寒さ対策をしよう
この橋の存在は知っていたけれど、偶然違う目的で訪れた街にあるとは思わなかった。全ては出会いなのだ。問題はその出会いで、船に乗るなんて思っていなかったし、前日が半袖でもいいほど暑かったしで、完全に防寒を忘れていた。日本に戻ってから、ちょっと高いポケッタブルダウンを買った。これで冬に勝つぞい。

橋というものがある。川にかかっていたり、海にかかっていたり、我々の移動を便利にしてくれるものだ。橋は人が通ったり、車が通ったり、電車が通ったりする。橋は基本的には陸だと思っていた。
しかし、ドイツのマクデブルクには川の流れる橋があった。橋の下も川で、そこにかかる橋もまた川なのだ。川が立体交差しているのだ。ぜひ渡ってみたいと思う。
我々の移動は橋の便利さにより成り立っている。その昔は渡し船があったけれど、現在は多くの場合それは「橋」に変わっている。橋がなければ移動はもっと大変なものになる。本州と九州を結ぶ橋があったりなど、大きな橋も多々存在する。
橋を渡るものはなんだろうと考える。希望などという形ないものを除けば、自動車や人、自転車、電車だろうか。野生動物だって渡るだろう。橋とはもはや陸なのだ。川や海の水に濡れずに渡ることができるのだ。
橋とはそのようなものだと思っていた。ただドイツのマクデブルクという街の観光案内所で係の人と話していたら、「こんなのもあるぞ」とある橋を紹介された。写真で見たことあるやつだ、とテンションがあがった。
川にかかる橋に川が流れているのだ。川が立体交差している。考えただけでゾクゾクした。川の上に川なんてロマンの塊だ。初めてマクドナルドのビッグマックを食べた時のような感動を覚えた。
その橋を渡りたいと思っていたらツアーがあるぞ、ということで参加した。予約していなかったので、「お前は上だ」と室内ではない甲板に行くように言われた。本筋とは関係ないのであまり書かないけれど、ひたすら寒い4時間50分だった。
船はエルベ川を進んでいく。このエルベ川にかかる「マクデブルク水路橋」が今回目指す橋だ。ドイツ語では「Kanalbrücke Magdeburg」となる。ドイツ語的には「マクデブルク運河橋」みたいな感じだろうか。
マクデブルク水路橋はこの手の橋ではヨーロッパ最大規模だ。この橋によりミッテルラント運河からエルベハーヴェル運河に直接行けるようになった。2003年までは12キロも迂回しなければならなかったようだ。
そもそもミッテルラント運河は300キロを超える人口的な水路だ。そんなすごいものを作る技術があるなら、最初からマクデブルク水路橋も作れば、と思うけれど第二次世界大戦のため建設されなかった。その後建設され、長さは918メートルで世紀の建設プロジェクトとドイツ語のガイドブックに書いてあった。
川の上を川が通る、ということは高低差があるということでもある。この高低差をクリアしなければエルベ川を走る船はマクデブルク水路橋に行くことができない。そこで閘門の登場となる。2つの閘門を通り20メートル弱の高低差をクリアする。
一つの目の閘門はこんなものか、という感じだった。想像できる範囲だった。そこまで感動もなかった。数メートル上昇したかな、みたいな感じだ。なんだろ、寒くて少しくらいでは感動しない、非常に厳しい人間になっているのだ、私は。
高い壁に挟まれている。乗っている船は小さいわけではなく、そこそこのサイズなのに、急に船が小さく感じる。それほどまでに壁が高いのだ。見上げると鳥が壁の上に止まっていた。そこからはどんな景色が見えるのだろう。
閘門の存在はもちろんしていたけれど、どこから水が増えるのだろと思っていた。下から増えるんだね。お風呂に水を溜める時のように、上から増えるわけではないのだ。
壁がどんどんと低くなっていく。室内にいたお客さんたちもみな外に出てその様子を楽しんでいた。ちなみに私はずっと外なので、ずっと寒い。震えながら見ていたけれど、それでも感動した。
これで高低差をクリアしたことになる。エルベ川からエルベハーヴェル運河に入り、マクデブルク水路橋を渡ることができる。この辺りのエルベハーヴェル運河は歩道やサイクリングロードも整備され、とても楽しそうなひとときを作り出していた。
先ほど船で下をくぐった橋を船で渡ることは不思議な感覚だった。寒くて手の感覚はもうほぼないのだけれど、不思議という感覚だけは手にとるようにわかる。その手の感覚は寒くてもはやないんだけれど、不思議という感覚は手にとるように、その手の感覚は寒くて、(以下、無限ループ)
川の下に川が見える。先ほど通ったエルベ川だ。やはり不思議な感覚だ。このような体験をしたのは初めてのことだ。閘門だって初めてだったし、立体交差する川も初めて。いくつになっても初めてはあって、その初めては私の心を温めてくれる。ただ物理的には冷え切っている。冬のドイツを舐めてはならないのだ。
ヨーロッパ最大規模なのだ。人口的に作られた橋だけれど、幅も十分でよく整備された川のように感じられる。でも橋なのだ。人類の技術の凄さを感じる。川の上に川を通せばいいんだ、と最初に言った人は、周りからどう思われたのだろうか。それを実現する技術力もすごい。
この船は賑わっていたし、多くの人がやはり興味があるのだろう。私もその一人だ。30ユーロも払ったのだから、よっぽど好きなのだ。船には昔の世界的にヒットした音楽がずっと流れていて、橋を渡っている瞬間は、エアロスミスが日本語にすると「目を閉じたくない」と歌っていた。確かに閉じたくない景色だった。
帰りは先ほどとは別の閘門をやっぱり2つ通って、最初の場所に戻った。このツアーは4時間のはずが4時間50分もかかった。得した気もするけれど、乗る予定だった電車には乗り遅れた。体はすっかり冷えていたけれど、心はどこか熱を持っていた。興奮したのだ。自然が作り出す景観も素敵だけれど、人々が作り出す景観もまたすごいのだ。
この橋の存在は知っていたけれど、偶然違う目的で訪れた街にあるとは思わなかった。全ては出会いなのだ。問題はその出会いで、船に乗るなんて思っていなかったし、前日が半袖でもいいほど暑かったしで、完全に防寒を忘れていた。日本に戻ってから、ちょっと高いポケッタブルダウンを買った。これで冬に勝つぞい。
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