デジタルリマスター 2023年1月22日

あの給食のプリンを再現(デジタルリマスター)

私は群馬県の桐生市で生まれ育ったが、その地域の給食の「プリン」の出し方が、今思うと奇妙だった。

友人らと昔の給食の話になったとき、その「プリン」の話をすると必ず驚かれる。
どんな出し方かというと、「おかず用の天ぷらバットになみなみ注がれている」状態。それをクラスの人数分に切り分けていた。
なんなんだ、ウェディングケーキか。

今さらだが再現してみた。ゲップ。

2007年7月に掲載された記事を、AIにより画像を拡大して加筆修正のうえ再掲載しました。

1970年群馬県生まれ。工作をしがちなため、各種素材や工具や作品で家が手狭になってきた。一生手狭なんだろう。出したものを片付けないからでもある。性格も雑だ。もう一生こうなんだろう。(動画インタビュー)

前の記事:「猫がコンクリにつけた足跡」プリンを作る

> 個人サイト 妄想工作所

今日は網は要りません

まず、家に「給食用の大きな天ぷらバット」というものがないので、浅草は合羽橋の道具街に買いに行く。プロ用から家庭用まで調理道具なら何でも揃うぞ。

RIMG5902_photos_v2_x2.jpg
デイリーポータルZの心のふるさと、合羽橋。

その前に天ぷらバットの大きさを決めねばならない。冷蔵庫にまるまる入らないとダメだ。

そう、今回のプリンは冷蔵庫で冷やして固めるタイプを採用した。焼きプリン・蒸しプリンは、そのバット以上のオーブンなり入れ物なりが必要で手間がかかる。

お店にはいろいろな深さ・大きさのバットが並んでいたが、できるだけ当時の感覚を思い出してそのイメージに近いものを選ぶ。小学校のときの自分には大きく見えたが今見たらもうちょっと小さいだろうし・・・などと。

RIMG5900_photos_v2_x2.jpg
棚ひとつまるまる使う。スペース空けるためにいろいろ食べちゃわないといけない。
RIMG5975_photos_v2_x2.jpg
大きさは右下のケータイと比較されたい。

41cm×29cm×7cmの角バット8枚取、というものを買ってきた。8枚取、が何を意味するかは不明。

本体が2000円、フタが2100円、しめて4100円なり。そう、本体とフタは別売り。「中に敷く網もいるでしょ」と店員さんが持ってこようとしたが、「今回はいいです」と断る。天ぷらじゃないんです、作るの。プリンなんです。

量が多い、それだけでも人は

家でバットの容量を確かめ、それに合った分の材料を買いに行く。今回は手軽にプリンの素で。買ってきたのは牛乳4リットル、プリンの素10箱。まあ、給食だから当然の量だな。

プリンの素まとめ買いがちょっと恥ずかしかったので、数店舗のスーパーで少しづつ購入したことも付け加えておく。

RIMG5977_photos_v2_x2.jpg
マイクロダイエット付属のシェイカーで容量を計った。
RIMG6021_photos_v2_x2.jpg
いつもの牛乳も、大量に買うと興奮する。お店やさんになったみたいで。
RIMG6029_photos_v2_x2.jpg
素1箱・牛乳400mlでプリン型4個分のプリンが作れる。
RIMG6030_photos_v2_x2.jpg
ダマだらけ。

鍋に粉を入れ、牛乳を加えて中火でかき混ぜる。沸騰後は弱火にして1分。
4リットルぎりぎり入る鍋なのだが、実際には粉の分だけ かさが増したので、使ったプリンの素は8箱。3.2リットルの牛乳が1クラス分のプリンに消費されたわけだ。

しかしなかなか沸騰しません。こんなに大量の牛乳をあたためるのは初めてだ。給食って全部こういう分量なんだよなぁ。もし給食センターの職員にでもなったら、毎日ドキドキしっぱなしである。大量の食べ物に。

いったん広告です

いつ固まったかは不明

煮始めてからどれくらいの時間が経っただろうか。30分くらいか。やっと表面が泡立ってきた。

RIMG6032_photos_v2_x2.jpg
ダマを味噌漉しでつぶす。ほんとにプリン作ってんだろうか。
RIMG6038_photos_v2_x2.jpg
沸騰するうち、全体が泡立ち静かに盛り上がってきた。怖い。

吹きこぼれる寸前で火を止め、バットにプリン液を移す。が、この量ともなると鍋を持ち上げるのだけでも相当重い。カップで汲んで少しづつ流し入れる。

RIMG6041_photos_v2_x2.jpg
泡が立たないようにゆっくりと。
RIMG6047_photos_v2_x2.jpg
それでも泡だらけ。
RIMG6050_photos_v2_x2.jpg
よく見たら焦げがたくさん浮いていた・・・。泡と一緒にすくう。
RIMG6052_photos_v2_x2.jpg
ここで引っくり返したりして・・・とガクガク想像しながら冷蔵庫に収める。

冷蔵庫に入れる前に放置してプリンの粗熱を取るのだが、それだけでも3時間ほどかかった。どんだけの量なんだ。

作り始めたのが深夜だったこともあり、冷蔵庫に収めるやすぐに寝てしまった。よって、いつ固まったかウォッチングしていない。

そして翌朝。冷蔵庫を開けて取り出してみると・・・。

RIMG6053_photos_v2_x2.jpg
一面にプリンが広がっていた。

うーん、そうそうこんな感じ。小・中学校の給食当番のときにフタを開けて最初に見た光景は、こういうものだったのだ。豪快にして素朴。見渡す限りのプリン。プリン・・・。なぜプリンがこんな入れ方なんだ。ふだんはひじき煮や鳥の照り焼きが入っているバットになぜ。あらためて込み上げてくる、薄っすらとした不安感。

このプリンをこれからどうするかといえば、ある場所に持っていき給食当番よろしく私が配膳して回るのだ。そこまでがこの給食プリンの完全形、なのである。

RIMG6055_photos_v2_x2.jpg
計ったら4キロあった。カロリーにして4160キロカロリー。
RIMG6063_photos_v2_x2.jpg
重いし水平にしか持てないのでタクシーで移動。ここまで来ると「プリン様」だ。
いったん広告です

桐生っ子が一度は通過した苦悩

ある場所とは、大森のニフティで開かれる、デイリーポータルZの企画会議。その会議室に4キロのバットプリンを持ち込んだ。タクシーからエレベーターあがるまでに大汗かいてしまった。

本当の給食当番ならバットの両端に持ち手がついていて、2人1組で運べたのだが。

RIMG6075_photos_v2_x2.jpg
給食当番スタイルに変身。
RIMG6079_photos_v2_x2.jpg
会議を中断し一挙手一投足を見守るライターの面々。

さてこの会議室に、当時の学校における1クラス分―40人から45人の生徒が座っているとしよう。

配膳の前に、あの一面のプリンを人数分に切り分けないといけない。切り分けるにはナイフなどは使わない。そこにあるもので行う。それは「お玉の持つほう」だ。お玉の柄である。

RIMG6095_photos_v2_x2.jpg
クラスの視線を感じながら慎重に(当時を忠実に再現しています)。

お玉の柄で5×9=45個になるように切り分ける。奇数かける奇数。小学生がうまく均等に分けられるはずもない。そう、切れ目を入れるのも児童の役目だったのだ。

ただでさえ「カレーの大鍋を廊下で取り落とす」などのアクシデントに見舞われることの多い給食当番の、なんと責任の重かったことだろう。

RIMG6108_photos_v2_x2.jpg
45人分のプリン。弾力と圧力で切れ線が曲がり気味。
RIMG6107_photos_v2_x2.jpg
相当増量された区域もあれば・・・
RIMG6106_photos_v2_x2.jpg
こんなに縮小されてしまった区域も。その差は約2倍。

責任が重い、というのは、「各自に均等な大きさでいきわたらないことへの申し訳なさ」ばかりでなく、直接的な圧力をも指す。いじめっ子からの脅迫である。

「そこの角の大きいところ、くれよー!」「あ、だめだよ、端っこから順番に配ってるんだから・・・」「いいじゃん、ほら、お玉貸せ!」ってなことになるのである。当時、実際そういう輩に泣かされている男子もいた。

給食当番には脅迫に屈しない強い心も求められるのである。

RIMG6113_photos_v2_x2.jpg
丸いお玉ですくってるんだから1発目は当然こうなる。半分は取り残しだ。
RIMG6103_photos_v2_x2.jpg
配膳の動向を固唾を飲んで見守る面々。
RIMG6132_photos_v2_x2.jpg
配り終えて。「では、いただきましょう」「いただきまーす」
RIMG6139_photos_v2_x2.jpg
おかわりに列が。この日は各自5回おかわりできる計算。

食べたプリンは、幼い頃に母親が作ってくれたような懐かしい味がした。まだ若かった頃の母親が、お金をかけず手間要らずで作ったプリン。

実際に給食で出たプリンは「具無しの甘い茶碗蒸し」のような、もっと寂れた感じの味だったように思う。が、お玉で無謀に切り分ける再体験をできたので、満足だ。


実際には4人分くらいしかお腹に入りませんでした。半分弱余ってしまったので、タッパーに入れて持ち帰った。家でも数日かけて消費した。当分プリンは見ないようにしよう。

「クラスの人数分作る」ということがいかに大変かわかった。同時に、なんだか楽しそうにも思えてきた。45人分のカレー。45人分のポテトサラダ。45人分の肉だんご。頭に思い描くだけで興奮するので試してみよう。

RIMG6163_photos_v2_x2.jpg
余った破片は、これはこれでクラスの男子が奪い合う。
▽デイリーポータルZトップへ

banner.jpg

 

デイリーポータルZのTwitterをフォローすると、あなたのタイムラインに「役には立たないけどなんかいい情報」がとどきます!

→→→  ←←←

 

デイリーポータルZは、Amazonアソシエイト・プログラムに参加しています。

デイリーポータルZを

 

バックナンバー

バックナンバー

▲デイリーポータルZトップへ バックナンバーいちらんへ