糸魚川で歯医者さんを調べる
午後1時過ぎ、糸魚川に到着した。ここから北陸本線で富山方面に向かうと2駅で親不知である。が、その前に糸魚川駅周辺で親不知地域の歯医者さんについて、交番で尋ねる事にした。事前に調べた情報によると、親不知駅は無人駅らしいのだ。親不知駅周辺で歯医者さんの情報を集めるのは厳しそうである。
駅前の交番に入ると、若くてかわいらしい婦警さんが心配そうに僕の顔をのぞきこんでくれた。
「痛むんですか?」
「いえ、今は大丈夫なんですけど、そのうち痛むので」
「じゃあ、今日じゃなくても?」
「いえ、明日の朝には東京に戻るので」
「え? 東京から来たんですか?」
「ええ、親不知を抜きに…」
親不知で親不知を抜く、という僕の意図はあまり伝わらなかったようであるが、とりあえず電話帳で調べてくれる事になった。すると、親不知のある糸魚川市内には20軒ほど歯医者さんがある事が分かった。そのうち厳密に親不知地域といえる場所で開業している歯医者さんは1軒だけ。青海駅前の歯医者さんである。
早速、婦警さんが電話をかけてくれた。
しかし、残念ながら青海駅前の歯医者さんは予約でいっぱいであった。急患であれば何とか受け付けると言ってくれているが、今は痛くないのだ。他の患者さんに迷惑をかけてはいけないので、残りの19軒のうち一番親不知地域に近い歯医者さんに電話をかけてもらう事にした。糸魚川と青海の間にある歯医者さんだ。親不知地域からは少し外れるが、オールモスト親不知と呼んでも過言ではない。
そして、2軒目の歯医者さんは15時半ならば大丈夫と言ってくれた。やった。これで、ほぼ親不知で親不知を抜く事が出来る。15時半に予約を入れ、婦警さんにお礼を告げて交番を出た。
歯医者さんが決まって一安心であるが、逆に歯を抜く恐怖感も高まっている。もう本当に引き返せないのだ。
落ち着かない気持ちを紛らすため、予約の時間まで糸魚川駅周辺を探索する事にした。
糸魚川はヒスイの街?
ガイドブックの類いを一切持っていなかったので、これはあくまでも僕の推測なのだが、糸魚川の名物はヒスイらしい。駅から商店街に至るまで、あらゆる所にヒスイのオブジェが置いてあるのだ。
10分くらい街を歩いてみたのだが、とにかく寒くてたまらない。
気温表示は1℃。水分の多い雪がとても冷たい。
街の探索はやめて、うどん屋さんでお昼ご飯を食べる事にした。手袋を買いに入った100円ショップのおじさんが薦めてくれたお店だ。落ち着きのある和風なインテリアで、確かにおいしそうである。BGMには「小指の思い出」の三味線バージョンがかかっていて、テレビからは「徹子の部屋」が流れている。
お冷やを持って来た人と、おしぼりを持ってきた人と、注文を聞きに来た人と、全員違うおばちゃんであった。お客が僕だけだったので平等に仕事を振り分けたのだろう。最後のおばちゃんに鍋焼きうどんを頼んだ。薄味で上品な味のするうどんであった。どこか懐かしい感じがするのは、実家で頼む出前のうどんと味が似ているからかもしれない。
うどんを食べ終えると「徹子の部屋」も終わってしまい、おばちゃんたちがまかないを食べ始めた。早く出た方が良さそうな雰囲気だったので会計を済ませて外に出た。予約の時間までまだまだあるが、これ以上ヒスイを見てまわったら風邪を引いてしまいそうだ。ちょっと早いが歯医者さんに行って待合室で待たせてもらおう。
うどん屋さんの前でタクシーを拾った。