特集 2022年2月23日

お菓子のサブレの造形を鑑賞する「サブレ部」の活動

サブレの形を愛でる

いろんな形のものを集めて鑑賞するのがすきだ。
自分で集めるだけでなく、ひとの集めたものを見せてもらうのもすきだ。

インスタグラムで、サブレ部と称して、サブレをひたすら集めているアカウントをみつけた。

そのサブレ部長として活動するひとに話を聞いた。

鳥取県出身。東京都中央区在住。フリーライター(自称)。境界や境目がとてもきになる。尊敬する人はバッハ。(動画インタビュー)

前の記事:今が正念場? 大人こそ買うべき「国語便覧」の話

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2005年頃に気になって集めはじめた

「造形としてのサブレを愉しむ」という、サブレ部のインスタグラム。現在200個あまりのサブレがアップされている。 

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サブレ部

確かに、言われてみればサブレって、いろんな形あったな、と気づく。そしてつらつらと見ていくと、変な形のサブレ、そうでもないサブレなど、実にサブレの形の豊潤なこと。だんだんサブレの造形が気になってくる。

いったい、このアカウントはなんなのか。

サブレ部の部長に来ていただいて、話を聞いてみた。

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左から、サブレ部の部長、DPZ編集部古賀さん(写ってませんが、筆者がおります)

西村:そういえば、サブレっていろんな形があったはずなのに、今まで形に注目したことなかったなと思って。

古賀:不覚よ、不覚。

西村:部長さんは、これいつ頃から集めてたんですか。インスタグラムの投稿をみると、2019年ごろが最初ですけども。

部長:インスタグラムにアップしはじめたのは2019年ごろからですけど、じつはサブレの造形に注目して集め始めたのはもっと昔で、たぶん2005年ぐらいからブログをやってたんです。

古賀:えぇ! じゃあもう、ブログとか個人サイトの黎明期ぐらいからじゃないですか。

部長:2005年ぐらいからしばらくやってたんですけど、その後に結婚したり、子供ができたり、あと海外赴任してた時期もあって、休眠してたんですが、日本に2018年に戻ってきて、仕事が落ち着いたので、ちょっとやるかとなって。

古賀:昔の趣味に戻ってくるのすごいですね。

部長:なにかの拍子で会社の後輩がブログのことを知って、飲み会で「これ面白いじゃないですか」って言われて、じゃあ再開してみようかなと思ったんですよ。

古賀:せっかくいいアーカイブあんのにと。

西村:最初の方、写真がすこし解像度粗い写真があるのは、昔のカメラで撮影してたからですね。

形にだけ注目、味は重要視しない 

サブレ部のコメントは、まず形のおもしろさありきで、味に関しては言及がないのがほとんどだ。サブレの形に注目しようという姿勢が徹底している。

サブレ部で、いちばん最初に登録してあるサブレは、やはりというかなんというか、鎌倉の鳩サブレだ。やはりここは外せないということらしい。

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「ふくよかな鳩胸。今にも飛び立ちそうな絶妙な傾き。これこそ、人間の深層心理を刺激するロングセラーのフォルム。」サブレ部インスタグラムより

個人的に気になったのは、やはり県の形をしたサブレだ。

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青森サブレ、昔の物なので、解像度が低い

これだけシンプルに省略しても、ひとめで青森だな。とわかる造形。津軽半島や下北半島がもつ、造形の妙さのポテンシャルが存分に発揮されているのではないか。なかやまきんに君のパワーっぽさがあるけれど。

地形的な特徴としてはあまりパッとしない山形だが、果敢に県の形のサブレを作っている。

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山形サブレ、よく人の横顔なんていわれるが、山形県である
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この発想はなかった〜

袋に地名を書き入れるというアイデアがナイスなのと「お菓子な顔です」という、うす味ダジャレのキャッチフレーズもここちよい。

突っ込みどころが多いパッケージ

部長によると、予想を裏切ってくる形のサブレに出会うのも味わい深さのひとつだという。

部長:「BUTTER(バター)」って書いてあるサブレですけれども、それ国技館で買ったんですよ。

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BUTTERと書かれたサブレ

西村:え、国技館ですか? バター要素ゼロですけども。

部長:意外なんですけど「大相撲バターサブレ」なんです。大相撲なのに、書いてあるのは「BUTTER」。そっちのほうをアピールしちゃったのかという。

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「大相撲こんがりバターサブレ」

古賀:国技館のお土産ならせめて相撲の方に寄せてくれよという。

西村:期待を裏切ってくるおもしろさありますね。

部長:「寛永通宝サブレ」も期待を裏切るおもしろさありますね。寛永通宝といえば、あの、銭の形をしてるのかなって思いますけど。

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香川県善通寺市の銭絵をモチーフにした寛永通宝サブレ

部長:中身は丸いんです。

 

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丸い……

西村:穴あいてないのか……。

サブレと書いてあれば…… 

部長:最初まよったのは、クッキーとか入れちゃうと、収集つかなさそうだなと思って、あくまで「サブレ」と名乗っているものに限定しようと。

西村:ラインを決めたわけですね。

部長:最初は形が珍しいのを集めてたわけですけども、そのうち、せっかく地方に来て、サブレを売っているのに、形が丸いというだけで、買わずに帰るのがもったいないと思い始めて、もう、それからは形がシンプルなものでも、とにかく「サブレ」と名乗っているものであればなんでも買うようにしているんです。

西村:気持ちがもうサブレよりになっているわけですね。サブレだけを集めるというのは、クッキーとサブレの定義を踏まえてということですか。

部長:いや、もう、そう名乗っているかいないかだけですね。(クッキーもサブレも)ほぼ同じようなものだと思うんですけどね。

西村:今日、取材の前になにか話の参考になるかと思って、銀座のアンテナショップまわっていくつか買ってきたんですが、熊本のアンテナショップではサブレは売ってなくて、代わりに「デコポンクッキー」というのを売ってたんで仕方なく買ってきたんです。でも、残念ながらこれは対象外ということになりますね……。サブレって名乗ってたらいいのに。

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こちらのサイトによると、日本では焼き菓子全般をビスケットとよび、クッキーは「手作り風の外観をもつもので、原材料の中の糖分と脂肪分の合計が40%以上含まれているもの」と、全国ビスケット公正取引協議会による公正競争規約の中で定められているとある。サブレは、とくに定義はなく、一般的に、ビスケットよりバターやショートニングの量が多く、バター風味とサクッとした食感があるものをサブレと呼んでいるようだ。

部長:そうですね、たまに魅力的な形をしているものがあったりするんですけど「クッキー」って書いてあったりして「なんでだ……」と思うことあります。

古賀:私はデパ地下に行って、サブレサブレと思いながら「ブルターニュ風サブレ」って売り場に書いてあったんで、喜び勇んで買ったんですけど、裏に書いてある商品名みたら「ガレットブルトンヌ」って書いてあったんです。確かにサブレではあると思うんですが、サブレ部さんの方針としては、もしかして、こういうのは対象外にしてますか……?

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サブレ? ガレット?
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サブレに擬態するガレットブルトンヌ

部長:うわー、難しいところですね……。

西村:おまえー、サブレじゃなかったのか! という。

部長:買う場合は裏の表示までみて買わないとダメなんですよね……これ、サダハルアオキのめっちゃ高級なやつなんじゃないですか? 

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高級すぎるサブレ

古賀:あ、そうなんです! これ、デパ地下でサブレって書いてあって、ちっちゃいやつ一個じゃなんだからと思って、3つ買ったら、900円って言われて、真後ろに倒れました。

西村:さすがデパ地下ですね。

部長:ガレットブルトンヌも高いですからね。

古賀:これ、700円とかしますから。

西村:え、そんなにするんですか。

部長:サダハルアオキのやつは、むかし妻に、バレンタインデーでもらいましたよ。

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チョコレートコーティングの高級サブレ

古賀:めっちゃかわいい!

部長:これも、表示が「サブレ」だったんですよ。

西村:チョコレートでコーティングしてあるんですね……。

部長:普通にめっちゃくちゃおいしかったですし。

古賀:奥様も、あなたサブレ集めてるから、みたいなところがあるんですね。

部長:そうですね、すこしさめた目で見てますね……サービスエリアに行くと、僕一人でサブレ探しに行っちゃうんで、あーまたサブレさがしてんなー。みたいな感じで見られてますね。

部長:ただ、妻もよくわかってないので、たまに「サブレあったよ」なんてクッキーのことを教えてくれたりするんですけど、いや、それはクッキーだからって。

西村:厳しい! サブレ集めはどれぐらいのペースでやってるんですか? わざわざサブレを買いに行く。というような旅行をしたりはしない?

部長:しないですね、今はコロナ禍で少なくなっちゃいましたけど、地方に出張するときとか、実家に帰省した時とかに探して買う感じですから……。

西村:根こそぎ買っていくみたいな、修行みたいな買い方はしないわけですね。

部長:サブレってだいたい賞味期限が3ヶ月とかなんですよ。何種類か買ったら、それを少しづつアップしていって、それでいよいよストックが無くなったら、アンテナショップやデパ地下、サービスエリアみたいなところに行くとなにかしらサブレがあるんですよ。

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マドレーヌにしてたべちゃう

西村:しかし、サブレを購入するときにいちいち箱ごと買うの大変じゃないですか?

部長:大変です……取り立てて甘いものが好きというわけでもないので、食べきるのが大変なんですよ。ただ、食べきれないぶんは、潰してマドレーヌにしちゃうんです。

古賀:え、自分で作るんですか? どうやってやるんですか?

部長:普通に潰しちゃうんですよ。粉にして、卵と牛乳を入れて混ぜると生地ができちゃうんですけど、普通はベーキングパウダーとかいれないといけないかもしれないんですが、サブレだと、ちゃんと膨らむんですよ。

古賀・西村:えー、すごい。

部長:一般的なお土産サブレは、一箱でだいたいマドレーヌ4個か5個ぐらいにおさまっちゃうんです。そうすれば食べやすいですね。

古賀:それは、調べたんですか?

部長:調べました。ちょっと食べられないなーと思って……。こういうやつ(デパ地下のサブレ)は、ペロッといっちゃうんです、美味しいから。でも、こういうやつ(オーバンドサブレ)は、なかなか手強かったりするんですよ。

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下の方のデパ地下サブレに比べ、手強そうな輪ゴム風サブレ

西村:大阪のアンテナショップで売ってた、輪ゴムのオーバンドをモチーフにしたサブレですね。

古賀:おもしろ重視のサブレですからね。

部長:おもしろ重視は危険なんですよ。

西村:まずいというわけじゃないけど、味が普通で量があると飽きてしまうのはまあ、仕方がないですからね。

 

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オーバンドサブレ。パッケージは「美味しそう!」よりも「おもしろい!」重視であることは自明。味は、飛び抜けて美味しいというわけではないけれど、まずくはないです(フォロー)

「お土産」の味わいを楽しみたい

西村:名作だな〜というサブレはあります?

部長:奈良の鹿サブレなんかは名作だなーって思いますね。

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奈良の鹿サブレ

西村:あ、たしかに、鹿のデザインがきゅっとまとまってて、美しいですね。

部長:模様も細かいですけど、はっきりしてますし、真ん中に穴があいてるのも、これ、作るときにふさがったりしないのかって、不思議なんですよ。

古賀:作る工程は気になりますね。

部長:そのうち、いつかサブレ工場の見学はしたいんですよね……あと、レンコンサブレも名作ですね。

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茨城県土浦市のレンコンサブレ

部長:徹底したリアリティを追求したフォルムですね。

西村:これ、完全に擬態してますね。レンコンの粉が入ってるのか。レンコンのつもりで食べたらサックサクだと脳みそがバグりそうですね。

部長:神戸のパンダサブレも、技ありなんですが、うまく行ってない感じがいいですよね。

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かろうじてパンダ、体が溶解しはじめている

西村:わからないですよね、パンダが。かろうじてわかりますけど……。これ、よく見れば見るほど、わけがわからなくなりそう。見つめると危険。

部長:あと、これ、大阪城なんですよ。

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簡略化が潔い、大阪城

西村:これはすごい。天守閣ですよね。寄り添うフランス人形みたいに見えますけど。角の部分を白線で表したかった? のかな? それもまた一つの味わいということですね。

部長:YRP野比の携帯サブレもすごいですよ。

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YRP野比、携帯サブレ
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携帯電話発祥の地、横須賀

西村:えぇ! これ携帯ですか?! すご! たしかによく見るとうっすら「YRP」って書いてあるような気がしないでもない……。

古賀:これは、事件だなー。通話も着信も両方電話マークだし……。

部長:これ、今でもあるかどうか……。

西村:そのまんま東の宮崎県知事時代のサブレは、いまじゃもう売ってないですよね。

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げんかせんといかん知事

古賀:これ、わざわざ顔の部分金型? 作ったりしなきゃいけないだろうから、大変そうですね……。

部長:今は多分もうない政治家のサブレ、これは鳩山由紀夫氏が総理のときの鳩山民衆サブレですね。

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鳩山民衆サブレー

西村:民衆サブレ……。これ国会とかで買ったんですか?

部長:これは東京駅とかだったかな。さだかではないですが。国会じゃないところで買いました。

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ひよこに一本線が入っている

部長:形が、ひよこなんですよね……。

西村:立体のひよこを平面にしたということですか。

古賀:しかし、消えていくサブレをこうやってアーカイブしてくれるのは大変にありがたいことですよ。誰もやらないことをやるという。

パッケージのよさを愛でる

西村:横浜のかをり、これは一つに三種類のサブレが入ってる?

部長:そうです。

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かをりさぶれ

古賀:これ、能書きがいいですね。

 

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かをりさぶれの能書き

西村:「幸せに敏感な方に召し上がって頂きたい」うわー、めちゃくちゃいいなこれ。幸せに敏感な方、どんな人かよくわからないけど、なんとなく上品な感じがするぼんやりしたいいまわし。たまんないですね。

部長:自ら傑作といい切っちゃってるところとか、いいですよね。

西村:いいですね。

部長:個人的に好きなのは、富士山サブレ。これのパッケージがすごくいいんですよ。

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富士山サブレ

 

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朝もやの中のMessage 見えない言葉……

部長:朝もやのなかの見えない言葉っていうキャッチフレーズなんですけど、ほんとにうっすらとした字で見えないメッセージが書いてあるんです。

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読めそうで読めないMessage

古賀:あー、ほんとだ! うっすらと。これはすごい。

部長:ローマ字でうっすらなにかが書いてある。

西村:……読めん! 

古賀:サブレ、いろいろ見てきましたけど、やはり、基本的にこういう「お土産物のおかしみ」とか、そういうのが面白いということですよね。

部長:そうですね。形のおもしろさ、パッケージのおかしみ。そういうのが好きで集めはじめたというのはありますね。


雑さの愛おしさ

今まで、お土産物としてのサブレには「とりあえず、サブレ作っとけ」みたいな雑さを感じ、注目することはなかった。

しかし、改めてこうやって並べて眺めてみると、そのバリエーションの豊富さ、雑さの中からでてくるおかしみなどが、逆に愛おしくなってもきた。

さすがに、収集しようというところまではいかないものの、いままで以上に「あ、ここにはこんなサブレがあるんだ」というやさしい気持ちでサブレに接することができそうな気がした。

サブレ、おもしろいな。

取材協力:サブレ部
記事内の写真はサブレ部 Instagramアカウントから掲載いたしました。

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