それよりハードボイルドを貫く、そのライフスタイルのほうに価値があると思うのだ。
まあ僕は振りますけど。