皆さんは、旅行に行く前に限って体調が悪くなってしまうという経験はないだろうか。
事前にこんなアンケートをとってみた。
ほぼ半々という結果。
新幹線のホームや空港でキャリーケースを引いている旅行客たちはみんな絶好調に見えていたので、意外だった。あの中の半数近くは、ウッキウキのハッピーご機嫌野郎の仮面を被っていたということか。とんだ役者揃いの現代である。
しかし、鍛錬の足りない私はあからさまに不調のオーラを出してしまいがちだ。そんな私のとある旅行前の絶不調タイムの話を聴いてほしい。
始まる前から不穏
心の問題なのか、日頃の行いの問題なのかはいまだにわからない。ただ、最近はなんのストレスもない生活をしているので心の問題ではない気がする。
思い当たる節といえば、一昨日ライブに行った帰りにその公演内容のあまりの素晴らしさに心が浮ついて気がおかしくなって久しぶりに酒をしこたま飲んだのだった。
もしくは昨日食べたコメダ珈琲のコーヒーゼリーだろうか。あれはこの世で最も美味しい下剤だから、それが今になって効いているのかもしれない。
あーそれにしても気持ち悪い。さすがに無理かも、と思いながら、家を出る直前にお茶漬けを啜ったら、少し収まった。
不調の要因が何層にも重なっていて、その内の一層は空腹だったようだ。で、だからなんだ。まだまだ全然本調子にはほど遠いぞ
ただ息をするだけでなにかが迫り上がってきて、むせる。むせた拍子にゲロが出そうだが、むせずにはいられない。
空港に着いてもなお不調
空港内に入ったら少し安心だ。椅子がいっぱいあるし、なにより床がフカフカだからいつ倒れても地面の冷たさに侘しさを感じなくて済む。
しかし、それと同時に飛行機に搭乗する前に一時的にでもこのコンディションを回復させねばならぬというプレッシャーが空気中に溢れている。
いいかげん身体に溜まっているものが、ウンコなのかガスなのかゲロなのかはっきりしてほしい。
周囲でざわつく大勢の客たちはみな涼しい顔をしているように見える。実際ほんとうに涼しい顔をしているし、なんならちょっと浮かれている。私が横暴な体育教師だったら逆ギレして竹刀を振り回して暴れていたところだが、あいにくそんな元気はないので大人しくうなだれている。
不快感は波のように引いたり満ちたりしてせわしない。
まれに腹の中がエレベーターで上階まで急上昇した時のように軽くなることがある。ああ、調子がいい時ってずっとこんな感覚なんだなと思う。喉元を過ぎた不快感はカマイタチの速さで忘れてしまうので、こんなこともまたすぐ忘れてしまうだろう。
……まてよ、ほんとうに調子がいい時はずっとエレベーターで急上昇してフワフワした感覚と言えるのか?だったら平常時にエレベーターで急上昇した時のフワフワはなんなんだ。あれは快か不快かで言ったら確実に不快だ、が、あ、ダメだ。難しいことを考えたらまた気持ち悪くなってきた。
不快感が通り抜けた一瞬さえも、これからくる最悪の予兆であるように思えて気が抜けない。
どう考えても自分は旅行に向いてないだろと思う。でも旅行に行く人が全員旅行に向いているとは思えないし、旅行に向いてなくても旅行に行く権利はあるから、いいんです。いいんですよと言い聞かせないと今すぐあの平らなエスカレーターの上を駆けて、その勢いのまま手荷物検査所をぶっちぎってしまいたくなる。
あー、もういっそ20mほど先で白く光る17アイスを限界まで食べて本気で腹を下して帰ろうかな。
「いま大丈夫そうかも」と思って立ち上がると、回復したコンディションが一気にリセットされる。
でろでろになりながらトイレに向かう。
私は生まれてこのかた「顔色が悪い」という状態がさっぱり理解できないので、こういった最悪の体調の時はなるべく自分の顔をチェックして「顔色の悪い人間の顔」というのを覚えるようにしているのだ。
鏡の前でマスクを下ろして見る。
うん、普通だ。