■シリーズ物の映画
まず目につくのが、松竹の喜劇映画シリーズ『男はつらいよ』『釣りバカ日誌』の多作っぷり。
「寅さんって毎年やってるなー」くらいのイメージでしたが、初期は年3本も公開していたのか! 共同脚本とはいえ、監督・脚本の両方をやりながら年3本撮る山田洋次は偉大。
その後、夏と冬の年2回ペースが定着しますが、1990年以降は年1回に。この辺は、主演・渥美清の体調問題もあったようです。
年1回になって山田洋次監督もちょっとはのんびりできているのかと思いきや、『釣りバカ日誌』の脚本も手がけているから頭が下がる!
さらに、合間をぬって『息子』とか『学校』シリーズとか、他の映画もちょこちょこ撮っているっつーんだから……昔の職業映画監督ってホントにスゴイな。
ちなみに渥美清は1996年に亡くなっており、1997年は寅さんがCG合成で登場する『男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花・特別篇』、2019年はまさかの22年振りの新作『男はつらいよ お帰り寅さん』。
■ハリウッド映画の律儀さ
『スター・ウォーズ』『ロード・オブ・ザ・リング』『ロッキー』といったハリウッド映画を見てみると、超大作であってもキッチリとペースを守って作られているのが分かります。
ジョージ・ルーカスの自己資金でメチャクチャ自由に作られていそうな『スター・ウォーズ』も(エピソード7以降はディズニー資本)、スケジュール的には意外とキッチリしてるんですねぇ。
『ロッキー』1~4まではペースを守って作られているのに、『5』と『ザ・ファイナル』がメチャクチャな時期に作られているのは、制作スケジュールの問題ではなく、単に〝やろうと思い立っちゃったから〟でしょう。
『5』も『ザ・ファイナル』も、なんで作っちゃったんだ感バリバリだったしなぁ……。
■自由なスケジュールは儲かっててこそ!
番外編として、宮崎駿監督作品(『風の谷のナウシカ』以降)の表。
職業映画監督として驚異的なペースで作品を安定供給している山田洋次監督に対し、『エヴァ』の庵野秀明監督は私小説のように〝自我〟を入れまくった作風。それだけに、スケジュールも狂いがちなんだと思われます(実写映画とか色々やってたのもあるんでしょうが)。
宮崎駿監督も、庵野監督に負けず劣らず自我がメチャクチャ強そうですけど、スタジオジブリ初期は意外とペースを守って作品を制作してるんですよね。『となりのトトロ』と『魔女の宅急便』を2年連続で公開しているなんてスゴイ!
『魔女の宅急便』で興行的に成功したことで、ようやくスケジュールでワガママ言えるようになった……という感じもしますが。
■長期シリーズのテレビドラマ
どれも長年に渡って放送されている長寿ドラマ。
『3年B組金八先生』と『渡る世間は鬼ばかり』はTBSテレビ、『科捜研の女』と『相棒』はテレビ朝日、『北の国から』はフジテレビですが、TBSテレビとテレビ朝日の違いが明確に出ています。
『金八』『渡鬼』はそれぞれ脚本家を小山内美江子(2004年の第7シリーズ途中で降板し、清水有生に交代)と橋田壽賀子に固定。脚本家の作家性に強く依存しているドラマ作り。
一方『科捜研の女』と『相棒』は脚本家を固定しないことで作品の幅を広げ、制作もハイペースで行うことができるようにしています。
TBSドラマが脚本家の作品としての色が強いのに対し、〝商品〟としてドラマを安定供給しているテレビ朝日ドラマ。近年はテレビ朝日タイプのドラマが優勢ですが、もっとゴリッゴリに脚本家の自我が入りまくったドラマも見たいところです(良くも悪くも今の北川悦吏子のドラマとかはそんな感じだけど……)。
■長期連載漫画(安定供給型)
キッチリ続いている長期連載作品。
『こち亀』は40年間の連載中、休載ナシ。『ゴルゴ13』も、このコロナ禍でスタッフが集まれなくなって休載するまで休みナシという驚異の安定供給っぷり。
さいとう・たかをに至っては『ゴルゴ13』と同時進行で『鬼平犯科帳』を110巻出してたりするからすさまじい! プロダクション体制でどれだけキッチリと制作しているか分かります。
長期連載漫画全体を眺めてみると、連載初期にモコッと単行本数が増える時期があります。おそらく人気が盛り上がって連載1回分のページ数が増えた結果ではないかと。
その後、ある時期から刊行ペースをちょっと抑え、長期にわたって連載を継続を続けていけるような体制を整えているのではないでしょうか。
特に『ゴルゴ13』は2009年以降、1年間に4月、7月、9月、12月の4回、決まったペースで単行本を発売する体制となっています。
『こち亀』が連載終盤、ペースをちょっと落としているのは、40周年に200巻ちょうどで終わらせるため、単行本の数を調整していたせいじゃないかと(200巻はやたらと分厚かった)。
■長期連載漫画(不安定型)
「安定供給型」と比べると、見ているだけで不安になってくる「不安定型」。
要は、長く続いているけど「いつ新刊出るんだよ!」とか「いつ終わるの!?」とやきもきさせられるタイプの漫画たち。代表格は『ガラスの仮面』と『HUNTER×HUNTER』でしょう。
当然、人気がなければ長期に続くはずないので、連載初期は単行本もハイペースで出ているのですが、ある時期からやる気がなくなっちゃったのか、他の事情があるのか、刊行ペースがガクッと落ち、遂にはほとんど出なくなってしまうというパターン。
『ガラスの仮面』と『HUNTER×HUNTER』は、やる気がある時とない時のムラが……。
『ガラスの仮面』は2008年に連載が再開され、2010年なんて2冊も単行本が出たことから「本気で終わらせる気だッ!」と盛り上がったものの、再び長い眠りに。同じ少女漫画の長期連載ながらコンスタントに単行本を出し続けている『王家の紋章』を見習って欲しいものです。
『美味しんぼ』が先細っていった理由は明確で、ルサンチマン全開だった山岡さんが結婚して子どももでき、海原雄山と和解しちゃったことによって、もうやることがなくなっちゃったんですよね。
「日本全県味巡り」なんて企画をはじめてみたものの、雄山とのバチバチの対決がないとイマイチ盛り上がらず。福島県の描写で大炎上して以降、パッタリと連載が止まってしまっています。
井上雄彦先生の『バガボンド』『リアル』は、「もう出ないのかなぁ〜」と思わせつつ、2020年に『リアル』の新刊が出てビビリました。この調子で『バガボンド』もお願いします!
『ドラえもん』に関しては、やる気があるとかないとかいう話ではなく、1986年に藤子・F・不二雄先生が体調を崩されてからガクッとペースが落ちたという悲しいケース。
その後、映画原作の『大長編ドラえもん』に集中するためレギュラーの連載は終了していくのですが、まさか表を見るだけで泣けてくるとは……。
■『ジャンプ』の人気漫画
最後に、80〜90年代のボクら世代の『週刊少年ジャンプ』の人気漫画+『鬼滅の刃』を。
こう見ると、これだけ人気のある『鬼滅の刃』が5年間&全23巻という短期で終了しているのが際立っています。昔の『ジャンプ』だったら絶対もっと引き延ばしてたろうに……。
ただ、『キャプテン翼』や『キン肉マン』の動向を見るに、10年後くらいにいきなり『鬼滅の刃』の続編とかもあり得るのでは……!?
コンスタントに作品を発表している人はホントすごい!
「どこでやる気がなくなったのか調べてやろう」的な意地の悪い発想ではじめた表作りでしたが、『男はつらいよ』や『ゴルゴ13』『こち亀』など、人間離れしたペースでコンスタントに作品を発表し続けているレジェンドたちの偉大さばかりを痛感してしまいました。
年に映画3本とか、単行本6冊とか……。年2回のコミケの締切ですらヒーヒー言ってる人間からすると神の御業ですよ、ホント。
そんな神々と自分を比べてみると、『ガラスの仮面』の新刊がいつまでも出なくても、『HUNTER×HUNTER』が例のごとく掲載されていなくても優しい気持ちになれると思います。
おまけ:「デイリーポータルZ」におけるボクの記事掲載ペース